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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース
2006年02月23日
企業の社会貢献〜グラクソ・スミスクライン:凸版CSRコミュニケーションフェア2005より(2005.08.12)
今年の1月下旬に凸版印刷主催の「CSRコミュニケーションフェア2005」で、「グローバル企業のCSR全体像と企業市民としての活動紹介」という内容でのセミナーのコーディネータをさせていただきました。
私が担当した1日を含め、5日間のフェアの全容をまとめた「CSRコミュニケーション2005」という冊子(立派な本ですが)をいただきました。自分がコーディネータをつとめた回は、自分自身学ぶことや気づくことが多く、「ぜひ多くの方に内容をお伝えしたい!」とお願いしたところ、転載を快諾していただきましたので、ご紹介します。(図表をお伝えできないのは残念ですが)
特にうなったのは、今回は外資系企業の代表をゲストにお呼びしたのですが、「すばらしい社会貢献・CSR活動をしているのに、CSRと名の付いた組織がない!」ということでした。
日本では、昨今あちこちの企業で、CSR部門が創設され、CSR報告書が出されています。あまり単純な二分法は役に立ちませんが、それでも「型から入る」という日本文化の特徴と、そのための組織がなくても(ないからこそ?)いろいろと活動している外資系企業の特徴の違いを感じて面白かったのでした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
社会貢献&コーズリレイティッドマーケティング(CRM)I
本業の製品・サービスによる支援や人材での支援、
社会貢献型マーケティングなどを紹介
◆パネリスト
小松 義明氏
グラクソ・スミスクライン株式会社 経営企画本部 広報部 部長
高澤 知子氏
GE 広報部 マネージャー 社内広報・社会貢献担当
稲垣 光彦氏
アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc. 広報室 室長
◆コーディネーター
枝廣 淳子氏
有限会社イーズ 取締役
枝廣:
ここでは「社会貢献&コーズリレイティッドマーケティング(CRM)」について、先進的に取り組まれているグラクソ・スミスクライン、GE、アメリカン・エキスプレス・インターナショナルの方々に社会貢献およびCRMに対して、どのような考えで、どのように活動されているか、どう続けていくかをプレゼンテーションしていただきます。その後、お三方とともにパネルディスカッションをしながら、議論を深めていきたいと思います。
では早速、小松義明さんよりグラクソ・スミスクラインのCSR活動と社会貢献の位置づけについてお話をいただきます。
●GSKのCSR活動と社会貢献の位置づけ
社会・倫理面で課題を抱える製薬業
小松氏:
まず、グラクソ・スミスクライン(GSK)についてご説明いたします。日本での知名度はまだまだ低い会社で、現在の形になったのが2000年末、英国に本社のある製薬会社です。日経さんの企業イメージ調査では、恥ずかしながら1000位前後、1,200社のうちの1000位ですので非常に低い順位をうろうろしている状態です。
会社のミッションからご紹介させていただきます。2003年までは本社の英文をそのまま翻訳した「私たちは、すべての人々......」の4行をミッションとして掲げていて、なかなか社員に覚えてもらえない状況でした。これを思い切って短縮しようということで、2004年は「生きる喜びを、もっと」という、非常に短いフレーズをつくりました。
会社全体の枠組みは、世界で116カ国に10万人以上の社員がおり、売上高4兆円の非常に大きな会社です。世界の医薬品の市場は大体60兆円規模といわれていますが、その医薬品の業界で弊社は売上シェアの約7%を占めており、世界で第2位です。
日本では従業員3,000名で、そのうち1,500人がMRといわれる、私どもでいえば営業職、医薬情報担当者ということで全国各地に配置されています。事業内容としては、医療用医薬品とコンシューマーヘルスケアの研究開発から輸入、販売を手掛けています。
皆さまにはあまりお馴染みがないかもしれませんが、医療用医薬品の主力製品である抗うつ薬、ぜんそく治療薬の2つの領域では、国内ではリーダーに近い位置にあります。あとは抗ウイルス剤、花粉症の方にはかかせないアレルギー性鼻炎の薬、片頭痛の治療薬なども扱っています。
もう少し皆さまにお馴染みのあるものとしては、一般用医薬品、それからオーラルケア製品があります。「コンタック」「アクアフレッシュ」「ポリデント」「ポリグリップ」「シュミテクト」も弊社の製品です。あまり社名とのリンケージはないかもしれませんが、テレビの広告などでお馴染みかと思います。
製薬会社と社会貢献という本題に入りたいと思います。社会貢献的な活動というのは製薬会社においては非常に特別重要な意味合いをもっているのではないかと思います。なぜなら、基本的な事業において、今までになかった治療薬や治療方法を世の中に送り出し、それによって人々の健康に役立つということ自体がすでに社会貢献性の高い活動であるからといえます。そういう意味では、社会貢献活動には非常に入りやすい事業形態であると思います。
その一方で、事業の対象としているものが、生命・健康であることから、倫理的な問題を多く含んでいます。一歩間違えると、社会的批判にさらされやすい事業であることは、皆さまにもご理解いただけると思います。そのような中で、2003年に弊社の考える10の原則を世界共通で打ち出しました。
皆さまの会社もそれぞれCSRについて定義されていると思いますが、製薬会社ならではの項目だと思うのは、8番目の「研究と革新」です。製薬会社の特殊な事情かと思いますので、この項目についてはあとでもう少し解説したいと思います。
そして、2003年から弊社ではCSRについて、CR(Corporate Responsibility)という呼称に改めました。これは対象をS(society)に限らず、もっと幅広く捉えるということを表明しています。弊社のCRがどのように統括されているかというと、事業活動と社会貢献活動がほぼ並列となっていて、直接CEOに報告することになっています。3名の社外取締役によってCRコミッティーが構成されていて、これらのエキスパートの助言を得ながら活動を推進しています。
人命を守るという社会貢献活動
具体的に社会貢献活動の実例をご紹介させていただきますと、大きく分けてまず3つの疾患に特化した社会貢献活動を行っています。
3つの疾患とは、リンパ系フィラリア症、HIV・AIDS、マラリアのことで、これらを含めて100以上の国で200以上のプログラムを実施しています。ただしこれはGSKだけで独自に行っているものではなく、WHO(世界保健機関)をはじめとした国際機関やそれぞれの地域で活動されているNPO、NGOといった支援団体の方々とパートナーシップを組む形で、それぞれのプログラムが実行されています。
1つ目はリンパ系フィラリア症、これは別名象皮病ともいわれていて、熱帯地域、亜熱帯地域で、1億人以上の方が罹患しており、10億人以上の方がリスクにさらされている病気です。WHOが中心となって、2020年までにこの病気を地球上から根絶させようというプログラムが進められています。リンパ系フィラリア症は2種類の薬剤を定期的に飲むことによって予防が可能ですが、そのうち1つの薬剤を弊社が提供しており、最終的には10億人に無償提供するというプログラムを実施しています。現在までに2億5,000万錠を寄贈しています。
2つ目はHIV・AIDSに関するポジティブ・アクションプログラムです。日本ではHIV・AIDSがまだそれほど大きな問題として認識されていませんが、世界ではもう4,000万人近い患者さんがいて、毎日15,000人が感染しています。治療薬がなかった時代は、この病気がこのまま蔓延すれば多くの国が滅びてしまうのではないかといわれるほど大変な問題であったと思います。
これに対して、GSKは2つの取り組みをしています。1つは薬剤の提供であり、もう1つは、教育・啓発活動への支援、それから感染者に対する支援、支援団体への金銭的な面での援助、こういった2つの面で活動を推進しています。地球上の最も貧しい63カ国に対して、製造流通コストのみで利益が出ない、私どもでは「非営利価格」といっていますが、安い価格でHIV治療薬を提供しています。
3つ目はマラリアですが、熱帯地域、亜熱帯地域では非常に深刻な問題です。2003年にGSKは、マラリアに対する比較的コストが安い新薬を開発して供給を開始しました。それ以外にも啓発活動、資金援助といった形で、アフリカを中心に援助を行っています。
それ以外には、途上国特有の疾患のための研究開発があり、GSKはWHOが定めた途上国で最も治療が優先されるべき3疾患、HIV・AIDS、結核、マラリア、この3種類の病気への治療薬やワクチンの開発をすべて行っている唯一の企業です。開発に成功しても、事業的な成功は望めない分野での研究開発を積極的に行っている企業としても知られています。
それから、日本には国民皆保険制度があって国民のだれもが比較的安価に良質な医療を受けられますが、それは実は世界でも非常に稀なことなのです。たとえばアメリカのような先進国でも、お金がなくて十分な治療が受けられない、薬剤が手に入らないというケースがたくさんあります。そういった方々に対して援助を行うオレンジカードプログラム、災害時の緊急援助などもしています。そのほか、科学教育や疾病啓発など、数多くのプログラムを実施しています。
最近の例では、行方不明・死者の合計が29万人にのぼるという非常に大きな災害になったスマトラ沖地震への援助があります。スマトラ沖地震のような場合、災害そのものも大変な脅威ですが、その後の感染症の蔓延も非常に大きな問題です。
このような感染症の蔓延に対する緊急援助も、抗生物質やワクチンを扱っているGSKとしては、抗生物質100万回分、ワクチン60万回分、約4億円の資金援助を即座に決めて実施しました。このような場合に重要なポイントが1つあります。
大規模災害というのは、いつどこで起きるかわからないものですから、あらかじめ国際的な援助団体に抗生物質などの在庫を預託しておきます。このように、災害が起きたらすぐに被災地に届けられるような活動も行っています。
明確な姿勢を表明することが重要
先ほどの「研究と革新」、つまり研究開発に関してお話をさせていただきます。最先端の研究では、新薬を開発するプロセスの中で、倫理的・社会的な問題に発展しそうな要素がいろいろとあります。
たとえば、動物愛護団体が実験動物の使用について、非常に強い反対キャンペーンをしています。そのために一部の製薬会社では実際に研究所を閉鎖しなければならなくなったということも起きています。また、ヒトゲノムの解析によって遺伝子の情報がすべてわかるようになりましたが、遺伝子レベルの個人情報、プライバシーをどうするのかという問題もあります。
こうした問題に関して大切なのは、やはりあらかじめその企業としての明確な姿勢や考え方を表明することです。たとえば、「動物実験は研究上必要ですからやめません。しかし必要最小限にとどめます」という明確な姿勢を、あらかじめアナウンスして世に知らしめておく。動物実験以外の問題でも、テーマごとに明確な姿勢・ポリシーを表明していくことが重要です。
最後に、日本における活動をご紹介いたします。日本では国民皆保険制度によって医薬品へのアクセスはある程度保障されています。そのため、あまり医薬品関連の活動はしていませんが、教育に関するプログラムを2つ走らせています。
1つは国際奨学基金として英国の大学院への奨学援助、もう1つはサイエンスアクロス・プログラムの支援です。後者は世界的な規模で中高生を対象に「地球温暖化」「健康維持と病気」「食物と飲料水」などから1つのテーマを与えて、各国の学生たちがレポートをまとめ、それを他の国の学生と交換して、自分の国が他の国とどう違うのかを認識していただくという非常におもしろいプログラムを支援しています。
ほかには、うつ病啓発についてテレビ・新聞でキャンペーンを展開していますので、ご覧になった方も多いかと思います。うつ病という従来は認知度が低かった病気に着目して、病気自体の啓発や早期治療を促すプログラムを3年前から実行しています。
これによって日本には非常に多くのうつ病の患者さんがいらっしゃることがわかり、2004年は40万人の患者さんや家族の方からお問い合わせをいただいた実績があります。また、薬事法上、医療用医薬品の広告は一般の方にはできませんので、疾病を啓発する目的でいろいろな病気の情報をホームページで発信しています。ご興味がある方は弊社のホームページをご覧いただければと思います。
枝廣:
小松さん、どうもありがとうございました。