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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2005年11月27日

エコロジカル・フットプリント(2005.06.11)

大切なこと
 
前号の講演の中で、「お土産に覚えて帰って下さい」とお薦めしたエコロジカル・フットプリントについて、もう少し詳しくご紹介します。 [No.1093] で、デニスたちのメッセージをもっと広く、たくさんの人々に伝えるとともに、「システム思考」の考え方をわかりやすく示したい」と、7月刊行の本の準備を進めていると書きましたが、この本でもエコロジカル・フットプリントについて紹介しています。(この本のもとである『成長の限界 人類の選択』でも大きな役割を果たしていますので!) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  世界のあちこちから、環境が悪化しつつあるという報告が寄せられています。温暖化が進み、南極の氷がどんどん溶け、北極の氷も薄くなり、珊瑚礁が白化し、海水面がじりじりと上昇しています。酸性雨によって森林が傷つき、かつて耕地や草地だったところが砂漠化しています。健全な森は燃えないはずなのですが、世界の各地で山火事が頻発しています。  はたして、人間の活動は、地球のようすを変えるほど、増大しているのでしょうか? 地球は人間活動を支えきれなくなってきているのでしょうか?   この視点からわかりやすく現状を伝えてくるのが、「エコロジカル・フットプリント」という考え方です。「フットプリント」とは、「足跡」のこと。私たちの暮らしや経済は、地球のどのくらいの面積を踏みつけているのか? 人間活動はどのくらいの面積に支えられているのか? ということです。  「自然に対する人間の影響の総量」を、世界が必要とする食糧や木材、魚や都市部の土地などの資源を提供し、人間活動から排出される二酸化炭素を吸収するために必要な土地の合計面積として計算します。これを実際に利用できる土地面積と比較すると、「人類が地球に対して要求しているもの」と「地球が提供できる能力」との関係がわかるのです。  グラフは、エコロジカル・フットプリントの推移です。「人間が消費する資源を提供し、その排出を吸収するためにいくつの地球が必要か?」を、一九六〇年から年次で示しています。世界のエコロジカル・フットプリントは、一九八〇年代後半から、地球が提供できる能力を超えてしまっていることがわかります。人 間の現在の資源消費量は、地球が支えてくれる力を約二〇%も上回っているのです。  通常、提供できる量以上に消費することはできません。毎月の収入以上にお金を使えないのと同じです。現在のように、「地球の提供できる能力を超え続ける」ことができるのは、「もともと銀行口座に預金があったので、当面は収入以上に支出できる」という状況なのです。  いってみれば、人間の経済活動は地球上の自然資本を食いつぶしつつあり、未来世代からどんどん前借りして、現在の過剰な消費量を保っているようなものです。口座の預金がゼロになったら、それ以上は収入以上に支出し続けることはできません。同様に、人間も、いつまでも行き過ぎた消費を続けられるはずはありません。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 エコロジカル・フットプリントって、どういう目的で作られたの? どうやって計算するの? どうやって使うの? 世界や各国の数字はどうなの?--このような疑問に、とてもわかりやすく答えてくれる、読みやすい本が新しく出ましたので、ご紹介します。 『エコロジカル・フットプリントの活用ーー地球1コ分の暮らしへ』 ニッキー・チェンバース、クレイグ・シモンズ、マティース・ワケナゲル[著] 五頭美知[訳] 和田喜彦、岸 基史[解説] 定価2200円(税別) インターシフト(発行)、合同出版(発売) 目次 第1章 「進歩」の新しいかたち 第2章 進歩の指標 第3章 エコロジカル・フットプリントの土台 第4章 フットプリントの基本 第5章 活動が及ぼす環境負荷 第6章 エコロジカル・フットプリント、20の質問 第7章 世界全体と各国のエコロジカル・フットプリント 第8章 地域のエコロジカル・フットプリント エコロジカル・フットプリントそのものにそれほど興味のない方も、第1〜2章はお薦めです。私たちのめざしている「進歩」とはどういうものなのか、そして、それを測るための指標の考え方やいろいろな例など、わかりやすくまとめられています。 そのあと、エコロジカル・フットプリントの考え方の土台や計算方法をさまざまな例を用いて、わかりやすく伝え、後半は「実際に地球への負荷を減らし、物事やしくみを変えていくために、エコロジカル・フットプリントをどう使うことができるか」を示しています。単なる「学」のための学ではなく、実際に変えていくための手引書になっていて、とてもいいなぁ!と思います。 特に、これまでエコロジカル・フットプリントが対象としてきた「国」「地域」といった規模だけではなく、「企業」「大学」「家庭」といったより小さな(そして個人として、また組織として対応しやすい)規模で、エコロジカル・フットプリントを計算し、その結果を変化の原動力にしよう、という動きと実例は、とても興味深く、可能性を感じます。製品のエコロジカル・フットプリントもあります。 また、最後に載っている、同志社大学の和田喜彦先生と岸基史先生による「世界のエコロジカル・フットプリントの活用事例-欧州・英国・ウェールズの事例を中心に」も、非常に刺激を受けます。 英国では国レベルのほか、30以上の地方・自治体レベルでエコロジカル・フットプリントを計算しているそうです。ウェールズの首都カーディフ市では、エコロジカル・フットプリントの計算をした結果、「食糧消費、特に、季節はずれの食材を使用した加工食品は、エコロジカル・フットプリントを拡大させる。これを有機栽培で旬の食材を中心とする食事に変更すれば、下げることができる」ことがわかり、たとえば、市内の小中高等学校(総数140校)の給食用の牛乳がすべて有機牛乳へと変更された」とのこと。 エコロジカル・フットプリントの結果が、実際の政策変更に結びついているのですね! 担当者によると、「変更によって減らせるエコロジカル・フットプリント面積が数値として提示された結果、多くの利害関係者の同意を得られた」そうです。 これまできっと「値段」だけだった判断基準に、もうひとつの数字が登場することで、違った意思決定ができるようになったのですね。「変える」ことのできたひとつの成功事例として、とても興味深く、またうれしく読みました。 同書の第2章に「優れた指標の条件とは」があり、大変共感しました。 ○共鳴を起こすもの:明快かつ簡単に意味が読み取れること。利用者(国、地方自治体、地域社会、組織、個人など)にとって、適切であり理解できる範囲を超えていないこと。 ○正当性のあるもの:指標を導くデータが、できるかぎり包括的であり、信頼性があること(ただし、簡単に入手できて作成や取得に費用がかからないデータであるべき)。また、指標作成方法については、できるかぎり透明性が高いこと。 ○動機づけとなるもの:指標の利用者の影響が及ぶ範囲内にある問題が反映されており、利用者が変化を「起こしたり促したり」することができること。そのため、目標との関係性や経年的な動向を示したり、重要と思われる問題を扱ったりできること。 上記のカーディフ市の例は、まさに「共鳴を起こし、動機づけとなる」指標としてエコロジカル・フットプリントを用いたことで、変化を起こすことができたのですね。 西オーストラリア州政府は、「州持続可能性戦略」のなかで、「2020年までに資源効率を4倍にし、エコロジカル・フットプリントを2分の1に削減する」という目標を明記しているそうです。 エコロジカル・フットプリント削減の数値目標を公に掲げている自治体があるのですね。すばらしいです。いくら原単位あたりのCO2や効率、リサイクル率をあげても、総量が増えては改善にはなりません。「絶対的な総量」が地球に影響を与えるのですから。国も自治体もそうですが、すべての企業の環境/CSR/サステナビリティ報告書にも、「わが社のエコロジカル・フットプリント」の報告ページができる日が早く来てほしい!と思います。 アメリカでもエコロジカル・フットプリントで自分たちの進捗を測ろうという動きがあります。[No.1055] の「アラン・アトキソンのウェーブ・フロント第8号」で以下の記事を紹介しました。 > ●サンタモニカの「エコロジカル・フットプリント」改善される > > 米国サンタモニカ市は、1990年から2000年の間に、「エコロジカル・フットプリ > ント(環境負荷面積)」を5.7%縮小することができた。これは、10年間でサン > タモニカ市民が環境への悪影響を減らしたことを意味する。 > > 調査を行った米国のNGO、リディファイニング・プログレス(進歩の再定義: > Redefining Progress)によると、「エコロジカル・フットプリントとは、1年 > 間に市民が必要とする資源(食糧、エネルギー、原材料)を生産し、また市民の > 生活から排出される廃棄物を吸収するためにどれほどの土地が必要なのかを、生 > 物学的に生産可能な土地の面積で示したもの(自然の容量)である」 > > 調査の結果、サンタモニカのフットプリントは、10年間で167平方マイル(432.5 > 平方キロメートル)縮小し、市民一人当たりのフットプリントでは米国平均を4 > エーカー(0.016平方キロメートル)下回っている。米国は、国民一人当たりの > フットプリントが24エーカー(0.097平方キロメートル)と、世界最大である。 > > 「サンタモニカは、ロサンゼルスを中心とする巨大都市圏の中でも、財政的に比 > 較的豊かで、独自の政策を打ち出している。常に都市の持続可能性戦略を先頭に > 立って進めてきた、同市のエコロジカル・フットプリントが縮小したことは、彼 > らの戦略が有効であることを示している」 > http://www.regionalprogress.org/ef_ca_santamonica.html 残念ながら、日本ではまだそのような動きは起こっていません。英国などでは、エコロジカル・フットプリントを採り入れた環境教育も展開されているようですが、日本では、主に「エコロジカル・フットプリントってこういうものですよ」という啓発段階なのかもしれません。 エコロジカル・フットプリントの啓発を進め、さらにエコロジカル・フットプリントを用いて、地域や組織、家庭を変えていこう、というNPO法人「エコロジカル・フットプリント・ジャパン」が立ち上がっています。今回の本もここの努力で日本語版が刊行されました。 ご紹介してきた『エコロジカル・フットプリントの活用ーー地球1コ分の暮らしへ』に、このようなフレーズがあります。 > 私たちは「現在測定されている結果を大切にする」のではなく、「大切だと思う > ものを測定する」ように変わっていかなければならない。 企業の環境/CSR/サステナビリティ報告書を見ていても、政府・自治体・企業・NGOその他の活動を見ていても、また、個人の幸せを考えても、本当にそうだなあ!と思います。そのような「考え直し」のひとつの切り口に、本書をぜひどうぞ! 最後に、同書の最後のメッセージを送ります。 「世界のあらゆる街角で、とくにそれと知る必要もなく、私たちは「地球市民」 となった。すべての人がそれぞれの役割を担っている。みんなが一緒になれば大 きな一歩を踏み出せるし、私たちの望む世界を創ることができる。   さあ、一緒に動き出そう」。
 

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