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エダヒロ・ライブラリーレスター・R・ブラウン

情報更新日:2010年12月02日

環境税を引き上げ、所得税を引き下げて大きな利益を

 

                       レスター・R・ブラウン

経済について何かを決めるときには--決めるのが消費者でも、企業の計画担当者でも、政府の政策立案担当者でも、投資銀行家でも--私たちはみな市場の助言を頼りにしている。市場が機能し、経済の主体者が正しい判断を下すためには、市場から適切な情報が提供されなければならない。それには、私たちが購入する製品の原価が全部でいくらになるのかも含まれる。

残念ながら、市場では商品やサービスの間接費用はほとんど無視されており、それが経済の構造を大きく歪ませている。例えば、石炭を発電に使用したとき、市場価格に含まれるのは、石炭を採掘し発電所まで輸送するのにかかる直接費用だけである。石炭を燃焼させた際に発生する多額の間接費用--大気汚染、酸性雨、生態系の破壊、そして気候変動などの費用--は市場で無視されているので、市場が与えてくれる情報は不正確だ。このように、そしてほかでも歪みが生じているせいで、私たちは判断を誤ってしまっている。

市場のこのような大失敗を修正するのに最も効果的なのは、税制の再構築だ。すなわち、環境を破壊する行為に対して課税額を引き上げ、その一方で所得税を引き下げるのである。エコノミストから広く支持されているこの課税シフトは、社会が負担する費用すべてが製品の価格にきちんと反映されるようにするものだ。

正直な市場を作り出す第一歩は、これらの間接費用を算出することだ。おそらく、その最良のモデルとなるのは、米国政府が疾病対策予防センター(CDC)のデータに基づいて行った喫煙に関する研究である。2006年にCDCは、喫煙が社会にどれだけの費用を負担させているのかを、喫煙関連の疾病の治療費用と、これらの疾病で失われた労働者の生産性の両方を含めて計算し、たばこ一箱当たり10.47ドル(約960円)とした。

この計算は、たばこ税を引き上げる際の枠組みを示している。ニューヨーク市では、喫煙者は一箱当たり州税・市税として4.25ドル(約390円)を支払っている。通常、10%の値上げで喫煙率は4%下がるので、増税は健康に大きな効果を上げている。

ガソリンを使用するとあまたの間接費用がかかる。気候変動、石油業界の税控除や補助金、石油供給の維持、そして自動車の排気ガスに関連する呼吸器疾患の治療などの費用だ。国際技術評価センターによると、控え目に見積ってもその額は全部で1リットル当たり3.17ドル(約290円)になる。

この外部費用、あるいは社会費用が米国で平均1リットル当たり0.79ドル(約72円)というガソリン価格に上乗せされると、1リットルでの金額は3.96ドル(約360円)になる。これこそが本当の値段だ。誰かがそれを負担するわけだが、それが私たちでないなら、そのつけは子供たちにまわっていく。

環境の本当の姿を反映したところまで税額を引き上げていく際には、1リットル当たり3.17ドル(約290円)というガソリンの間接費用が基準になる。イタリア、フランス、ドイツ、そして英国でのガソリン税は、平均すると1リットルで1.06ドル(約97円)以上であり、初めの一歩としては申し分ない。

米国でのガソリン税は平均で1リットル当たり13セント(約12円)に満たない。だからだろう、米国のガソリン消費量は米国に次ぐ上位20カ国の消費量をすべて合わせたよりも多くなっている。欧州でガソリン税が高額であることから、石油を効率的に使う経済が発展し、質の高い公共交通機関への投資額がはるかに増え、石油の供給に混乱が生じても影響が出にくくなった。

今後十年間、毎年1リットル当たり11セント(約10円)ずつ、ガソリン税を段階的に引き上げていき、その分だけ所得税を引き下げるなら、米国のガソリン税は、現在欧州で一般的な「1リットル当たり1.06ドル(約97円)」まで上がっていく。

それでもまだ1リットル当たり3.17ドル(約290円)という間接費用には届かないだろうが、ガソリンの生産にかかるコストが上昇するのと合わされば、自動車を利用してきた人たちがより進化した公共交通機関を利用してみようとか、プラグインハイブリッド車や全電気自動車が販売された際に購入を考えてみようとか、そんな気持ちに十分なるはずである。

欧州でのガソリン税は、歳入源として、また石油輸入への過度な依存をやめさせようと設けられたものであるが、これを炭素税と考えるなら、1リットル当たり1.06ドル(約97円)の税額は、1トン当たり1,650ドル(約15万円)になる。これは驚異的な数字であり、これまで提案された炭素排出税や、キャップ・アンド・トレード方式の炭素価格すべてをはるかに上回っている。このことは、公式に協議されている「1トン当たり15ドル(約1,400円)から50ドル(約4,600円)」という金額が、考えられる中で明らかに最低限の数字であることを示している。

課税シフトは欧州では目新しいことではない。ドイツでは1999年に4カ年計画を採用し、労働に対して課していた税をエネルギーに課すように体系的に変更した。その結果、2003年までに二酸化炭素の年間排出量は2,000万トン削減され、約25万人の雇用が生まれた。同時に再生可能エネルギー分野の成長もこれによって加速した。

2001年から2006年にかけて、スウェーデンはそれまで所得にかけていた推定20億ドル(約1,820億円)の税を環境を破壊する行為から取り立てるように変更した。この課税シフトによって、一世帯当たり500ドル(約4万6,000円)ほどの税の大部分が、自動車税や燃料税の増税を含め、道路交通に対して課されることになった。フランス、イタリア、スペイン、それに英国も同様の税制度を採用している。欧州や米国では、世論調査の結果、説明を聞いた回答者の少なくとも70%が環境税への移転に賛成と答えたことが判明している。

9名のノーベル経済学賞受賞者を含む、およそ2,500名のエコノミストがこの課税シフトという考え方を支持している。ハーバード大学で経済学の教鞭をとり、かつてジョージ・W・ブッシュ政権で経済諮問委員会の委員長を務めていたN・グレゴリー・マンキューは『フォーチュン』誌に次のような文章を載せている。

「所得税を減らし、その一方でガソリン税を増やせば、経済成長をさらに加速させ、交通渋滞の緩和や道路の安全性の向上、地球温暖化の危険の減少につながるだろう。そしてこれらすべてのことが、長期の財政支払能力を危険にさらすことなく実現できるだろう。これこそが、経済学が提示すべき、お金のかからない税制再構築案に一番近いのかもしれない」

環境税は現在目的税としていくつかの対象に特定して課されている。例えば、多くの都市は都心に入ってくる車に税をかけているし、車を保有するだけで課税している国もある。デンマークで新車を購入すると、自動車登録に自動車本体価格の1.8倍の税がかかる。本体価格が2万ドル(約180万円)の新車に買い手は5万6,000ドル(約510万円)を支払うのだ。またシンガポールでは1万4,200ドル(約130万円)のフォードフォーカスに税金が加算されると、価格はその3倍以上の4万5,500ドル(約420万円)に膨れ上がる。

ときとして、排出権取引を利用するキャップ・アンド・トレード方式が環境税主体の税制再構築の代わりとなることがある。主な違いは、排出権取引の場合、排出ガスの許容限度は政府が設定し、排出権の売却あるいは譲渡価格は市場に一任するが、これに対して、環境税の場合は、環境破壊が招くコストはあらかじめ税率に組み込まれていて、市場がそのコストで破壊行為の金額を確定するところにある。

市場での売買取引を認めるキャップ・アンド・トレード方式は、オーストラリアでの漁獲制限から米国における二酸化硫黄の排出削減にまで及んでいて、国家レベルでは有効に機能している。しかしこの方式には重大な制約もある。かつてホワイトハウスの環境諮問委員会のメンバーであったシニア・エコノミストのエドウィン・クラークは、「排出権取引を認めるなら、複雑な法規制枠の設定、排出権の定義、取引のためのルール作り、排出権を持たない人の取引排除が必要である」と述べている。

エコノミストは効率性、透明性、価格予測性の点から、えてして課税シフトの方を好むが、炭素税、キャップ・アンド・トレード方式いずれを採用しても、炭素の燃焼は高コストを伴いやすいことから、共に現在の市場の誤りを正すことに役立つだろう。

商品やサービスの価格を決定するに当たって、間接費用の無視が許されるような市場は不合理、不経済であるとともに、自己破壊的である。経済の進歩を維持できるグローバル経済を構築する鍵は、正直な市場、つまり環境のことを正直に語ってくれる市場を創設することにある。

そのような市場を創設するためにしなければならないのが、税制の再構築である。それは労働にかかる税を引き下げ、炭素の排出やその他環境を破壊する行為への課税を引き上げることであり、その結果として間接費用を市場価格に組み込むことである。もし、市場に真実を語らせることができるなら、私たちは破綻につながる欠点含みの会計システムによって、真実を知らされないままに終わることも避けられるだろう。

 

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