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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2005年06月20日

プロジェクトの効果的な進め方〜ウォーターウォッチに学ぶ(2001.05.10)

大切なこと
 
このニュースは、書いている本人も思っていなかったほど(^^;)、幅広い情報をお送りしています。ただ自分では、「三位一体」のどこかに当てはまるんじゃないかなぁ?と思いつつ書いています。 「三位一体」は、たとえば、「取り組もうという思い」「取り組むための知識や情報」「取り組むためのスキルやツール」ともいえます。 環境教育の話のときに使った例ですが、たとえば、子どもが自転車に乗って隣町まで行こうとする。そのときには、「頑張って行ってみるぞ!」という思いと、隣町までの道順や危険箇所などの知識、そして、実際に自転車に乗るスキルが必要でしょう。「心」「頭」「身体」という意味で、三位一体です。 環境教育は、このような3つの側面を育むもので、「現状がどうなっている」「どうしなくてはならない」という知識を詰め込むだけでは実際に行動につながりにくいかもしれませんよ、という話をしました。 そして、大人の場合も同じだと思っています。日ごろ新聞などのニュースを見ていて、「頭」にあたる情報や知識の伝達はずいぶん広がってきたなぁ、と思います。まだ伝えるべき大切なことで伝わっていないことも多々ありますが、知識や情報は扱いやすいので、これからも進んでいくことは間違いないでしょう。 それから、あちこちの団体や活動を見ていて、「熱い心」はあるんだけど、というところがあります。ある目標に向かって、熱い心で組織や活動を立ち上げたけど、その進め方で詰まっている、というケースなどですね。 ・・・ということで、「身体」--行きたいところに動かしていくためのプロセスや仕組み--の部分がいちばん必要とされているなぁ、と感じています。 私が特に中小企業に対して、環境活動評価プログラムを強く薦めて、一緒に取り組んでいるのもこの理由からです。環境問題の講演を聞いたり、テレビを見て、「何とかしなきゃ」と思った。でもどうしたらいいの? というときに「環境マネジメントシステム」というプロセスや仕組みはとても役に立ちます。 少し話が外れますが、環境活動評価プログラムの応援団?を始めて1年ほど、取り組み事例がたくさん出てきています。そろそろ、その成果もフィードバックされてきます。 「環境活動評価プログラムに取り組んだら、日常業務の効率化やコスト削減に結びつくでしょう」と講演していたのが、最近では「結びついています」と自信を持ってお伝えできて、嬉しく思っています。「行きたいところに動きながら、しかも企業の役に立つ」一挙両得の仕組みです。こういう取り組みなら、「自分も やる!」と心も奮い立つのでしょう。 この環境活動評価プログラム以外でも、「身体」、つまり目的地に確実に進んでいくためのプロセスや仕組み、ツールや考え方をいろいろと紹介していきたい、と思っています。特に海外の取り組みを見ていると、そのあたりのプロセスがシステム化されているところがあって、とても参考になります。 今回はそのひとつの例、オーストラリアの水質保全NGOである「ウォーターウォッチ」のプロジェクトの進め方の手引きを紹介します。この春に関係者が来日した折に、日本の皆さんにも参考にしてほしいので、翻訳して流してもよいか? と許可を得ました。 地域の水質改善を目的とした活動ですが、基本的なプロジェクトの進め方(やっぱりP-D-C-Aのマネジメントシステムになっています)はどのような分野にも適用できると思います。 また、地域の巻き込み方や世論の盛り上げ方、学校の取り組み事例など、とても参考になる例がいくつも載っています。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ウォーターウォッチの行動計画策定にあたって <ウォーターウォッチって何だろう?> ウォーターウォッチとは、全国規模の、地域に根ざした水質監視プログラムである。地域の諸団体がオーストラリアの水路の水質モニタリングを行う手助けをしている。各団体は、モニタリングの結果に基づいて、水質問題についてわかった知識を、建設的な活動――植林したり河川堤防を保護したり、ゴミを減らしたり汚染度の下げるなど――につなげることができる。 <行動計画:一歩一歩> 最初は、自分の水域の水質問題は「とてもじゃないけど手に負えない」と思えるかもしれない。「この山は高すぎて登れないよ」というような感じかもしれない。しかし、山を登るには、「一度に一歩ずつ」進んでいくことである。この「行動計画策定ガイドライン」は、あなたの団体が「意識啓発」から「実際の行動」へと動いていけるよう、計画策定の手順を簡単な「一歩」に細かく分解したものである。将来、あなたがいくつかの山を踏破し、さらにはいくつかの山を動かしたりした暁には、自分たちの努力がどんなに物事を変えられるかがわかることだろう。 <1.正しい一歩を踏み出そう:地域を巻き込むこと> 最初の「一歩」は、一番初めの段階から、水道局や土地管理局、学校、企業、土地所有者、地元の議員、そして地域団体を巻き込むことだ。水質に悪影響を及ぼしているかもしれない人々や組織も必ず含めること。こうすることで、状況を変えるために何をしなくてはならないかを話し合うときに、協力を得られる可能性が高くなる。自分たちが考えている水質のモニタリングは、標準的な科学的手順に従って実施され、モニタリングの結果は、このグループで確認・討議してからしかマスコミには発表しない、ということを説明する。 <2.現状のアセスメントを行う> 参加したいと関心を持つ人々や団体を募ることができたら、プランニング・ワークショップを行う。十分に時間をかけ、地形図や航空写真を使って、自分たちが対象とする水域の境界線をはっきりさせること。水に影響を与える様々な土地利用形態を把握し、地域の人が関心を寄せている主要な水質問題に答えを出せるようなモニタリング計画を作る。 対象河川とその周辺地域を詳細に観察し、その後、適切な期間にわたってさまざまなテストをおこなえば、何か大きな問題があるかどうかを考えるために必要な情報は十分に得られるだろう。川の周辺で、変化が起こりつつあるように見える場所はあるだろうか? モニタリング調査で出た数値の中で、予想をはるかに上回っていたり、下回っているものがあるだろうか? モニタリグの結果が突然、通常の限界値から大きく外れることがあれば、あなたの最初の反応は、「すぐに全員に知らせなくては!」というものかもしれない。だが、急ぎすぎてはいけない。時間をとって、その観測場所と計器をもう一度調べてみること。そうすれば、あなたが出した結果が正確であることに疑問の余地がなくなるからだ。 <3.問題の原因を見極める> 川べりや特定のモニタリング場所のうち、どこが問題地点なのかを見極めたら、それぞれの問題をさかのぼって、水域のどこかにある具体的な原因を探ることができる。たとえば、モニタリング調査の数値のいくつかが危険域にあるような場合、人間の活動が原因なのだろうか、それとも嵐の結果など自然現象として説明がつくものなのだろうか? 数値の解釈の手助けとなる過去のモニタリング記録があるだろうか? 繰り返しになるが、結論を出す前に、今一度、これらの要因を漏らさず注意深く考えること。 <4.全員で進むこと> 問題の原因が、家族や工場主、店主など、ある個人や団体の活動にありそうだ、というときには、その人々も呼び入れて、いっしょにる解決案を作っていくこと。 この取り組み方の好例が、ニューサウスウェールズのフレッシュウォーター高校だ。4年間にわたってグリーンデイル・クリークの水質をモニタリングした後、生徒たちは、ブルックベイル工業地帯から汚染された下水と有毒な工業汚染物質が出ているという確実な証拠を得た。生徒たちは学校で、無料の特別昼食会「「廃棄物情報 工場フォーラム」を開催し、ブルックベイル工業地帯の企業や工場から約 400人を招待した。フォーラムで、企業の代表者たちは生徒の研究を見て、工場から廃棄される汚染物質が川や沼、海に流れ出るのを防ぐために、自分たちには何ができるかを話し合うことができた。 別の例として、ウォーターアクショングループの生徒たちが、地元の企業や工場に対して、無料の「廃棄物テストサービス」を提供したことがある。最初のテストは、環境に関する輝かしい記録を有する自動車工場で行われた。その結果には、皆が驚いた。工場廃水は過度にアルカリ度が高く、リンの濃度も高く、ひどく濁っていたのである。地元の工場はその結果を見て、オイルやエンジンオイルの脱脂剤、塗料や酸などの有毒汚染物質が工場から川へ流れ出ることもある、ということを以前より意識するようになり、テストサービスは成功を収めた。 <5.行動計画を書く:進むべき道から外れないための有益な方法> モニタリンググループとして、どこまでのことができるかは、自分たちがどのような目標を設定するかによって大きく違ってくる。目標が高すぎることもある。そのようなときには、どうやっても、その目標には到達できない。また、効果性(正しい作業を行うこと)と、効率性(作業を正しく行うことを取り違えて、進むべき道を見失ってしまうグループもある。忘れてはならないのは、地域の水質モニタリングを行う目的は、適切な行動を起こせるよう、その地域の河川の水質が改善しているか、悪化しているかを知ることだ、ということである。 このように、地元の水路とその水質にとって最も深刻な脅威について徹底的に調査をしたら、自分たちのグループや地域が取り組んでいこうとする目標を選ぶ。 目標を書きとめること。 ・ポジティブな目標にすること。つまり、自分たちが「やりたいこと」を目標にすること。 ・現実的で、観察可能であること。できれば、計測可能でもあること ・その目標を自分たちが達成している姿を想像すること。 ・さまざまな時間枠で目標を設定することができる。    長期目標は、2年から10年    中期目標、半年から2年    短期目標、1週間から6ヶ月 すべての目標に同じだけの時間や労力をかけることは無理なので、優先順位をつけること。 ・最も重要な目標の横に、「A」と書き入れる ・次に重要な目標の横には「B」、 ・重要度がいちばん低い目標の横には「C」と書く 最も重要な目標がわかると、最も大きな問題に多くの時間をかけることができるようになる。目標は「目的地」のようなものだ。だから、設定した目標のそれぞれに対して、自分たちの対象としている河川の水質を、現在の状態からこうであってほしいと願うところまでもっていくために、いつ、どこで、何を、どのよう に進めていくかに関する詳細な地図が必要になる。 それぞれのステップについて合意ができたら、必ずだれがそのステップを成し遂げる責任を有しているのかを決めること。そして、必要な場合には、どのような助っ人が必要であるかも明らかにすること。可能ならば、期限を設ける。「誰が、いつまでに、何をすることに同意したのか」、また「その行動が完了した時に誰に報告すべきか」をはっきり記録に残すこと。 ○活動のためのオプション 地元の水域とその問題がよりわかってくると、多くのさまざまな対応が考えられるだろう。そのすべてが重要である。考えられる活動として、たとえば、自分や家族の個人のライフスタイルを変えること、地域団体や学校での変化、水域に位置する土地所有者や企業、産業の変化などがある。 ○家庭のやり方を変える ライフスタイルの変化を目指した行動計画の中で、シドニーのマンリー半島にある11のストリームウォッチ・スクールが、「私たちの干潟を救うために、協力します」という誓約書用紙を配布した。この用紙は、全国水週間の一環として配布された。この誓約書用紙を使って、「水や洗剤の使用量を減らします」「油や残飯類を下水に流さないようにします」など、家庭で環境に優しいやり方をすると誓約しましょう、という呼びかけである。当初、2000枚の宣誓書用紙を印刷したが、用紙がほしいという声が大変多かったので、さらに5000枚刷った。キャンペーンの結果、6500もの家庭が、自分たちも地元の川と水路を守る手助けをするために、節水し、低木の再生プログラムを支援する、と宣誓した。 ○問題を目立たせる ミルドゥラの近くのイリンプル南小学校では、汚染に対する人々の意識を高めるための行動計画の一環として、4、5、6年生が、マレー川の川沿いにある学校や意思決定者たちに何千枚もの葉書を郵送した。「3000通を超える返事をもらったんですよ!」と生徒代表のクリストファー・バーンズ君がいう。返事に勇気づけられて、生徒たちは、イリンプルからアルブリーまで川の所々で、塩度と汚染レベルを調べ、結果を発表した。最後のアルブリーで、生徒たちはアルブリー市の市長や議員たちと会って、提案されている新しい下水処理場に関して自分たちは何を心配しているかという話し合いができた。 ○市民会合 西オーストラリアのブルーリボン賞を受けたモニタリング・グループでは、毎年、年の終わりに、活動を支援している地元自治体に調査結果を報告し、水域の地域が行動を取れるやり方について話し合う地域会合を行っている。 このような会合を設営するひとつのやり方は、まず最初に、地域のさまざまな人々(マスコミも)を招いて、自分たちがモニタリングをした結果を手短かに、しかし印象的に説明することだ。観測地点で得たデータを図表にまとめ、カラフルで独創的な展示やポスターを用いて、伝えたいポイントの裏づけをする。3つの鍵となる問いに焦点を絞ること: ・テスト結果は流域に沿って変わるだろうか? ・データに反映されている問題の原因として考えられるのは何だろうか? ・そのような問題を軽減したり、撲滅したりするためには、どのような行動を取ることができるだろうか? プレゼンテーションのあとに、パネルディスカッションを行うことができる。会合の前に、パネリストたちに前もって考えてもらうために、質問リストとモニタリング結果のコピーを事前に渡すこと。以下のような質問が考えられるだろう: ・私たちの水域において最も深刻な水質問題を5つ、重要な順から並べると? ・地域の水を守るために、あなたの団体は何を行っている? ・私たちの水域で、魚釣りや水泳に適さない川や湖はどれだろう? ・川や湖を回復させるために、地域ではどんな行動をとるべきだと思いますか? 最後に十分な時間を取って、参加者全員、あるいは小グループに分かれて、行動計画を策定するプロセスをひとつずつ進めていく。小グループに分かれて議論した場合は、最後に話し合った結果を持ち寄って、全体で共有すること。もちろん、みんなが計画したことを実行するために、当局の許可を得る必要があるかもしれない。不明点がある場合には、地元の議会に確認すること。 ○行動計画に沿って、グループの活動を進めていくこと 具体的な目標や時間配分があると、それを参照して進めていけるので役に立つ。 ○電話やファックスで連絡を取り続ける 物事を始めるのに、会合を開く年の終わりまで待つ必要はない。電話やファックスを使って結果を統括者に送り、まとめの表に書きこんでいけば、結果の比較や対照ができる。ビクトリアのコロロイト川に沿って位置する6つの学校も地域フォーラムで結果を発表する前に、このように進めていた。どんな行動を取ることができるのか、常に地域に情報を伝え続けるために、会合やニュースレター、新聞記事などを活用すること。 ○コンピューター・ネットワークを通したオンライン・アクション もしコンピューターにアクセスできるなら、それも有益な道具になりうる。ストリームウォッチ・プログラムに参加しているニューサウスウェールズのグループは、キーリンク・コンピューターネットワークがスポンサーであるテレコムを使って、水質調査結果をネット上に置いておいたり、意見交換をおこなっている。 ビクトリアでは、ウォーターウォッチとコミュニティ・ストリームウォッチのモニタリング・グループが、ネクサスと呼ばれる同様のコンピューター・ネットワークを使っている。これらのシステムを日常的に使っている人々は、モニタリング・グループや地方自治体、水関連の当局がそれぞれの結果を保存しており、共通 のコンピューターシステムでやりとりすることができれば、簡単にコミュニケーションができることに気づきつつある。 例えば、1993年の半ば頃、フレッシュウォーター高校の生徒が、自分たちの川で下水汚染物質の濃度が高くなっていることを見出し、地元の湖沼委員会とシドニーの水評議会に電子メールで知らせた。数日のうちに評議会は、その原因は下水道の詰まりであると突き止め、問題を処理した。 <6.進捗をチェックする> 自分たちの行動計画の対象が、地元の汚染源であっても、ゴミ管理など地域の人々のライフスタイルの変化であっても、水域全体にわたる緑化活動であっても、少し時間をとって、進捗状況を評価することは常に役に立つ。 ・自分たちの出した結果は尊重されているか? ・様々な人々と協力して活動しているか? ・自分たちのモニタリングは意思決定に有益なものであることが実証されつつあるか? ・マスコミが水問題を取り上げる回数が増え、内容も濃くなってきたか? ・自分たちが努力したことで、川の状態はよくなってきているか? アメリカでは、世界川環境教育ネットワークの参加者たちは、自分たちの行動計画を評価するために、「+」「-」「変化」という3つの欄を利用している。「+」欄には、自分たちの活動で気に入っているところを、「-」欄には、気に入っていないところを書きこみ、「変化」の欄に、次の機会にはこのように改善したい、ということを書くのである。 どこへ向かって進んでいるのかがわからないグループは、そこへ着いたとしても着いたことに気づかないだろう。 行動計画策定とその評価のために、じっくりと時間を割くことで、自分たちの水域と川が本当に変化していき、健全な姿を取り戻していく様子を自らの目で確認して、「やってよかった」と心から思うことができるだろう。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 いかがでした?(長かった〜というのは別として ^^;) 私は特に「効果性と効率性を取り違える」という下りに、大きくうなづきました。「目標」と「手段」を取り違えないように、と何度か書いたことがありますが、同じようなことですね。 特にプロジェクトを分担して進めていく場合には、各自は自分に割り当てられた作業を「正しく」行うことが大切です。でも、その分担作業を合わせた、全体としてやろうとしていることが「正しい」ことなのかどうか? こちらの視点も大切です。「ビジョンに照らし合わせて進めていくこと」ともいえるでしょう。 マネジメントシステムや上記のようなプロセスは、それぞれのステップを「正しく」進めていく手助けになるばかりではなく、果たして自分たちは「正しい方向」に進んでいるのだろうか?というチェックを忘れないためにも役立ちます。
 

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