エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース
2006年09月09日
森林・林業業界へのエール:『現代林業』のエッセイ(2006.09.09)
全国林業改良普及協会の出している『現代林業』の「杜の四季」というエッセイコーナーに、森林・林業業界の方々へ向けてのメッセージを4回、寄稿させていただきました。
その1 「業界の常識は世の中の常識にあらず」
その2 「システム思考で本質的な問題解決を」
その3 「システム思考で木材産業の活性化を考える」
その4 「優れたコミュニケーターの3原則」
です。ご快諾を得て、4回分の原稿をご紹介します。
また、この4回分の原稿を素敵な別刷りにしてもらいましたので、勉強会やセミナーなどの参考資料として配付したいという方がいらしたら、ぜひご連絡下さい。送料のみのご負担でお送りしたいと思います。(末尾に詳細を載せます)
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【その1】 「業界の常識は世の中の常識にあらず」
世界と日本が直面している諸問題にとって、日本の森林は大きな鍵を握っている――環境問題に関する情報発信を始めた頃からの思いは、しだいに強くなってきました。「小さくても日本の森へのお金の流れを作りたい」と間伐材マウスパッドや森の時間をスローに楽しむ端材キット「きのころ」の企画・販売も始め、「森と人々の心をどうつなげるか」を考え続けています。
ピンチはチャンスです。日本の森林はチャンスの山なのです。ただし、手をこまねいていては、ピンチはチャンスどころか命取りになります。足元を見つめ直し、様々な人々との協働(コラボレーション)を広げ、向かい風を追い風に変えるにはどうしたらよいのか――それぞれの立場でひとりひとりが考え、試み、振り返り、次へつなげていくしかありません。
向かい風を追い風に変えた一例をご紹介しましょう。スウェーデンは約20年まえに、原子力の段階的廃止と自然エネルギーの積極的な開発へと、エネルギー政策を大きく転換しました。
当時は、首都ストックホルム周辺に人口の約9割が集中し、若者も仕事も都市に流れ、山村地帯の過疎は日本以上に深刻だったそうです。しかし、自国で唯一豊富な資源である森林に焦点を当て、バイオマスエネルギー源として積極的に活用した結果、山村に新たな産業と雇用が生まれました。世間の評価も高まり、地域の誇りも戻ってきました。今では山村地帯に住むことは一種のステイタスだそうです。政策転換によって、エネルギーだけでなく、人々の意識の転換にも成功したのです!
日本の森林にも、大小さまざまなチャンスがいっぱいあるはずです。問題は、「いかにそういったチャンスを見つけるか?」です。
一般市民向けの講演会で「発泡スチロールと間伐材の食品トレイのうち、割ったり捨てても惜しくないと思うのはどちらですか?」と尋ねることがあります。多くの人が「発泡スチロールは簡単に捨てられるけど、木はもったいないし、かわいそう」と答えます。
そこで「でもね、発泡スチロールの原料は何千万年もかけてできた再生不可能な石油ですが、間伐材は数十年で繰り返し再生します。どちらがもったいないのでしょうね?」と問いかけます。
林業・木材関係者の集まりでこの話をしたところ、「木を伐るのがかわいそうだなんて、おかしな考えだ! そんなヤツがいるから困るんだ!」と怒り出した人がいて、びっくりしたことがあります。怒りたくなる話かもしれませんが、それを「相手が理解していないのが悪い」と考えては、自ら扉を閉ざしてしまいます。
相手の理解が間違っていると思うなら、どうやって変えたらよいのか?を考えるべきです。「どうしてそう思っているのだろう?」「その人たちにはどういう情報が入っているのだろう?」「何が足りないのだろう?」
文句を言うだけ、怒るだけ、人のせいにするだけでは、ピンチはチャンスにはなりません。「業界の常識は世の中の常識にあらず」――ここが出発点だと思うのです。
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【その2】 「システム思考で本質的な問題解決を」
1950年代、ボルネオ島でマラリアが大流行したそうです。マラリアは蚊が媒介する病気なので、WHO(世界保健機構)がDDTをまきました。蚊は死に、マラリアの流行は終焉しました。めでたし、めでたし......。
ところが、DDTによってマラリア蚊以外の虫もたくさん死にました。死んだ虫を食べたヤモリも、体内にDDTが濃縮して死にました。死んだヤモリを食べたネコもばたばたと死んでいきました。ネコがいなくなって大喜びしたのは、そう、ネズミです。大繁殖したネズミは、別の伝染病を流行させそうになったのです。
で、困った植民地政府はどうしたと思いますか?――なんと、1万4000匹のネコにパラシュートをつけて、空からまいたのだそうです!
なんて馬鹿なことを、と思うでしょう。でも、実はこういうこと、よくありませんか? ある問題を解決したら別の問題が出てきたり。解決できたと思ってもあとになって問題が再燃したり。売上を上げようと販売促進キャンペーンをしても、終わったとたんに売上が元に戻ったり、ひどいときには逆に落ち込んでしまう、
というような話もよく聞きます。
よかれと思って行動したのに、なぜなのでしょうか? ある要素はほかの要素とつながり、影響を与えあっているからです。問題や状況は多くの要素の絡み合った「システム」なのです。ある要素を変えれば、別の要素やシステム全体にも影響が出ます。しかも、その影響はすぐにその場で出るとは限りません。
たとえば、戦後の拡大造林は、当時は"正しい"戦略でした。でもその結果、手入れのしにくい高い山の上まで人工林となり、数十年後の今、間伐も進まない状況の中で山が荒れるという問題が生じています。
企業が力を入れているゼロエミッション活動や再生製品を使う取り組みも、ゴミ削減やリサイクルという面からみれば"正しい"活動でしょう。でもそのために、木製パレットや木杭が再生プラスチックパレットや偽木に置き換えられ、間伐材や端材の使途がますます減って、林業にお金が回らない状況に拍車をかけています。
木製品はいずれはゴミになるとしても、国土を守る森林の循環のなかで大事な役割を担っています。しかし、その全体像とは関係なく、各社各人が自分の目の前の問題解決に注力しています。そうすると、別の分野に問題が生じてしまうのです。
ではどうしたらよいのでしょうか? 私は日本の森林・林業再生に「システム思考」のアプローチが役立つと強く信じています。システム思考とは、従来の線形思考や目の前の問題解決策では「昨日の解決策が今日の問題を作り出す」ことを認識し、個別最適化に走るのではなく、本質的な問題解決をするためのアプローチです。
システム思考の情報はウェブ(http://www.change-agent.jp/)でも発信していますので、ご興味のある方はぜひご覧下さい。次回、木材協同組合でのシステム思考ワークショップのようすをご紹介しましょう。
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【その3】 「システム思考で木材産業の活性化を考える」
三重県松阪地区木材協同組合におじゃましました。以前総会での講演の折に、システム思考を紹介し、「一度いっしょにやってみませんか?」と呼びかけ、「木材産業の活性化」をテーマとしたワークショップが実現したのです。
ビジョンの大切さについて話したあと、約5人×6グループで、「将来像」を描いてみます。「木材産業が活性化すると○○が増える(減る)」を各グループで15個以上出します。
わいわいがやがやとにぎやかな各グループです。ふだんは今日の作業や明日の売上など短期的な視点で動くことが多いですが、この作業は「木材産業が活性化したらどうなっているのか?」と自由自在に空想やイメージをふくらませるもの。あちこちから笑い声が起きます。
次に「木材産業が活性化するためには、○○が増える(減る)必要がある」を各グループで15個出しました。2つ3つならすぐ出ますが、15個といわれると、ふだんは考えないような観点や分野まで考えざるを得ません(そこがポイントです)。
次に、「いちばん増えて(または減って)ほしいもの」を1つ選び、時系列グラフを描きます。「給料」「国産材消費量」などについて、これまでの動向、このままいくとどうなりそうか、自分たちが望んでいるのはどういう動向かを明らかにすることで、メンバー間の共通理解が進み、「変えたい!」というエネルギーが生まれます。
「システムは要素のつながり。システムの力を使うことで物事を大きく動かせる」ことを体感するゲームの後、木材産業の状況を「要素のつながり」として表す作業に入ります。ループ図というツールを用い、さきほど出した項目をつなげていくのです。
すると、「木材に触れる機会が多ければ→木材への親しみが増し→他の素材より木材を選ぶ人が増え→木材使用量が増えるので→木材に触れる機会がますます増える」といった「理想のループ」を考えられます。その上で「どこに働きかければ、望ましいループを作れるか」を考えます。
最後に、グループ発表をし、「ループで欠けている部分は何か、そこをつなげるには何が必要か、自分たちは何をすべきかを考えつづけて下さい」と3時間のワークショップを終えました。
感想には「業界全体のことを見ていなかった。問題を解決するにはこういうやり方もあることを知った」「ループで考えるとどこが弱いかが明確に分かる」「業界全体で真剣に考えれば木材の需要は増えると思った」「ループで様々な問題点や解決法の糸口が見つかる思いがした」「いろいろな人の意見をつなぎあわせて解決策が出た」など、システム思考ワークショップが気づきやコミュニケーションの一助になったようすがわかります。
多くの森林・林業関係者が、要素のつながりとして状況や問題を広く複眼的にとらえ、効果的な介入ポイントを考えていってほしい!と願いつつ、帰途についたのでした。
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【その4】 「優れたコミュニケーターの3原則」
私は、通訳や翻訳、執筆や講演などいろいろな活動をしていますが、自分にとってはやっていることはすべて同じ――「伝えること」と「つなげること」だと思っています。
通訳者として数千人のスピーチやプレゼンを聞きながら、「人前で同じように話しても、通じる人もいれば、通じない人もいる。何が違うのか?」と考えるようになり、数年前に「優れたコミュニケーターの三原則」を発見しました(!)
その1 伝えるべき内容を持っている
その2 伝えようという気持ちを持っている
その3 伝えるためのスキルを持っている
これまで多くの林業家や、木材加工・流通業者さんとお会いし、お話ししてきました。よく「熱い思いはお持ちなのになあ。もっとたくさんの人に伝えてくれたらいいのになあ」と思います。『山の男は無口がいい』という時代ではないのです。
上記の三原則でいえば、「内容」はあるのに伝えようという「気持ち」をあまり持っていない人や、「気持ち」はあるけど伝えるのが苦手な人が多くて、もったいないのです。「あれ、自分のことかな?」と思ったら、ぜひ練習して下さい! 必ずじょうずになりますから。
大事なポイントを三つお教えしましょう。ひとつは、「人によって、メッセージを受け取りやすいスタイルが違う」ということです。そのために、同業者や社内向けだけではなく、お役所向けだけでもなく、女性向け、子供向けなど伝え方の幅を広げていくこと。自分の"いつもの"スタイルに固執していると、そのスタ
イルに合った人にしか届きません。
二つめは、「たとえ」を話に入れること。データや理論よりも、小さなたとえが相手の心に届くことが多いのです。たとえば、私は「木材を使うことは悪だ」という人々に対して、「コレステロールに善玉・悪玉があるように、木材にも善玉・悪玉があるんですよ。木材を使うことすべてが森林破壊につながるのではなく、間伐材、国産材など使うことが森林保全につながる木材もあるんです」と説明します。
木材を使ってこそ日本の山は守れることを伝えたいときは、「木は50年で育つ大根だ!」といいます。「大根の農家は、間引きしたつまみ菜も商品として売れるから、手入れをする手間代が出ます。育ったら収穫して売れるから、次の年の種が買えます。大根は1年周期ですが、木は周期が50〜60年になっただけです。いったん人の手を入れた人工林を守るためには、木を使わなくてはならないのです」といいます。
三つめは、毎回「この目的・聴衆だからこう伝えよう」と計画し、伝え、伝わり具合をチェックし、次回の改善につなげること。「コミュニケーションのPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)」を回すことで、伝え方はどんどん上達していきます。
森林に関わっているすべての人が、もっとがんばって伝えていくこと。この業界はもともと関わっている人が少ないのですから、もっと大きな声を出さなくては! いくら考えていることが正しくても、きちんと伝えないかぎり伝わらないのです。がんばってください!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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森林・林業関係の多くの方にエールを届けられたらうれしいです〜。