エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース
2005年06月20日
富山のホタルイカ漁、GDPに代わる真の指標 (2001.09.06)
富山県でステキな光景を見てきたので、イキがいいうちに、その話を書きたいと思います。
富山は、何といってもキトキト(イキのいい、という方言)のお魚が美味しいところです。余談ですが、富山県の一世帯あたりの魚介類への支出額は全国平均の1.2倍だとか。水揚げも多いですし、新鮮な魚介類をたくさん食べているうらやましい地域です。そしてこの時期は、ホタルイカ。念願かなって、昨日、このホタルイカ漁の見学に連れていってもらいました。
ホタルイカ漁の観光船が港を出るのは午前3時まえ。富山市から30〜40分の滑川(なめりかわ)という漁港に2時半に集合します。春の海とはいえ、やっぱり夜中は寒い。救命胴衣が防寒にもなり、助かります。100人ほどが2隻の観光船に分かれて乗り込みます。15分ほどで、煌々と夜の海を照らし出して作業する漁船の近くまできました。
漁船では15〜16人の漁師さんがリズミカルに網をたぐりあげています。ホタルイカの定置網です。水深を聞いたら300メートルぐらい、とのことでした。このようなホタルイカの定置網がこの滑川に11ヶ所あるそうです。11ヶ所すべてを4チーム(2隻1チーム)で分担して引き上げては戻す、という作業が毎晩続きます。
夜の海にカモメがたくさん舞っています。「舞っている」というより「待っている」のですね、ホタルイカのお刺身を(^^;)。観光船には目もくれず、漁船の周りを飛んでいます。そのカモメたちが忙しくなってきました。水面に舞い降りてくちばしを突っ込んでは、舞い上がります。網があがってきたのです。
真っ暗な海の中に、青白い輝きがたくさん揺らいでいるのが見えます。海面では、小さな青い光が水からすーっと空中に飛んでは消えていきます。ホタルが飛んでいるみたい。カモメがホタルイカの躍り食いをしているんですね。
いよいよ網があがってきました。観光船の電灯が消え、漁船の灯りも消されます。それはそれは美しい光景でした!
漁師さんたちがたぐり上げる網に無数の宝石がきらめいています。もう一隻の漁師さんが大きなタモを海に突っ込み、空に突き上げ見せてくれます。青白い星がたくさんうごめいています。観光客の拍手に、漁師さんがホタルイカを何匹もこちらに投げてくれます。宙を飛ぶ青い光。いっしょに網にかかったイワシも空を飛んできます。
あちら側の漁船では、タモを海に突っ込んでどんどんホタルイカを水揚げしています。一すくいづつ海から無数のサファイアが拾い上げられます。青白い光を詰め込んだコンテナが次々といっぱいになっていきますが、船に上げられた青白いの光はすぐに消えていきます。無数の発光体を持つホタルイカは刺激を受けると光るのですね。網ですくい出される一瞬のきらめきなのです。何度も何度も、海から宝石が汲み上げられます。
と再び煌々とライトが照らされ、観光タイムは終わりました。忙しそうにコンテナの中身を分けたり集めたりする漁師さんを乗せて、漁船は次の網へと向かっていきました。
日本でもホタルイカの定置網漁をしているのはここだけだそうです。底引き網は他でもしているけど、定置網を手で丁寧に上げるから、ホタルイカに傷がつかずに上等なんです、と案内役の方が胸を張ります。 「それに産卵したあとのホタルイカを獲っているから、ホタルイカがいなくなることもありません」。
「どうして産卵後のホタルイカだけをつかまえられるのですか?」と私。「ホタルイカは夕方から夜にかけて、浜の方にやってきて産卵します。そして沖に帰っていくのです。この定置網は浜に向けて仕掛けてあります。浜から帰るホタルイカだけをつかまえられるように」。う〜ん、持続可能な漁業ってこういうことなんだなぁ。
「水揚げはどうですか?」と聞くと、「今年は特によくないです。減ってきているように思います。イルカのせいだという人もいれば、水温が上がっているからだという人もいます。でもホタルイカの生態自体がまだ解明されていないので、正確なことはわかりません」。
帰ってから調べたら、富山県全体のホタルイカの水揚げ量は、平成7年に2,225トン、8年1,407トン、9年813トンとなっています(最近のデータが見つからなかったので、ここ数年はわかりませんでした)。
昨年秋の新聞に、「日本海、死の恐れ」という記事が載っていました。日本海北部では、表層水が外気で冷やされて密度が濃くなり、深層部へ沈み込むという海水循環が深層部に豊富な酸素を供給し、この地方の豊かな漁業資源に貢献しています。
ところが、この50年間に平均気温が1.5〜3℃高くなっているため、表層水が冷えなくなったのでしょうか、深層部の酸素が減っているという観測結果です。「このままでは約350年後には深層部の酸素濃度がゼロになり、プランクトンが減少し、これをエサにする魚類も減る」という予測です。
この地域でいくら漁師さんが資源を大切に守りながら持続可能な漁業をしていても・・・。大きな地球のメカニズムが狂ってしまえば、伝統的な持続可能な漁法も結局意味がなくなってしまうのでしょうか・・・。薄く明けていく空の下、青白い"いのち"の光でいっぱいの網を思い出しながら、帰路についたのでした
青い命を汲み上げるようなほたるいか漁、「もう一度見たいな」と願っています。持続可能なホタルイカ漁と観光のために、毎晩観光船は2隻、100人ぐらいが定員のようで、それもいいなぁ、と思っています。
昔は、浜へバケツを持っていって、産卵を終えたホタルイカをすくって、おうちで食べていたそうです。「身投げと呼んでいましたが、浜に上がってしまうと、砂を噛んでしまうので、防波堤のあたりで、バケツにヒモを付けて、汲み上げてましたよ」とのこと。今はスーパーや魚屋さんで買うそうです。
山へ行って山菜をご馳走になっても思うのですが、昔は、このように「GDPに数えられない地元の営み」がたくさんあったのだろうな、と。
GDPに数えられないから、数字だけ比較すると「貧しかった」ということになるのかも知れませんが、浜にバケツでほたるいかを取りに行って、それを家族でいただく、という光景には、とても豊かな何かがあるように思えます。