レスター・R・ブラウン
米国の大手企業が連日のように従業員の解雇を発表している時に、再生可能エネルギー産業の分野では日々新しい雇用が生まれている。風力発電所の建設、太陽電池の屋上への設置、太陽熱発電所や地熱発電所の建設のためだ。
これらのエネルギー施設向けの設備を製造している企業の生産高は年率30%を優に超える伸びを見せている。この分野への投資は新たな雇用を生むだけでなく、気候変動が制御不可能な状況に陥るのを食い止める一助となっている。
再生可能エネルギー資源のなかで存在感を増してきたのが風力である。米国では、すでに稼働中の風力発電所の発電容量は2万4,000メガワット(石炭火力発電所24基分に相当)で、現在建設中の風力発電所が完成した暁には、それがさらに約8,000メガワット増加する。
それだけではない。現在計画が進められている風力発電所はその発電容量を合計すると全体で22万5,000メガワットという驚くべき量になるが、それだけの電力が送電線につながれる日を待っているのである。
現在、米国には風力発電設備を製造している工場が40あり、うち風力発電用タービン製造工場が8、風力タワー組み立て工場が20、ブレード(羽根)製造工場が12となっている。これに加え、最近の発表によると、さらに多くの風力発電関連工場が建設中もしくは計画中である。風力発電所への投資では、10億ドル(約890億円)の投資に対しほぼ3,350人の雇用が生まれるが、これは同様の投資で870人の雇用を生む石炭火力発電所に比べほぼ4倍である。(データについてはhttp://www.earthpolicy.org/Updates/2008/Update80_data.htm を参照のこと)
米国の太陽電池(太陽光発電)は、屋根の上に設置する小規模タイプでの利用だったものが、最近、数十平方キロにわたる商業発電施設という大規模なものへと拡大した。この動きは米国の太陽光発電の潜在的成長力を窺わせる。
2007年に米国で設置された太陽電池の発電容量の合計はおよそ200メガワットで、そのほとんどが屋上設置タイプのものだった。2008年、カリフォルニア州の大手電力ガス会社であるパシフィック・ガス&エレクトリックは、企業2社と契約を結び800メガワット級の太陽光発電システムを建設することにした。そのピーク時の出力は原子炉1基の最大出力と同程度になるだろう。太陽電池設置への投資は10億ドルあたり1,480人の雇用創出となる。
鏡を使って太陽光を集め、蒸気を発生させてタービンを回す太陽熱発電所も、また同様の成長路線を進んでいる。米国には最近まで、この種の施設は出力350メガワットのSEGSプラント(Solar Electric Generation System)がカリフォルニア州に1カ所あるだけだった。
しかし、現在、18カ所(カリフォルニア州に15カ所、フロリダ州に2カ所、アリゾナ州に1カ所)で商業規模の発電所を開発中だ。その発電容量は合計4,160メガワットに上り、これまでの12倍近くになる。太陽熱発電も、米国のエネルギー経済において急速に主流になりつつある、劇的なコスト低下を伴う労働集約型エネルギー技術の1つで、投資額10億ドルあたり2,270人の雇用が創出される。
次に、地熱エネルギーについて考えてみよう。過去20年間、米国には商業ベースの地熱発電所はたった1カ所のみ、カリフォルニア州にあるだけであった。それが今では、まるで一夜にして現れたかのように、96の事業が西部の諸州で計画されている。その大半が、10メガワットから350メガワットの発電容量を持つものだ。私たちは、有力な新規電力資源の出現を目の当たりにしているのだ。
プラグイン・ハイブリッド車と新型の風力タービンという2つの新技術によって、全く新しい自動車燃料経済が構築される舞台が整った。2010年から2011年の間に、4社がプラグイン・ハイブリッド車の市場に参入しようとしているが、当初の予測ではその生産台数は小規模なものにとどまっている。
必要なのは、第二次世界大戦時の総動員体制に匹敵するような短期集中計画であり、風力発電で作った電気を主な動力とし、ガソリンに換算した場合の1ガロン(3.785リットル)あたりの1ドル(約89円)以下のコストで走る自動車を、数千万台単位で生産できるようにすることだ。この戦略の利点は、プラグイン・ハイブリッド車には新たなインフラを必要としないことである。
デトロイトの自動車産業のために米国が掲げるべき目標は、単に自動車産業を救済するというだけでなく、効率の良いプラグイン・ハイブリッド車の生産においてデトロイトが世界の先頭に立つようにすることである。
ガソリンを大量に消費するスポーツユーティリティ車(SUV)を1台、ハイブリッド車に置き換えれば、その自動車が耐用年数を終えるまでに、石油の輸入量を200バレル(3万1,800リットル)削減し、石油の輸入にかかる費用を2万ドル(約178万円)節約することができる。そのようなイニシアチブがあらゆる車種を対象に拡大すれば、数千億ドルの資金が国内にとどまり、米国の雇用を生み出す投資が可能となろう。
雇用を生み出しながらエネルギー削減につながる、もうひとつの方法は、路面電車やバスなどの都市交通に投資することである。自転車や歩行者にとって通りやすい道路の整備を合わせて行えば、移動しやすくなり、石油の輸入量をも減らすことができる。
雇用創出の点から見れば、建物の改修に投資することは、石炭火力発電所に同様の投資を行った場合に比べ、7倍以上の雇用を生み出す。それをいち早く取り入れているのがヒューストン市である。ここでは、271の市所有の建物を改修し、それによって、エネルギーの使用量と同時に維持費を削減する計画を立てている。ヒューストンのビル・ホワイト市長は、「それは財政的にも割が合う」と語っている。
カリフォルニア州では、ソフトウェア会社のアドビシステムズ社が、広い本社を140万ドル(約1億2,460万円)で改修し、電力使用量を35%、天然ガスの使用量を41%削減した。またこの省エネによって、140万ドルの改修費用を14カ月で回収することができた(通常、建物の改修費用は回収に5年近くかかる)。そしてこういった仕事による雇用は国外に流れることはない。
新しいエネルギー経済の構築は、風力発電所の建設や、建物の改修などの分野で雇用を創出する。また、風力タービン部品や、改修で用いる断熱性の高い窓などの製造分野でも、間接的に雇用を生み出す。これらの投資はまた、エネルギー部門以外でも雇用を創り出す。例えば、グレートプレーンズ(大草原地帯)の一地域で風力発電所を建設するとなると、レストランやホームセンターなど、地元の企業での雇用が生まれるのだ。
このような膨大な雇用創出を主導するにあたって、政府の役目は、インセンティブとして公的資金を投入し、さらに大きな民間資本の投資を呼び込むてこにすることだ。1,000億ドル(約8兆9,000億円)の連邦資金を向こう12年間で戦略的に活用すれば、民間資本投資として4,000億ドル(約35兆6,000億円)は引き出せると私たちは見ている。
もしこの5,000億ドル(約44兆5,000億円)が再生可能エネルギーの開発(風力、太陽、地熱)と建物の改修とに均等に配分され、エネルギー部門で雇用が2つ生まれるごとにほかの部門で雇用が1つ創出されるなら、60万人分の雇用がただちに生まれ、その雇用は2020年まで継続するだろう。
雇用創出という短期的な要請に加え、暴走する気候変動とそれが世界中の文明にもたらす脅威を回避することが全方位的に求められている。もし世界がグリーンランドの氷床を守ろうとするなら、また、せめて、乾期にアジアの主要河川や灌漑システムを支えている、ヒマラヤとチベット高原の大きめの氷河だけでも守れるチャンスをしっかり残したいというのなら、世界の炭素排出は2020年までに80%削減されていなくてはならない。
となれば、米国では、最大5,000億ドル(約44兆5,000億円)の連邦資金を使って2兆ドル(約178兆円)の民間資本を動かすことが必要となるだろう。この合計2.5兆ドル(約222兆5,000億円)の資金が2020年までに再生可能エネルギーとエネルギー効率の向上に投資されるわけである。これだけの規模で投資が行われれば、2020年まで継続する300万の新規雇用が創出されるだろう。
炭素削減のペースを加速させる補助的な手段としては、キャップ・アンド・トレード制度(総排出枠を設定し、その枠内で排出権の売買を認める制度)や税制改革によって、気候変動のコストを化石燃料の価格に組み入れる方法があるだろう。
税制改革とは単純に、炭素排出に課す税金を引き上げ、それを所得税の減税によって相殺するというものだ。この2つの方策によって、投資対象を化石燃料からエネルギー効率の向上や再生エネルギーへと転換させるのである。
米国の政策の明らかな失策に、風力エネルギー生産税控除について複数年にわたる期限延長をすることができずにいるということがある。控除期限を2015年まで延長して、投資家たちが風力発電と送電線の両方へより長期的な投資をしても良いと思えるような材料を提供すべき時が来ている。
その先には、強力な、全国規模の電力網が必要とされている。そのような電力網があれば、国の発電容量をより効果的に管理できるだろうし、風力、太陽、地熱エネルギーの豊富な地域と人口密集地域とを結ぶこともできるだろう。
歴史的に見て、これほど多くの脅威が出現していながら、それらに共通の解決策があるというのも珍しい。ここで述べている策は、炭素排出の削減、石油輸入の削減、何百万もの新規雇用の創出を同時に実現するものだ。この「ウィン・ウィン・ウィン(三方に有益)」の機会を、見逃すわけにはいかない。