ホーム > 環境メールニュース > つなぎ、つながることで変化を起こそう!(2006.01.16)

エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2006年01月24日

つなぎ、つながることで変化を起こそう!(2006.01.16)

大切なこと
 
今年最初の号に、このように書きました。 「ここ数年間のマイ・キーワードは、「変化」です。実際に変えていかなくちゃ間に合わない。でも自分や元々関心のある人たちだけが変わるだけでは足りない。「変化のドミノ」をどうやってカタカタと倒すことができるのか? 「変化のうねり」をどうやったら作り出すことができるのか? 「自分が変わる。そして、人も変えていく」変化の担い手(チェンジ・エージェント)をどうやってサポートできるのだろう? そうと気づいていない人たちに「自分もチェンジ・エージェントなんだ」と気づいてもらうには? そうと気づいて活動している人たちに、その活動をもっと効果的にしてもらうには? 「変化を伝染」するために、何が必要なのか?」 このような意識が強いため、「変化」「change」という言葉に敏感に反応してしまう今日この頃です。(^^; 私はいくつもの日本国内の情報提供・交換のML(メーリングリスト)に入って情報をいただいていますが、海外の同様のMLにもいくつも入っていて、世界各地からの情報をもらっています。 そのひとつに、シューマッハ協会からのニュースレターがあります。11月に送られてきたニュースレターに、「Connecting for Change」というタイトルのスピーチ録が載っていて、「変化」に「つながり」というダブル・キーワードにびびっときました。(^^; 「訳して日本で紹介させてもらえませんか?」とメールを出したら、同協会の事務局長であるご本人から「ぜひどうぞ。日本語訳ができたらこちらのウェブにも載せたいので、送ってくださいね」と打てば響くお返事が届き、実践和訳チームにお願いして、訳してもらいました。 持続可能な社会や未来をつくるためには、「経済を変えなくてはならない」ことは疑問の余地はありません。これまでの経済システムが、地球の限界を超えそうな(すでに超えている)環境負荷を与えているからです。 「経済を変える」ためには、経済システムの構成要素である「土地」「労働」「資本」のしくみや意味、位置づけを変えていかなくてはなりません。 スーザンさんのスピーチには、この3つの構成要素の「明日の姿(あるべき姿)」と、実際にそのビジョンが実現しつつあるようすが描かれていて、わくわくします。バイオニア・バイ・ザ・ベイ総会(末尾参照)の本会議でスーザン・ウィットさんが行った講演の要約をご紹介します。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「変革に向けた連携」 スーザン・ウィット 2005年10月15日 マサチューセッツ州ダートマスで開催された「バイオニア・バイ・ザ・ベイ第1回総会―変革に向けた連携―」で行われた講演 地震、ハリケーン、津波、そして洪水や火事といった大災害が世界の各地を襲い、人々や、コミュニティ、自然の生態系が、大変な被害を被り続けています。この数週間、いえこの数カ月、この1年間、そういう悲惨な出来事を伝えるさまざまな報道を、皆さんと同じように私も、見聞きしてきました。皆さんが深く悲しまれたように私も深く悲しみました。皆さんと同じように私も、何とか助けになりたい、少しでも慰めになりたいと心から願ってきました。皆さんと同じように私も、問題のあまりの大きさにただただ圧倒されどうしたらよいか途方にくれています。 人々を打ちのめした苦しみと打撃を、被災地から遠く離れたところに住む私たちはどうすれば理解することができるでしょうか。コミュニティの惨状がどれほどひどいものか、どうすれば把握することができるでしょうか。自分たちの住んでいた場所や村があった土地、代々の人々の思い出が積み重なった、そして皆で夢を育んだ土地の景観全体が丸ごと変わってしまうという出来事を、私たちはどうすれば想像することができるでしょうか。 しかしこの押しつぶされそうな苦難の底から、活気のある声が新たに聞こえてきます。すべてを失ってしまったばかりと思われる人々が、自分たちのコミュニティを再建しようと話し合う声のようです。その声には、不屈の意志や連帯の精神、コミュニティが必要だという信念、その土地についての知識に裏付けられた行動、一緒に頑張れば目標に到達できるのだという自分たちの力への信頼を示す響きがあります。 行政が主導した動きではありません。事実、地域住民たちのそうした動きは、行政の援助が曲がりなりにも届いているところだけでなく、全く届いていないところでも起きているように見えます。どこかごちゃごちゃしていて、あまり組織だってはいません。しかし予想もしていなかったようなリーダーシップが発揮され連携が生まれています。その動きを見て素人レベルのものだと揶揄する人もいるかもしれません。しかしあふれるような活気に満ち、驚くほどの寛大さ、お互いへの思いやりがあります。 それはまさに、市民たちが動かす列車だと言えます。シュッシュッポッポッと蒸気をあげながら前進し、一つ一つ問題を解決していきます。橋が必要になれば、手持ちの材料でそれを作り上げます。多様なコミュニティの住民を一人残らずすべて運ぶことができる頑丈な橋を。 スマートには見えないかもしれません。十分に効率的に設計されたものではないかもしれません。しかしそこには、前向きに進もうとする熱いエネルギーがあります。皆と力を合わせて働く中で、誇りと喜びが人から人へ伝わっていくのを感じることができます。自分もその活動に参加してみようと誰もが思う、そういう動きだということは確かです。 こういう動きが現れてきたことに、私は希望を抱いています。地域経済は、グローバル経済が生み出す、洗練されてはいるけれど画一的で個性のない産物に追いやられ、埋没してしまっています。ですから、こういう精神こそが地域経済を立て直すために必要だと思うのです。 この地域経済の再建という問題に対応する一つの公式なんてものはありません。コミュニティは一つ一つが異なっており、土地の景観もそれぞれに違い、それぞれの地域には独自の文化があります。そのためそれぞれに合ったやり方が必要です。しかし、フリッツ・シューマッハーが言うところの「永続する経済」を地域に築こうとするなら幾つかの一般的な原則があります。 どの経済システムにも、土地、労働、資本という三つの構成要素があります。土地および天然資源はすべての生産の基本となり、労働は原料を製品に変え、資本は労働を組織だて、商品の流れを促進します。 もしも私たちが持続可能な経済システムをゼロから築いていくというのであればどうだろう、と想像してみてください。かつては生産力のあった町の50戸の家々のうち、ほんの数戸の家、あるいは農場が一つ残っている、そういう状況に手を加えていくというようなことではないのです。自然災害に見舞われた人たちが彼らのコミュニティを再び建設しようと勇敢に立ち上がる、ちょうどその時のように、私たちもまた勇敢に立ち上がろうとしているのだと思い描いてみてください。 私たちが築こうとしている地域経済では、土地はどういう役割を果たすことになるのでしょうか。自分たちの家を建てたり、健全な環境を維持したり、一般社会で必要とされる製品をつくったりと、土地は私たちの誰にとってもなくてはならないものです。 米国の偉大な自然保護主義者、アルド・レオポルドは、土地を個人資産として扱わないよう警告しました。彼の論理では、「土地は私たちが住む一つの共同体であって、商品として売買されるものではない」のです。人は皆土地を必要とするため、土地やその他の天然資源を商品として扱うと、その所有権を持つ人が不当に利益を得ることができるのです。 地価は、所有者の労力によってではなく、単にこの需要の集中によって上昇します。19世紀の政治学者、ヘンリー・ジョージは、こうした投機による利益を不労増価と呼んで、これが経済システムを歪めているのであり、本来価値のないものに値段をつけ、富を不当に動かしていると指摘しました。 では、新たな持続可能な経済に向けて思い切った計画を進める中で、土地を商品化しないということにどう取り組んでいけばよいのでしょうか。シューマッハー協会の初代会長、ロバート・スワンは、ヘンリー・ジョージとその後継者であるレオ・トルストイや、ガンジーの弟子であったヴィノバ・ブハヴに刺激を受け、北米にコミュニティ・ランド・トラストという新たな土地の賃貸システムを立ち上げました。 ランド・トラストは誰でも入会できる地域の非営利法人で、理事は民主的に選出されます。ここでは、寄付や購入によって土地を取得し、地域の必要に応じた土地利用計画を立てます。そして、その土地を貸し出すのです。人が所有するのはその土地に建てられた建物だけで、土地そのものではありません。 持ち主が建物を手放す場合はランド・トラストが買い取ることになっていますが、その価格は、劣化に応じて補修を加え、調整した再取得価額より高額になることはありません。所有者は、土地などの天然資源を利用した労働の対価を得ることはできますが、土地の価値そのものは、そのコミュニティのものです。こうしたランド・トラストが、その地域で十分利用され、土地の大半を所有すれば、土地の経済的役割は変化するでしょう。 米国には150以上のコミュニティ・ランド・トラストがあります。これらは大手供給者の一つとして、全米で常に手頃な価格で持ち家を提供していますが、土地改革の媒体としての潜在能力を出し切っているとはまだ言えません。 変革をもたらすには、一般市民が進んで参画し、思い切った改革に尽力する必要があります。自分たちの持っている土地の所有権について考え直したり、人にもそれを促したりする勇気が、私たちにはあるでしょうか。すぐにでもそうしなければならないのだと、気付いているでしょうか。その地域のコミュニティに、土地で得る投機利益すべてを差し出す覚悟があるでしょうか。新しいビジョンに、どこまで本気で取り組めるでしょうか。 また、通貨についてはどうでしょう。新たな活力あふれる地域経済で、通貨はどんな役割を果たすのでしょう。通貨はただ単に、地域で債権を発行したり、取引を把握したりするための道具にすぎません。しかし、通貨を発行する権限を自ら放棄し、利潤を追求する銀行と各国政府の連携に一任することで、私たちは最大の債務者を優遇するシステムの一端を担っているのです。 その結果、製造流通システムの中央集権化が進み、私たちが日常生活で使う商品を作ることから生じる環境的、社会的な影響が、うまい具合に隠れてしまいます。さらに、世界中の通貨が独占的に発行されているため、発行や使用の段階で発生する手数料が少数の企業や個人に流れ、なおいっそう、富の不均衡が生まれています。   私たちは、自分たちが断固拒否したいやり方を奨励するようなシステムに、喜んで身を投じているのです。どうしたら通貨の発行を民主化しつつ、地域経済の繁栄を支える手段にすることができるでしょうか。消費者と生産者が顔見知りとなり、相互に責任を持ち合い、そして、両者を復活させる生態系にも責任を持ち合う、そんな活気に満ちた地域経済を支えていく手段に。 非常に優秀な地域プランナーであるジェイン・ジェイコブズは、彼女の古典ともいえる著書『都市の経済学』(日本語版はTBSブリタニカ刊、現在絶版)の中で、地域通貨は地域経済を形づくる素晴らしい道具だと述べています。 シューマッハー協会は、イベントや時期限定ではなく、通年使える地域通貨システムの土台を築くため、商業界と銀行業界と一緒に25年以上にわたり地域での取り組みを行ってきました。私たちの地域通貨、バークシェアの1年目を支える資金調達も終盤を迎え、私は同僚のクリス・リンドストームとともに、商業界と銀行業界とのミーティングを2006年に再開する予定です。 シューマッハー協会が2004年に開催した会議「21世紀の地域通貨-お金の働きを知る、地域経済をつくる、地域のつながりを見直す」には、バークシェアだけでなく、大きなうねりになりつつあるさまざまな地域通貨に取り組む人々が一堂に会しました。あの会議以来、小規模なワーキンググループやインターネット上の対話、また世界中の革新的な試みがなされる中で、地域通貨という道具をいかにうまく進化させるかについての研究や議論が盛んに行われてきました。 労働についてはどうでしょうか。経済システムの中で、労働の役割をどのように再評価すればいいのでしょうか。時間を切り売りするような、商業ベースに組み込まれた働き方を改め、生産過程で労働者が確実に主体性を取り戻すにはどうしたらいいのでしょうか。 まず、新しい地域経済をもう一度想像してみましょう。地域で消費されるものが、その地域内で、環境、社会、文化に配慮した適切な方法で生産されているような経済です。このビジョンの実現には、私たちが持っている革新的な技術を、地域のためになるものの開発に投入することが必要です。 地域内でエネルギーを生み出し、効率性に優れた健康にいい家を造り、安全で効率的な交通システムを築き、地域での食糧生産の方法を普及し、社会的責任に配慮して衣類を生産するため、新しい適正技術が求められるでしょう。 購買力に余裕がある層が一握りの人々に限られている場合、革新的な技術はぜいたく品のために使われます。生活必需品への技術革新を進めるには、富が広く公平に分配されていなければなりません。 ほかの地域に頼らずに地元の経済が成り立つように、労働者が地域で事業を起こす土地を手に入れることができ、地域の資本による融資を手軽に受けられれば、時間給で雇われるのではなく、労働者が生産を担う主体となる機会が増えます。 このように主体的に生産過程に参加できれば、富がさらに公平に分配されます。労働者本位のこうした事業を支えようとすることは、良識ある消費者としての私たちの責任です。 以上申し上げてきたことをまとめますと、私たちは持続可能な地域経済の構築に、すぐにでも取りかからなければなりません。それもこの国だけでなく、世界中のあらゆる地域で必要なことなのです。私たちの人間性、私たちを取り巻く風景、多様で豊かな文化は危機にさらされています。 地域経済の再建という問題を解決するには、新しい地域通貨という道具を用いて、私たち市民が一致団結していく必要があります。そうした取り組みを通して、思ってもみなかった人々の思いやりに触れ、新たな連携が生まれるでしょう。 不完全に見える部分もあるかもしれません。青写真はおぼろげで、また地域ごとに変える必要もあります。でも共に働くことで、地域にかかわっているというワクワクした気持ちになれるのです。人間として持てる力を十分に発揮して、人々と土地、地域をつなぐとき、驚くほど素晴らしい力が生まれることでしょう。   ご静聴ありがとうございました。 スーザン・ウィット(シューマッハー協会事務局長) ------------------------------------------------------------- 訳注: 「バイオニア」とは、経済のグローバル化によって、地域社会や自然の生態系がかつての多様性や豊かさを失い、歪められ、地球が危機的状況に陥っていることに警鐘を鳴らし、地球に再びかつての多様な文化、豊かな生態系、活気ある地域社会を取り戻すための方法を考えていこうとする活動を行っている団体。分野、国籍を問わず、科学者、社会問題運動家などを中心にさまざまな人々が年1回集まり、講演、セッション、ワークショップなどを行っている。米国カリフォルニアで1990年に創設され、2005年現在、北米に15の支部があり、年に1回開催される総会は各地の支部を衛星放送で結んで開かれる。ここに紹介されたスーザン・ウィットの講演は、米国北東地域支部での総会(バイオニア・バイ・ザ・ベイ総会)で行われたもの。 --------------------------------------------------------------- (訳:古谷明世、梶川祐美子、小島和子)
 

このページの先頭へ

このページの先頭へ