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企業の競合相手はNGOになる、「企業」か?「NGO」か?を超えて、向山塗料さんの...
エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース
2005年11月06日
企業の競合相手はNGOになる、「企業」か?「NGO」か?を超えて、向山塗料さんの事例 (2005.05.03)
2年ぐらい前になりますが、前日に出席したCSRシンポジウムでいろいろ考えたことから、自分用のメモを書いたことがありました。2003年6月18日付です。
だれかに読んでもらうために書いたものではないので、多少読みにくいかもしれませんが、それからも関心を持ち、自分でも活動し、後段につながることなので、引用しますね。
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2003年6月18日
NGOが企業の競合相手になってきている。
これまで企業に対するコンサルティングサービスを提供するのは企業に決まっていたが、いまではその専門性を活かし、企業や行政にコンサルサービスを提供するNGOも増えてきた。
一方、大学を卒業したら、または今の会社を辞めて、NGOに就職したい、NGOで給料が高くなくてもよいからやりがいのある仕事をしたい、という若い人が増えてきている。
少し前までは、多くの人が、「うそっぽい」ところがあると思いつつも、会社に就職することが「あるべき姿」だと思っていた。うそっぽいと思っても、そこには目をつぶり、生計を立てるための給与は、自分の良心ややりがい、生きがいなどとは切り離すべきで、生計を立てるための給与をもらうことが「大人」なのだと自分を納得させてきた。
そういう意味では、いつまでたっても「大人」にならないピーターパンが増えてきたのかもしれない。「うそ」は「うそ」だと、目をつぶって良心にふたをして生きていくよりも、たとえ給料は安くても、「本当」の世界に生きたい、自分と自分の行っていることが一致している人生を送りたい、というピーターパンが。
企業は確かに利潤を上げなくてはならない。利潤を上げて、税金を納め、人々を雇用し、社会に役立つ価値を提供し続けることが企業の使命である。しかし、その目的のための適正利潤を超えた「利己的な利潤」を追求するとき、それは社会に受け入れられない姿なので、「うそ」が生じる。そして、その「うそっぽさ」を敏感に感じる消費者や若者が増えている。
企業の社会に対する責任をきちんと果たすことなく、どうせ分からないだろうと社会を見くびって「うそ」を内包している企業は、持続可能な事業経営を続けるために何よりも必要な企業としての「志」や「良心」となってくれる優秀な人材を引きつけることはできない。
NGOはこの点で、株主のための利潤を上げる必要もなく、自分たちが定めた目標のためにひたすら活動することができる。活動を続けていくための適正な資金を生み出しつづける工夫は必要だが、組織を大きくする必要もなければ、成長を加速する必要もない。株主や投資家の意向を気にすることなく、「社会」や「未来世代」など、自分たちが定めたステークホルダーのためだけに活動することができる。
今の企業で、真に「未来世代」のことを考え、その声を事業活動に反映しようとしているところがどれほどあるだろうか? 四半期ごとの決算や毎日のように上下する株価にどうしても縛られて、近視眼的になる企業が多い。この点でもNGOは優位性を持っている。
「もっとたくさん」「もっと金持ちに」ではない、真の豊かさや幸福や幸せを模索する人々が増えてきている中で、人格や品位の本当に優れた人材を惹きつけ、保持し続けることは、これからの企業にとっての大きな課題となっていくであろう。
そのときの競合相手は企業ではない。「経済」に縛られることなく、社会を変えていく新しい担い手としてのNGOなのである。NGOに勝るほど魅力的な企業をどのように作っていくか。21世紀に生き残るために企業の直面している大きな課題である。
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これを書いた時点以後、さらに、日本のあちこちで「企業」と「NGO」の境界線を融合する、または飛び越える動きが広がっているなあ、加速しているなあ、と思っています。大きく分けて3つの動きがあると思います。
ひとつは、「専門集団化」するNGO。行政や企業に対等または専門家としての立場から、提言・コラボレーションするNGOが増えています。私が共同代表を務めるNGOのジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)でも、コミュニケーションや海外とのつながりという専門性を活かして、企業の持続可能性報告
書への第三者意見をお出しする、企業のステークホルダーダイアログのお手伝いをするなど、これまでコンサルティング会社が提供してきたようなサービスを提供しています。
もうひとつは、「社会起業家」の広がり。「社会起業家」は「ソーシャル・アントレプレナー」とも呼ばれますが、社会変革と収益事業を両立させることをめざして起業する人々です。医療・福祉・環境など社会の問題への取り組みを「ボランティア」としてでなく「事業」として行うのが「社会起業家」だと言われます。
[No.1085] でご紹介した、私が代表となって10日ほどまえに設立した有限会社チェンジ・エージェントも、このカテゴリーに入ります。「変えたい!変えよう!という思いをカタチにするお手伝い」「そう思って実際に変えていく変化の担い手を社会に増やしていく」ことを「事業」としてやっていきたいと思っています。
もうひとつは、「従来の企業とは異なるものを志向する企業」の台頭です。もともと企業は「社会の幸せに資する」ことをミッションや存在理由として設立されてきました(戦後の起業家たちにもその例を多く見ることができます)。
ただ、現在のある意味歪んだ経済システムのなかで操業していくうちに、本来の目的からそれてしまう場合がよくあります。社会の幸せよりも、私利や株主利益や成長のための成長に走りつづけているのです。(「システム思考」的にいえば、企業にそういう短期的・近視眼的行動を取らせるよう、シグナルを出している現在のシステムが問題である、ということです)
そんななかで、「売上や利益の拡大よりも真の幸せ」を志向し、現在の経済システムのなかでは変わり者扱いされながらも、自分たちが真によいと思うあり方をめざして取り組んでいる企業(多くが中小企業です)が出てきています。
ビジネス雑誌「エルネオス」に「枝廣淳子のプロジェクトe」という連載で、「エコはエコ」(環境に取り組むことがビジネス上のプラスにつながっている)の企業事例を紹介しています。雑誌の購読や問い合わせ先はこちらです。 http://www.elneos.co.jp
この連載ではつとめて、単に「環境対応をしたらコストがいくら安くなった」という話ではなく、「企業のあり方そのものを突き詰めて考え、その考えに基づいて、カタチにしようとしている」企業を紹介していきたいと思っています。
取材にうかがうと、「まるでNGOの代表者と話しているみたい!」と思うぐらい、「夢」や「愛」「幸せ」という言葉がポンポン出てきて、しかもそれを事業を通してカタチにしようとしているので、本当にワクワクします。
この連載の第10回で、そうした企業の一つ、甲府市の向山塗料さんにうかがい、取材させていただきました。編集長の快諾を得て、ご紹介します。
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向山塗料株式会社は、山梨県甲府市で、業務用から家庭用まで、塗料の販売をしている、社員17名の会社です。
「私たちの仕事は、地球を美しくすることです」と謳い、「自給自足会社」をめざす、と明言しています。GESM(Gaia Environment Satisfaction Management)「母なる地球の環境に満足してもらえる経営・考え方」を会社経営の基盤に、GNPならぬGCH(Gross Company Happiness)を高めることを重視し、数年前からは、売り上げを前年比より下げていく「マイナス成長」を目標に掲げているという、とてもユニークな会社です。社長の向山邦史さんにお話をうかがいました。
――GESM経営やマイナス成長などのお考えの背景を教えて下さい。
環境が悪くなったら住めなくなるでしょう? いくら儲けても地球を住めない星にしてしまったら仕方ありません。私は自分の考えを表現したくて会社をやっているので、この思いを基盤に会社経営をしています。
もちろん、会社として存続しなければ、その考えも表現できませんから、両立が必要です。そういった意味では、ISO14001の取得が大きかったですね。
山梨県で確か2番目という初期の頃に取り組んだため、外部に頼れる人もなく、自分たちで懸命に勉強しました。これがよかったですね。
「環境に優しいってどういう意味だろう?」と社員全員で議論を重ねたのです。その結果「経費のかからない会社にすることだ」ということになって、「もったいない」を実行するようになりました。
みんなの力で認証を取った、という意識と自信がその後のすべての活動のベースになっています。社長が何も言わなくても、社員が自分たちで考え、自動的に経費が下がるようになったのです。
たとえば、リース車両などのリース代がかつての1000万円以上から最高で36万円まで減りました。電気やガソリンにも気をつけるようになり、社員の努力で年間1500万円もの経費が節約できるようになったのです。
この額の利益は3億ほどの売り上げに匹敵します。それなら売り上げを下げてもいいじゃないか、と平成7年から「前年比92%」などと売り上げ減の事業計画を立てています。
――確かに事務所の天井の蛍光灯には、1本1本にヒモがぶらさがって個別に消せるようになっていますね。売り上げは実際に減っているのですか?
同業会社が倒産したりという不測の事態で、残念ながら計画どおり減っていません。でも、新規開拓の営業はしませんし、社員にもノルマがありませんからゆとりがあります。人間性を壊してまで会社をやりたくはない、人の心がすさまない経営をしたいと思っていますから、このゆとりはありがたいのです。かつては社員の半分が1年でやめるほど入れ替わりが激しかったのですが、誰もやめなくなりました。
――自給自足会社というのは?
私は世界中を歩いていますが、日本はもうつぶれるなあ、と痛感します。自分たちで食べる食糧は自分たちで確保しないと、本当にダメになってしまいます。国がやるべき、と言っていてもらちがあきません。自分たち自給自足できるようになりたいと思います。
農業をやるためには時間が必要ですから、いまの週休2日を週休3日にすれば、半農半仕事ができます。しかし、お客様へのサービスの質は落としませんから、その分、人を増やす必要があります。そこで、ワークシェアリングをしながら自給自足のできる会社をめざして、社員と話しあっているところです。
3年前から会社の近くに200坪の畑を借りて、強制的に社員に使ってもらっています。出勤前や昼休み、帰りがけに、野菜を作ったりしていますよ。
――GCHというのは?
ブータンという国は、GNPではなく、GNH(Gross National Happiness:国民全体の幸せ)を大事にしているという話を聞いて、「じゃあ、うちではGross Company Happiness(社員全体の幸せ)だ」と7〜8年まえに考えたものです。
我が社はそれぞれが「ご用達」と名乗っていますが、今のお客様だけではなく、子孫の代までお役に立ちたいと思っています。これは社員自身が満たされていないと、とうていできることではありません。
うちでは「見えないものを大きくする」ことを大事にしています。売り上げなどは見える部分ですが、こちらを上げる努力はしていません。それより、社風や社徳、ブランドイメージなどの見えない部分を大きくするために活動しています。最近、社員がいろいろとやってくれるようになってきました。早朝の勉強会など
を通じ、自分の考えが浸透してきたのだなとベクトルが一致してきたことをうれしく思っています。
――向山さんは、いつから地球環境や社員の幸せを大事にするお考えを持つようになったのでしょう?
10年ほどまえ、考えすぎでひどく落ち込んでいた時期がありました。「自分って何だろう?」「会社って何だろう?」「どうしたらいいのだろう?」と。当時、上場という途方もないことを考えており、とにかく売り上げを上げろ、新規開拓して、毎年20%ずつ増やすんだ、という経営をしていました。当然社員はいつかず、補充も大変で、自分の思いが違うところへ行ってしまったような気がして、動けなくなってしまったのです。
その落ち込みの淵からはい上がってくるときに、いろいろな人の影響を受け、「自分さえよければ」という資本主義社会に生きているのだけど、自分が住みたいのは「愛」や「平和」「調和」「助け合い」「自給自足」の世界なのだ、と腹に落ちたのです。
同社は、今年夏ごろには「化石燃料50%削減」という目標を発表するそうです。置かれていたストーブはペレットストーブですし、廃食油からバイオディーゼル燃料をつくり、配達車などで使っています。また「お金のいらない社会」の研究もされているとか。
「自分がこれがいいと思ったことをやればいい。やりたいことをみんなでやればいい」という向山さんの言葉が強く温かく響くのでした。
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「私たちの仕事は地球を美しくする事です」という同社の考え方や取り組みは、HPにも載っています。一部引用させていただきます。http://www.1611mp.jp/
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向山塗料が大事だと考え、行動していること (56期経営計画書抜粋)
1.御用達 (お客様のお役にたつことが我社の最大テーマ)
○向山塗料はお客様のお役に立つために存在しています。
○ お客様のご要望をひたすら満たしご不満を解消するサービスを中心とし、向山独自のサービスを深堀し売上や利益は、その結果ついてくるものと信じ行動します。
○丁寧に行動します。小さな気配り、些細な心配り、ちっぽけなことこそ大事にします。
○社員満足度(Gross Company Happiness)を高めます。御用達のためには社員が会社に満足していることが必要です。会社としての幸せは社員の幸せの総量が大きいことです。
○御用達のできる社員の成長が会社の成長と考えていますので、研修に関しては様々なチャンスを用意して強制する部分もあります。
○社会的に責任をもった健康な社員になるため、社長と言えども飲酒運転は即刻クビ、タバコは喫みません。
○クレームは起きたことの責任は問いませんが、社長まで報告しない責任は問います。
2.GESM経営(Gaia Environment Satisfaction Management)
(いくら儲けたって地球を住めない星にしちゃったら意味がない)
大量生産、大量廃棄の現在のままの資本主義、無限競争の経済運営では、限りある地球の資源を早く食いつぶし、地球環境も早く汚してしまうことになります。私たちは「母なる地球環境に満足してもらえる経営」をすることで、子々孫々まで永続できる循環型社会の実現に努力します。
○向山塗料の最終判断基準は「それは子孫にとって良いことですか?」とします。
○「もったいない」を合言葉に、必要最小限の費用で会社運営をします。世間常識の耐用年数は無視し、ものは大事にいつくしみ、修理、修繕を徹底しその命あるかぎり大事に使います。
○廃棄物も分別すれば全て資源です。ゼロエミッションを継続します。
○菜の花プロジェクトを推進し、廃天ぷら油をデイーゼル燃料(BDF)にする事業を拡大させます。
○ISO14001は継続せず、自己適合宣言を7月中にします。
○「化石燃料50%削減宣言」を年内にします。
○高い失業率の解消と食糧危機、安全安心な食物をとるため、社員全員が自給自足のための農業にかかわり、ワークシェアリングに挑戦します。
3.見えないものを大きくします
○この世は見えるものと、見えないもので出来ています。売上高、会社の建物、社員数、どんな車に乗っているかなどは目に見えるし会社の判断をされる材料にもなっています。
○右の図は海面に浮かんだ氷山をイメージしてください。
海面である点線の上は目に見える三次元世界。売上高、建物などにあたります。
海面から下は目に見ることは 出来ませんが、この部分が大きくなればなるほど、
海面上の容積は 大きくなり、会社としての規模も大きくなります。良い社風をつくり、社徳にまで高めます。
○誰が見ても気持ちが良いといわれるよう、掃除の徹底、整理、整頓、清潔、気持ちの良い挨拶を維持し、花を絶やさず会社の近辺にも花一杯、清掃を拡げる。
○やまなし掃除に学ぶ会に全員参加します。
○生命を直接いただいた両親に感謝し、親孝行をします。
○良き日本人としての伝統を引き継げるよう、物だけでなく心、精神的なことにも関心を高める。
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「化石燃料50%削減宣言」もすばらしいですね、取材でお話をうかがったときは、着々とこの実現に向けて進んでいらっしゃるとのことでした。
「それは子孫にとって良いことですか?」という最終判断基準、今の経済のなかでは「リップサービスやイメージ戦略上はともかく、実際には......」と思う人や企業が多いでしょうけど、向山塗料さんは本気です。
そして、私たち一人一人の「最終判断基準」にしたい、と思うのです。