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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2005年11月28日

アラン・アトキソンのウェーブ・フロント第11号(2005.11.28)

 
バラトングループの仲間で、サステナビリティ(持続可能性)コンサルタント&シンガーソングライターとして活躍しているアラン・アトキソン。昨年日本に招聘し、東京と大阪でエコ・ネットワーキングの会を開催したので、会っていただいた方も多いと思います。そのアランが来年から新しい活動を始めます。 「地球憲章」の取り組みを大きく広げていこうと新設された「International Transition Director」に着任したのです。地球憲章については、下記のアランのニュースレターにも説明がありますが、詳しくは、 http://www.earthcharter.org/ (英語) http://www.hirowaka.com/earthcharter/ecc_j.html (日本語)などをごらん下さい。 そのアランからの「アトキソン・レポート第11号」を実践和訳チームの翻訳でお届けします。「経済や世の中のしくみを変えるには経済学が変わらないと......」と思っていらっしゃる方、要注目!の内容がわかりやすく解説されています。 また、サステイナブル・ピッツバーグなど、とても興味深いプロジェクトについても載っています。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「アトキソン・レポート第11号」 Sustainability Change Agent Network (S.C.A.N.)のニュースレター 2005年8月4日発行 S.C.A.N.はアトキソン社(AtKisson, Inc.)が提供しています。 今回のニュースレターでは...... ・新しい経済理論をご紹介します。国や地域レベルでの持続可能性の評価方法に、変革を起こす可能性のある理論です。 ・また、気候に関する最適で一番使いやすい情報をすぐに見つける方法をお教えします。 ・さらに、国際的な地球憲章イニシアティブについて、皆さまのアイデアや考え、意見などをお聞きしたいと思います。 目次 ◆検索/置換すべし: 「包括的な富」(または「包含的な富」:inclusive wealth)理論の紹介 ◆ニュースの活用法: クライメート・グループと、ブログサイト「リアル・クライメート」 ◆アトキソンからのお知らせ:地球憲章、グリーンなショッピングセンター、アチェ州に「ピラミッド」、など ◆持続可能性にまつわる語録 ----------------------------------------------------------------------- <検索/置換すべし:持続可能な発展の実践にまつわる不定期なコラム> アラン・アトキソン 「包括的な富」(inclusive wealth)理論の紹介 このコラムでは、まさに世界を変革する可能性を秘めた新しい経済理論について、数式を使わずに分かりやすく解説する。「包括的な富」をご紹介しよう。 「包括的な富」とは、専門的に言うと、新古典派経済学を複合的に改良したもので、自然、人工資本、人間の福祉、人間の知識という重要な資本ストックに、計算価格(つまり代替価格)を用いて値段を付ける理論である。 こうしたものに値段を付けることにとても抵抗を感じる人もいれば、難解な方程式や経済学全般が苦手、という人もいる。しかし、現在の世界的なジレンマの核心をなす経済学の根本的問題を解決するには、この理論は私が知る限り最高の試みである。 経済学が抱える問題を解決すれば、世界に数多く存在する、現状ではきわめて変革の難しい問題が、格段に解決しやすくなるのだ。 まず、背景についてご説明しよう。(続きはニュースレターの最後へ) ----------------------------------------------------------------------- <ニュースの活用法:情報をどう処理するか> 気候に関するデータの情報源 気候変動緩和の費用便益分析について、あるいは気温が本当に「記録的」かどうか、議論しているとしよう。あなたは最適なデータをどこから得るだろうか? 特に役に立つ情報源として、2つのサイトがある。英国のNGOクライメート・グループ(Climate Group)のウェブサイト(http://www.theclimategroup.org)とリアル・クライメートというブログサイト (http://www.realclimate.org)である。 クライメート・グループのウェブサイトでは、気候変動の影響に関する基礎データがすぐに見つかるのはもちろんだが、もっと興味深いのは、気候変動緩和に率先して取り組む地方自治体や国、企業のケーススタディーである。 気候変動緩和でかかったコストや、逆に削減できたコストなど、政策議論や新しい取り組みを行う際のプレゼンテーションで考慮すべき重要な情報が掲載されている。このサイトを見れば、解決に主眼を置いた、気候変動に関する中心的取り組みについて、政治や経済の観点から最新情報が得られるのだ。 リアル・クライメートのサイトでは、最新の科学的な情報や議論を、便利な要約形式で追うことができる。例えば、今年は記録的な夏だったが、サイトにはそのデータがあり、それを裏付けるリンク先も載っている。さらに、本当に議論の価値がある、気候科学や政策に関する最新情報を得ることができる。プレゼンテーションの準備に大変役立つサイトである。 気候は、持続可能性に関する対話や行動を促進する課題の中で、300キロを超える巨大なゴリラのように影響力が大きく、当分その力は変わらないだろう。もちろん本物のゴリラたちは現在大変な状況にあり、彼らの苦境も、われわれを持続可能性に関する行動へと駆り立てているはずだが。だから、気候に関する情報を十分に、そして巧みにわれわれの活動に活用し、地球規模の課題が深刻であることを人々に気付かせよう。 ----------------------------------------------------------------------- <アトキソングループからのお知らせ:世界のパートナーとの協力状況> ●地球憲章 ―― 皆さんのお考えをお聞かせください。 現在アトキソングループは、国際的な地球憲章イニシアティブの戦略的な見直しのプロセスに参加しており、皆さまのお考えをぜひお聞きしたいと思っています。 さて、どのようにお考えでしょうか? 地球憲章をご存じですか? もし皆さんがご自身を持続可能性の専門家とお考えなのに、地球憲章についてお聞きになったことがないとしたら、そのこと自体が私たちにとって重要な情報です。また、皆さんが地球憲章をご存じか、あるいは深くかかわっておられて、この取り組みを主導する人たちが今何をすべきかについてご意見をお持ちでしたら、ぜひメールでお知らせください。 「地球憲章とは何ですか?」と聞かれる方もいらっしゃるかもしれません。地球憲章は、持続可能な開発のための中核的な倫理原則についての国際的な合意声明です。この声明は、1992年にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)から生まれたものですが、国連主導のものではありません。 この文書を作成した委員会は、市民団体のみで構成されています。もっとも、委員会のメンバーは、モーリス・ストロング、ワンガリ・マータイ、ミハイル・ゴルバチョフなど、持続可能な開発の国際活動における重鎮一同といったところですが。しかし、実際に世界各地で行われている活動は、もっと小規模な、主にボランティア主導の取り組みです。 憲章の効果はあったのでしょうか? もちろんです。ロシア連邦の共和国諸国では地球憲章に基づいて法律の見直しが進められ、IUCN(国際自然保護連合)は最近国際的な承認を行いました。コスタリカの教育課程にも影響が及んでいます。もっと大きな影響を及ぼしうるでしょうか? それこそ、今まさに私たちが、この秋にアムステルダムで開催される地球憲章完成5周年の大会の前に作り出そうとしているもの、あるいは少なくともそうしようと計画しているものです。 地球憲章イニシアティブのサイトで、地球憲章のダウンロードと最新の年次報告などの閲覧ができます。 http://atkisson.c.topica.com/maadBnQabjcI9b6HuClb/ 皆さまのお考えを、feedback@atkisson.com宛にメールでお寄せください。最近スパムメールが多いので、サブジェクトの欄に「Earth Charter」と書いていただけると助かります。 ●すべてをグリーンに変えようとしているサステイナブル・ピッツバーグ 当然ではありませんか。ほぼすべてのものをグリーンにする必要があるのです。私たちの長年のクライアント、サステイナブル・ピッツバーグ(Sustainable Pittsburgh)は、各種の地域財団や有料会員に支えられているNGOの連合で、社会の流れを大きく変える可能性がある2つの行動計画を開始しました。 1つ目は「持続可能な地域社会500」プロジェクトで、ペンシルベニア州南西部の500を超える全市町において、持続可能な開発に役立つプロジェクトあるいは取り組みを、少なくとも1例ずつ集めることを目指しています。この優れた活動事例を集めるプロジェクトは、部分的に州政府の資金援助を得ています。そして、持続可能性というのは、これから誰でも目指すことができるだけではなく、地域のどこでも、ほぼ全員が、何らかの形で、既に目指して取り組んでいるのだ、ということを明らかにするのに役立つはずです。 2つ目のプロジェクトはもっと具体的です。地域のショッピングセンターの"グリーン化"を支援しようというのです。現在のこのショッピングセンターは、グリーンには程遠く、むしろ典型的な米国のスプロール型ショッピングセンターの例としてうってつけです。 サステイナブル・ピッツバーグは、まずショッピングセンターの経営陣と信頼関係を築いた後、この地域のエネルギー、水、建築、地域社会活動などの専門家のグループを作り始めました。そして、この企画を始めるにあたってパーティーを開く予定です(とても気の利いた方法ですね)。 その後、専門家たちは、もっとグリーンで、もっと持続可能性が高く、そしてもっと利益を上げられるようにするために、ショッピングセンターに何を取り入れるかを検討することになっています。 私たちの役割は、戦略の面で若干支援をしていること、それにグリーンなショッピングセンターの最新技術について小規模な基礎調査を行ったことです。私たちの調査結果(現時点ではやや薄いものですが、優れて進歩的な対策をいくつか明らかにしました)のコピーをご希望の方は、ご連絡ください。 (エダヒロ注:資料は英語です。ご希望の方は、英語で直接アランまでご連絡ください。info@atkisson.com ) 活発に活動を続けるNGO連合、サステイナブル・ピッツバーグについてもっと知りたい方は、連合のサイトをご覧下さい。 http://atkisson.c.topica.com/maadBnQabjcJab6HuClb/ ----------------------------------------------------------------------- 本の販促キャンペーン アラン・アトキソンはロンドン同時多発テロ攻撃の前日に、ロンドンのフロントライン・クラブ(戦争や飢餓などの危険を伴う取材をする記者たちのたまり場)で、アーススキャン社の『仮邦題:国の自然優位』(The Natural Advantage ofNations)を紹介するイベントを開きました。同書は1月に出版されたのですが、出版社によれば、地元の読者にきちんと紹介されていなかったからです。オリンピック開催決定のニュースで忙しかったにもかかわらず、まもなく自国で戦時のような取材にかりだされることも知らず、相当数の記者が集まりました。 ナチュラル・エッジ・プロジェクト(同書を実質的に執筆したオーストラリアのグループ。アトキソングループのネットワークのメンバーでもある)のシェリル・パテンがたまたまロンドンで休暇中だったため、思いがけず彼女が直接本を紹介することになりました。参加者には飲み物が無料で振る舞われました。 このイベントについてのアランのコメントは次のURLに載っています。(アランはその朝スコットランドの国会で演説したため、幸いテロは逃れました。) http://atkisson.c.topica.com/maadBnQabjcJbb6HuClb/ 本書についてはwww.AtKisson.comのトップページと、実質的な編者であるナチュラル・エッジ・プロジェクトのホームページでも紹介しています。 http://atkisson.c.topica.com/maadBnQabjcJcb6HuClb/ アーススキャン社への注文はどちらのサイトからも可能です。 アチェ州に「ピラミッド」? アラン・アトキソンは東南アジアの提携者であるゴントン・ローズアミーとロバート・スティールとともに、先日バンコクで3つの素晴らしい専門家グループに対し、当社の「アクセラレーター」というツールの使用訓練のためのワークショップを10日間行いました(エダヒロ注:ピラミッドとはアランのツールのひとつです)。アランのバンコクからの報告はWorldchanging.comのホームページに掲載されています。 http://atkisson.c.topica.com/maadBnQabjcJdb6HuClb/ アランは次のように述べています。 「私が今回のワークショップで一番感動したのは、人々がどのようにツールを使っているか、または使おうとしているかを知った時でした。特に、スマトラのアチェ州で象の保護活動をしているティスナ・ナンドのことをよく思い出します。 彼女が活動している地域では、村々の大半とそこに住む人々が津波によって壊滅的な被害を受けました。このため、彼女の関心はおのずと、象の保護から人々の生活再建の支援(特に象に害のない形での)に移ったのです。彼女は、村のリーダーたちがより持続可能な村づくりを計画できるように、研修・計画立案用の「ピラミッド」モデルをアチェに導入しようとしているのだと語りました。私はインスピレーションに富んだ話し手だと思われていますが、私にインスピレーションを与えているのは、ティスナのような、自分たちの地域を救うためにあらゆる困難に立ち向かっていく人々とともに働くことなのです」 アチェでの仕事については次のURLに掲載されています。 http://atkisson.c.topica.com/maadBnQabjcJeb6HuClb/ <持続可能性にまつわる語録> 世の中は改善するにせよ、悪化するにせよ、ますます速い変化を遂げている。 トム・アトリー 「コ・インテリジェンス」の理念を提唱する米国の作家・思想 家(訳注:米国のNPO、コ・インテリジェンス・インスティテュートの主宰者) ----------------------------------------------------------------------- トップニュース(続き) 「包括的な富」理論の紹介  まず、背景についてご説明しよう。 世界的に採用されている国民経済計算体系にゆがみが生じていることは、公然の秘密である。通常の国内総生産(GDP)は、今なお世界が経済発展を測る際の一番重要な数字になっている。しかし、中国でさえ「グリーンGDP」に本腰を入れて取り組む時代、通常のGDPのどこかに不具合が生じているに違いないということは、今や誰もが気付いている。 私たちが、一国の「経済成長」という場合、実際には「GDPの増加」を指し、「GDPの増加」は、市場でのお金のやりとりの増加を意味する。ドルや元、リンギット、ユーロ、ルーブルを使えば、GDPは増加する。一方、ジャガイモを植えたり、靴下を繕ったり、午後に近所の子供の面倒を見たり......これらはどれも、その見返りとして支払いが生じない限り、GDPの観点からは何の意味も持たない。 GDPが抱える問題は何十年もの間よく知られてきたが、これに目が向けられることはほとんどなかった。GDPの問題の1つは、今述べたように、現金化されないという理由だけで、非常に多くの経済生産活動が無視されていることだ。そしてもう1つは、「悪いことには目をつぶっている」ということである。 すなわち、待望の新型コンピュータを買うために使われる1,000ドルも、家からコンピュータが盗まれてその代わりを買うために使われる1,000ドルも、全く同じと見なされる。車の事故、がん、暴風による損害......これらがお金の流れをどんどん加速させる限り、GDPの観点からはすべて好ましいことに見える。 この20年間で、時折だが、GDPという指標の改良に向けた取り組みが少しだけ話題に上ったことがあった。中でも一番注目されたのは、1995年当時、リディファイニング・プログレス(RP:「進歩を再定義する」という意味の米国のNGO)が行った世界でも数少ない研究活動の1つだ。 これは、「持続可能な経済福祉指標」(ISEW)を少し形を変えて広めていこうという取り組みである。ISEWは、ハーマン・デイリーとジョン・コブが共著『仮邦題:公共の利益のために』(For the Common Good)の中で初めて紹介したもので、リディファイニング・プログレスによって「真の進歩指標」(GPI)へと衣替えをした。 これに関するニュースは、1995年10月に『アトランティック・マンスリー』誌の表紙を初めて飾った。GPIは、悪い要素をGDP全体に足し合わせるのではなく、GDPから差し引く。そのため、環境面の損失や社会問題増加の煽りを受けて、1970年代あたりからGPIは下降線をたどり、「事態は次第に悪化している」 というメッセージを伝えている。(片や、GDPは一貫して、「事態はどんどん良くなっている」という信号を発信し続けている) カナダはこのほど、国民経済計算体系の改革案を打ち出した。GDPの「比重を軽減」し、主要な6指標の1つとして扱うというものだ。それでも全体的にみれば、GDPは今なお世界中で「あらゆる指標の王様」として君臨し続けている。 「包括的な富」の原点 ここで、ノーベル経済学賞受賞者のケネス・アローを紹介しよう。彼は、スタンフォード大学の経済学者で、世界をリードする経済学者や生態学者から成る国際的かつ学際的なグループの一員でもある。このグループは4年間、私的なセミナーや議論の場を設けたり、論文の草稿を書くなどの活動を続け、その後2年間は、主流の経済学術誌の門をたたき続けた(各専門分野の世界的リーダーたちが名を連ねていたにもかかわらず、どの学術誌も、経済学への「学際的」アプローチにそれほど高い関心を示さなかった)。そしてついに彼らは、画期的な論文を発表するに至ったのである。 『仮邦題:われわれは過剰に消費しているか?』(Are We Consuming Too Much?)と題するこの論文は、地球規模で問われるこの根源的な問いに対して、純粋に経済学的な観点から答えを出そうとしている。 この論文は2002年にまとめられたが、『仮邦題:ジャーナル・オブ・エコノミック・パースペクティブズ』誌(Journal of Economic Perspectives)に掲載されたのは2004年になってからである。(学際的論文の掲載に当たって、編集局側を説得するのにこれだけの時間を要したのだ) また、この論文では、「包括的な富」の基本的な考え方を紹介するとともに、現実世界のデータを用いてこの考え方を展開するという初めての試みも行っている。 最近の経済学や生態学の変遷に詳しい人にとっては、以下に挙げる著者の顔ぶれはそれだけで感動的である。ケネス・アロー、パーサ・ダスグプタ、ローレンス・グルダー、グレッチェン・デイリー、ポール・エーリック、ジェフリー・ヒール、サイモン・レヴィン、カール-ゲラン・メーラー(Karl- Goran Maler)、ステファン・シュナイダー(Stephen Schneider)、デイビッド・スターレット(David Starrett)、ブライアン・ウォーカー。 では、「包括的な富」とは、具体的にどういうことをいうのだろうか? これは、経済システムにおけるすべての重要な資本ストックの金銭的な価値が、時間の経過でどのように変化したかを、実質価格で測定しようという試みである。 資本ストックとは、例えば、自然資源や生態系、人工資本、人間の福祉、人間の知識などをいう。「包括的な富」は何をもって「包括的」というか、その根拠は2つある。1つは、経済発展の中で本当に大切なことを残らず網羅しようとしていること(これは、経済学においてさえ初めての試みである)。そしてもう1つは、将来世代の利益を包含することである。これこそが、正真正銘の持続可能性の経済学である。 これを考え出した著名な経済学者と生態学者のチームにとって、「持続可能性」とは次のようなことを意味する。すなわち、あらゆる形態の富について、その価値が時を経ても目減りしないこと。例えば、分水域はその機能が失われることなく、インフラ基盤も崩壊することのないまま、知識の蓄積(およびその知識を有する健康な人々)であれば低レベルになり縮小するのではなく、質量ともにますます豊かさを増す状態で、次世代へと引き継がれなければならない。 持続可能性は、常にこれらすべての資本ストックの価値が維持あるいは増大しているかどうかで測る。もしそうなっていなければ、今、あなたは進路を変えるべきだ。あるいは来るべき大事に備えて、ローマの大火をよそにバイオリンを弾いていた暴君ネロにならうべく、楽器の練習でもしておくか。 この手法の特筆すべき重要な特徴は、計算価格を用いていることだ。人間界では、これを「実質価格」と呼んだりする。この価格は、その資産の代わりを用意する際に実際にかかる費用(例えば、破壊された水源の代わりを用意するのに、実際にどれだけの費用がかかるか)を反映するもので、市場の評価が変わっても変動しない。ある研究チームが、フィールドプロジェクトに関連して次のように書いている。「われわれが求めているのは、資産がどれだけ変化するかの値であり、資産の価値がどれだけ変化したかではない」 『われわれは過剰に消費しているか?』には、興味深い表が載っている。世界銀行などのデータを基に、たくさんの国の従来型の経済成長指標(GDP)と、同じ国における「包括的な富」について、30年間の分析結果を比較したものだ。当然のことながら、この新しいレンズを通すと、世界の様相はまるで違って見える。 持続可能な富という視点で分析すると、中東諸国やアフリカ各国では、状況の悪化が深刻なのだ。これらの国のGDPの成長率はマイナスではないのに、である。インドも過去30年間、平均3%前後の経済成長を示しているというのに、「包括的な富」の成長率はほぼゼロに近い。この国では、貧困層の投票行動によって政権交代が行われ、その展開に富裕層は泡を食うことになったのだが、その理由がこの分析からも示されるかもしれない。バンガロールのIT産業のおかげでGDPは伸びても、スラムの住人にはその恩恵が感じられなかったのだ。 「包括的な富」の活用 ここで仮に、「『包括的な富』は、経済学にぽっかり空いている穴を埋める美しい新理論であり、現在の正統派理論よりも現実を正しく反映しそうだ」という私の評価が受け入れられたとしよう。では、実際に活用した場合、この「包括的な富」は何を意味するだろうか? 現在この実践研究を行うため、著名な機関に籍を置く複数の研究チームが、スウェーデン(ストックホルム郡)とオーストラリア(ビクトリア州のグールバーン・ブロークン集水域)において、地域レベルのプロジェクトに取り組んでいる。 数字が出るまでには、数年かかるだろう。真の代替価格をすべてのものに付けるのは、たやすくないからだ。例えば、ビクトリア州グールバーン・ブロークン集水域で花粉を運ぶ生物の代わりを用意するには、実際にいくらかかるのだろうか? しかし、地域の持続可能性を評価しようというストックホルム郡政府プロジェクトでは、当該地域での試行結果を今すぐにでも知りたがっている。「包括的な富」の変化を知ることが、地域計画目標の達成度などを測る上で、最善の総合指標となり得るからだ。(当社が、この測定方法を取り入れるようにと助言したことに、注目されたい) 世界レベルでも、もし長期的な真の富の変化が分かるような優れた指標があったなら、そして、その貸借対照表を見ると自然のシステムや人間の幸福の真の価値が分かるとしたら、投資の際に全く違う決定が下されることだろう。実際、これは既にあちこちで、断片的に起こりつつある。例えば保険会社が地球温暖化の費用を計算し始めたりしている。 「包括的な富」は、このような考え方を、完全に総合的な形で主流派経済学に組み込もうとする、現在最善の取り組みといえる。「包括的な富」は、GDPの代わりに使われるようになるだろうか? いや、実はそうなるべきではないのだ。GDPは、その測定対象、つまり貨幣化された経済活動レベルの測定においては、素晴らしい役目を果たしているからだ。 しかし、GDPの「現金収支一覧表」には、詳しい内容が示されていない。だから、「包括的な富」が成熟した折には、その「貸借対照表」として機能し得る。そして、われわれが何としても知らなければならないことを教えてくれるようになるだろう――「われわれの経済は、持続可能な方向に向かって進んでいるのだろうか?」 情報源(注:以下のリンク先はすべて英語のみ) 『われわれは過剰に消費しているか?』ケネス・アローほか http://atkisson.c.topica.com/maadBnQabhB83b6HuClb/ 『GDPが上がっても、なぜアメリカは低調なのか?』クリフォード・コブ、テッド・ハルステッド、ジョナサン・ロウ アトランティック・マンスリー 1995年10月 http://atkisson.c.topica.com/maadBnQabhB84b6HuClb/newmedia/articles/9510_atlantic.pdf GDP/GPI――ワールドチェンジング http://atkisson.c.topica.com/maadBnQabhB85b6HuClb/ ストックホルム郡プロジェクト――ベイエ生態経済学研究所 http://atkisson.c.topica.com/maadBnQabhB86b6HuClb/ オーストラリアプロジェクト――CSIRO(オーストラリア連邦科学産業研究機構) http://atkisson.c.topica.com/maadBnQabhB87b6HuClb/ GDPの基礎 http://atkisson.c.topica.com/maadBnQabhB88b6HuClb/ 中国のグリーンGDP http://atkisson.c.topica.com/maadBnQabhB89b6HuClb/ カナダの新指標 http://atkisson.c.topica.com/maadBnQabhB9ab6HuClb/ ケネス・アロー経歴 http://atkisson.c.topica.com/maadBnQabhB9bb6HuClb/ ----------------------------------------------------------------------- クレジットおよび問い合わせ先 原文著作権はアトキソン社(AtKisson, Inc.)に帰属しています。 ニュースレターの転送・複製はご自由にどうぞ。 投稿やフィードバックを歓迎します。こちらまでメールでお送り下さい。 feedback@atkisson.com. ご質問はありませんか? 持続可能性に関して私たちのお手伝いが必要でしょうか? こちらまでメールをお送り下さい。私たちの仲間が直ちにお答えします。info@atkisson.com インターナショナル・コミュニケーションズ・チーム アラン・アトキソン(会長) マイケル・ラン(ビジネス開発とコミュニケーションの責任者) ベティ・ミラー(運営コーディネータ) 私たちのホームページへどうぞ! http://www.atkisson.com/ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 サステイナブル・ピッツバーグの「ペンシルベニア州南西部の500を超える全市町において、持続可能な開発に役立つプロジェクトあるいは取り組みを、少なくとも1例ずつ集める」というプロジェクト、いいですね! 「日本でもできそう」「日本でもやったらいいのに」と思われました? 実はすでに全国規模でやっているんですよ! 日本の持続可能性への動きを世界(と国内)に発信しているジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)の活動です。http://www.japanfs.org/index_j.html こちらがその情報データベースです。 http://www.japanfs.org/db/index_j.html 見ていただくと、日本の津々浦々、自治体だけではなく、企業やNGO、政府の取り組みが山のように載っています。(検索もできますので、雪崩を起こさずに見ていただけます。^^;) 「プレーヤー」で「自治体」を選んで検索してみると、今朝の段階で225件ヒットします。「うちの自治体、載っていないなー」と思われたら、ぜひ環境への取り組みを探して、JFSに教えて下さい(このメールへの返信でもOKです)。日本中の自治体の環境への取り組みを集め、世界に発信したいなあ、と夢見てい ます。 それから、GDPとGPIの議論については、私もよく話をします。こちらに載せておきましたので、ご興味のある方はぜひどうぞ。 http://www.es-inc.jp/lib/archives/051128_070040.html まえに「エコロジカル・フットプリント」について書いたことがあります。 http://www.es-inc.jp/lib/archives/051127_072001.html そこで紹介した『エコロジカル・フットプリントの活用ーー地球1コ分の暮らしへ』に、とても大事なフレーズがあります。 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4772695028/junkoedahiro-22/249-2919328-9475557 > 私たちは「現在測定されている結果を大切にする」のではなく、「大切だと思う > ものを測定する」ように変わっていかなければならない。 持続可能性へ向けての活動だけではなく、個人の生活や幸せについても、まったくそのとおりだなあ!と思います。
 

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