エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース
2006年12月02日
「まちづくりや市民参画事業をシステム思考で考える」(2006.12.01)
10月に日本青年会議所(JC)の全国大会で、「まちづくりや市民参画事業をシステム思考で考える」というお話をしました。システム思考がどのようなものか、これまでとはまた違った切り口でお話ししました。ご紹介します。
(最後に福岡・東京でのワークショップのご案内があります。九州初のワークショップ、私も行きますので、どうぞよろしくお願いします!)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
市民参画事業を成功させるために、システム思考という考え方がどういうふうに役に立つか、ご紹介したいと思います。
今回、市民事業には、私自身もいろいろかかわっているし、皆さんもかかわっている中で、きっと思うことがあると思います。
ひとつは、熱い思いだけでは続かないということです。もしかしたら1回目は短期的に駆け抜けることができるかもしれない。短期だったら、それでいいかもしれないけど、続けようと思ったときにはやはり、当初の立ち上げの熱い気持ちだけでは続かない。
そうしたときに、常にどこを目指して何のためにやっているかという「ビジョンか「使命」、それから、どのような形で組織をマネジメントしていくか。そして、もっと大切なことは、どうやってみんなの思いをマネジメントしていくか。
マネジメントというのは、ここではいわゆる「管理する」という意味で使っているのではありません。私はマネジメントというのは「120%活かすこと」だと思っています。ですからほんとは、マネージャーと呼ばれる管理職の人は、部下の力を120%引き出すことが役割の人です。
そういう意味で、みんながそれぞれ持っている大切にしたいものや思いをどうやって引き出して、ある事業という形にしていくか。そのあたりがいちばんポイントになってくると思っています。
非常に単純な考え方ですが、市民事業の活動が成功するときに、少なくとも2つの成功要因があるだろうと思っています。1つは、一緒に活動できることです。たとえばJCだけがやって、そこにお客さんのように人が来るというのは、市民参画の事業とは呼ばないでしょう。そうではなくて最初から、いろいろな団体、行政であったり民間であったりが一緒に活動できることです。
もうひとつ大事なのは、これがいかに一緒にできたとしても、成果が出ないとやはり続かないんですね。一緒にやったけど、でも何だかよくわからなかったとか、一緒にやったけど、思ったように成功しなかったとか。それだとそこでおしまいになってしまうし、参加した人たちもあまりハッピーではないですね。
なので、市民参画の事業を考えるときには、どうやっていろいろな人たちを巻き込んで、しかもお客様で来てもらうのではなくて、一緒にやるか。その中でどうやって成果を出すか。もうひとつ言うと、どうやって成果を見せるか。「出す」というのと「見せる」というのと、実は違うので、そういった点が出てくると思います。
今回のセミナーのお誘い文にあったのですが、「多様なつながりを活かす」というのが、やはり市民参画の地域での活動をする上ではとても大切なポイントになります。
そのためには、共通言語が必要になってくるんですね。きっとJCはJCの、皆さんの中で通用する言葉があるし、あるプロトコールがあると思います。ほかのグループはほかのグループの言語なり背景なり、歴史を持っています。そのように、いろんな背景とか言葉を持った人たちが――言葉といってももちろん、日本語は日本語ですが、どういう意味をそこに持たせているかというのは違ったりするわけですね。
そういった人たちが集まって、みんなで活動していこうとするときには、共通言語として使えるものがないと、「バベルの塔」ではないですが、お互い同じようなことを言っているんだけど、お互いに通じていなかったり、みんな同じことを言っていると思って進んでいるんだけど、結果的に違うことを目指していたことが、あとになってわかったり。そうになるとうまく進みません。
ここでの「共通言語」は、それぞれの参加者が自分の立場とか見方を、その言葉を使ってグループ全体に貢献できるということです。みんなで「この事業は、どこに向かいたい事業なんだ」ということが、同じ言葉を使ってすり合わせができること。そしてみんなでそれを成功させるためには、どういった全体図を作っていく必要があるか。そのためにどういう働きかけを考える必要があるかを考えていくこと。
このあたりは、戦略を考えていくことになりますが、特に戦略といっても、これはビジネス系のNGOとか皆さんのような方にはぴんとくる言葉かもしれないけど、NGOによってはもしかしたら「戦略」という言葉そのものもぴんとこないかもしれないんですね。なので、言葉だけでやりとりをするのではなくて、ほんとに共通言語になるようなものがないと、やはりうまくいかない。
もうひとつ大切なのは、人を責めない、自分を責めない、そういった言葉を使うことです。どうしても、いろんな団体やいろんな人が集まってやるときには、ぎくしゃくしたり、進まなかったり、うまくいかないところが出てきます。
そういったときに、「あいつが悪い」とか、「あの団体がこうしたからだ」とか、「自分たちがこうしちゃったからだ」とか、そういうふうにお互いを責めてしまうような雰囲気になると、それ以上うまくいかなくなるし、みんなも面白くなくなってしまいます。
そのときに、いまうまくいっていないのは事実だけど、それはどうしていまうまくいっていないのか。何を変えればうまくいくのかということを、人を責めない、自分を責めない言葉で話し合うことができれば、問題があったとしても乗り越えていくことができる。
システム思考というのは、この共通言語になるものなのです。システム思考というからには、確かに思考法ですが、市民との事業という文脈では、私は共通言語、コミュニケーション・ツールとしていちばん使えると思っています。
システム思考というのは、実はこれは欧米の企業でもう広く取り入れられているものです。たとえばこのあいだも、ダウケミカルの重役さんが「うちの会社では1週間、副社長クラスの人を順番にシステム思考の講座に送り込んでいるんですよ」ということを言っていました。
システム思考というのは企業にも役に立つということで使われているし、何人かこの中でもシステム思考のワークショップに来てくださった方がいらっしゃいますが、ビジネスにも役に立ちます。今日はJCとしてのコミュニティの話を中心にしてやりますが。
役に立つ理由として、いま、「共通言語になります」という話をしました。もうひとつ挙げます。市民参画の事業を行うときに、恐らくひとつの目的となってくるのは、どうやって広げていくかということになると思います。
自分たちだけやっていていいんだったら、それはいいんですけど、そうではなくてやっぱりたくさんの市民を巻き込んでとか、まだ知らない人たちに伝えてとか、まだ活動していない人たちにも参加してもらう。そのときに「自律的な広がり」をつくり出す戦略。これはシステム思考がとても得意としているところです。
では、その自律的な広がりとはどういうことなのかというのを、ちょっと説明してみようと思います。(注:ここでラーニング・ゲームをしました)
いまやっていただいたように、あるシステムの構造があったときに、小さな力で、どんどん広がる構造をどうやってつくるかということを、システム思考を使って考えることができます。
たとえば、JCの新入メンバーの勧誘でも、一人ずつ説得していくのではなくて、一人説得したら、その人が次の人を呼ぶような仕組みができないか。そしたら、会員拡大委員会はとても楽になるわけですね。そういうふうな構造がわかると、つないでいくことができます。
もうひとつシステム思考が役に立つことがあります。いろんな事業を展開していくと、必ずシステムの抵抗というのが出てきます。成功すればするほど、システムの抵抗が出てきます。この抵抗というのは別に、抵抗勢力とか、誰か反対する人とか、そういう場合もあるけど、そればかりではなくて、システムそのものに、あるところまで行くと、その足を引っ張るようなものが出てしまう。
たとえば、ある事業への参加者をグラフにしましょう。事業をやっているとどんどん増えてきて「よかった」と思っても、あるときからなぜか頭打ちになって減り始めてしまう。
これでは困るわけですね。自分たちはこれをどんどん増やしたかった。どんどん増えているときにはその構造があったのですが、成功ゆえに別の構造が走り出してしまった。足を引っ張る構造ができてしまっている。だから今度、減り始めているわけですね。
この足を引っぱる構造がわかれば、手を打つことができます。わかってからではなくて、先に予測することができます。システム思考でループ図を描くと、これがこういうふうに成功すればするほど、ここにこういう構造が出てくるかもしれない。としたら、そのときのこういう障害や悪影響を抑えるために、いまから何ができるか。先手を打つことができます。
何か物事を変えていくときに、最初に、「変えてどうしたいのか」というビジョンをつくる。それからシステム思考で、いまの現状がどうなっているのか、どこに働きかければ、望ましい変化をつくりだせるのかを考えます。
ビジョンをつくることは、皆さんもよくやっていらっしゃると思いますが、いまなぜビジョンと違う状況になっているのか。どうすれば働きかけが考えられるのか。この辺がシステム思考の守備範囲ということになります。システム思考を使うと、先ほど言ったように、いろいろな言葉とか背景とか歴史を持っている人たちと、ビジョンを共有したりすり合わせすることができます。
たとえば、地元でやっていらっしゃる市民団体のところに行って、「じゃあ一緒にビジョンを考えましょう」と言っても、「ビジョンって何ですか」と言われてしまうかもしれない。私たちにとってはごく普通の「ビジョン」という言葉も、普段使っていないので、どういうことかわからないという人たちもいます。
でもシステム思考のツールで、一緒にこれからどういうふうな形をつくっていきたいかを考えるものがあるんですね。一緒にグラフを描くんですが、そうすると、「こういうふうな形にしたいんだよね」ということを、グラフを見てみんなでわかることができます。
たとえば、状況の診断ということで言うと、私たちは往々にして、自分の見えている範囲だけでいちばんいいと思うことをやってしまう。それが実際、回り回ってどういう結果になるかということを考えないでやってしまう。考えないのは、考えるためのツールとか言葉を持っていないからだと思います。システム思考はそこに役に立ちます。
システム思考にはたくさんの知恵があって、私はとても好きなんですが、たとえば、「今日の問題は昨日の解決策から生まれる」。昨日の問題に対して解決策を打って、それがうまくいけばいくほど別の問題を生み出してしまうわけですね。ひとつ解決したと思ったら別の問題を生み出すというようなことが、これは組織でもあるし、地域でもあるし、いろんなところであると思います。
なぜこうなってしまうのでしょう? 私たちが慣れ親しんだ物事の考え方に、ひとつの原因があると思います。私たちは、小学校のときからそうですが、いろいろなものを「分析して考える」というやり方を取っています。
たとえば利益が下がってきて困ると、皆さんが会社で思ったとき、利益というのは売り上げとコストからできていると。売り上げとコストの差ですよね。売り上げというのは、価格と数量を掛け合わせたものだと。こういうふうに細かく分解していくわけです。分解して、じゃあそれぞれどうしたらいかということを考える。
これは細かく細かく分けていって、対処できるいちばん小さい単位にして対処しようという、ロジカルシンキングというような考え方ですが、これでこういうふうに切り出して対策を打ったとしても、でも実際は、ある対策が別の原因を悪化させたり、お互いにいろんな影響が、ここの切り出していないところとの相互作用というのはあるわけです。
プロジェクトとして切り出したとしても、相互作用を切ることはできない。ですから自分たちが予想していなかった、切り出していないところからの影響とか相互作用が出てきて、成功しなかったり足を引っ張られたりしてしまいます。
人間というのは、どうしても直線的に考えてしまうんですね。これはごく自然のことです。システム思考家の大家、第一人者といわれる人たちもそうだというふうに、自分たちのことを言っています。だからこそシステム思考の助けを借りて、直線的ではない考え方を自分に取れるようにしているんだと言っていますし、私もそう思います。
システム思考の知恵のひとつに、「解決策は問題の近くにあるとは限らない」というものがあります。「レバレッジ・ポイント」という考え方がシステム思考にあります。レバレッジというのはテコです。レバレッジ・ポイントというのはテコの作用点のことで、小さな力で大きく動かせる、そういうポイントです。それをシステム思考で、先ほどのようにループ図を使って考えていくことができます。
ひとつ、これは有名な話なので、ご存じの方も多いかもしれませんが、ニューヨーク市の話をしようと思います。まちづくりということで言うとかなり大きな事例ですが、ニューヨークは90年代、非常に荒れていたんですね。地下鉄なんて怖くて乗れませんでした。その辺で暴力とかいろんな怖いことが日常茶飯事で、とても怖いので、夕方になると誰も歩かない、そんな所でした。
その時に、それを変えようとして、まず地下鉄の担当になった人がいました。この人が何を始めたかと言うと、地下鉄の落書きを消すということでした。これには非難ごうごうでした。「そこで殺人とか傷害事件が起こっているのに、落書きを消して何になるんだ」と、みんなそういうふうに言ったわけです。でもその人は譲らずに、「これこそ解決策だ」と言って、7年間ずっと地下鉄の落書きを徹底的に消すということをさせました。
地下鉄の警察も、この人たちは同じ考え方で取り組みを始めました。強盗とかそういうことももちろんあるけれども、これまでは全然取り締まっていなかった軽微な犯罪、無賃乗車の取り締まりを始めたのです。
改札を飛び越えて乗る人が、ニューヨークの地下鉄は多かったらしいんです。それはみんな見ないふりをしていました。数が多いし、それどころじゃないと。あそこで傷害が起こっているという状況でしたから。でもこの人はやり方を変えて徹底的に無賃乗車を取り締まりました。無賃乗車を取り締まった結果、重罪犯罪がどんどん減っていったんですね。
次にジュリアーニさんが市長になったあとに、この考え方を全市に広げました。これはたとえば交差点で止まっていると、無理やり窓ガラスをふいて、ちょっと小銭をもらおうというようなホームレスみたいな人がたくさんいるんですが、そういうのとか、ポイ捨てというのを徹底的に取り締まりました。これも「何やってるんだ」という話があったのですが、しかし、これでやはり重罪犯罪が何分の1というぐらいに減りました。
なぜこのニューヨーク市は街の再生に成功したのか。これの理論的背景は、実はシステム思考でした。これは「割れた窓理論」といわれる理論があるんですが、これはまさしくシステム思考に立脚しているものです。
割れた窓理論というのは、こういう考え方です。ある街の一角で割れた窓ガラスがあって、それがずっとそのままになっていたとしたら、「この辺は誰も気にしていないんだな」「誰の目にも入っていないんだな」というシグナルを送る。そうすると何となく犯罪がうまくいきそうな気がする。「誰も見ていないんだろうな」と。そうすると犯罪が増えるんですね。
犯罪が増えるとますます窓ガラスが割れます。ますます犯罪が増えるとますます窓ガラスが割れて、ますます犯罪がうまくいきそうな感じがしてきて、ますます犯罪が増える。そうやってどんどん荒れていくんだというのが理論です。
それに対して、そうではなくて、割れた窓ガラスという、一見犯罪と関係ない小さいものを取り締まることよって、窓ガラスが割れなくなれば、「ここはみんな見ているんだな」という雰囲気が伝わって犯罪が減るので、窓はまた割れなくなる。これは構造は同じで、悪循環を好循環に変えるというやり方ですが、システム思考を使うことで、このように構造を考え、変えることができます。
しかも、プラスのおまけまでありました。犯罪が減ってきたので、この辺は安心だと。夕方になっても外に出ても大丈夫だという安心感が広がって、外に出て過ごす、おしゃべりをしたり買い物に行ったりする人が増える。そうすると見る目が増えますから、ますます犯罪ができにくくなる。減ったわけです。という、これは好循環を2つつないだという構造になりますが、この割れた窓理論に立脚して、ニューヨーク市全体を大きく変えることができたわけです。
いろいろな問題も、一見、「これって問題解決に関係あるの?」というようなものでも、つながりをたどっていくと、「確かにこれは、変えると問題が変わる」というところがあったりします。構造が先にわかれば、どこに働きかければいいかを考えられます。
システム思考をちょっとだけまとめると、自分たちに見えている部分だけではなくて、全体を見るという考え方です。要素のつながりを見ていこう。そして、先ほども言いましたが、人を責めない、自分を責めない。
つまりシステム思考では、構造が変わらなければ、人が代わっても同じ問題が起きると考えます。よく日本では、不祥事が起こるとトップの首をすげ換えておしまいにしますが、構造が変わらなかったら、絶対同じ問題が起きます。
問題は構造が起こしているからです。もちろん人が起こしている問題もありますが、繰り返し起こる問題とか、どうしても解決できない問題は、人ではなくて構造が起こしていることが多いです。
なので、たとえばJCの中でも、何年か前に聞いたのですが、新入会員を勧誘する委員会が、一生懸命やってもなかなか増えない。だから委員長を叱ったり、担当者を代えたり、いろいろしたけど、結局うまくいかないと。それはその人が悪いのではなくて、いまの勧誘の仕方の構造が、人々を勧誘する上であまり役に立たない。構造を変えないといけないということですね。
このように、システム思考を使って話をすると、「あなたが悪い」とか「私が悪い」ではなくて、いまうまくいっていないのはきっと、われわれが共通に絡んでいるこの構造に問題があるに違いないと。なので、まずみんなでその構造を考えてみようと考えます。みんなでループ図を描くんですね。
じゃあ、この構造の中でどこにどう働きかければ望ましい構造に変えられるかな?とみんなで話し合いをします。これは誰も責めないアプローチなので、みんなが建設的に議論することができます。
また、私たちは目の前の出来事に一喜一憂しがちですが、本当はその意識・無意識の前提、価値観ともいえるかもしれませんが、そういった前提まで変えていく必要があります。そこまで下りていくことをシステム思考では考えます。
システム思考の歴史だけ少し説明しておくと、これは50年代にアメリカのMITで成立した学問で、日本ではなぜかあまり広がっていません。いま私たちが広げようと一生懸命していますが、世界ではごく普通に使われている。ですから「国際的な場面で活動する人は、英語と並んでシステム思考は共通言語ですよ」と、私はよく言っています。
いま、JICA(国際協力機構)のトレーニングでシステム思考を行っています。これから途上国に派遣されて、そこで活動する人たちがシステム思考を身につけていると、向こうの人たちとも話ができる。共通言語ですから、特に言葉の通じない所に行ったときには役に立ちます。企業もたくさん使っています。デュポン社が、ある工場の改善にシステム思考を使って、大きな生産性改善を実現したという事例も有名です。
今日は熊谷JCの方々の了解を得て、今年3回ワークショップをやって、熊谷でつくってきたループ図の例を見せたいと思います。ここに書いてある4つのグループが、それぞれ自分たちの課題として考えていることが、どういう要素のつながりから成っているかということを、ループ図にしました。
http://change-agent.jp/news/000031.html
これは町の安全を取り上げたループ図です。町の安全というのは、どういう要素からできているかということをいろいろ考えると、実は自己増殖型というのか、自己強化型というのか、1回やればどんどん増えていくという、そういう構造が埋め込まれています。ただそれがまだ活性化されていない。
としたら、どうやって活性化することができるかということを考えることができます。ですから次のステップとしては、どこに働きかけてこの望ましい好循環を動かしていくか。それを考えましょうということを、熊谷JCではワークショップで考えました。
これは2〜3時間のワークショップを2回おこなってメンバーがつくったループ図です。教育チームは、学力格差を取り上げました。域内の学校に格差があるのですが、どうしてこういう構造になっているかという分析しました。
この時に出てきた構造は、実はシステム思考で「システム原型」でした。問題の分野とか状況にかかわらず共通して見られる基本的なループのパターンが、システム思考では十何種類あるといわれています。その基本パターンを知っていると、すごく対処しやすいんですね。「あ、これって、この基本パターンかも」と思うと、それに気をつけたり、どうしたらいいかということがわかっている部分が多いので。
熊谷JCの学校格差に関しては、まさにこの「強者はますます強くなる」というシステム原型でした。つまり、ある学校が強くなる、成績が優秀になると、そちらへのみんなの注目とか資金とかが集まるので、ますますそれは強くなりますよね。そうすると、資金というのは限られている。みんなの注目も限られている。それがどんどんある優秀な学校に行くと、あまり、いま優秀ではない学校にはお金も注目も行かなくなる。そうすると、ますます成績が上がらなくなってしまう。
システム思考ではこういう原型がたくさんありますが、この「強者はさらに強くなる」という原型に対しては、鉄則として、「多様性を高める」「機会の平等を確保せよ」というような鉄則があります。
たとえば日本だけはなく、世界はこういったことが昔からわかって、いろんな仕組みをつくってきています。たとえば累進課税というのもそうですね。貧しい人がどんどん貧しくなるのを少しでも防ぐように。もしくは、プロ野球のドラフト制度もそうです。これもやはり、強いところがどんどんお金にまかせて人を集めないように。それからゴルフのハンディキャップの制度もきっとそうでしょう。こういうふうに、平等にやるということをいろいろ考えているわけです。
としたら、先ほどの熊谷の例に戻りますが、学校の格差があるとしたら、それにどういうふうな働きかけができるかということを、システム思考を使って考えることができます。
ではまとめますね。システム思考が役に立つのは、いままでお話をしてきたように、いろいろな人たちがいろいろなバックグラウンドやいろんな言葉や、いろいろな思いの人たちが、共通の土台で議論できる共通言語になれる。これによって先ほど、市民参画の事業の成功要因の最初にあげた「みんなが参加できること」が達成できます。
そして、自立的な広がりをつくり出す戦略を考えることができる。これはやはり事業として成功する、たくさんの人が参加をするという意味で、「成功をおさめること」というふたつめの成功要因につながるものです。
最後に、システムの抵抗といって、システムとしてうまくいかなくなる可能性があるところを予期して、先手を打つことで、一生懸命やったけど失敗しちゃったという、そういった経験をみんながしなくてすむようにする。このようにシステム思考を役立てていただくことができると思います。
システム思考はビジネスにも役に立つので、私たちはビジネス向けワークショップもやっていますし、熊谷でやらせていただいたように、地域づくり、まちづくりということで、実際にその町の人たちとワークショップをやって、このような図をつくって共通認識をしていくこともできます。
多様な人たちが集まったときに、それぞれ、そこからの見方を持ち寄ることができます。それをループ図でみんなで、自分のとこからはこういうふうに見えている、そちらからはそう見えているということを出し合って、全体像もしくは全体の構造をみんなで見て、だったらどうしたらいいということを考えることができる。そういった意味で、共通言語という話をしましたが、役に立つのではないかなと思います。
もしご興味があれば、チェンジ・エージェントという会社のWEBページに来ていただくと、熊谷の例も含めて、もう少しいろいろな事例、ワークショップのお話も載っています。
JCが地域で活動していく上で、いろいろシステム思考は役に立てると確信しているので、そういう機会があればぜひお声掛け下さい。ありがとうございました。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
企業向けの「システム思考トレーニングコース」、年内は福岡、東京で開催予定です。上記で触れている「システム原型」もいくつも登場する参加者から高い評価をいただいている高いコースです。よろしければぜひどうぞ〜!
12月 8日福岡 http://change-agent.jp/news/000050.html
12月12日東京 http://change-agent.jp/news/000053.html
演習や事例を増やしたコースで、6時間かけてじっくりツールを習得していきます。
●日時・場所
福岡: 2006年12月8日(金) 9:30-16:30 (9:15開場) @アクロス福岡
東京: 2006年12月12日(火) 9:30-16:30 (9:15開場) @中野サンプラザ
●料金 45,000円/人(6時間コース、税込)
●お申し込み・お問い合わせ
(有)チェンジ・エージェント 担当 関・増田・小田
info@change-agent.jp
TEL: 044-930-0012 FAX: 044-930-0013
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