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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース
2006年02月24日
企業の社会貢献〜アメリカン・エキスプレス:凸版CSRコミュニケーションフェア2005より(2005.08.12)
続きまして、アメリカン・エキスプレス・インターナショナル広報室室長の稲垣光彦さんよりアメリカン・エキスプレスの社会貢献活動とCRMというテーマでプレゼンテーションをお願いいたします。
●アメリカン・エキスプレスの社会貢献活動とCRM
総合的金融サービスをグローバルに展開
稲垣氏:
アメリカン・エキスプレスの社会貢献活動はCSRの一端であり、CSRという大きな概念の中に社会貢献活動もあるというのが私どもの考え方です。コンプライアンスやそれを支えるシステムがあり、社内教育があり、社会貢献活動もある。これらすべてが一体になったものがCSRです。しかし、コンプライアンスも社内教育も社内的な動きですが、社会貢献活動は唯一対外的な活動になっていて、CSRという概念の中でも社会貢献活動はかなり大きな重みをもつのではないかと思います。
それから、アメリカン・エキスプレスの社会貢献イコールコーズリレイティッドマーケティング(CRM)というような誤解がありますが、CRMというのはあくまでマーケティング活動であって、その中に社会貢献の要素があるということです。ですから、CRM自体は社会貢献を主眼としたものというより、純然たるマーケティングの一種です。後ほど、社会貢献とCRMの関係については詳しくご説明いたします。
最初にアメリカン・エキスプレスの歴史と企業背景をお話しさせていただきます。どんな企業にも基本的なビジョンや企業理念があると思いますが、アメリカン・エキスプレスの場合においても、社会貢献活動やビジネス活動のすべてが、ビジョンと企業理念に基づいています。そのビジョンのもとになるのが、「世界で最も尊敬されるサービスブランドとなる」という言葉で、それがアメリカン・エキスプレスの根底にある基本的な考え方です。
まず、アメリカン・エキスプレスの歴史をお話しします。企業の社会貢献活動は、企業がよって立つ基盤産業で、いかに社会に貢献できるかが重要です。その基盤産業に不測の事態があれば企業全体の存亡に関わり、企業が倒れてしまったら社会貢献もあり得ません。アメリカン・エキスプレスの社会貢献活動でも、その基盤産業が非常に大きく関わっています。
1850年、嘉永3年ですからペリーが浦賀に来航する3年前に、アメリカン・エキスプレスはニューヨークで生まれました。当時は西部劇の時代で、皆さまご存知の駅馬車や馬を乗り継いで(ポニーエキスプレス)貴重品を運ぶ人たちのことをエキスプレスマンと呼んでいました。アメリカン・エキスプレスの事業はこのような急行便事業からはじまっていて、社名はそこから採られています。
次いで、物の移動から人の移動につながって、旅行サービスに参入していきました。図表7はパリのオペラ座の前にできた最初の旅行サービスオフィスです。ヨーロッパからはじまって、現在、世界130カ国以上、1,700カ所以上にのぼる旅行サービスのネットワークをもっています。また、郵便為替を1882年に発行して、皆さまご存知のトラベラーズ・チェックを1891年に発行しました。これは現在も弊社の非常に大きなビジネス分野です。
物の急行便から旅行サービス、それから人の移動に伴う支払手段が必要であるということでトラベラーズ・チェックにつながり、アメリカン・エキスプレス・カードが1958年に登場しました。アメリカン・エキスプレスの155年の歴史の中で、カード事業の歴史はまだ50年に満たないのです。
以前は国外を旅行する場合、いちいち信用状を携えて現地通貨に換えるシステムになっていて、とても不便でした。もっと旅行に利便性をもたらそうということでトラベラーズ・チェックにつながり、それがさらに進んでカードという、また別の新しい支払手段が開発された経緯があります。
アメリカン・エキスプレスの現在の主要事業は、このクレジットカードに代表される金融サービスで、その一部として銀行事業もあります。日本にもアメリカン・エキスプレス・バンクがありますが、一般消費者向けのリテール・ビジネスではなく、企業向けのコレスポンデンス・ビジネスを展開しています。
弊社の社員数は約8万人で、サービスネットワークをグローバルに展開しています。このグローバルネットワークで、旅行であれ、トラベラーズ・チェックであれ、クレジットカードであれ、すべての事業に必要な顧客サービスを世界中で提供しています。
観光産業における知識・経験を積極的に活用
企業基盤となる考え方としてはにあるとおり、アメリカン・エキスプレスでは、社員、顧客、株主を、企業を構成する3要素としています。さらに当然のことながら、社会が健全に発展してはじめて企業の発展が得られると考えています。アメリカン・エキスプレスの社会貢献活動の基本的な理念は「私達が生活し、働く地域社会で良き企業市民になること」で、これが社会貢献活動の基本的な行動規範です。
社会貢献活動の主体となっているのは、ニューヨークにある非営利のアメリカン・エキスプレス財団で、本部スタッフはマネジメントだけで10人もいないところです。世界中のアメリカン・エキスプレスの社会貢献活動は、各地の広報オフィスが窓口になって行っています。広報室の業務は、通常の対メディア活動、社内広報、社会貢献、ガバメント・リレーションつまりロビー活動(政府諸機関との交渉)、この4つです。
社会貢献活動のテーマとして、1つ目は、地域社会活動があります。ボランティアをはじめ、多岐にわたる地域社会での活動です。2つ目は、文化的・歴史的遺産の保存です。Cultural Heritageとありますが、これは先ほどお話ししたように、我々がよって立つ基盤としては、観光産業が非常に大きい。観光産業の振興に役立つために、観光資源である文化的・歴史的遺産の保存、修復などを行う活動です。
具体的な文化的・歴史的遺産の保存の活動については、図表で事例を挙げています。これらの都市はすべて観光産業によって立つ地域社会で、そこの行政に対して、財団の支援を得て観光案内板(最近では4カ国語で表記)を寄贈するという活動です。
これは、ただ単に金銭的に援助するのではなく、物理的に限られている板面でいかにして当地の歴史や良さを伝える情報を発信するかというところで、アメリカン・エキスプレスの観光産業に関する豊富な知識と経験が役立てられています。
このプロジェクトは、実際に現地へおもむいて、行政や地元商店街の方々を交えて意見を交換しながら案内板をつくりあげるので、短くても1年半程度かかります。じっくりつくり込むプロセスの中で、観光案内板そのものだけでなく、地元の方々とのコミュニケーションが得られ、それが結果的に長期的なビジネス目標の達成にもつながっていきます。
3つ目は、経済的自立の支援です。教育機会に恵まれない人たちを助けることですが、社会貢献活動というのは、寄付をすればそれでいいというものではありません。たとえば、アメリカン・エキスプレスの各ビジネス部門(トラベル、金融など)の社員が、将来、それらの分野で働きたいという人たちのために、また
はその教育機会がないという人たちのために、ボランティアとなって、教育プログラムを提供する活動などを、財団からの資金援助を受けて実施しています。
活動主体としては、財団、各国広報室、ビジネス・リーダー、社員、あとは管理職も含め会社全体としてのコミットメントが必要です。パートナーは企業諸団体、NPO、NGO、行政、ビジネス・パートナー(アメリカン・エキスプレス・カードを扱ってくれる加盟店など)、メディアやボランティアの方々、学校などいろいろあります。
ポイントは活動の輪を広げること
またTTBizという活動がありまして、これまで2回実施していますが、これはTravel and Tourism Businessの略です。たとえば、日本の7都市の高校性に地元の3泊4日の旅行プランを、各都市の米国姉妹都市の高校生と情報交換して企画させるプログラムです。この7都市ではアメリカン・エキスプレスがビジネスを積極的に展開しています。つまり、この7都市は、我々の社員が"生活し、かつ働く"地域社会です。7都市を選定したのは、この社会貢献活動の基本理念に拠ってなのです。
財団の支援による社会貢献活動には、財団の資金を広報活動、宣伝、プロモーションなど、直接的なビジネス活動に使ってはいけないという非常に厳しいルールがあります。一方で、それらの社会貢献活動が長期的には会社のビジネス目標に貢献すべきであるとされています。
つまり、社会貢献活動には、直接的・短期的ではなく、長期的な視野においてのみビジネス目標に益することが求められています。こういう活動を通じて、たとえば、観光産業によって立つ地域社会が健全に成長すれば、我々のビジネスも発展します。そういう意味では、戦略的な活動であるとよくいわれます。
また、年1回のチャリティコンサートを"地域社会"で開催してきました。予算は、東京でやってもどこでやっても100万円です。神戸の能楽堂でチャリティコンサートを開催したときは、神戸にあるNPOと神戸大学の学生でボランティアチームをつくり、彼らに100万円でどういうチャリティーコンサートができるかを一任する形で進める、教育的な要素を入れたプログラムとして実施しました。
あとは、東京都杉並区の本社ビル付近に身障者の方がクッキーを焼いている施設があるので、社員ボランティアが毎年4回、本社ビルに売店を設けてクッキーを一緒に売っています。そのほかに、KIDS ディズニーランド・プロジェクトを10年以上ずっと続けています。
いかに社会貢献やボランティア活動が根づき発展するのに時間がかかるかという事例として、チャリティー・ウォークの活動を紹介します。これは、社員が歩くことによって、1キロに対していくらかをチャリティーに出資するというものです。1995年当時に、26人の社員ボランティアでスタートしました。それ以降、毎年企画して、5年目には参加者は346人、寄付総額は40万円という規模に拡大できました。
さらに、この5年間にいろいろな企業の方々も参加していただき、2001年からは「杉並チャリティー・ウォーク」という形で展開するに至っています。新しい社会貢献活動やボランティアを根づかせるには、やはりかなり時間がかかるもので、何回もやめようと思ったことがありますけど、社長からかけていただいた「稲垣、こういう活動はそういうものだ」という一言に救われて、我慢してやり続けましたが、今では続けてきてよかったと思います。
やはり企業が何から何まで全部やろうと思ってはいけないと思います。いかに活動の輪を広げるかが重要です。一個人、一企業のできることは限られています。しかし、こうした活動の助成対象となる相手にとっては、お金なら100円より1億円ほしいし、人材なら10人より1,000人ほしいというのが本音です。その場合、企業の社会貢献活動も、いかに他の企業に協賛していただくか、協力を得るかといった、活動の輪を広げるという考え方が大事だと思います。
社会貢献活動とCRMは別物
社会貢献活動のお話の後は、CRMのお話に移りますが、先ほど申し上げたとおり、これはあくまでマーケティング活動であって社会貢献活動そのものではありません。主体はビジネス部門で、広報室や財団が関与するのはサポートだけです。どんなところに寄付すべきか、どういうやり方がいいかという場合に、それをサポートしています。財団も広報室も直接的には関わっていませんが、そのサポートは積極的にしています。
CRMのマーティングとは、"徳"と"利"を両方追究することです。わかりやすい言い方をすれば社会貢献は"徳"ということになりますが、長期的には"利"となるビジネス目標に貢献することです。直接的に"利"を生み出すためのマーケティングではなく、"徳"と"利"を両方追究していくという考え方です。こ
れ自体は悪いことではないでしょうし、これも1つの社会貢献のあり方だと思います。またCSRを広義に考えれば、1つのCSRかもしれませんが、そこにはきちんとした管理やルールづくりが必要だと思います。
事例としては、1983年のアメリカ建国200年を機に実施された自由の女神修復の支援があります。日本でいえば、象徴的な富士山がダメになってしまうというレベルの問題ですから、それを修復しようということで、当時大々的に広告を打ち、100万ドル、今でいえば2億円以上を目標に活動を展開しました。この期間カード会員になったら1枚につき1ドル、カードを使ってくれたら1回につき1セントを、自由の女神の修復に寄付するというものです。結果的には170万ドルにのぼり、目標の約2倍の額に達しました。
このニュースはかなり評判になりましたが、今回お話をさせていただいたのは、アメリカン・エキスプレスの社会貢献活動をきちんとご理解していただいた上でCRMを理解していただきたいからです。
これはやり方によっては非常にいいマーケティング・ツールで、これによって自由の女神も修復でき、アメリカン・エキスプレスのビジネスも強化された。まさに"徳"と"利"が両立したわけで、それが成功例としてかなり長く伝わっていますので、アメリカン・エキスプレスの社会貢献イコールCRMというように思われてしまった所以です。
日本での事例としては、1984年の日本オリンピックチーム支援キャンペーンがあります。これに関するデータはあまりありませんが、スキームとしては自由の女神の場合と同様のものだと思います。アメリカン・エキスプレスが日本でカードを発行したのが1980年ですから、当時はカード会員を拡大しようという目的でこういうキャンペーンを展開したのです。また、もう1つ同時期に日本丸保存支援キャンペーンをCRMとして展開したこともあります。
最後に、繰り返しになりますが、アメリカン・エキスプレスにとって、CRMは社会的な要素を含むマーケティング活動として捉え、「私達が生活し、働く地域社会で良き企業市民になる」という理念に基づいて展開している社会貢献活動とは区別しています。広義でいえば、両者はCSRに含まれるかもしれません。しかし両者の違いを理解した上で活動することで、社会も企業も発展する力となればと考えています。どうもありがとうございました。
3社の社会貢献活動の歴史や具体的な活動についておうかがいしました。「本業による貢献」「一部の活動ではなく、社員ひとりひとりの活動」「徳と利」など、いろいろと考え、学ぶところが多かったです。