ホーム >
環境メールニュース >
第6回エコ・ネットワーキングの会「デニス・メドウズ氏講演録」(2005.08.0...
エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース
2005年11月04日
第6回エコ・ネットワーキングの会「デニス・メドウズ氏講演録」(2005.08.04)
何度かご案内してきましたデニス・メドウズ氏の来日ツアー?は、愛・地球博、エコ・ネットワーキングの会での講演&対談、システム思考のワークショップを無事終了し、お元気に次の予定地であるヨーロッパに発たれました。
システム思考のワークショップには定員を超えるお申し込みをいただき、世界最強ペアのインストラクターによるシステム思考入門をしっかりと学んでいただきました。その後、日本語でワークショップを行うためのトレーニングを受けました。チェンジ・エージェントで秋から開催していく予定ですので、どうぞお楽しみに! http://www.change-agent.jp/
エコ・ネットワーキングの会も、多くの参加者とボランティアの方々のおかげで楽しく濃い時間となりました。ボランティアの方にさっそくテープ起こしをしていただきましたので、講演録をお届けします。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
司会 皆さま、大変長らくお待たせいたしました。ただ今から第6回エコ・ネットワーキングの会を始めさせていただきます。本日司会を務めさせていただきます高橋と申します。どうぞよろしくお願いいたします。まず初めに、この会の主催の枝廣よりごあいさつをさせていただきます。
枝廣 皆さん、こんにちは。今日はお天気があまりよくない中、たくさん来てくださって、本当にありがとうございます。今日は第6回のエコ・ネットワーキングの会ということで、デニス・メドウズさんをお迎えして開くことができました。
このエコ・ネットワーキングの会という会は、まったくのボランティア組織で運営されています。今日、受付や会場案内をしてくれているボランティアの方々は、体のどこかに黄色いバンダナをつけています。スタッフですが、皆さんと同じように参加費を払ってボランティアをしてくれています。企画段階から、数カ月前からずっと活動してくれており、とてもうれしく思っています。
今回で第6回ですが、毎回、最初は参加者として参加して、「次は自分もボランティアを一緒にやろうかな」という形で、新しいボランティアの方々が参加をしてくださっています。もしよろしかったら、また次のときにご参加ください。
このエコ・ネットワーキングの会というのは、最初、レスター・ブラウンが来る時に、1日私が預かり、何かできないかということで開きました。その時は連続して開催する会にするつもりは全然なくて、1回だけのつもりで開きました。
当時、会を開くのは初めてで、会場を借りることから、いろいろなことが本当に大変で、もう二度とやるまいと思ったほどです。そう思ったのですが、一緒にやってくれたスタッフが、「そんなこと言わないでまたやりましょうよ」と言ってくれて、2回、3回と、去年はアラン・アトキソンを招いて、大阪と東京でも開くことができました。レスターに対する研究所の活動資金もたくさん、皆さんのおかげで寄付することができています。
今回は、バラトングループという、あとでまた対談でも取り上げようと思っていますが、そのつながりでデニス・メドウズさんに来てもらうことができました。『成長の限界』という本を1972年に出されて、日本でもたくさんの方が読まれたと思います。30年後、それがどうなったかという本を『成長の限界 人類の選択』という形で出されて、日本語は今年の3月にダイヤモンド社から出ています。
つい最近、デニス・メドウズさんと、ドネラ・メドウズさんと私の共著という形ですが、『成長の限界 人類の選択』のエッセンスを取り出して、システム思考――これもあとで話をしたいと思っていますが、それの入門も兼ねた本『地球のなおし方』を出しました。
いつかデニス・メドウズさんをこの会に呼びたいと、何年も前から思っていたのですが、それが叶ってとてもうれしく思っています。最後はエコ・ネットワーキングの時間ということで、皆さんの間でいろいろとやり取りをしていただいたり、展示もたくさんありますし、デニス・メドウズさんとお話をしていただく、もしくはサインをしてもらう時間もあると思いますので、皆さんぜひ楽しんでください。デニス・メドウズさんは日本に来られることもそんなに多くないですので、今日は貴重なひとときをぜひ皆さん、一緒に楽しんでいただければと思います。よろしくお願いします。ありがとうございました。
司会 それでは皆さま、お待たせいたしました。デニス・メドウズ氏にご登壇いただきます。逐次通訳は枝廣淳子です。皆さま、拍手でお迎えくださいませ。
(拍手)
デニス
今回、このように皆さんとご一緒できることを、とてもうれしく思っています。いつも日本におじゃますることを楽しみにしていました。私たちにとって非常に重要だと思う問題に対する解決策のいくつかを、日本の社会が持っていると思うからです。今日の午後、この時間を皆さんと一緒に過ごさせていただいて、明日から4日間、ジュリアンという同僚と一緒に、システム思考に関するワークショップを東京で行う予定で、今回、来日しています。
スピーチに入る前に少しゲームを、早速やってみたいと思います。私が今から申し上げることの中でいちばん大切なことをお伝えすることができると思っています。(※ゲームの説明は割愛させていただきます)
(笑 & 拍手)
デニス
今の単純なゲームが、私が今から話をすることの中のいちばん大切なことを伝えてくれています。言葉よりも行動が大切だ、ということです。
(笑)
デニス
持続可能な社会をつくりたいと思ったら、それについて語るだけではなくて、持続可能な社会をつくり出す行動こそが必要だということですがわかったと思います。では、持続可能な社会とは何でしょうか。それをどうやって実現できるのでしょうか。
こちらに書いてあるのが、今日の私の話の概要となります。
・持続可能な社会とは、実際、何なのだろうか。
・現在の政策は、持続可能な社会をつくり出すことができるのだろうか。
・皆さんはどのように考えていますか。
・私のリサーチは何を示しているでしょうか。
・そして持続可能な社会を達成するためには、何が必要なのでしょうか。
・そして社会にとっての大きな大切な目標は何か
では、最初の質問です。持続可能な社会とは、実際にどういうものなのだろうか、ということです。この問いかけは非常に単純だと思われるかもしれません。持続可能な社会というのは、そこでもここでも、毎年毎年、数えきれないほど人々の口に上っているからです。
持続可能な社会という会議であるとか、本であるとか、リサーチプロジェクトとか、枚挙にいとまがないほどです。しかし、ほんとのことを言いますと、「持続可能な社会」と言っている人たちが実際それを理解しているかどうか。そういうことはほとんどいないのではないかと思います。
われわれのグローバル社会は、過去200年の間、とにかく成長、成長、成長と考えてきました。ですから、私たちが使う言葉とか考え方そのものが成長思考になっています。しかし私たちは今、新しい言葉、新しい考え方を持つ必要があります。そのような取り組みのいちばん最初のものが、1987年、国連の委員会によってなされました。
ここに書いてあるのが、政治家の持続可能な開発の定義です。
「持続可能な社会というのは、現在の世代のニーズを満たしつつ、将来の世代がそれぞれのニーズを満たすことを阻まない社会だ」
政治家は、この定義をとても好むんですね。なぜかというと、この定義によって、自分たちがやり方を変えなきゃいけないとはならないからです。これまで通りのことができるからです。犠牲とか、何か折り合いをつけるとか、そういったことを求めるような定義ではないからです。しかし、これは意味のある持続可能な社会の定義ではありません。
こちらが私の持続可能な社会の定義です。
「持続可能な社会というのは、人口と資源使用量、汚染を、地球のエコシステムに不可逆的なダメージをもたらすレベル以下に抑えるためのメカニズムを持っている社会である」
ということで、この定義を元にこれから話をしていきますが、その前に、皆さんがどのように考えていらっしゃるか教えていただきたいと思います。
35年前に、私はあるチームを率いて、将来長い期間でずっと成長が続いたらどうなるか、コンピュータのモデリングを行うというプロジェクトを行いました。その結果が『成長の限界 人類の選択』の中に入っていますし、先ほどお話をした『地球のなおし方』の中にも入っています。これらの本を見ていただくと、この
シミュレーションの結果、将来は二通りのあり方がある。ひとつは持続可能な社会が実現する。もうひとつは崩壊してしまうというものです。
持続可能な開発というのは比較的魅力的な将来です。こちらのシミュレーションは、1900年から2100年の200年間にわたって、5つの変数について、どのような予測ができるかが書かれています。前の100年間、ずっと成長してきているわけですが、それが「止まる」ということが持続可能な社会のシナリオでは出てきています。しかし、この成長が止まるというのは、私たちが成長を止めようと選んだ結果です。たとえば出生率を下げようとか、消費のパターンを変えようとか、その結果、このように平坦になります。
こちらのほうの線ですが、上の左からずっと下がってきている。途中から平行になりますが。これが資源の使用量です。こちらの赤い線でずっと上がってきている、これが工業の生産高。そして緑の線で上がってきて、やはり平坦になるのが人口です。このピンクの線で上がってきている3番、これが食糧です。そしてこのオレンジの線、途中から上がるけれども下がる、これが汚染物質です。これが未来のシミュレーション1番ということで、可能な将来のひとつです。
もうひとつは「未来その2」といえるものですが、このシミュレーションの最初の100年間は、さっきお見せしたものと同じです。もちろんこれまでも実際にあったことですから。そして次の100年間、21世紀ですが、先ほどと同じように成長はやはり止まります。これは、私たちが選んで先ほどのように成長が止まるわけではなくて、地球環境が成長を止めてしまうという形になるからです。
ということで今、将来の可能性としてふたつお見せしました。ひとつは持続可能な社会が実現するというもの、そしてもうひとつは崩壊するというものです。初めのシナリオでは、人口の成長や工業生産高の成長が止まったのは、私たちが止めようと選んだからです。しかし2番目のシナリオでは、これが止まったのは、そうせざるを得ない、そうなってしまったということになります。
ここで皆さんに考えていただきたいのは、今お見せしたふたつの将来、どちらの可能性が高そうかということを考えてください。どういうふうになってほしいかということではなくて、どうなると思われるか、ということを考えてください。
1番目のシナリオの可能性が高いと思われる方、手を挙げてください。持続可能な社会が実現する、と思われる方?
2番目の方。崩壊すると思われる方?
最初が20パーセントぐらい、2番目が8割ぐらいの方だったでしょうか。ということは、たくさんやらなくてはいけないことがあるということですね。というのも、皆さんも1番目のほうがいいと思っていらっしゃるでしょう? しかし8割の方が2番目の可能性のほうが高いとお考えだということは、たくさん解決しなければいけない問題があったといということです。
今、皆さんのお考えを伝えていただきました。今度は私が考えていることを伝えていきます。私の研究から何がわかるかということです。1972年に最初にコンピュータのシミュレーションをした時に、13通りの可能性のある未来像を描くことができました。
しかしその中でいちばん可能性が高いであろうと思ったのが、この図です。画面が暗くて申し訳ないのですが、この時は大きなプラスチック製のポスターにこのような結果を出していました。こういうプロジェクターなど、まだない時代でしたから。ですから、それで暗くなっています。
最初の100年を見てください。1900年から2000年までの間は、非常にうまくいっている世の中だということがわかります。汚染のレベルも低いですし、人口増加率も少し下がり始めているようだし、食糧生産量も工業生産量も、人口増加より速い勢いで伸びていますから、人々は豊かになっている。そして2000年の段階では、地球の持っている資源の15パーセントしかまだ使っていません。
ですから、こういう世界を、政治家や経済学者は「いいな」というふうに思っているわけです。しかし、この世紀に大成功をもたらした政策が、このような崩壊を次の後半にもたらすことになります。1972年の段階で、私たちは「政策が変わらなければ必ずや崩壊するであろう」と書きました。
では、その政策は変わってきたのかどうか、見てみましょう。これは世界の人口を示すデータです。1650年から2000年までです。赤い線が入っていますが、『成長の限界』を最初に出した1972年の段階ではここ、36億人いたということです。今は60億人を超えています。基本的な政策には何の変更もなかったということがわかります。
これは工業の生産高、1930年から2000年の数字です。この赤い線がやはり、最初に72年に本を書いた時です。2000年が今の段階、2倍以上になっています。産業が大きくなっているということは、資源の消費量がどんどん伸びているわけですね。このグラフは1900年から2000年の世界の金属の消費量を示しています。基本的な政策には何の変更もない、同じ傾向が続いていることがわかります。汚染についても同じです。これは二酸化炭素の濃度ですが、1700年ぐらいから本を出した1972年までの数字が出ています。そして、本を出したあと現在までも同じ傾向が続いていることがわかります。
1972年に私たちが発表したのは、「もし人口や工業の生産に関する政策に何の変更もないのだとしたら、この世紀に崩壊がやって来る」ということでした。ということで、「人類の選択」というのが付いている新しい本では、このような結論が出されています。
「1972年から、人口や工業の生産の成長をもたらしてきた政策には、何らの大きな変更もなかった。今では、資源の消費量そして汚染物質の発生量は、持続可能なレベルを超えている。1972年に私たちが直面していた難題は、どのようにスローダウンするかということだった。しかし、今のチャレンジは、どうやって戻るかということになっている。
衰退は今でももっとも可能性の高い将来であって、恐らくそのようになっていくと考えられるが、しかし避けられないものではない。しかし、30年間が失われてしまったので、成長をどんどん衰退していく期間、これは私たちが選んだのではなくて、地球によって強いられた減退になるが、これがまさに近づきつつあるといえる」
1972年に、最初に『成長の限界』を出した時には、その結論は、本当にみんなをびっくりさせるような、予想もしていなかったようなものでした。その当時の人たちは、われわれ人間の活動が地球というこんなに大きなものにダメージを与えるほど大きな影響を与えるとは信じられなかったのです。
しかし今では、毎日の新聞を読めば、本当にその通りになっているということが、あちこちに書いてあると思います。そしてほかのさまざまな研究の結果を見ても、人類は持続可能なレベルを超えてしまっているということが明らかになっています。
こちらに載っているのは、エコロジカル・フットプリントという新しいコンセプトをつくっているグループが出しているデータです。これはとてもシンプルな考えでできているコンセプトです。
われわれ人類というのは、今のような形で存在をし始めたのが20万年前といわれています。そしてその歴史の中のほとんどの時間は、人類は再生可能なエネルギーだけ、再生可能な資源だけを使ってきました。そして200年ぐらい前になってやっと、私たちは化石燃料や金属というものを使い始めました。
しかし、そのように化石燃料や金属を使える期間というのは極めて短く、そのあとには、もう一度再生可能な資源しか使えない、そのような期間が来るでしょう。エコロジカル・フットプリントというのは、今の私たちの経済を回していくために、どれぐらいの再生可能な資源が必要か、それをつくり出すために地球が何個必要か、ということを示すものです。
真ん中の上のほうに黒い太線がありますが、それが地球1個分を示しています。最初の本を書いたころは0.8ぐらいのレベルでしたから、地球全体の20パーセントぐらい、まだ余裕があったわけです。しかし今では20パーセントを超えている、地球1.2個分が必要になっています。
しかし、「限界を超えつづけるなんて、あり得ないんじゃないか」「地球は1個しかないんだから」と思われるかもしれません。
でも、これは銀行口座を考えていただくとわかるでしょう。たとえば、長い間一生懸命、貯金をしていたとしたら、ある短い期間は預金するよりもたくさんのお金を引き出すことができますね。その同じことを今、地球に対して私たちはやっているわけです。
何百万年もかけて、たとえば化石燃料とかいろいろな動物種であるとか資源とか、いろいろなものを蓄積してきました。しかし今では、そういったものを人類があっという間に使い果たしてしまっています。そのあとは毎年、持続可能な形で手に入れられるものの中でやっていくことしかできなくなります。
このグラフは、かなりかアカデミックに映るかもしれませんが、これをもたらしている力というのは、毎日の中でいろいろ感じることがあると思います。
この本の中には、人類の社会が持続可能なレベルを超えている、限界を超えているということを示す多くの指標を出しています。このスライドにそのいくつかが載っていますが、全部読む時間がありませんが、たとえば持続可能な資源がどんどんと劣化しているとか、汚染のレベルが上がっているとか、負債が大きくなっているとか、自然のエコシステムが安定性を失っているとか、こういったことがいくつか指標として上げられています。
しかしそれは、ローカルなレベルの話だけではありません。最近、世界銀行が出したデータによると、54の国が一人当たりのGDPが10年以上にわたって減っているという結果が出ています。
持続可能な開発というときには、この言葉を、これまでとは違ったやり方で使う必要があるでしょう。多くの人々は、持続可能な開発ということばを、その経済的な成長を押し進めるために何かをする理由として使っています。
でも、そうではなくて、限界よりも下がる、限界に戻ることが必要なのだと思うのです。今世紀の終わりには、今日と比べると、毎年使えるエネルギーであるとか資源の量はかなり少なくなっていると思います。
もしこのように大きく減らすことが、運良く、また私たちの知性を使って行うことができれば、かなり高い生活の水準を保つことができるでしょう。しかし、私たちがこの問題を無視していると、環境にも大きな損害が出ますし、私たちの生活の質、幸せという点でも大きなダメージが与えられるでしょう。
そのためにはふたつ必要なことがあります。ひとつは新しい技術、そしてもうひとつは新しい文化ややり方です。技術というのは、開発はそれほど大変ではありません。大切なのは、それを使っていこうという政治的な意志です。ということで、何を減らしていかなくてはならないかを考えてみましょう。
われわれの生活の質というのは、このチャートの真ん中にありますが、生産財の量によって決まってきます。たとえば人口が増えるとか、私たちの生活水準を上げるためには、ここの生産財を増やしていく必要があります。ここの生産財のところが増えると、必要な資源が増えるし、そして終わったあとの廃棄物、汚染物質がたくさんになります。
この真ん中の所を増やしつつ両端を減らすにはどうしたらよいか、を考えなくてはなりません。そして、生産財から生まれてくる利益や利便性を、地球上のすべての人がもっと平等に、分けあっていく必要があります。
ということで、物質とエネルギーのフローを下げていく必要があります。そして、この物質やエネルギーのフローは、3つの要因から影響を受けます。ひとつはどれぐらいの人がいるか。人口です。それからどれぐらいの生活レベルか。そして、その生活レベルに必要な物質やエネルギーはどれぐらいなのか。この3つの要素です。
今後100年間、私たちが選ぶか自然に強制させられるかは別として、この3つを組み合わせしたものが減っていく必要があるということです。たとえば人口の世代別の人数を変えることによって、人口を減らすことができる。また、文化的な変革を通して、どれぐらい生活の質が必要か、これを変えていくことができる。
そして、どのような生活レベルを選ぶにしても、技術を変えることによって、そのライフスタイルに必要な物質やエネルギーの量を減らすことができます。この3つが、私たちが使うことのできるツールです。
金曜日にトヨタに行っておりました。たとえばトヨタの新しいハイブリットカーは、技術の変革のひとつの例でしょう。たとえば生活の質は同じだけれども、そのために必要なエネルギーを減らすことができるというものです。文化的な変化とは、自動車をやめて自転車で行くとか、職場と家を近づけることによって、そもそも運転しなければいけない距離を下げるとか、そういったことです。
たとえばエアコンにしても、必要な電力消費量を減らしていくことは、技術的には大切なことです。エアコンをつけるのではなくて、多少、気温が高くてもその中でやっていこうよと思うのであれば、それは文化的な変化になります。
では、どのようにしてこの「減らす」ことを、私たちは進めていけるでしょう。新しい活動や取り組みをする必要があります。その中では簡単に決められるものもあるでしょうし、なかなか決めにくいものもあるでしょう。
図をお見せします。(こちらにここで説明された3つの図があります)
http://www.es-inc.jp/edablog/diary/archives/000317.html
左端が現在です。そして右端が将来を示しています。何について話しているかによって、この時間軸は数日間かも数週間かも何年かも何十年かもわかりません。今、赤い所にいると思ってください。そして、後にはこの緑の所に行きたいと思っている、そういうふうに考えましょう。
そのときにふたつの可能性がある取り組みができます。そして、そのふたつの活動を行った結果、どういう結果になったか、というのがここに示されていると考えてください。そして真ん中のへん、左側に青い真っすぐの棒がありますが、それは次の評価の時期だと思ってください。この評価のタイミングというのは、この行動、活動をした人が次にその結果がどうかということを評価される、そのようなときです。
政治家にとってみれば、次の評価のタイミングというのは、次の選挙のときになります。学生さんだったら次のテストのときかもしれません。企業であれば、次の評価のタイミングというのは次の四半期のレポートが出るときでしょう。この図で示している緑の線は、かなり決めやすい例です。というのは、最終的に行きたい所に行くために、次の評価のタイミングでも、今よりも改善していますね。
たとえば、外国語を学ぼうというのが、こういった例になると思います。外国語に堪能になろうと思ったら、勉強を始めてすぐその段階でも、そのときよりはましになっているはずですよね。改善しているわけです。でも、外国語を勉強しようとするときに、それを忘れるような取り組みをする人はほとんどいませんよね。
このような選択肢があるような問題は、すでに政治や経済のシステムで、もう解決されています。しかし、そういった簡単な問題ばかりではなく、難しい問題もあります。
赤い所にいる今から、緑の所に行きたいと思います。しかしこの場合、ふたつの行動が違う結果をもたらします。アクション1と書かれているのは、短期的には環境に非常に良いのですが、長期的にはだめだよというふうになってしまいます。アクション2と書いてあるのは逆で、短期的には悪いけど長期的には良くなっています。こういった問題状況に対して、政治家はどちらのアクションを取るでしょう。アクション1でしょうか、2でしょうか。
たとえば、ここでの問題が、人々が生活の質についてどう感じているかということだとします。アクション1でいうと、たとえばお金を借りて短期的な消費を刺激する、というような活動が考えられますね。たとえば、アクション2の例としては、税金を上げて、それを投資して、もっと先にその見返りが来るようにしていくということが考えられます。
たとえばアメリカの例で言っても、将来的に良いエネルギーシステムを国にちゃんと持ちたいと思うのであれば、短期的にはエネルギーの値段を上げていく必要があります。しかし、実際にはその逆のことが行われています。短期的なエネルギーの値段を下げるために補助金を出している。そうすると将来的には解決するのが、もっともっと難しくなってきます。
成長の限界に関する私たちの直面している多くの問題は、このような難しいタイプの問題が多いのです。
このような問題を解決するときのひとつの考え方として、時間軸を伸ばすというやり方があります。今と次の評価の間までの時間を長くするということです。
たとえば、評価の次のタイミングをこれだけ将来に延ばしたとすれば、政治家であったとしても、ほんとに正しいアクション2のほうを取るでしょう。しかし残念なことに、私たちの社会にかかってくる圧力の多くというのは、時間軸を長くするどころか、どんどん短くするような方向に来ています。
ではどうしたらよいのか、最後にスライドでご説明する前に、今どのような難題に直面しているのか、何が必要なのかということを示すために、もうひとつゲームをやってみましょう。(※ゲームの説明は割愛します)
いまのゲームで「最初は居心地が悪くても、これまでと違う考え方ややり方はできる」ということがわかっていただけたと思います。では、持続可能な社会をつくるために役に立つ、そのために私たちがやらなくてはいけないアクションのいくつかをお見せしたいと思います。
今からお見せするアクションは、今のゲームと同じようなものが必要になってきます。この100年間、成長をもたらすことに私たちは成功してきました。そのやり方が習慣になっています。そのやり方について、いちいち考えることはしていません。しかし今では、その同じやり方を続けていくと、崩壊してしまうという状況です。そして私たちはそれを考えて、最初は居心地が悪いかもしれませんが、変えていく必要があります。
9つのポイントを読んでいきたいと思います。これで全部そろっているというわけではありませんし、この行動をしたからといって、必ずうまくいくと保証できるものでもありません。しかし、私たちは変えていかなくてはいけない。そして、変えていくことができる分野はどういったところなのか、わかっていただけると思います。
いちばん最初に、言葉よりもアクションが大事だということを伝えるゲームをやりました。これが最初のポイントに書いてあることです。新しい理解だけではなくて、新しい行動が必要だということです。
先ほど、難しい問題のときには時間軸を延ばす必要があるという話をしました。これが2番目のポイントです。今後数週間、数カ月のことだけ考えていたとしたら、気候変動の問題なんて絶対解決できません。今後数カ月のことだけ考えていたら、産油量がどんどん減っているという問題に対して、本格的に考えることは難しいでしょう。ということで、いろんな点で時間軸を延ばしていくということが必要になってきます。そして、私たちを導いてくれる新しい指標が必要です。
トヨタはおもしろい例を提供してくれています。最初のハイブリットカーが出た時には、燃費がそれほど良かったわけではありません。トヨタは、車のダッシュボードに新しいインジケーターであるメーターを起きました。走っているその時々の燃費を示すメーターを置いたわけです。その指標が目に見える所にあってはじめて、人々はどういうふうに運転をしたら燃費が良くなるのかということを、すぐに学びました。それによって車の効率が上がっていったんです。
われわれはこれまで150年間、成長をするため、成長を測るようなインジケーターをたくさんつくってきたのですが、これからは物理的なフローを下げていく、それを示すようなインジケーターをつくっていく必要があります。
そして、たとえば地球の裏側とか未来世代とか、今、自分たちの近く、同じ時を過ごしている人たちだけではない人たちに対する責任を、私たちは取っていく必要があります。
意見の相違を解決するために、力を使うのではなくて協力を使っていくということをもっと学ぶ必要があります。
そして、100パーセントパーフェクトな時代にすることはできないということを認識する必要があります。必ずうまくいかないところが出てくるのですから。
そして、大事な生態系、自然のシステムというのを、それが経済的な価値を生み出してくれるからではなくて、それ自体に価値があるからとして尊重する必要があります。
国によっては、あとから直していけばいいというやり方を取っている所があります。「何か可能性があるんだったら、まずやってみなさい」「もし、まずいことがあるんだったら、あとでそれを修正しましょう」というアプローチです。しかし、いったん起こってからでは、修正できないものもあります。ですから、あとから手直しをすればいいというのではなくて、予防原則の方式を取る必要があります。
そしてシステムというのは非常に入り組んでいて、いろいろな要素間のやり取りを理解しなくてはいけないということを認識する必要があります。私たちがこういったことをきちんとできるようになれば、持続可能な社会の実現を見ることができるのではないかと思います。ありがとうございました。
(拍手)
司会
デニスさん、どうもありがとうございました。続きまして、デニスさんと枝廣の対談に移らせていただきますが、机の配置を変更いたしますので、しばらくお待ちくださいませ。
(対談内容は、枝廣の対談録に収録)