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ワシントン州の持続可能性実践ガイド、持続可能性の条件や定義〜ナチュラル・ステップ...
エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース
2005年11月27日
ワシントン州の持続可能性実践ガイド、持続可能性の条件や定義〜ナチュラル・ステップ、ハーマン・デーリー (2005.02.16)
[No. 909] の「アラン・アトキソンのウェーブフロント第2号」にワシントン州の『持続可能性の実践ガイド』が紹介されていました。
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持続可能性とは一般論として何を意味するかを思い出したい人、あるいはその概念を他人に伝えたい人にとって役立つ入門書が、アメリカのワシントン(北西部の州。首都ではない)でまとめられた。
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とてもコンパクトでわかりやすい冊子です。
http://www.ecy.wa.gov/pubs/0304005.pdf
ワシントン州は、知事が「わが州は持続可能性にコミットメントします」と誓約しており、州政府、企業、市民のレベルで取り組みが進んでいます。
この冊子は、持続可能性についての共通理解を深め、どのように進んでいったらよいかを明確にするために作られた市民向けのものです。
「高い生活の質とは、意味のある仕事、しっかりしたコミュニティ、そして健全でクリーンな環境が支えるものです」
「持続可能性という考え方は、私たちがコミュニティや経済、環境で直面している問題に対して、システムとして全体を考え、長期的な解決策を見出す方法です」
として、
・持続可能性とはなにか、
・持続可能性に関わる合意としてナチュラルステップのシステム条件の紹介、
・ワシントン州の現状
(人口、土地利用、エネルギー、廃棄物、交通、健康、貧困)、
・「持続可能なワシントン」へ向けての取り組み
・「持続可能性チェックリスト」
が載っています。このチェックリストを用いて、持続可能性の原則に基づく意思決定や行動を評価することができます。
今回はこの小冊子から「持続可能性の基本原則」をご紹介しましょう。
(実践和訳グループがボランティアで和訳を担当してくれています)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
●持続可能性の基本原則
多くの組織や団体が、持続可能な未来の実現をめざす目標を設定しています。その声明を見てみると、具体的な表現方法は違っていても、驚くほど一致している中心的な考え方がいくつかあります。
・システム全体を視野に入れた考え方:社会的側面、環境的側面、経済的側面を統合した、いわゆる「トリプル・ボトムライン」の考え方。
・長期的な思考:さまざまな活動の及ぼす長期的な影響を理解し、将来世代のための選択肢と機会を守ること。
・限界の認識:人々、経済、すべての生命は健全に機能する生態系に依存していることを認識すること。
・暮らしの向上:現在そして将来世代の「生活の質」をともに向上させること。
こうした考えを考慮し、世界各地の現実の状況に当てはめると、"持続可能性"を形作る基本原則が浮かび上がってきます。
・最低限必要な基本的ニーズを優先しながら、人間のニーズを公平かつ効率的に満たすこと。
・健康や環境に有害なエネルギー資源や再生不可能なエネルギー資源への依存を減らすこと。
・採掘や生産工程で自然界で分解しない有害な副産物が生成するような、限りある原材料や資源に対する経済の依存度を減らすこと。
・天然資源の生産性や効率を高めること。
・自然界で分解しない合成化学物質への依存を減らること。
・廃棄物を減らす、あるいはなくすこと。
・天然資源が減少し、生態系の活力が低下している現在の趨勢を逆転させること。
・問題が起きてから対処し解決するのではなく、問題を予測し予防すること。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「持続可能性」の定義や枠組みは、あちこちで考えられ、提唱されています。単なる「環境」ではなく、「持続可能性」というときには、上記にもあるように、環境に加えて、社会的側面や経済的側面が入ってきます。社会や経済から切り離して、環境だけ考えても、本当の意味での持続可能な社会にはならないからです。
持続可能性の枠組みのうち、よく知られている重要なものを2つ紹介しましょう。ひとつは、上記にもでているナチュラル・ステップのシステム条件です。
1) 自然の中で地殻から堀り出した物質の濃度が増え続けない。
2) 自然の中で人間社会の作り出した物質の濃度が増え続けない。
3) 自然が物理的な方法で劣化しない。
4)人々が自からの基本的ニーズを満たそうとする行動を妨げる状況を作り出してはならない
詳しい説明やイラストがナチュラル・ステップ・インターナショナル日本支部のHPにありますので、ぜひご覧下さい。http://www.tnsij.org/about/flame/f_03.html
ちなみに私が2001年に出した『朝2時起きでなんでもできる!』に書き、以来自分にとって大事な考え方としてあちこちでもお話ししている「バックキャスティング」も、このナチュラル・ステップに教わったものです。(上記HPにも載っています)
余談ですが、最近あちこちで「バックキャスティング」という言葉を聞いたり見たりするようになってきました。この考え方が広がってきていてうれしいなあ! と思います。先日は「枝廣サン、こういう考え方があるんですよ」と教えてくれた方もいました。(^^;
もうひとつは、経済学者のハーマン・デイリーが出している「物質とエネルギーのスループットの持続可能な限界」を定義する3つの条件です。
1)再生可能資源の消費ペースは、その再生ペースを上回ってはならない。
(たとえば、漁業で魚を獲る速度が、残りの魚が繁殖して数が増える速度を超えていれば、持続可能ではない)
2)再生不可能資源の消費ペースは、それに代わりうる持続可能な再生可能資源が開発されるペースを上回ってはならない。
(たとえば、石油を持続可能な利用しようとするなら、石油使用による利益の一部を風力発電、太陽光発電、植林に投資しつづけ、埋蔵量を使い果たした後も同等量の再生可能エネルギーを利用できているようにしておくこと)
3)汚染排出のペースは、環境の吸収能力を上回ってはならない。
(たとえば、二酸化炭素の排出ペースは、森林や海などの自然が吸収できるペースを上回ってはいけない)
ということです。
実際には、現在世界が排出している二酸化炭素は年に63億トンですが、土壌や生物による吸収量は14億トン、海洋の吸収量は17億トンなので、吸収量は合計31億トンです。
差し引き32億トンが大気圏に蓄積されていることになります。まったく「持続可能ではない」のです。今日発効する京都議定書が「ほんの序の口」であることはおわかりいただけると思います。
ワシントン州の基本原則、ナチュラル・ステップのシステム条件、ハーマン・デーリーの3原則を並べてみると、重なる部分が多いですね。そして「それでは経済が困るから」「すぐにできないから」等の現状や現在の問題をいったん脇において、「そもそも」と考えれば、こういった原則や条件はとても自然に、当然のことに思えませんか?
ワシントン州の基本原則の最後にあるのは、「予防原則」という考え方です。
[No.828] で少し紹介したことがあります。
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「予防原則」という言葉は、日本ではまだ耳慣れないが、北欧を中心にヨーロッパでは、単に「予防策を講じましょう」という一般的な意味ではなく、特に化学物質や環境問題に関わる政策を決定するためのアプローチのひとつと用いられている。
たとえば、経済活動に役に立つから、とある化学物質が作り出されたとする。実際に工業プロセスで用いるまえに、この化学物質の安全性を調べると、人体や環境に害を与えるおそれがあることがわかった。しかし、必ずしも科学的にはその有害性の因果関係は証明しきれない、という状況だとしよう。
これまでは、そして今でも多くの国では、「科学的に有害性が証明できないのだから、使ってもよい」と考え、話が進んでいく。しかし「科学的には因果関係が証明できないが、有害性に関してまだ不確実な部分が多いため、この化学物質を予防的に規制したほうがよい」と考えるアプローチもある。これが「予防原則」(precautionary principle)という、リスクマネジメントの考え方だ。
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特にヨーロッパの考え方について詳しく知りたい方は、 [No. 790] の「予防原則について」をご参考まで。2002年のバラトン合宿ではじめて体系的に教えてもらい、その紹介をしたものです。
予防原則についても日本でも認識が広がってきています。この原則があらゆる意思決定プロセスに組み込まれる日が早く来るといいな、と思っています。
(実践例などご存じでしたらぜひ教えて下さい!)
このワシントン州のガイドから、「持続可能性チェックリスト」の和訳もしてもらってあるので、またご紹介しますね。お楽しみに〜。