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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース
2006年07月22日
東京23区「区政会館だより」より、「温暖化時代をどうサバイバルするか」(2006.07.22)
「温暖化時代をどうサバイバルするか」
-東京23区「区政会館だより」7月10日NO.196号 巻頭エッセイ
◆進む温暖化
数年前までは「温暖化など起こっていない」と主張する研究者もいましたが、今では世界各地の報告やデータから、温暖化が進行しつつあることがわかっています。
温暖化によるさまざまな影響が出ていますが、その一つは氷の溶解です。20年前と現在の北極付近の写真を比べると、氷と雪の白い部分が大きく減っています。南極でもグリーンランドでも、そして氷河の氷も溶けつつあります。つい最近「氷のない時期が長くなっているので、ホッキョクグマのエサが不足し、共食いを始めている可能性がある」というショッキングな報告が北米の研究者から届きました。
◆悪循環の重なりがもたらす温暖化の恐怖
「温暖化」というと、無意識のちに、温度が直線的に上がっていくようすを思い描くのではないでしょうか? でも実は、そうではないところが温暖化のとても恐いところです。つまり、あるところまでくると、急に温度が大きく上がるおそれがあるのです。
それは、温暖化という現象が、世の中や世界の他の現象や状況と同じく、さまざまな要素が複雑に絡み合ってできているシステムが起こしている問題だからなのです。平たく言うと、「悪循環がいくつも重なり合うことで、一挙に手に負えなくなってしまう」可能性があるのです。要素のつながりとして状況を理解する「システム思考」でこの問題を見てみましょう。
たとえば、温暖化が進むと、温度が上がり、暑くなります。そうすると、私たちはクーラーを使うようになります。クーラーを使うと、熱を持った排気が外に出されるので、外気はますます暑くなります。すると、ますますクーラーを使うようになり、ますます熱い排気が出るので、ますます暑くなり......と悪循環にはまってしまいます。
同時に、クーラーを使うと電力を消費します。電力をたくさん使うと、発電のために燃やす化石燃料が増え、その結果二酸化炭素の排出量が増えます。二酸化炭素排出量が増えると、温室効果ガスの濃度が増え、温暖化が進行し、ますます温度が上がります。すると、ますますクーラーを使い......と、「クーラーを使う」ことだけを見ても、局地的な悪循環と地球規模の悪循環が二重に走ることがわかります。
地球規模の「温暖化の悪循環」の例を説明しましょう。先ほど「温暖化が進むと北極や氷河の氷が溶ける」と言いましたが、白い氷が溶けると黒い地面や海面が増えます。白い表面は太陽光を反射しますが、黒い表面は太陽熱を吸収します。氷が溶けると、太陽光を反射せず吸収する割合が増えるのです。吸収する割合が増えると、温度が上がり、ますます温暖化が進みます。同時に、温度が上がるので、まわりの氷がどんどん溶け、ますます白い表面が減っていきます。世界の各地で、こういった悪循環が実際に加速しています。
また、温暖化が進んで温度が上がると、シベリアの永久凍土が溶けます。永久凍土には二酸化炭素の24倍もの温室効果を持つメタンガスが大量に封じ込められているのですが、凍土が溶けるとメタンガスは大気中に出ていきます。すると、ますます温暖化が進みます。そして、温度上昇によって、永久凍土の溶ける量も増え、ますますメタンガスが出てしまう。これもまた悪循環です。
ほかにも、海の温度の上昇によって別の悪循環にスイッチが入るなど、いろいろな悪循環が何重にも重なっているのが温暖化のシステムなのです。氷の溶解の悪循環は走り出してしまったようです。このままでは、あちらの悪循環もこちらの悪循環も間もなくスイッチが入ってしまい、簡単には止められなくなってしまいます。
温暖化のいろいろな悪循環にスイッチが入ってしまったら、パタパタとあっという間に進行してしまうかもしれません。私たちが前もって考え、対策を実行するために残された時間は、実はそれほど長くはないのです。「実際の影響が出てから考えればいいや」「まだだいじょうぶだろう」と思っていると、「ひどくなってきたな」と思った次の瞬間には急速に悪化する危険性があります。
◆温暖化の影響
温暖化によって、「カトリーナ」のように強大なハリケーンや台風が増えると考えられています。ハリケーンや台風は海のエネルギーをもとに発生します。海の温度があがればあがるほどエネルギーが大きくなりますから、ハリケーンや台風が強大化します。
温暖化の影響を特に大きく受ける産業の一つは、保険業界です。ハリケーンや台風などが強烈になると、保険金の支払い額が増えるからです。米国では、実際に倒産する保険会社も出てきていますし、「温暖化の影響が出やすい危険地域はリスクが高すぎるので、保険を引き受けられない」と考える保険会社も出てきます。
また農業も大きな影響を受けます。農作物の生長は温度と緊密な関係があり、さらに温暖化による降雨パターンの変化も影響を与えます。このままでは米の収穫量は30〜40%も減ってしまうというシミュレーション結果もあります。
小麦もコメも受粉時の温度が重要なのですが、受粉時期の温度が最適温度より1℃高いと、収穫量は10%減るといわれています。2℃温度が上がると20%も減るのです。今ですら世界中に飢えている人がたくさんいるのに、温暖化によって収穫量が急減したら、どんな世界になってしまうのでしょうか。
◆何度まで温暖化してもだいじょうぶか?
かつて研究者たちは「温暖化は起こっているか、起こっていないか」と議論していましたが、現在では「何度まで温度があがってもだいじょうぶか?」と議論をしています。
マラリアや飢餓、水不足などさまざまなリスクに関するシミュレーションを見ると、2℃の温度上昇でリスクが急増します。そこで、ヨーロッパ諸国も日本も、「産業革命以前に比べて2℃までの上昇で何とか抑えよう」と考えています。しかし、産業革命前から今日までの間にすでに0.6℃上がっており、あと1.4℃の幅しかないのです。
◆二酸化炭素の収支
温室効果ガスのなかでもいちばん身近な二酸化炭素の大気中濃度は、産業革命前は約280ppmでしたが、今では約380ppmまで増加しています。産業革命前に比べて温度上昇を二℃以下に抑えるためには、450ppm以下に抑えなくてはいけないといわれています。もうかなり近づいてしまっています。
地球の「二酸化炭素などの温室効果ガスを炭素換算」して収支の全体像を見ると、私たちが電気やガス、ガソリンなどを使って化石燃料を燃やすことから出る炭素が、年間に「63三億トン(国際比較などのため炭素の量に換算した数値)」です。森林や土壌が年間14億トン、海が17億トン吸収しています。63億トン出しているうち半分以上の32億トンは毎年大気中に残っているのです。こうして大気中の濃度が増大しているのが温暖化の大きな原因です。
現在、世界が出している炭素は63億トンですが、このままいくと20年後には200億トンぐらいになるという予測もあります。先進国の排出量は減っていませんし、発展途上国も人口が増え、経済開発が進みますから、排出量は増大していきます。そうすると、現在の3倍にもなりかねません。しかし、地球の森林や海洋が吸収できる量は変わりません。それどころか、もしかしたらある段階で海洋などは吸収しなくなるかもしれない、現在がんばって吸収している分を吐き出し始めるかもしれない、と言う研究者もいます。
では、どうしたらよいのでしょう? 小学生に聞いても、どうすればいいかはわかるでしょう。「地球が吸収できるのは31億トンなのだから、その範囲で出せばいいんでしょう?」-―その通りです。私たちが現在出している量を半分にすれば、温暖化を進めることなく生活できるのです。
現在世界の人口は63億人ちょっとで、排出量も63億トンですから、世界全体の平均年間排出量は1人あたり約1トンです。それを半分にして、世界全体で「1人0.5トン」にすればよいのです。
◆どこまで削減する必要があるか?
ドイツ、イギリス、フランスなどでは「一人当たり0.5トン」をめざし、そのための道筋を考えています。スウェーデンは去年の秋、「2020年までに石油を使わない国になる」と発表しました。温暖化対策だけではなく、「これからますます減ってくる石油に依存していたら、国として成り立たないし、競争力も失われてしまう」と先を見越して、脱石油宣言をしたのです。
日本はどうでしょうか。日本人は現在、一人当たり2.22トン出しています。「一人0.5トン」の4倍以上です。ですから4分の1以下にする必要があります(1960年の日本がだいたいそれぐらいのレベルでした)。
ドイツやイギリス、フランスなどは二酸化炭素を60%減らすと言い、そのためにどうするかということを、産業界も入れた形で考えています。環境問題に限りませんが、ヨーロッパの政府は早くから「将来はこうするぞ」と打ち出します。
さきほどのスウェーデンのように、「2020年には石油を使わない国になる」と早めに打ち出すのです。すると産業界も、「15年後には石油が使えない」と想定して、早めに転換し始めます。先に「どうするつもりか」を言ってくれると、私たちも企業も対応がしやすくなります。
ところが、日本の政府はあまりそういうやり方をしません。長期的というより目の前の対応に追われ、産業界にも短期間に大きな転換を強いるパターンが多いと思います。温暖化に関しても、京都議定書で約束した6%削減に向けて政府もがんばっていますが、6%は最初の一歩にすぎません。2050年には、6%どころか、60%も70%も減らさなくてはならないのです。
国立環境研究所は、「日本も2050年には70%以上削減が必要だ」と発表しています。社会はどのように変わっていくのでしょうか?私が「低炭素社会」「低炭素ライフスタイル」と呼んでいる「炭素をあまり出さない社会・ライフスタイル」に変わっていくことになります。
温暖化の問題への対応には「緩和策」と応策」の二種類があります。緩和策とは、二酸化炭素をできるだけ減らし、温暖化を緩和するための策です。かつては温暖化「防止」といっていましたが、すでに進行しているので、せめて進行を「緩和」しようということです。
適応策とは、温度が上がった世界がくる予測して、少しでも生きやすくするための適応を考えるものです。たとえば、温暖化が進むと海水面が上昇します。東京もそうですが、世界の大都市はほとんどが海岸沿いにあります。「海水面が上がってくると危ないので、堤防を高くしておく」―これが適応策の一つです。
新しい建物を建てるとき、今後の温度上昇を考えに入れて、バルコニーやひさしを設計したり、建物と建物の間を空けて風の道を確保することも有効でしょう。残念なことですが、温度が上がった世界を想定して、そうなってもできるだけ生活しやすいように、いまできる手を打っておくことも重要なのです。
しかし、そういった必要な適応策は採りつつ、根治策である温室効果ガスの排出量減少にいっそうの力を入れなくてはなりません。
◆最後に
私たちは誰も、地球を壊したいと思っているわけではありません。何とか地球を壊さないように、みんな幸せに生きたいと思ってそれぞれ一生懸命やっているのに、なぜ温暖化をはじめ、地球の状況はどんどん悪化しているのでしょうか?
それは、現在の社会や経済が問題を生み出す構造になっているからです。昔はうまく機能していた構造が今では問題を起こしているのに、それに気づかず、昔の構造のままでやろうとしていることがよくあります。
たとえば、人間の数が少なく、相対的に資源や自然が豊かだった頃の「好きなだけ取って使えば儲かる」という構造は、これほど人口が増えて、資源が枯渇し、かつては問題なく人間の排出する二酸化炭素を吸収してくれていた生態系も衰えている現在では、問題を悪化させるばかりです。
大切なことは、「あの国が悪い」「あの会社が悪い」とだれかを責めるのではなく、どういう構造が今の問題をつくり出しているかを考えることです。そうすると、ではどのように構造を変えたらよいかがわかります。
どういう世界にしたいかという「ビジョン」、現状の構造はどうなっているか、どこに働きかけたらよいかを考える「システム思考」、変化のうねりを早く効果的に広めていくための「コミュニケーション」がいまほど必要な時代はないのです。