レスター・ブラウン
10月16日は世界食料デー。飢餓・栄養不良・貧困の撲滅を目指す戦いにおいて、国内外の結束を固める機会である。地下水位の低下・表土の浸食・気温の上昇によって増え続ける世界の人口を養うことが困難になる中、耕作に適した土地と水資源の管理は食料の安全保障に向けた世界的な取組みの中心課題になりつつある。以下に考慮すべき事柄を挙げよう。
1.養うべき人口は一日に21万9,000人ずつ増加するが、食料は大幅に不足している。
今後の食料供給を確保できるかどうかは、もはや農業政策だけで決まるのではなく、保健・家族計画省およびエネルギーの政策に大きく左右されるようになっているようだ。
2.新興国における所得増加に伴い、大量の穀物を要する畜産物・養鶏産物の消費が激増している。
現在でも穀物消費が集中する中国は14億人近い人口を抱え、今後一人当たりの肉消費量が大幅に増える可能性がある。
3.インドと中国の数億人は地下水を過剰に汲み上げて生産される食料で養われている。
帯水層の枯渇によって、世界の穀物の半分を生産する3国(中国・インド・米国)の収穫が脅かされている。今後、水不足で収量が減ることは避けられない。
4.毎日の食事に困る人が世界には数多くいる。
穀物価格の上昇で、世界の最貧困層は毎日の食事が得られていない。将来の食料生産に対する問題に立ち向かおうにも、世界の人口は毎年8千万人ずつ増加している。
5.食料増産への取組みに対する今日の主な制約は水供給である。
世界中の灌漑面積は2000年までの50年間で3倍近くに拡大したが、その後はあまり増えていない。
6.世界の農地の1/3近くで表土の浸食が起こり、地力が低下している。
表土の浸食も今後の食料生産を脅かしている。表土形成の速度を上回る速さで表土が失われているため、地力が低下しているのだ。
7.現在の農民は人間が引き起こした気候変動に直面する最初の世代である。
異例の速さで地下水が干上がり、表土が浸食されるだけでなく、農民は未知の気候変動に直面している。これまで1万年以上かけ、安定した気候に合わせて発展してきた農業は、今、急速に変化する気候について行けなくなっている。
8.アジアにおける山岳氷河の融解は食料生産に対する前代未聞の脅威である
ヒマラヤ山脈とチベット高原の山岳氷河は、中国とインドにおける灌漑用水の重要な供給源であり、これが融解してしまうと収量低下と深刻な食料不足を招く恐れがある。
9.農業先進国では穀物の収量が伸び悩んでいる。
この数十年増え続けてきた単位面積当たりの穀物収量は、2000年前後を境に伸びが鈍化したり止まったりしている。日本・中国の米、フランス・ドイツ・英国の小麦、米国・アルゼンチン・フランス・イタリアのトウモロコシがどれも似たような状況に陥っている。
10.状況は困難かつ危険である。
今はとにかく、直面する難題の大きさと対処の規模を世界にわからせるため、食料の安全保障問題をめぐる舵取りが必要である。何よりもエネルギー経済を全面的に、しかも緊急に(2030年や2050年を期限とするのではなく)再建しなくてはならない。食料供給は一度の凶作で崩壊しかねないほど深刻かつ火急の事態にある。