2005年09月03日
気候変動と水の問題(2003.09.19)
さて、今年の3月に世界水フォーラムに同時通訳者として参加しました。この国際会議では、並行して20を超える分科会が開催され、水にまつわる多様なテーマを取り上げていました。(ので通訳者が100人以上も動員されたのでした)
余談ですが、どこの分科会の通訳として派遣されるか--アフリカの伝統文化と水についての通訳になるのか、最先端の水処理設備の話なのか、「猛禽類と水」というちょっと連想がつかないテーマなのか(私の担当のひとつがこれでした)・・・通訳者が選ぶことはできないので、運しだいとなります。
そして、世界中のいろいろな人々が参考資料をたくさん持ってきて、テーブルに置いています。私も、自分の担当以外の分科会のなかから、興味深い資料をいくつかもらってきました。その1つを、環境翻訳チーム・アップルのメンバーが訳してくれましたので、ご紹介します。
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全世界で増加する壊滅的な暴風雨と干ばつ
世界水会議(WWC)によると、気象と洪水の災害による経済的損失は、過去50年の間に10倍に増大したが、その原因のひとつが急激な気候の変化だという。
その急激な気候変化は、雨期の降水量増加、乾期の長期化、暴風雨の破壊力増大、降雨の変化、海面水位の上昇などに現れている。なかでも歴然と見てとれる変化は、壊滅的な洪水や干ばつが増えてきている点だ。
専門家によれば、1971年から1995年までの間に洪水によって被害を受けた人は、世界中で15億人以上にのぼり、1年間に1億人が被害を受けていることになる。この15億人のうち、31万8000人が命を落とし、8100万人以上の人が家を失った。とくに破壊的だった大洪水では、1回の洪水で1000人以上の犠牲者が出て、被害総額は10億ドルにのぼっている。
WWCのウィリアム・コスグローブ副会長は、次のように語っている。「毎年毎年、前年を上回る極端な気象現象が起こっている。それが原因となって、水の循環に関わる現象が生じ、それに伴う災害は、数千人の命を奪い、国の経済を混乱に陥れている。
重大な問題は、大半の国が、現在起こっているような大規模な自然災害に適切に対処できる態勢を整えていないということだ。このままでは、将来、暴風雨や干ばつがさらに広範囲を襲うようになると、状況ははるかに深刻化するだろう。これ以上、この問題を無視することはできない」
気候の専門家によると、21世紀に起こると予想される気候変化によって、ある地域では雨が以前より短期間に強く降るようになる一方で、別の地域では干ばつが長期化するというように、水循環がさらに激しくなる。
それによって、種が絶滅の危機に瀕し、農作物に被害が出て、世界全体の食糧生産量が減少する可能性があるという。気候が変化していることと、気候変動が大きくなっていることとの因果関係を示す証拠は急増している。例えば、ある科学的研究は、アメリカ合衆国とアフガニスタンで最近起きた干ばつは地球温暖化の影響によるものであることを指摘した。
第3回世界水フォーラムの尾田栄章事務局長は、「破壊的な洪水の状況はますます悪化しているようだ。2002年には世界各地、なかでもアジアとヨーロッパが数多くの洪水に見舞われた。昨年起きた洪水による犠牲者数は4200人を超え、被災者数は1億6000万人を上回った」と語っている。
2025年までに世界人口の半数の住む地域が、暴風雨などの異常気象のリスクにさらされると、国連は予測している。
「実際、貧しい人々は気候変動や気候変化の水資源への影響を最も受けやすいだけでなく、そうした影響に対応する能力を最小限しか持ち合わせない」と、第3回世界水フォーラム運営委員会会長の橋本龍太郎元首相は語る。「このような国々に対して、差し迫った水管理問題に直接取り組むと同時に、長期的気候変化の影響に備えることができるよう、両面作戦を支援しなければならない」
経済が多角化しておらず、インフラ設備も整っていない発展途上国の多くは、災害が起こると、対策の大部分を他国からの救援に頼ることになるが、その結果、経済の回復が遅れてしまう。
先進国では、政府、地域社会および個人の災害に対応する能力がはるかに高いため、経済的損失は多様な経済にある程度吸収され、資産の多くには保険がかけられている。
一例を示すと、1997年から98年にかけてのエルニーニョ現象によって、アメリカは20億ドル近い経済損失を出したが、これは国内総生産(GDP)の0.03%に相当した。一方、エクアドルの経済損失は、金額ははるかに小さかったが、同国のGDP比では11.4%にのぼった。
気候と水の問題は、第3回世界水フォーラムの主要な主題となるだろう。3月16日〜23日に京都で開催される同フォーラムでは、1万人もの政府閣僚、国際機関やNGOの代表、企業、および水問題の専門家が集まって、世界の水危機とその解決策について話し合う。同フォーラムは、国際的な水会議としてはこれまでで最も重要なものとなり、国連の「2003年世界淡水年」および3月22日の「国連水の日」のハイライトとなるだろう。
「京都でのフォーラムにむけて準備されている主要な文書が『世界水行動報告書』である。これは2000年の第2回フォーラムで世界的な水の安全保障を求めて採択されたビジョンを実現するための、次のステップを示すものである」とエジプトの水資源灌漑大臣で世界水会議(WWC)の会長を務めるムハマド・アブザイド博士は語る。
「この報告書は、水資源管理の改善をめざして世界各地で行われているさまざまな活動をわかりやすく示すものである。このような活動を積み重ねていけば、『世界水ビジョン』の実現が可能となるだろう」
気候の変動が原因で起きている自然災害には次のようなものがある。
洪水:1950年から1998年のデータを見ると、世界での大洪水の発生件数が10年ごとに増加の一途をたどっている。50年代に6回、60年代に7回、70年代に8回、80年代に18回、90年代に26回起きている。90年代に起きた深刻な洪水災害の発生件数は、それ以前の30年間の合計を上回った。
地球の降水量は1900年以降、全体で約2%増加したとされている。しかしどの地域も一様に増加したわけではない。降雨パターンの変化によって地域間に格差が生じ、降水量が増えている地域もあれば、北アフリカのサハラ砂漠南部のように、干ばつになっている地域もある。
1991年4月、最大規模のサイクロンがバングラデシュを直撃し、洪水によって14万人の命が奪われた。中国は1996年、1998年と2回の洪水に見舞われ、90年代で最悪の物的損害を被った。金額にして1996年は約300億ドル、1998年は約265億ドルにのぼった。
洪水は、発展途上国の人々が苦労して手に入れた経済発展をも台無しにしてしまう。その例として、100万人近くが家屋を失った2000年のモザンビークの洪水や、中央アメリカを襲ったハリケーン「ミッチ」があげられる。
2000年のモザンビークの洪水と2002年の中央ヨーロッパの洪水による経済的影響を比べると、大災害によって国民経済が受ける影響は国によって大きな差があることがよくわかる。被害額はその国の所得水準を反映する。世界銀行の報告によると、モザンビークでは2000年の洪水で、GDPが45%減となったのに対し、ドイツでは2002年の洪水でGDPが低下した割合は1%にも満たないと予想されている。
第2回世界水フォーラムで議長を務めたオランダの皇太子、オラニエ公は次のように発言している。「モザンビークは当時経済回復の途中にあり、アフリカ諸国の中でも、制度改革に真っ先に乗り出し、膨大な対外債務を帳消しにさせた国の一つである。この洪水でモザンビークはインフラを再建せざるを得なかった。道路、橋、電力供給、病院、学校、すべて社会開発、経済成長に欠かせないものだ。整備や再建が始まるにつれ、住民たちは問い始めた。この惨事を二度と起こさないために、また被害を最小限に抑えるためには何ができるだろう?」
1998年に中央アメリカを襲ったハリケーン「ミッチ」は、恐ろしい破壊力を見せつけた。これは、1780年にカリブ海東部のおよそ2万2000人が犠牲となった「グレートハリケーン」の上陸以来、この200年間で西半球最大の嵐であった。
ハリケーン「ミッチ」は、1万1000人の死者と何千人もの行方不明者を出し、300万人以上が家を失うなどの深刻な被害を与えた。極度の貧困地域を襲ったこのハリケーンの被害総額は、50億ドルを上回ると見積もられている。ホンジュラスのカルロス・フローレス・ファクセ大統領は、ハリケーンがそれまでの50年の進歩を台無しにしたと述べた。
最悪の被害を出した洪水の地理的分布を見ると、その大部分はアジア諸国である。しかしながら、洪水の危険にさらされていない国は、世界の中でもほんのわずかである。
2002年、中央ヨーロッパで発生した記録的な大洪水を見てもわかるだろう。イエメン、エジプト、チュニジアなどの乾燥地域に位置する国でさえも、洪水の心配がないとはいえない。意外なことに、乾燥地域では水不足というよりもむしろ洪水で死ぬ人の方が多い。乾燥状態は日常であり、人間はそれに適応して生きてきたが、一方で水害への対処は準備できていないのだ。
先進国も発展途上国も一様に水害に見舞われるが、その結果にはかなりの違いがある。先進国では、洪水による物的損害は増大しつつあるが、死亡者数は減少している。洪水に備えるシステムの発達により、人の命が救われるからだ。
先進国では、物的損害に対する死亡者数の割合は、4億ドルの物的損害に対して死者1人となるのに対し、発展途上国ではわずか2万1000ドルに対して1人である。発展途上国では、洪水による死者が先進国に比べて圧倒的に多い反面、国民の資産価値はずっと低いからである。発展途上国の国民が失った財産は、その多くが生涯かけて懸命に働いて手に入れ、蓄えてきたものであり、保険で補償されることもまずない。
何千年も前から、人類は氾濫原に定住している。そして肥沃な土壌を耕し、平地に集落をつくり、水を利用できるようにし、さらに川を輸送手段としてきた。洪水は自然現象である。これまで幾度となく発生した洪水に、人類はできる限りそこから恩恵を受けようと努力してきた。しかしながら、ここ数十年で、人類は洪水の危険にさらされることが多くなった。
さらに、洪水がもたらす影響は、人体にとってますます有害で破壊的なものとなってきた。洪水が発生した地域では、下痢(毎年5歳以下の子どもが220万人死亡している)やレプトスピラ症(全身感染症で、髄膜炎や出血性の黄疸を引き起こすこともある)のような病気がより急速に蔓延してしまう。
世界水会議によると、干ばつは、現在深刻化し、範囲が拡大しつつある。1992年から2001年の間に報告された自然災害による死亡者数を見ると、その45%が干ばつと飢餓によるものである。最も被害を受けやすいのは、農村や都市のはずれに住む貧困層である。
「水と気候変動に関する対話国際運営委員会」議長も務めるコスグローブ氏によると、「自然界の気候変動は、水資源とその管理に直接的かつ根本的な影響を及ぼす。気候変動における小さな変化でも、水循環の過程で著しく増幅される可能性があるので、水資源管理者にとっては、重大な意味を持っている。例えば、1970年代から80年代にかけて西アフリカで起きた干ばつのデータを見ると、降水量が25%減ることで、湖や河川に注ぎ込む水量は半減することがわかる」
アフリカの多くの国々は、空前の干ばつに悩まされてきたが、それは気候変化が広範囲に広がっている兆候かもしれない。
ガーナのアコソンボ貯水池の例は、気候変動がもたらす結果を非常にわかりやすく示している。アコソンボ貯水池は1966年に建設された巨大な湖で、かつてはガーナの電力需要の95%を供給していた上、近隣諸国にも輸出していた。
しかし、湖に注ぎ込む水量が減った結果、貯水量は今では総貯水容量の半分にも満たない状況となっている。このような現象を引き起こす要因は幾つか挙げられるが、最も考えられる原因は気候変動であり、もしかしたら、長い間の気候変化もその原因かもしれない。
「貯水量は減る一方だ。そのため、国家経済は深刻な影響を受けてきた」とガーナ水資源委員会の事務総長、ダニエル・アドム博士は語る。「もはや、わが国の水力発電は、工業用、農業用、家庭用などのすべての電力需要を十分に賄うことができない。そのため、エネルギー価格が全体的に高騰して、時には配給制という事態も起きている。さらに政府は、他のエネルギー資源を開発せざるを得なかったのだが、例えば火力発電などは、はるかに費用のかかる方法だ」
アドム博士は続ける。「このような状況は地域経済にも深刻な打撃を与え、工業と農業における物価の上昇を国民に押し付けるものとなる」
これらすべての根源には、現在進行している気候変動の問題があるのだ。ガーナに流れ込む水量の半分以上は、ガーナ以外のブルキナファソ、マリなど、サハラ砂漠周辺地域に接する5カ国から流れる支流によるものだが、これらの国では降水量が激減していた。
今年に入ってからは、西アフリカの西サヘル地域(注)で降水量が減っている。モーリタニアは最も被害が大きく、各地で連続3年目の雨不足に悩まされている。そのため、既に国民の30%に近い約75万人が、食糧不足に苦しんでいるという状況だ。
(注)サヘル地域:サハラ砂漠南縁にある地域。セネガルからチャドまでの6ヶ国を横切る乾燥地帯。モーリタニアもそのなかの一国。
先進国も干ばつから逃れられない。オーストラリアでは、100年に一度という大干ばつが起こり、2003年初めには国の70%以上が深刻で厳しい状況に陥った。中でも最も深刻なニューサウスウェールズ州では、降水量が史上最少を記録し、被害の範囲は州の97%にも及んだ。干ばつは2002年3月に始まって以来、農畜産物に壊滅的な打撃を与え、オーストラリア東部で大規模な山火事を引き起こした。また、干ばつにより農産物の輸出が落ち込み、オーストラリアの貿易赤字はこの2年あまりで最大の水準に拡大した。
干ばつの直接的な影響は、作物の収穫量が減少することであり、これは替わりの食糧が調達できなければ、そのまま人々が飢えることにつながる。また、間接的には、水不足によって衛生管理ができなくなり、病気が蔓延する原因となる。もし干ばつが続けば、移住せざるをえなくなる人も多い。
また、気候変化が予想されていることから、各地の農業システムに変化が起こり、食糧生産にも影響が出ると考えられる。もし気候変化の影響を計算することができるとしたら、その結果は、2080年までに飢餓の危険にさらされる人数の激増という形で答えが出るだろう。
最良の状況下でも、発展途上国は今後15年間に穀物輸入量を最低で1億7000万トン、最高で4億3000万トン程度にまで増やさなければならないと考えられている。さらに気候が変化すれば、輸入への依存度は増し、発展途上地域全体における穀物の純輸入は10〜40%増となるだろう。
また、沿岸部の低地や小島では、海水面の上昇が懸念されている。沿岸部の浸水に加え、淡水の帯水層に海水が入り込むことで、水の供給が脅かされてしまう。1990年から2100年までに地球全体の海水面は平均0.48メートル上昇すると予測されており、これは20世紀の上昇速度の2〜4倍である。このことが人間に及ぼす影響としては、高潮のような極端な事象などが考えられる。
最も危機に瀕しているのは次のような地域である。
・ 太平洋上の小さな島々、特に環礁
・ バングラデシュやオランダなど、低地の沿岸国
・ 東京、ラゴス、ブエノスアイレス、ニューヨークなど沿岸の巨大都市
<サクセス・ストーリー>
自然災害の防止に1ドル使うごとに、4〜10ドルの救援費用を節約できるという推定が出されている。
コスグローブ氏は「もし水の管理者が事前に暴風雨に備えれば、それは大きく報われる可能性がある。予防措置を取り入れた設計や、災害への備え、被害軽減策、ライフスタイルの適応を行えば、人命の安全確保にも経済資産の保護にも多大な効果をもたらしうるという証拠が出てきている」という。たとえば、次のような例がある。
1.1991年にバングラデシュで発生したサイクロンとそれに伴う高潮により14万人の命が奪われたが、1990年代を通じて、バングラデシュ政府が災害に対する備えに努めた結果、2001年と2002年に発生した同規模のサイクロンによる犠牲者の数は200人未満へと激減した。
2.干ばつに襲われたインドの4つの州では、雨水利用施設の建造・修復を行い、およそ2万ヵ所の村で作物栽培や家庭内での水供給確保に役立てることができた。
3.グアテマラでは、特別に訓練を受けたボランティアスタッフと電子監視装置の組み合わせによる地域密着型の早期警報システムにより、コヨラテ川流域の洪水による犠牲者の数および被害が減少した。
4.ハリケーン「ミシェル」が2001年の11月にキューバを直撃した際、有効な災害対策が準備されていたおかげで、70万人が安全に非難することができた。それまでこれらの地域では、前もって住民への警告がされたことはなかった。
「水管理者にとっての問題のひとつは、気候の専門家たちとの交流がこれまでほとんどなかったこと」とコスグローブ氏は指摘する。「水管理者たちは過去の記録をもとに設計をし、水文局ごとに管理を行ってきた。そのため、中期及び長期の天気予報を調べる必要性は認識されていなかった。実際には、早い時期に警告が必要な異常事態に関する気象学者たちの予報の精度はあがってきているのだが」
オランダの例:経験の共有は、学習の重要な手段になることを水の専門家たちは学んできた。オランダは数世紀にわたって、水に対して最大限の防御を行うという政策を取り続けてきた。水に関する安全は、オランダ政府やその実務機関である地域の水委員会にとっての最優先事項である。
気候と降水量の変動および海面上昇の脅威が増してきたため、オランダ政府は最近新しい政策を採用した。これは、水に対してより広い空間を与え、住居などのインフラの観点からも「水と共に生きる」ことを促進するものである。そして、政府、非政府組織、民間団体と一般市民の間で責任を分担することの重要性が広く受け入れられるようになってきている。
バングラデシュの例:国際自然保護連合(IUCN)のバングラデシュ代表を務めるアイヌン・ニシャット博士は、第3回世界水フォーラムに向けてバングラデシュの気候と水に関する報告書を作成するグループのリーダーでもある。
「バングラデシュでは気候変動によるいちばんの脅威は、農業に対する脅威であることがわかった」とニシャット博士は言う。「我々は通常ではありえない気候の現象を数多く観測している。バングラデシュのある地域では、モンスーンのピーク時にまったく雨が降らず、別の地域では雨期がとうに過ぎているのにもかかわらず雨が降り続き、過剰な降水量を記録している。これらは天候が安定している地域ではまず見られない現象だ」
ニシャット博士は、バングラデシュの沿岸地域も、天候異常という事態に直面しているという。例年に比べ多くのサイクロンおよび高潮が発生しているため、港内にとどまらざるを得ない漁師たちの生計が脅かされているそうだ。
「気候の変化を予測することはできるが、気候変動に備えることはできない」とニシャット博士は言う。「海水面も今後50年間で上昇すると予測されている。バングラデシュ全土の12%、つまり2000万人が暮らす沿岸部の低地が水没する危機にさらされているということだ」
「海岸に干拓技術を適用すれば、海面上昇からある程度守ることができる。しかし、きちんとした構造のものを造らなければ、内側の保護地域の排水管が詰まってしまうだろう」とニシャット博士は続ける。「それに、内陸部からの塩分の侵入も問題だ」
世界水会議や第3回世界水フォーラムなどの国際組織は、水管理者と気候の専門家たちとの間の情報格差を埋めるため、共同で「水と気候に関する対話(DWC)」という組織を設立した。DWCの具体的な目的は、水と気候問題に関する政治的なプロセスを始めること、知識や経験・情報を集め、伝えること、将来必要な対策を明確にすること、そして人々の意識を高めること、である。
「気候変動は、多くの社会経済問題や環境問題と並んで、世界各地にすでに甚大な影響を及ぼしつつある。しかもその変動は大きくなる一方である」とDWCの技術理事、ペイベル・カバット教授は語る。「昨今の気候変動も長期的な気候の変化も、発展途上国に非常に深刻な影響を及ぼす。なかでも貧困層への影響が大きい」
すでにDWCは、各地で18回、様々な利害関係者間の対話を、国家・地域・流域レベルで行ってきた。各対話では、水管理者が抱える重要な問題、例えば気候の変化によりもたらされる事態にどのように取り組むか、水問題を解決するためにはどのような知識や活動が必要か、といった問題について意見交換がおこなわれる。
第3回世界水フォーラムでのプレゼンテーションに向け、DWCの総合活動報告と政策立案者たちが報告を準備しているところである。水と気候に関するセッションでは問題点を浮き彫りにし、その影響に対処するためにはどのような行動が必要かを話し合うことになる。第3回世界水フォーラムでは、水と気候に関するその他の重要な問題として、予測、貯水の重要性、危険度の評価と緩和、健康への影響、危険地域と脆弱性、コミュニケーションと人々への啓発などについても取り上げる。
水管理者にとって難しいのは、水循環の変化に取り組む際、その施策を各方面の開発方針、戦略、活動に取り入れることである。その施策はしっかりとした科学的知見に基づいていなければならないし、また政府、非政府組織及び民間団体などの利害関係者の参加を得て練り上げられなければならない。
適応性という点では、重要な進展が見られる。以前は災害が起こってから反応していた赤十字などの災害救援機関が次第に変化を見せ始め、事前に行動を起こしたり、また予防措置を講じたりするようになってきた。このような機関は、極端な事象によりよく対処するための手段を利用して、災害に弱いコミュニティを強化し、備えようとしている。たとえば、極端な事象に対する予測システムの導入などの例がある。
「極端な事象が頻発していることを受け、科学界、水管理者、及び災害準備組織間の協力体制の構築を引き続き検討しよう、というもっともな議論が進んでいる。そこでは、能力開発総合政策やその方法論の開発、普及などについて話し合われている」とコスグローブ氏は語る。「2000年以降、災害の抑制は貧困の削減につながる主要な課題であると考えられているのだ」。
<翻訳:環境翻訳チーム・アップル 中小路、小林、角田、伊藤、庄司、五頭、安藤、横内 チェッカー:田村 >
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
この資料を読んだときに、「ああ、そうなのか」と思いました。似ている語が2つ、出てくるのです。climate change と climate variability です。climate change は、日本語では「気候変動」と訳していますが、一般的には、温暖化(地球の温度が上昇すること)をさします。
それに対して、climate variability はあまり聞きませんが(日本語での定訳もありません)、気候の変動の幅のことをさすのだと思います。これまではほぼ安定した気候だったのが、全体的に温度があがる傾向(climate change)だけではなく、気候の変動が大きくなってきている(climate variability)ということ
です。
訳語のことをいうと、climate change は「気候変化」で、climate variability が「気候変動」「気候の変動性」だとぴったりきます。(が、climate changeを「気候変動」とする定訳ができてしまっているので、翻訳でも苦労しました......)
この資料にあるように、もちろん、気候変動も水問題に大きな影響を与えますが、気候の変動の幅が大きくなる(不安定になる)ことも、大きな問題であることがわかります。
水について、いくつか。
[No.627] の墨田区の雨水資料館見学記にも書きましたが、アフリカのボツワナ共和国の通貨は「ブラ」というものですが、この意味は「雨水」「平和」だそうです。雨の降らない国なので、水がとても大切なのですね。
ボツワナの国旗をご存じでしょうか? 国旗の青は雨水を、黒と白の線は、黒人と白人が平和に暮らせるように、という願いが込められているそうです。(国旗は、たとえばこちらで見られます) http://www.h3.dion.ne.jp/~pekochan/kokkikokka/kokkiafrica/kokkibotswana.htm
[No.829] で、このようにご紹介しました。
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日本発の素敵な取り組みとして、ジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)から発信すべく、現在、英訳作業を進めているところです。このような記事です。
小学校、雨水タンクで環境教育
大和市教育委員会は、環境教育の一環として市立小学校全19校に2003年2月に雨水タンクを1基ずつ設置した。雨水タンクは高さ88センチ、直径75センチほどで容量は250リットル。かつてウイスキー樽として使われたものをタンク本体として再利用している。(後略)
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この記事、ウェブにアップされています。写真もついていますので、よかったら見て下さいね。このようにときどき写真つきの記事もあります。 http://www.japanfs.org/db/database.cgi?cmd=dp&num=247&UserNum=&Pass=&AdminPass=&dp=data_j.html
たとえば、この記事も(写真がないとなかなかイメージが伝わりませんものね)
ごみ選別の戦隊ヒーロー「ワケルンジャー」出動! http://www.japanfs.org/db/database.cgi?md=dp&num=322&UserNum=&Pass=&AdminPass=&dp=data_j.html
次に出る「通販生活」(カタログハウス)の「回収ルートを辿る旅」は、「水」を取り上げました。そこにも書きましたが、私たちのからだの60%は水です。新生児だと80%だとか。
生命にとっても、暮らしや経済にとっても、水の重要性はいうまでもないのですが、「水の循環」は目に見えないこともあって、なかなかきちんと理解し、対応することができません。
ただひとつ、確かなのは、地球ができたときから、同じ水がぐるぐると循環しているということです。雨は空から降ってくるでしょう? だから、毎回新しい水が地球にやってくるような気がしますが、実は、地球の外から降っているわけではありません。いまアナタが飲もうとしている水は、何千万年もまえに、恐竜の背中に降った雨かもしれません! 同じ水が1年間に40回もぐるぐると回っている計算になるそうです。
そのぐるぐるを「水循環」といいますが、気候変動は気温の上昇などの問題だけではなく、この水循環(どこで、どのように、どのくらいの強さで、など)にも影響を与えるのですね。気候変動が続くと水の状況はどうなってしまうのか? ようやく理解のための取り組みが始まった、という段階です。