[No.466] で、生物多様性、生態系について、
> さまざまな環境活動がありますが、「生物多様性」保全団体というのは、あまり
> 聞かない気がします。
と書きましたら、いろいろな情報をいただきました。ありがとうございます!
生物多様性を保護することを目的としている最大の団体として、
コンサーベーション・インターナショナル(CI:Conservation International)
http://www.conservation.org/ というNGOがあります、と教えていただきました。日本にもオフィスがあります。
このHP(英語)には、「生物多様性は、地球の健康状態を映し出します」として、生物多様性の基本などの解説ページもあります。
4月のプレスリリースでは、「地球温暖化が、世界の各地を危機に陥れている。私たちが生きている間に、生物多様性のホットスポット(重要箇所)は消滅してしまうかもしれない」という発表が出されています。
この組織について、情報をいただきました。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【目的】
コンサーベーション・インターナショナル(CI)は、生物多様性と生態系の保護を目的に1987年に設立された、本部をワシントンDCに置く民間非営利のNGOです。世界24カ国の拠点から500名の専従スタッフが参加し、国際機関や政府、研究機関、企業、NGOなどとパートナーシップを組んで活動を展開しています。
【指針】「自然保護を人との関わりにおいて考える」
生物多様性は人間の健全な生活と発展に不可欠なものであると同時に、一度破壊されると再生が不可能な貴重な資源です。1992年の地球サミットで締結された「生物多様性条約」にも表れているように、地球環境問題の緊急な課題の一つとして認識されています。
この緊急な課題に、限られた支援で最大の効果を挙げるためには、優先的に保護すべき地域を認識することが重要です。CIは、世界のトップ・サイエンティストと共に、生物多様性「ホットスポット」を特定し、熱帯雨林や珊瑚礁の保護を進めています。ホットスポットは、陸地のわずか2%の面積に過ぎませんが、50%に上る陸の生物種が生息しています。
CIは、経済面での持続可能性、科学的手法の駆使、地域文化の尊重の3つを柱に、ホットスポット地域において、人と自然の共生のための「新しいモデル」作りに取り組んでいます。
※「ホットスポット」は、特に生物種が豊かでかつ危機に瀕する地域。最新のホットスポットマップが1997年にCIにより発表され、世界の25地域が特定されています。また、これをさらに国別の資料にまとめた「メガ・ダイバーシティー」(生物多様性超大国)が、1998年に出版されました。
------概要終わり--------------------
CIは、もちろん生物多様性保護のための調査、分析、また人々の理解と参加を促すことなどの活動を行っていますが、ユニークな活動を紹介します。
○バイオ・プロスペクティング
熱帯雨林の薬品原料を守るため、南米のスリナムでは、先住民の知的所有権を確保しつつ、製薬会社や現地政府と協力し、薬効成分を発見し利用する研究を進めている。森の薬草人(シャーマン)プログラムでは、先住民族の貴重な知識と伝統文化を保存する活動を、19カ国で40の先住民と協力して進めている。
○自然保護債務スワップ
熱帯雨林を持つ国々には多額の債務を有する国も少なくない。このような途上国の累積債務の一部を自然保護団体が肩代わりし、それと引き換えにその国は、自然保護と現地の人々の生活向上を目的とする資金を、現地通貨で捻出するという手法。1987年に世界ではじめてボリビアで実施、その後多くの環境保護団体や国連などの公的援助期間によって踏襲されている。
○自然保護エンタープライズ
熱帯雨林の保護には、現地の人々が熱帯雨林の経済的な価値を認識することが非常に重要である。エクアドルで行う「タグア・イニシアチブ(TM)」は、熱帯雨林で採れるヤシの種(タグア)から、ボタンやジュエリーを生産し、国際市場に結びつけることで、数年間に2億円産業に発展させた。(こうなったら、その熱帯雨林を伐採しようとはしない。)これを応用し、ブラジルナッツ、ポプリ、オイル、エコツーリズムなどのコミュニティー産業を育成している。
また、CIをサポートする企業としては、次のような例が挙げられます。
○資金的には、マクドナルド社などがCIを支援している。
○上記のバイオ・プロスペクティングにブリストル・マイヤーズ・スクイブ社が参加している。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ほかにも別の方から、(財)日本生態系協会もこれに該当するのでは、と教えていただきました。ビオトープに力を入れている組織のようです。
http://www.ecosys.or.jp/eco-japan/simple/japanese/index.html
あと、動物保護活動に取り組んでいる世界各地の団体やプロジェクトのリストが載っているページもありました。
http://www.green-web.ne.jp/monthly/index.html
> 鷲谷いずみさんの「サクラソウの目」という、保全生態学の入門篇の本がありま
> す。とっても面白いので、お時間があるときには読んでみてください。鷲谷先生
> のサクラ草への愛が伝わってきます。
というメールもいただきました。さっそく注文しようと思います。『サクラソウの目―保全生態学とは何か』 鷲谷 いづみ 著(地人書館)です。
そして、最初にいろいろと情報源を教えてくださった国立環境研究所の竹中さんが、「保全生物学という言葉は初耳とのことですので,参考になるかもしれない文章をもうひとつ紹介します」と教えてくださいました。
http://bio-math10.biology.kyushu-u.ac.jp/~iwasa/kaiyou.html
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(最初だけ引用)
現代はかつてない大量絶滅の時代といわれている.最近に行われた推定によると,1年当たりに絶滅する種の数は200年前と比べても数ケタも高くなっているらしい.この異常なまでの高い絶滅率が,進化の途上でも生じてきた自然の過程による種の絶滅とは異質で,人間活動の影響によることは明からである.
絶滅が危惧されるような野外生物の多くは,漁業対象となる資源生物とは違って食料として有用というわけではない.一部のものには,たとえばゾウは象牙を生産し,クジラがホエールウォッチングで観光・教育のために有用で,植物の中には医薬品の原料になる可能性の高いものもあろう.
しかしながら,現在絶滅が問題になっているほとんどすべての動植物は,すくなくとも現在の人間の世代の人にとっては役に立つとは思われないものだ.しかし,有用かどうかにかかわりなく,これまで長い間かかって進化で造られてきた生物が,それに比べれば瞬時と思える時間で人間活動のために永久に失われてしまってもよいのだろうか.
世代間の公平という観点でも現在の世代の経済活動によって将来の世代が利用できなくなる不可逆な過程を引き起こすことはどこまで許されるのか.取り返しのつかない喪失に対する危機感は,一般社会の人々にも漠然とした不安として感じられ,野生生物の絶滅を防ぐための保全活動にさまざまな努力が向けられている.
野外生物が絶滅の危険にさらされているときにどのように対処すればそのリスクを下げることができるのか.このような問いに対しては生物学的な知識にもとづいた研究が必要となるが,これは保全生物学とよばれている(鷲谷・矢原1996;樋口1996).
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そして「絶滅」とはどういう過程で起きるのか、絶滅を考えるうえで3つのケースに分けることが必要、絶滅のコンピュータモデルなどの話が展開しています。
3つのケースとは、「どんどん減少している集団」「いったん激減した集団の回復可能性」「持続的集団の存続期待時間」です。
「滅びかけている野外生物種を何とか回復させるという保全の施策にすぐにかかわるものは第1と第2の状況であろうが,より長期での生物集団の存続に対して,人間の活動がどのような脅威を与えるのか,さまざまなプロセスがどのように効くのかを考えるには,第3の状況を考えるのがよいと思われる」。
国の機関でも生物多様性を専門に扱っているところがあるのだろうと(これまで知らなかったので)調べてみましたら、ありました。
○生物多様性センター
環境省自然環境局の1機関として平成10年(1998年)に設立。我が国の自然環境や生物多様性の現状を調査するとともに、その成果をデータベースとして蓄積し、広く情報発信していくことなどを目的としてさまざまな活動を行っています。
http://www.biodic.go.jp/
ここには、生物多様性関連の情報がいろいろ載っています。たとえば、
○生物多様性条約
http://www.biodic.go.jp/cbd.html
「生物多様性は人類の生存を支え、人類に様々な恵みをもたらすものです。生物に国境はなく、日本だけで生物多様性を保存しても十分ではありません。世界全体でこの問題に取り組むことが重要です。このため、1992年5月に「生物多様性条約」がつくられました。1995年12月までに日本を含む137ヶ国がこの条約に入り、政界の生物多様性を保全するための具体的な取組が検討されています」ということで、生物多様性条約の本文なども読めます。
○生物多様性国家戦略
http://www.biodic.go.jp/nbsap.html
「政府(地球環境保全関係閣僚会議)は、平成7年10月に「生物多様性国家戦略」を決定しました。私たちの子孫の代になっても、生物多様性の恵みを受けることができるように、基本方針と今後どのような国が施策を行うか(施策の方向)を定めたものです」ということで、「生物多様性国家戦略の本文」や「生物多様性国家戦略の進捗状況の点検結果」「生物多様性国家戦略の見直しについて」などが載っています。
また、環境省が公共事業による環境破壊を抑制するため、河川流域単位で自然生態系を評価するシステムの運用に乗り出す、というニュースも入ってきました。
全国 168の流域で、商用衛星を使って地上1メートルの精度で地表を映すベースマップ(地理情報)に、数百種の動植物の分布状況と森林情報を加えた「生態系総合管理基盤情報」を確立、2001年度内に運用を始めるそうです。
「公共事業のあり方が問われているなか、環境省は基盤情報を武器に公共事業に対して計画段階から環境保全の観点で関与する方針」だそうで、このような目的のために、衛星やITなどの先端技術が活躍するのはうれしいことです。
あといくつか、関連情報を載せておきます。
○生態系を破壊する「インベーダー生物」100種指定
──国際自然保護連合。本来の生息地から別の場所に移動させられることで環境に悪影響を与える。
http://www.iucn.org/biodiversityday/100booklet.pdf
○「地球生態系評価ミレニアム国際プロジェクト」立ち上げシンポジウム
日時:2001年6月6日(水) 13:00 -17:00
場所:国連大学5階 大会議場(渋谷区神宮前5-53-67)
テーマ:「エコシステム・アプローチこそが持続可能な開発を実現する」
(An Ecosystem's Approach to Sustainability)
人間の生活は生態系が提供する"財とサービス"によって支えられている。しかしながら、今までのように人間がそれを使い続ければ生態系の能力は確実に低下してしまう。生態系の持続可能性が人間の持続可能性と同じように重要である事を学ぶこと(「エコシステム手法あるいは生態系アプローチ」と定義されている)が喫緊の課題である。
それを受けて地球規模での包括的で総合的な生態系の評価を行う「地球生態系評価ミレニアム国際プロジェクト」を2001年4月に立ち上げることになり、そのプロジェクト評議会の共同代表であるA.H.ザクリ氏(国連大学高等研究所所長)や事務局長のW.リード氏の他、日本の学識経験者やNGOの代表者などを交えて、意見交換を行うもの。
この「Millennium Ecosystem Assessment」については、以下のHPを。
http://www.ma-secretariat.org/english/about/index.htm
このシンポジウムは国連大学という場所柄、事前申し込みがないと入れません。ご興味のある方には申込用紙をメールでお送りしますから、お知らせ下さい。締め切りは6月1日必着だそうです。
また、私が書いた
> それに、企業の環境活動にも「温暖化」「熱帯林」「オゾン層」などは入ってき
> ますが、「生物多様性」保全のための取り組み、というのはあまり聞かないよう
> な気がします。企業の方、どうでしょうか?
に対して、何人かの方から「経団連自然保護基金事務局が、国際自然保護連合と世界環境経済人協議会の出した『企業のための生物多様性入門』という報告書を翻訳して、冊子として出しています(無料)」と教えていただきました。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/profile/topics/kankyo/book9906.html
わざわざこの報告書を入手して、私宛に送って下さった方もいらっしゃいます。本当にありがとうございます! 簡単に目次を紹介します。
第1章 企業はなぜ生物多様性に関わるべきなのか?
第2章 生物多様性について
第3章 生物多様性条約
第4章 生物多様性条約の内容
第5章 生物多様性条約における企業にとっての課題とチャンス
企業の課題
どの業種が最も強い影響を受けるか
締約国会議(COP4)における企業の重要課題とチャンス
天然資源部門
その他のセクターの課題
今後の問題
開かれているチャンスの窓
第6章 経験の共有:企業と生物多様性(具体例)
第7章 生物多様性条約と企業部門の関わり
企業はどのように関与できるか
国際レベルでの企業の取組み
企業レベルでの参加
環境管理計画を作る
次のステップ
生物多様性条約や企業との関わりなど、わかりやすく解説されているよい情報源だと思います。当然のことながら、生物多様性を「利用する立場」から、自分たちは何を理解して、どのように考えればよいか、というベクトルの小冊子です(これはこれでもちろん大切なことです)。
ただ、バランスを取るという意味で、別のベクトルの理解や認識も大切だなぁ、と思うので、ぜひご紹介したい本があります。
『環境倫理学のすすめ』(加藤尚武著)丸善ライブラリー 621円
人間が利用する・しないに関わらず、「生物の種、生態系、景観などにも生存の権利がある」という「自然の生存権の問題」が、環境倫理学の3つの主張のひとつとして取り上げられています。
この本には「中之島ブルース」というとってもおもしろい章があって、自然利用の目的を考えさせられます。少しだけ引用します。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
すると自然利用の目的には、(1)趣味や贅沢のための利用、(2)生活のための利用、(3)個人の生存のための利用、(4)人類の存続のための利用、という段階があることになる。
これまでの考え方では、どの段階の利用も「万物の霊長」である人間の尊厳の名のもとに許されてきた。これからは無条件の利用が許されるのは、(4)人類の存続のための利用だけである、という方向に世界の世論が進んでいくだろう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「生物多様性って、わかるようなわからないような感じだなぁ」と書いた途端、あちこちから情報をいただいたり、ふだん入ってくる情報の中にも関連情報が入っていたり(私のために特別サービス? ^^;)、久しぶりにメールをくれた人がそれとは知らずに関連情報を送ってくれたり・・・。
「求めよ、さらば与えられん!」(これは私の双子スローガンの片方です ^^;)だなぁ、そして、いったん「んん?」って気になると、関連情報がひっかかってくるようになるのだなぁ(まえからきっとあったに違いないから)、おもしろいなぁと思います。
ところで、今日は新潟の安塚町というところに遠征して、田植えに初挑戦!してきます。田んぼの生物多様性も体験できるかな〜(^^;)。
\ ぜひご登録ください! /
25年以上にわたり国内外の環境情報や知見を
提供し続けている『枝廣淳子の環境メールニュース』