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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2005年11月03日

システム思考入門シリーズ第4回 「システム思考はなぜ重要か?(1)システムの特徴」

システム思考を学ぶ
 
(この内容は、有限会社チェンジ・エージェントの配信するシステム思考メールマガジンからのものです。チェンジ・エージェントのウェブにもシステム思考についての情報があります。メルマガに登録いただければいろいろな情報をタイムリーにお届けしていますので、ご興味のある方はぜひどうぞ!) なぜシステム思考は重要なのでしょうか? それは組織、経済、社会、生態系といった私たちを取り巻くシステムが、私たちの日常の思考や直感を超えた独特の複雑性を生み出しているからです。 システムの複雑性は、単にいろいろな種類の物事がたくさんあるという複雑性ではなく、物事がつながり、絡み合っているために生じる複雑性であることが特徴です。システムの複雑性は、要素が数えるほどしかなくても起こります。 たとえば、すこし前のホテルのシャワーを思い出して下さい。赤い印の付いた温水の蛇口と青い冷水の蛇口を調整しながら、自分の好きな温度のシャワーを浴びるしくみです。このシャワーというシステムには、お湯が出てくるシャワーヘッドのほかには、温水の蛇口と、冷水の蛇口、そしてそれぞれがつながっているパイプとタンクしかありませんから、シンプルなシステムと考えられます。 それでも、蛇口を回してから実際にシャワーヘッドに変更された水やお湯の量が届くまでの反応が鈍いと、快適にシャワーを浴びるのも一苦労になってしまいます。まだ冷たいからと温水の蛇口をひねりすぎ、そのうちシャワーが熱湯に変わって飛び上がったり、逆に、冷水を浴びてまた飛び上がったり、というような経験をしたことはないでしょうか。 私たちは、このようなシステムの複雑性を普段から経験しているにもかかわらず、システムに対してどのようにアプローチをすればよいかは意外と理解していません。そのために、組織や社会の中で、よかれと思ってやったことが思うような結果を生み出さなかったり、逆に失敗につながったりしているといっても過言ではないでしょう。(よかれと思って、赤い蛇口を思い切りひねったら、やけどをしそうになるように......) 私たちは、組織や社会の中で、戦略や政策を立て、その実行を通じて変化を起こし、「望ましい結果」が生まれることを期待します。たとえば、売上の増加を目指して販売促進を行う、渋滞緩和のために道路を拡張するなどです。 しかし、現実にはなかなか思い通りにはいきません。しばしば、「予期せぬ結果」が生じます。販売促進策では、長期的な売上が下がったり、道路拡張では、かえって渋滞がかえってひどくなってしまうなどです。このような例は枚挙にいとまがありません。 システム思考の最初のステップは、ダイナミックで複雑な変化を生み出すシステムそのものの特徴を認識することです。システムにはどんな特徴があるのでしょうか。 もっとも基本的なシステムの特徴は、ひとつの要素はほかの要素とつながり、相互作用を生み出していることです。ある企業の行動は、ほぼまちがいなく他社の行動とつながっており、互いに相互作用を生み出します。 たとえば、航空業界では、利用距離に応じて無料航空券などが得られるマイレージ・プログラムを導入することでマーケットシェアの向上を目指した企業がありましたが、競合企業も同様のプログラムを始めたため、長期的にはシェア向上につながらないばかりではなく、業界全体の利益性を大きく損ねる結果となりました。 全体像のなかで要素のつながりとして考えないと、変化の方向を見誤ります。渋滞解消のために道路を拡張して走りやすくするという施策が採られます。ところが、道路の走りやすさは、どの道を走るか、どの街に住むかを選ぶ際の基準になっているので、道路が走りやすくなると、より多くの人や車が集まってきて、結局渋滞を引き起こします。 目の前の「渋滞」という問題解決に当たろうとするとき、このようなつながりをしばしば看過しがちですが、現実のシステムではつながっているのです。私たちはよく「予期せぬ結果」「副作用」が生じたと言いますが、私たちの思考にこのつながりの全体像が含まれていなかった、というだけのことなのです。 要素間の相互作用は、ときとして「システムの抵抗」として現れます。壁を押したときの反作用のように、押せば押すほど大きな抵抗が生じます。たとえば、健康のために低ニコチンタバコが開発されました。ところが、喫煙者は、低ニコチンを補うため、より多くのタバコを、肺の中に長く、深く吸いこむ吸い方になったため、かえって健康への害がひどくなりました。喫煙というシステムの中では、ニコチンなどの物質を欲する喫煙者の欲求がシステム全体の目的になっています。 このシステムの目的が変わらないとき、どんなに強くシステムに働きかけても、システムの抵抗がその効果を打ち消してしまうのです。システムは、それぞれの目的や安定を求める特徴があるからです。 総じて、組織や社会といったシステムは、私たちの直感に反する反応を示します。たとえば、経済の成長こそ貧困の解消につながると、先進国も発展途上国も高い経済成長率を目指していますが、貧富の差は縮まるどころか拡大し続けています。私たちはものごとを解決するために、直感的に「もっと早く、もっとたくさん」という方向に押そうとしますが、その動きが、システムの中ではかえって進捗の足をひっぱることがよくあります。むしろ進む速度を落とすほうがより早く問題解決につながることもよくあるのです。 渋滞解決を例にとると、世界の先進的都市は道路を走りやすくするのではなく、逆に道幅を狭くしたり、段差を設けて走りにくくすることで、渋滞の解消に成功しています。 このように、システムは私たちの目に見える範囲を超え、複雑に絡み合っているため、私たちの直感や日常的な思考ではつかみきれないダイナミックで複雑な反応を示します。次回は、これらのシステムの特徴をふまえてのシステム思考の特徴とメリットを紹介します。
 

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