レスター・R・ブラウン
脆弱な統治と国内の武力闘争、そして社会の激変が絡み合い、崩壊の危機にひんしている破たん国家をどのように救済するか。これは、国際社会が直面している大きな課題の一つだ。ハイチ、ソマリア、イエメンといった国々の状況が悪化し続けていることからも明らかなように、国際支援プログラムの中でこれまで通りのやり方を続けてもうまくいかない。危険度は極限まで高まっている。
破たん国家の数が増え続けると、ある時点でこの傾向は世界文明の破たんへと姿を変えることになるだろう。私たちは、国家が破たんしていくという流れをどうにかして変えなければならない。
これまで、国家が破たんしていく過程はほとんどの場合一方通行であり、それを逆行させた国はほとんどない。この流れを覆した数少ない国々に、リベリアとコロンビアがある。 『フォーリン・ポリシー』誌による、破たん国家年間ランキングでは、2005年のリスト(2004年のデータに基づく)で、最悪の状態の国を1位としてリベリアは9位だった。しかし20万人の命を奪った14年間の悲惨な内戦が終わると、2005年にハーバード大学ケネディ行政大学院卒の世界銀行職員、エレン・ジョンソン・サーリーフ氏が大統領に選出されたことで、事態は好転し始めた。
腐敗を一掃するためのすさまじい努力と、平和を維持し、道路、学校、病院を修復し、警察を訓練する1万5,000人の多国籍国連平和維持軍が、この戦災国に進化をもたらしたのである。リベリアは2009年に、破たん国家リストの34位にまで下がった。
コロンビアでは、コーヒー価格の上昇や、政府が着実に正当性を得つつあることもあり、景気の改善によって事態が好転してきた。『フォーリン・ポリシー』誌のリストで2005年に14位だったコロンビアは、2009年には41位となった。リベリアもコロンビアもまだ安心できる状態ではないが、両国とも良い方向に進んでいる。
国家の破たんは比較的新しい現象なので、新しい対応が求められる。従来のようなプロジェクト単位の支援プログラムでは、もはや手に負えない。国家の破たんは、組織的な対応を必要とする組織的な破たんなのである。
英国とノルウェーはそれぞれ、破たん国家は特別な注意が必要であると認め、対応できる仕組みを備えるための省庁間ファンドを創設した。両国が組織的な国家破たんに適切に対処しているかどうかはまだはっきりしないが、組織的・具体的な対応を講じる必要があることを少なくとも認識はしている。
対照的に、弱体化した破たん国家に対処する米国の取り組みは、各機関がばらばらに行っている。幾つか名前を挙げれば、国務省、 財務省、農務省といった米国省庁が複数関与している。また国務省内部では、さまざまな局がこの問題に携わっている。
こうしたまとまりの無さを、ハート・ラドマン米国国家安全保障21世紀委員会が明らかにしている。「今日、危機の回避と対応に対する責任は、AID(米国国際開発局)および国務省内の複数局に、ひいては国務省の事務次官たちとAID長官の間に分散されている。そのため、実質的には責任者がいないということになる」
今必要とされているのは、弱体化した破たん国家それぞれに対して首尾一貫した政策を立案する、省庁レベルの新しい機関、「世界安全保障省」(DGS)のような組織だ。この提案は、もともと「弱体国家および米国国家安全保障に関する委員会」の報告書に示されたもので、今や安全保障に対する脅威は、軍事力の影響が少なくなり、急激な人口増加や貧困、環境を支える自然体系の悪化、水不足の拡大など、国家を揺るがす変化がより大きな原因になっているとしている。
この新しい機関は、国際開発庁(現在、国務省の一部)のほか、他の省庁でも現在行われているさまざまな海外支援プログラムをすべて取り込み、その結果、米国の開発支援の責任を全面的に負うことになる。この新しい機関の外交支援にあたるのは国務省で、国家が破たんに至る過程を覆す取り組み全体をサポートする。 この新しい世界安全保障省では、財源に国防省の予算が振り当てられるだろう。世界安全保障省の予算は、実質的に新しい国防予算になる。そして、人口の安定化、環境を支える自然体系の回復、貧困の根絶、初等教育の普及をサポートし、警察や法廷制度、必要な場合には軍隊も増強して法の支配の強化に貢献することで国家破たんの主な原因に焦点をあてていく。
世界安全保障省は麻薬の製造や国際的な密輸に対処することになる。債務救済や市場参入のような問題を米国の政策に欠かせないものと捉えていく。また、国内外の政策を調整する話し合いの場を提供し、綿花の輸出に対する助成金や、穀物を車の燃料に換えるための助成金といった国内政策が、他国を破たんへと導く要因とならないようにする。
同省は、米国が率先して、破たん国家の数を減らすためのさらなる国際的な取り組みを推進していくことを重視する。さらに、開発に弾みをつけるため、債務保証することで、破たん国家に対する民間投資を促していく。
米国は、この取り組みの一環として、開発援助のボランティア組織「平和部隊」を以前のように活性化させることも可能だ。学校で教えたり、家族計画や植樹やマイクロファイナンスのプログラムの構築を支援したりするなど、草の根の運動をサポートできる。このプログラムは若者を巻き込み、彼らに市民としての誇りと社会的責任を自覚させていく。
高齢者層を見ると、米国では現役を退いた人が急激に増えている。彼らは、経営管理、会計、法律、教育、医療といった分野で高度な専門知識と技術を持ち、人の役に立ちたいと考えている。こうした人たちの能力は、シニアボランティア部隊のようなボランティア団体で発揮可能だ。この年齢層には経営スキルの高い人たちがとてつもなく大勢いるので、破たん国家の政府に極めて欠けているスキルを高めるために彼らの能力を活用できるだろう。
もちろん、すでに数多くのボランティア団体が米国の若者と高齢者双方の能力、エネルギー、情熱に頼っている。平和部隊、ティーチ・フォー・アメリカ、シニアコーなどがその例だ。とはいえ、現状では、こうした優秀な人材を活用するために、さらに大掛かりで体系的な取り組みが必要である。
世界はいつの間にか新しい時代へと入った。世界の安全保障なくしては、国家の安全保障はありえない時代だ。われわれはこのことをよく理解して、新しい現実に対応できるよう、われわれの取り組みを再構築し、焦点を定め直さなければならない。