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スカンジナビア政府観光局業務視察部の季刊ニュースレター「サステイナブル・スカンジ...
エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース
2005年10月07日
スカンジナビア政府観光局業務視察部の季刊ニュースレター「サステイナブル・スカンジナビア」より(2005.10.04)
スカンジナビア政府観光局業務視察部が発行している「サステイナブル・スカンジナビア」という季刊ニュースレターを送っていただいています。毎号、とても興味深い記事や情報が載っていて、楽しく読ませていただいています。
少しまえになりますが、2004年11月10日発行の Vol.11 がとても面白く、「たくさんの方に読んでほしいなあ!」と思ったので、転載のお願いをしたところ、ご快諾いただきました。
●「持続可能な開発」という概念を打ち出した「ブルントラント委員会」のブルントラント元ノルウェー首相の原稿
●グリーベルトと呼ばれているデンマークの自然エネルギー地帯のようす
●そしておなじみナチュラル・ステップの高見孝子さんが鋭くCSRに切り込み、紹介して下さっているアストラゼネカ社の事例
の3本をお届けします。
3本続けてどうぞ! (長すぎると思われる方は、3回に分けてどうぞ!^^;)
季刊ニュースレターの購読は「スカンジナビア政府観光局業務視察部ホームページ」の「刊行物のご案内」からお申込いただけます。お薦め!です〜。
http://www.visitscandinavia.or.jp/jp/tech_visits/index.aspx
(メールでの読みやすさのため、改行をいれさせていただいています)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
●地球規模での持続可能な発展のために
〜貧困・健康・環境の相互関係を見据えて〜
グロ・ハーレム・ブルントラン(元ノルウェー環境大臣・元首相)
>リード
ノルウェーといえば平和外交で有名ですが、グロ・ハーレム・ブルントランも国際社会に大きな貢献をした一人です。ブルントラントは、ノルウェーの環境大臣を経て初の女性首相となります。
彼女が率いる国連「環境と開発に関する世界委員会」(通称「ブルントラント委員会」は、1987年に『我ら共有の未来』を発表し、「持続可能な発展」という概念を打ち出しました。
その後、世界保健機構の事務局長としてエイズやSARSの対策の指揮もとっています。これらの業績を称え、2004年、環境のノーベル賞といわれる旭硝子財団の『ブループラネット賞*』が授与されました。
将来のビジョンを描き、今とるべき行動を考えるというバックキャスティングの方法は、スカンジナビアの政策形成の特徴でもあります。ブルントラントの力強いリーダーシップの秘訣も、このバックキャスティングを常に行う姿勢にあるようです。(スカンジナビア政府観光局 業務視察部)
>本文
1977年のある日の真夜中ことでした。ノルウェーで環境大臣を務めていた私は、突然、呼び出されました。そして、北海のエコフィスク(Ekofisk)油田で原油が噴出するという事故が起こったことを告げられました。
幸いにして、環境へのダメージも恐れたほどひどくはありませんでしたが、このエコフィスク油田の事故は、我が国の人々と政治家にとって今後の行方を左右する一つの転機となりました。つまり、この時初めて、環境というものが国家の経済発展の根幹にかかわる問題だということが認識されたのです。油田事故は、鳥類や沿岸の自然環境にとって深刻な脅威となるだけでなく、全体的な国家の発展にも深刻な脅威をもたらしたのです。
この事故がノルウェーに与えた経済的な打撃が国民に知られるようになり、そしてその意味が理解されるようになると大きな変化が社会に起こり始めました。やがて、1980年代になると、環境の変化が経済に及ぼす影響が大きいということが世界的にも認識されるようになりました。
そして、これが切っ掛けとなって世界のリーダーや意思決定を行う人々が環境問題に関心をもつようになったのです。市民団体やメディアの活動によってその意識がより高まり、有権者・政治家・政府の間で環境問題の経済的・政治的・社会的な重要性が論じられるようになりました。
1980年代以降、環境問題への取り組みは大きな進歩を遂げてきました。新しい国際条約が策定されたりして多くの国々で環境汚染の改善が見られ、健全な環境政策の重要性に関する関心が高まりました。
とはいえ、望ましくない方向に進展したこともありました。一例を挙げると、二酸化炭素排出量が増加しているなかで、現在の国際的な取り組みでは気候変動と海面上昇を食い止めるには充分なものとはなっていません。
保健・健康問題による経済的な損失
環境問題への関心が高まってきたのと同じように、私が世界保健機関の事務局長に1998年に就任してから3年間、保健衛生の問題を解決することが各国の発展において重要だという認識が高まるのを見てきました。悲しいことに、この経済発展と保健衛生のつながりに世界の注意を喚起したのは「エイズ」という伝染病でした。
今日、エイズによる死者は2,200万人に上り、それによって1,300万人を超える子どもが孤児となっています。恐ろしいことに、このことが世界に警鐘を鳴らす役割を果たしました。現在でも、3,600万人もの人々がエイズとともに生きています。この3600万人の誰もが、我々の深い思いやりやコミットメント、そして解決に向けた行動に値する一人の人間なのです。
エイズ、マラリア、結核という多くの幼児期の病気は、その症状そのものに苦しむだけでなく貧困にも直接関係していきます。まず、個人レベルで見てみましょう。現在、世界中の30億の人々が一日2ドル以下の収入で命をつないでいます。これらの人々が病気にかかるということは、経済的に破滅するということを意味します。新しい調査で明らかになったことですが、国レベルで考えると発展途上国は病気によってGDPから何十億ドルを損失していることになります。
保健衛生と発展の関係についての理解を深めるために、私は2000年に「マクロ経済と保健衛生に関する委員会」を設けました。この委員会は毎年末に報告書を出す予定となっていますが、世界の貧しい地域が経済的に繁栄するために保健衛生が多大な役割を果たしていることを示す強力な証拠がすでに集められています。
とくに、エイズの負担はとても重いものです。ある国のエイズ有病率が10〜15%であった場合、エイズによって一人当たりのGDPが年間で最大1%も下がることになります。この有病率はもはや珍しいことではなく、ある地域では低いとすら言える割合となっています。さらに、エイズに伴って発病する結核は、貧しい地域に120億ドルに相当する経済的負担を強いています。
また、アフリカの場合、30年も前にマラリアの効果的な対策が開発されたときに本格的な取り組みを行っていたならば、おそらくGDPが1,000億ドル以上も上回っていたと試算されます。今日、年間に5億人のマラリア患者が出ていますが、生産に使われるための労働日数に換算すると何十億日という損失をしていることになります。
>見出し
「持続可能な発展の政策のためには、環境問題と保健衛生問題は、統合して取り組まなければならない問題である」
我々が今から数年のうちに思い切った行動を起こさなければ、伝染病の蔓延、環境の劣化、自然災害などが起きたとき、双方のマイナス要素が重なり合って地球上の何十億人という人々の命を脅かすことになるでしょう。
将来に目を向けたとき、私たちには根本的に異なる二つのシナリオが提示されています。そのどちらが現実となるかは、地球規模での政治的コミットメントと行動をどのくらい行うかにかかっています。
まず最初のシナリオは、保健衛生と環境の問題があいまって悪化する悪夢のようなシナリオです。エイズ、結核、マラリアが広がり、現在治療に使われている抗生物質も効かなくなります。そして、気候変動によってマラリアなどの病気が熱帯地方から広がり、極端な自然災害などが増えれば多くの死者や病人が出ることになります。また、食糧供給も不安定になります。
非常に残念ですが、今日、私たちはこのシナリオに向かって進んでいます。直ちに、抑止するための行動を起こさなければ、この悪夢は現実のものとなってしまうのです。
地球規模の投資
二番目のシナリオは、現実的かつ建設的な選択肢です。世界が一致団結して保健衛生に投資を行うことで、マラリア、結核、エイズを含む主要な感染症による死亡率がかなり低下します。地球温暖化や深刻な環境汚染のような問題に対しては、国境を越えて強力なタッグを組んで取り組みます。そして、タバコやその他の危険物質や製品の使用および販売というような地球規模のマイナス要素は、国際的な議論によって策定されたルールによって対策を講じていきます。
私は、我々がこの第二のシナリオを選択し、それを実際に行うであろうという明るい希望をもっています。というのも、世界のリーダー達が貧困、保健、環境における因果関係を認識するようになったからです。そしてそのことが、最高レベルでの国際的な意思決定の場において建設的な行動をもたらしつつあります。
発展途上国と工業国のリーダーたちが、世界の最も貧しい人々のために行う保健衛生に対する投資を促す呼びかけにともに参加しました。また国連は、エイズ、マラリア、結核を撲滅するための基金の設立もすでに行っています。その目標は、少なくとも10年間にわたって年間70〜100億ドルの新たな資金を集めることです。
新しい「世界エイズ保健基金」は、過度な官僚体制をとらずに、効率的なプロジェクトに資金が迅速に行き渡るようにします。この方法は革新的なもので、現在我々が行っている開発援助の方法を大きく変えることになるでしょう。
近年、環境保護へのグローバルな努力に対して逆風が吹いていますが、私は希望を捨てていません。多くの人々が、地球規模の環境劣化がもたらす影響を理解し始めているのは事実です。そして私は、この事実がゆえに我々のリーダーは、あとに続く世代が豊かで幸せな生活を送れるように難しい決断を下してくれることを信じています。
出典:Halem Brundtland, Gro, 'Answering Poor Health', in "Our Planet Magazine- Poverty, Health and the Environment", 2001年、翻訳・編集:スカンジナビア政府観光局 業務視察部
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●持続可能な社会を支える自然エネルギー
〜デンマークのユトランド半島中部、グリーンベルトを行く〜
スカンジナビア政府観光局 業務視察部 マネージャー 岡部 翠
「国の大なるはけっして誇るに足りません。富は有利化されたるエネルギー(力)であります。しかしてエネルギーは太陽の光線にもあります。海の波濤にもあります。吹く風にもあります。噴火する火山にもあります。もしこれを利用するを得ますればこれらはみなことごとく富源であります。かならずしも英国のごとく世界の陸面六分の一の持ち主となる必要はありません。デンマークで足ります。然り、それよりも小なる国で足ります。外に拡がらんとするよりは内を開発すべきであります。」
ヒースの荒野から環境ノウハウの集積地へ
ご存知の方も多いかとは思いますが、冒頭の文書は、1911年に内村鑑三が著した『デンマルク国の物語』(岩波文庫)の一説です。1860年代半ば、ドイツとの戦いに敗れ、国土の多くを失ったデンマークに残されたのは、ユトランド半島に広がる不毛の原野でした。
しかし、この荒地を植林事業によって開拓し、国の発展の基礎を築いたと言われる人物がいました。エンリコ・ミリウス・ダルガス(Enrico Mylius Dalgas)です。彼は、人々の理解を得ながら、試行錯誤のなかで植林を進め、農地を広げてゆきました。この偉業について語りながら内村鑑三は、資源が乏しいにも関わらず内なる発展を遂げた国として、デンマークを日本と重ねあわせて紹介しています。
今日、このユトランド半島を行くと、かつてここが荒地であったということが信じられないでしょう。広大な農地が続く地平線には、ゆっくりと風を受けて回る風車が立ち並び、その下では、のんびりと牛や羊が草をはんでいます。この景色は、デンマークの国土の豊かさを象徴しているようでもあります。
それもそのはずで、現在デンマークの穀物自給率は約115%を示し、農産物の輸出国となりました。そればかりでなく、バイオマスや風力を始めとする自然エネルギーの先進国にもなりました。現在、全エネルギーのうち、自然エネルギーの占める割合は約13%となっています。
ダルガスらが1866年に原野開拓の事業を興したのは、ユトランド半島でしたが、その中部一帯は、現在では「グリーンベルト」と呼ばれています。グリーンベルトといっても、単に、ここが肥沃な農業地帯という意味ではありません。この地域は、産業・行政・市民が一体となって循環型社会のモデルを提示する先進地域なのです。
グリーンベルトでは、自然エネルギーの実用化が進められているほか、自治体も環境先進都市を目指して、次々に最先端の制度や技術を取り入れています。近年では、農業や製造業においてライフサイクルアセスメント(LCA)を考慮した生産プロセスを導入したり、企業間の連携によるゼロエミッションの取り組みがなされています。さらにグリーンベルトは、これらの環境ノウハウを集約して国内外に発信していこうという共通のビジョンをもっているのです。
地域の連携によるバイオガス利用
グリーンベルトの中心的都市であるヘアニン(Herning)市には、国内最大級の「ストゥッズゴー(Studsgard)バイオガスプラント」があります。このプラントでは、家畜糞尿を中心として年間12万トンのバイオマスを処理し、バイオガスを生産しています。ガスは、市内の電力と地域暖房用の熱を供給するために使用されており、約4,700世帯分の電力と約1,150世帯分の熱源を供給しています。
この大型プラントが成功した背景として、資源循環のシステムを作るために地域の様々な主体と協力体制を築いたということが挙げられます。まず、周辺の農場と連携して家畜糞尿の流通システムを作り上げました。年間約10万トンの糞尿を処理し、ガス化された後にできる肥料は農場に戻します。プラントは、これらの輸送コストを負担するほか、糞尿の貯蔵タンクを貸し出すサービスも行っていますし、近隣する農場には輸送パイプラインも敷設されました。
また、地域の食品産業と連携して、ガスを効率よく発生させるために有機性の産業廃棄物も一緒に処理しています。プラントは、屠殺場、酪農、製油所、パン工場、漁業などの食品工業から約15,000トンの有機廃棄物を受け取っています。有機廃棄物の埋立地への廃棄が禁止されているデンマークでは、これはかなり安価な処理方法となります。
これだけではありません。ヘアニン市は廃棄物の分別システムを徹底し、過程からの生ゴミもプラントで処理することにも成功しました。生ゴミとしては、年間約5,000トンを処理しています。これらにより、大規模なプラントでの効率的なバイオガス生産が可能となったのです。
バイオマスの適切な処理と有効利用のために規制や税制が整えられてきたデンマークですが、グリーンベルトでは、独自にバイオガス・システムを成立させるための地域ネットワークを構築してきたのです。
風力発電の実用化と水素燃料電池の開発
風力タービンのリーディングカンパニー「ヴェスタス社(Vestas Wind SystemA/S)」も、このグリーンベルトにあります。ちなみに、2003年3月に建てられた東京湾臨海部の風車もヴェスタス社のものです。そしてもちろん、グリーンベルトには、風力タービンが立ち並ぶウィンドファームが至る所に見られます。例えば、フィアルデーネ(Fjaldene)風力発電所は1990年代半ばに建設され、合計18基の風力タービンで約4,500世帯分の電力を賄っています。
デンマークでは、ウィンドファームの約80%が民間所有という特徴があります。なかでも、住民が共同で出資して建設し、共同で所有するという組合式の運営形態が伝統的に行われています。生産された電力は電力会社が買い取り、得られた利益は出資者に配当されます。また風力は、政府からの補助金を得ることができるため、価格の面においても化石燃料と比べて競争力のある電力となっています。電力を自ら生産して管理することで、安定したエネルギー供給を図るだけでなく利益を得られる仕組みになっているのです。
グリーンベルトには、これらの自然エネルギーを研究開発して普及を図ることを目的とした「ヨーロッパ環境エネルギー研究所(European Institute of Environmental Energy)」があります。現在ここでは、水素燃料電池の開発が進められています。そしてこの秋、グリーンベルトの玄関口であるカールップ(Karup)空港に、水素で走る小型車が登場しました。
世界へ開かれた環境ネットワーク「グリーンシティ・デンマーク」
今から20年前、国内で蓄積された環境ノウハウをネットワーク化して技術移転の促進を図るために、エネルギー環境省と通商産業省は共同で「グリーンシティ・デンマーク(Green City Denmark A/S)」という組織を設立しました。そして、その本部をグリーンベルトにあるヘアニン市に置きました。
現在、このネットワークに、約260の組織が加盟しています。加盟組織の多くは、自治体・企業・政府機関で、加盟した2年以内に環境宣言を出さなければなりません。既に多くの組織がISO14001やヨーロッパの環境企画EMAS(Eco-Management Audit Scheme)などの認証を受けています。そして、これらの加盟組織は、国内の他の地域へ、そして海外への情報発信と技術移転の主体となります。
「グリーンシティ・デンマーク」は、これまでに世界各国の政策立案者や技術者に数々の研修を行うほか、ヨーロッパやアジアの都市とパートナーシップを組み、交流プロジェクトや技術移転の活動をおこなっています。いわば世界の環境ノウハウセンターとしての役割を果たしているのです。
かつて不毛の地と考えられていたこの地は、緑豊かな大地「グリーンベルト」へと生まれ変わりました。あれから今日まで、この地域の人々は、持続可能な社会を築くという大きな目標に向かってその姿勢を変えるということはありません。後世に豊かな大地ときれいな空気を残したいという人々の精神が、100年以上たった今でもこの地で息づいているのです。
※グリーンベルトでは、環境に関するさまざまな分野での視察が可能です。詳しくは、スカンジナビア政府観光局 業務視察部ホームページをご覧下さい。www.visitscandinavia.or.jp/jp/tech_visits/index.aspx
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●アストラゼネカ(AstraZeneca)社のCSRへの挑戦
高見幸子(国際NGOナチュラル・ステップ・インターナショナル 日本支部代表)
近年、日本でもCSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)という言葉が大流行している。ちょうど、ISO14001が入ってきた時とよく似ている。どちらも、社会からの要求で登場しされたのではなく、欧米からの要求によっている。ところが、日本は過去5年でISO14001の認証所得数が世界一になった。2位のイギリスの2倍という数である。
私は、CSRもISOと同じく、ここ数年でCSR部署を設置し、何らかCSR対策といわれる対策をしている企業の数は日本が世界をリードするようになるのではないかと考えている。とはいえ、これで各企業が持続可能な発展に向かうということでは決してない。
ISO14001の場合を振り返ってみよう。これは環境経営のマネージメントであって、その目標や環境パフォーマンスの内容に持続可能性の基準や指標が要求されていなかった。それゆえ、「なぜ、環境に取り組まなければならないのか」とか「どのようなビジョンと戦略をもって対策をすれば世界が持続可能な社会になることに貢献できるのか」を全社的に考えなくても認証は取得できた。また、日本で認証企業が多くなったのは、それによってビジネスにつながったからだ。
スウェーデンの場合、認証準備に2年ほどの時間をかけている。なぜなら、何が理由で環境問題が起きているのかを理解しないことにはその対策をとることができないため、社員の環境意識を高める時間が必要とされるからだ。今世紀の最大のチャレンジである「持続可能な発展」にどのような戦略で取り組むべきなのか、また企業や行政、市民がどのようなコラボレーションをしていくべきなのかということを考えれば、スウェーデンの措置は当然ともいえる。
では、CSRについてはどうだろうか。もし、日本の各企業が本格的に持続可能な世界の構築にどのように貢献できるのかを分析し、自らのCSRのビジョン、戦略、アクションプランを出してマネージメントシステムに統合することができれば、すばらしい発展を遂げられるであろう。
しかし、残念ながら今日の日本企業を見ていると、なぜCSRが欧米から押し寄せてきたのかの理由を理解しないまま、企業の不祥事の問題をどうするか、そしてコンプライアンス、サプライヤー対策というように、他社を見ながら方法論に走っているだけでのように思われる。
CSRは各企業での対策である以上、事業が違えばおのずとその内容も違ってくる。それを環境問題のように横並びの対策をしても社会評価は高まらない。CSRの鍵は、製品・サービスの原料から顧客が廃棄するまでの段階で、環境と社会面でしっかり持続可能なマネージメントをしていくことである。
欧米でもCSRに取り組み始めてまだ3年ほどである。その中で、自社のCSRを分析し、ビジョンとフレームワーク、戦略、アクションプランを打ち出しているアストラゼネカ社の事例を紹介したい。
アストラゼネカ社の事例
アスカゼネガ社は、スウェーデンの「アストラ」と英国の「ゼネカ」が1999年に合併してできた従業員数6万人という世界最大級の製薬会社である。世界の100ヵ所以上に営業拠点を持ち、世界9ヶ所に主要研究施設を置くグローバルな企業である。「NEWSWEEK」(2004年6月号)の今年の世界企業のランキングでも、エクセレントカンパニーのランキングで2位、CSRランキングで4位となっている。
本社はロンドンに置いているが、研究開発の本部はスウェーデンのストックホルム近郊にある。ここで、3年前からCSRに取り組んでいる。しかし、2年前に「CSR」を「CR」という名前に変更した。理由は「S」があることで、社会面の対策、たとえばフィランソロピー(慈善)とか、メセナ(文化)活動など、本業以外での対策が強調される可能性があることを懸念したからである。
CSRは本業で企業責任を果たすことと明確に定義をしている。その内容は以下の通りである。
企業のトップの意識は重要となる。社長は、社会のルールが変わったことを認識し、もはや経済だけで経営が成り立たないことを知る。株主は、責任ある事業の発展を求めている。現在と将来の従業員は、可能な限り高い給料を欲すると同時に、企業の価値観に共感が持てることを望んでいる。そして顧客は、高い倫理観と高品質の製品を求めている。そのうえ社会は、構成員として責任感のある企業のみを歓迎している。
そのような考えのもとに自己分析をして、CSRのフレームワークと目標とアクションプランを打ち出しているのがアストラゼネカ社である。以下に、彼らの製薬会社としての持続可能な社会の発展に貢献している対策の例を紹介しよう。
①市場価格における公平性
2003年末現在、HIV/エイズ感染者数は約3,400〜4,600万人といわれている(UNAIDS/WHO出典)。その半数以上がサハラ以南のアフリカであり、南米を加えると全体の65%を占めている。またアフリカのいくつかの国は15歳から49歳に占める感染者の割合が30%を超えているという数字も発表されている。まさに、エイズの問題は国の危機に等しい状況となっている。しかし、これらの国々は非常に貧しい国であり、これらの国々の人々にとってはエイズの治療薬は高価すぎで購入ができない。本当に必要とされている国の患者たちが、貧しさゆえに見捨てられていっている。
「エイズだけに限られないこの状況を放置してよいのか?」という批判が世界各地で起こっている。もちろんそれに対してNGOやNPOが動いているが、では世界の薬品会社は何をしているのだろうか。アストラゼネガ社では2004年に薬へのアクセスのための支援部署を設置した。またインドで結核への新しい治療方法の研究投資など、社会が求めていることへの対応に力をいれている。
②動物実験に対する対応
スウェーデンやイギリスを始めとする欧州では、動物実験に反対するNGOがある。実験用に飼育された動物であろうと生き物であることに変わりはなく、むやみやたらに実験によって死に追いやるべきではないと考えられている。そのためアストラゼネカ社では、代替技術を導入したり、既存のプロセスを再使用することによって2002年度に実際に実験に使った実験動物の数は24万2000匹で、その前の年よりも6,000匹減らすという成果を上げた。また、これ以外にも、大学と共同で中学生と高校生・先生向けの動物実験に関する倫理教育のプログラム作って、ウェブで公開するということも行っている。
③廃棄物回収と生産者責任
環境ホルモンについて注目されるようになったのは近年である。環境ホルモンのみならず、どのような問題においても、実際に身体に異常をきたすとか、病気が発生するとかの影響がでない限り対策が取られないのが世の常である。しかし、恐ろしいのは、微量であっても生物に蓄積する物質の場合、予測できないところで人体および自然界に影響を与えることである。影響が出て騒がれ始めた時にはすでに手遅れである場合が多いため、予防原則が必要となる。
近年話題になっているのは、薬による水質汚染の問題である。薬の成分は服用された後に尿を通して対外に排出され、下水処理場に集まってくる。個々の体内から排出される量は微量であっても、排出物がきちんと処理されずに川から海へ流されていくことによって自然界に蓄積していくことになる。そして、社会はそのことに不安を感じているのだ。そこでアストラゼネカ社は、少なくとも工場から排出される汚水については、下水に流す前に成分分解・処理できる施設を設置した。またそれ以外にも、飲まずに残った薬を回収するシステムのためのキャンペーンを薬局と一緒に行っている。
③REACH
REACH(Registration, Evaluation and Authorization of Chemicals)とは、EUの新しい化学物質に対する政策である。今までは、行政が市場の化学物質をテストして、有害な場合は使用を禁止してきていた。しかし、この方法では、毎年、新しく生産される膨大な数の化学物質を行政がすべてテストすることはできない。よって、何万という化学物質が全く野放し状況となっている。
そこで、新しい政策では、テストの責任を企業に移譲することにした。企業が売りたい化学物質をテストして、有害でないことを実証するか、仮に実証できない場合でも、代替がすぐ見つからない場合のみ使用許可が得られるというものである。
この政策が導入されたことによって、当然、企業側からはコスト増になるとして強い反発が繰り返されている。そんな中でアストラゼネカ社は、「REACHの原則に賛成」と宣言している。彼らは、不必要な競争が生じないようにその政策を通して行政と対話をしていくことが重要だと言っている。
アストラゼネカ社のように、コスト増となることを承知のうえで様々な方策をとり、問題に対して取り組めば、社会的認知度が高まることになる。自然と社会に対する配慮なくしては、21世紀において企業活動をしていくことは難しくなるであろう。「安い値段より高い品質」をキャッチコピーとして活動する必要が日本社会にも出てきた。現に、様々な業種でそれを感じさせる動きが垣間見える。今後の日本企業のチャレンジに期待したい。
◆国際NGOナチュラル・ステップ・インターナショナル日本支部ホームページ:www.tnsij.org
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
よみごたえがありましたでしょう?
私はデンマークもノルウェーも行ったことがないので、いつか見学や取材に行ける機会があればいいなあ!と思っています。でもこうしてニュースレターで、いながらにしてようすを知らせてもらえるのもうれしいことです。(^^;
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