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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2005年06月20日

ハノイの風景(2000.05.12)

大切なこと
 
ハノイに来ています。ベトナムは初めてです。到着した日にハノイ空港からホテルまで、40分ほどのドライブを楽しみました。いくつも興味深い風景が車窓から見えました。本日は「えだひろ、ハノイを行く」)の巻。 空港からハノイ市内に入るまでは、一面の水田です。日本では田植えを終えたばかりだと思いますが、そろそろ穂が育とうか、という青々とした田んぼが見渡す限り広がっていました。 まず気づいたのは、田んぼのそこここに、人がたくさんいることです。牛も同じくらいたくさんいます。草原のような緑の中に、茶色の点が牛(畦道の草を食んでいます)、ベージュの点が農家の人のかぶっている麦わら帽子です。農家の人は草取りをしているようです。 土手で牛の番をしている老人や子どももあちこちにいました。農期のタイミングのせいかもしれませんが、耕運機やトラクター、トラック等の農耕機械は見えません。 日本の田んぼでも、アメリカの農業地帯でも、あまり人を見かけないので、機械がなく、人がたくさんいる様子はちょっと不思議な風景に映りました。先進国の基準でいうと、「生産性が低い」農業なのでしょう。たぶんここの農家の人は「持続可能な発展」という言葉も知らないのではないかと思います。 先進国から来た旅行者と、ベトナムの農民との会話。 旅行者:人手に頼って生産性の低い農業をやっていますね。農薬や機械を使って、もっと生産性を上げないと。 農 民:生産性を上げてどうするんですか? 旅行者:じゃんじゃん作るんですよ。それを売って、お金を儲けて、もっと効く農薬や肥料を使い、大きな機械や自動車を導入するんです。 農 民:そしてどうするんですか? 旅行者:農薬や肥料が人間にも環境にも悪い影響を与え、機械や自動車は二酸化炭素を排出して気候変動を起こすことを実感するんです。 農 民:それを実感してどうするんですか? 旅行者:もっと自然や環境を大切にしようという意識を啓発するんです。農薬も肥料も機械も減らそう、自然と共存した有機農業をめざそうと決意するんです。 農 民:それなら今やっていますよ。 旅行者:・・・ ホテルの送迎バスは、絞めた鶏を数羽詰めた籠を運ぶ自転車や、もうじき豚肉になる運命の豚を3匹も荷台にくくりつけたバイクを追い抜いて行きます。東京でそんな光景に出会ったら、キャー、残酷!とかいいそうですが、ここでは風景に自然に溶け込んでいて、恐さも気味悪さも感じないのが不思議でした。 ここの子どもたちは、鶏の絵を描きなさい、といわれて、4本足の鶏を描いたり、ブタの絵を描きなさい、といわれて、トレイの上のスライス肉を描くようなことはしないよなぁ、、、と。 ハノイ市内に近づくと、田んぼの中にも大きな立て看板がいくつか出てきます。「ISO9001」という文字が踊っている大きな看板が、異彩を放っていました。(ISO14001はなかったですねぇ) 市内に入ると、ちょうど夕方のラッシュアワーでした。壮観というか圧倒される光景でした。メインストリートを流れているのは、自転車、自転車、自転車。 自動車1台につき、バイクが10台ぐらいの割合でしょうか、そして、バイク1台につき、自転車が10台ぐらいでしょうか。つまり自動車1台に自転車100台ぐらいです。もともと道路は自動車のためのものではなかったのですね。自転車の大群をかき分けて進もうと、自動車はクラクションを鳴らしっぱなしです。 自転車の激流に迷い込んだような、でもいちばん威張っている自動車の窓から見た光景は、ひとつのスナップショットのようでした。そしておそらく、10年前のスナップショットには、自動車はほとんど写っていなくて、バイクも少なかったことでしょう。そして、10年後かいつのことかわかりませんが、この大量の自転車が自動車に置き換わった図を想像すると、恐ろしいものがありました。 バスを1台見かけた他は、電車などの公共交通はあまりないようでした。経済が発展して、自転車からより機動性の高い手段を人々が求め、入手できるようになった時に、自動車というオプションしかないのか、より環境にインパクトの少ないオプションを用意しようとしているのか、ハノイ市に聞いてみたいと思いました。 NHKの衛星番組『地球白書』の都市編で出てきますが、クリチバ市は、問題を見越して、先手を打って都市づくりをしたお手本です。ハノイも今なら間に合う!と思いました。(外国人のお節介な思いなのでしょうけど。) 市内に入ると、自転車やバイクの修理屋さんがたくさんありました。ここなら「いやー、お客さん、修理するより新しいのを買った方がトクですよ」なんて話はないことでしょう。何人もが1台の自転車に群がって「寄ってたかって」修理しているのも面白いな、と見ていました。 労働生産性アップに注力してきたのを方向転換して、雇用と環境の観点から、労働生産性は下げて、資源生産性や環境負荷を考えようじゃないか、大量生産・大量消費・大量廃棄ではなく、モノを大切にして修理し、繰り返し使おうじゃないか、というコンセプトが日本では最近「新しく」出てきていますが、こちらの人にとっては「はぁ?」って感じでしょうね。 「それなら今やっていますよ」という形で、余計な回り道をせずに進めるように、新しい経済なり価値観を早く作って示していくことが必要、と強く思いました。
 

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