エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース
2006年05月25日
「第3回朝日環境フォーラム」より田中優さんのお話 その2
前号で、3月3日に開催された朝日新聞社主催の「第3回 朝日環境フォーラム」でのパネルディスカッションから、田中優さん(未来バンク事業組合理事長、apbank監事)の最初のプレゼンテーションをお届けしました。
「勇気づけられた」「気づくことが多かった」などフィードバックをいただき、「つないでよかった♪」とうれしく思っています。(^^;
さて、3人のパネリストのプレゼンテーションのあと、私がいろいろと質問する形で、パネルのテーマである「エコな社会の新しい仕組みづくり」について、お聞きしていきました。
前号にひきつづき、田中優さんの発言を、まとめてお届けしましょう。
~~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~~
枝廣 今、それぞれ問題意識を持って仕組みをつくってこられた三人のお話を聞きました。どういうふうに、エコな社会なり、持続可能な社会なり、戦争のない社会なりつくっていくか。そのときに、それぞれの方がどういうふうに今、お話
くださったような仕組みを考えてつくってきたかというところを、少しお話を伺いたいんですが。
多分、ふだんいろいろなものを見ていて、「何かおかしい」という問題意識とか、「ほんとはこういう社会にしたいのに」「こういう世界にしたいのに」というビジョンがあって、その姿と今と違う。それは何か欠けている、何か足りない。その間を埋めるための仕組みとしてつくられた場合もあると思います。
そのあたり、どなたからでもいいですが、どういうふうに、今、お話しくださったような新しい仕組みをつくろうと思ったのか。で、実際につくっていくときに、何が成功の決め手になってきたのか。たとえば同じように熱い思いで、「ここの仕組みが欠けているから、つくろう」と立ち上がる人はたくさんいるかもしれないけど、うまくいくプロジェクトもあれば、うまくいかないプロジェクトもあると思うんですね。
できれば、何があればうまくいくのかをぜひ学びたいので、そのあたり、どなたからでもどうぞ。お願いします。
●田中
先ほど、枝廣さんが出してくれた、どうしてつくろうと思ったのか、成功の秘訣は、というところにポイントを絞ってお答えしたいんだけれども、私たちがどうしてつくろうと思ったかと言うと、「原因に対して対策する運動がない」と思っ
たということです。みんなで、気持ちとしては自己満足はできるんだけれども、原因に対して対策していないから、結局らちがあかない。それをみんながやり続けている。このままじゃまずいというのがいちばんの動機です。
そして、成功したかどうかまだわからないですけれども、その秘訣があるとしたら、私はしつこい。とにかく長くやる。「死ぬまでおれはやり続けちゃおう」と思ってやっていたということが要因だろうなと。
それこそ、飯田さんの言ったことと重なるんだけれども、とにかく評論家になるつもりはないんだ、と。評論家になるつもりではなく、現実の問題として自分がどうかかわっていけるのか。自分が生きていく中で、何がし遂げられるのかというスタイルで考えていく。だから、美しいことを言っても全然意味がない。
自分に何ができるのかというふうに考えて、自分の役割を運動の中にうまく見いだしていくことが大事です。私自身の特徴は、データが大好きなので、データを調べまくるということと、あとは仲間からは私、詐欺師と呼ばれているんです
ね。口がうまいって。データは好きなんですが、もう一つ詐欺師だと。
そこが僕の一つの長所で、未来バンクの中では、ほかの人たちがそれぞれの長所を生かして作ることができたというのが、実際のところです。ですので、いろんな人たちが関わってくれて、それによっていつのまにかできていく。そのときには、お互いにつぶし合うんじゃなくて、お互いの長所を入れ子のように入れ込んでいってつくっていくというのが、うまくいく秘訣なのかなという気がします。
枝廣 ありがとうございます。あと、三人のそれぞれの活動で、もう一つ別の観点で共通しているのが、まず最初、どこかで成功事例をつくって、それを展開していますよね。自分たちで展開している場合もあるし、それを「自分たちもやり
たい」と言われてサポートしている場合もあると思いますが、そういった展開について、多分、自分たちのところでずっと一個所でやっているだけでは、やはり社会を大きく変えることは難しいかもしれない。一つの例になったりシンボルに
はなりますけど。そのあたりは、意識して仕掛けられているのか、それともそういう気運が今、高まっているのか。そのあたりはどうですか。
●田中
私のほうは、すでにあるのか、それとも自分たちでつくっていくのかという意味で言うと、両方だなと思っています。今、飯田さんが言ってくれたことはまさにそうでして、今、ボランティアというのは、ちょうど端境期というか曲がり角
というか、そういうところに差し掛かっていまして、これまでのボランティアというのは、「私はいいことをやっているんだから、それ以上のリスクを背負うのは嫌だ」で済んだんですね。
ところが今の市民風車の例ではないけれども、それ以上にきちんと社会を変えたい、世界を変えたい、環境を改善したいというふうに思うのであれば、自分のリスクもきちんと背負わなくちゃできないというところに、今、差し掛かり始めました。
その差し掛かったところを、いかに超えていくかというところでは、やはりみんながリスクを負うという一線を飛び越えていく勇気を、お互いに持たなきゃいけないですね。一人では勇気は持てません。みんなと一緒じゃないと、なかなか
飛び越えられない。そういうのをお互いにつくっていくことかなと思います。
そのときに大きな効果があるのは、将来のイメージです。将来をどうイメージできるか。そしてこれをやっていくことによって、こんなことを実現できるかもしれない。だったら自分の生涯をかけてもいいかもしれないというふうに思えるぐらいのイメージ。それをいかにつくれるかということが、意外と重要なんじゃないかなと思います。
枝廣 今、優さんもおっしゃった、将来、こういう世界にしたい、こういう社会にしたい。さっき、バックキャスティングとかビジョンという言葉も出しましたが、それにかんがみて、いろいろな仕組みをつくってきた。でも、それでまだ満
足ではないですよね。
まだまだきっと足りないところがあるし、これからやりたいことがいっぱいあると思いますが、次に進むために、次のステージに行くために何が必要なんだろう、今、どこが課題になっているんだろう。
そういう日本の課題を乗り越えて先に行っている先進的なほかの国の例として、その国は何があったから、今、日本が止まってしまっているところを乗り越えて、先に行くことができているんだろう。そのあたりの今の課題と、それを乗り越えるために何が必要かというあたりのお話を聞かせてください。
●田中
僕は、次に進むためにはやはり、「イメージ」と先ほど言いましたが、みんなの、世界的に見ると非常識な常識を、まず覆さなくちゃいけないですね。
先ほど飯田さんが言ってくれたとおり、EUはEU指令の中で、「2020年には20%以上自然エネルギーにするぞ」と言っているわけです。ということは、世界の中から日本を見返してみると、日本だけが変なんです。
自然エネルギーが子どものおもちゃとか、不安定だとか、頼れないだとか言うのは、日本だけの事情でして、ほかの国ではそうなっていない。それもまず見ておく必要があるし、もう一つ僕が言いたいのは石油の値段です。
イラクから取ってくる石油の量×去年の非常に高かった石油のお値段、1年分掛けて得られる収入というのが、イラクの石油収入として出ますね。それに対して、アメリカが投じている軍事費は、ほとんど石油を取るため投じているんですが、これがイラクの石油収入の14倍あるんです。それは石油を取るためのコストだったんだから、必要経費として石油に乗せろと思います。
そして去年、リタとカトリーヌという二つのハリケーンがアメリカを襲ったわけですが、1,300億ドルも被害が出ています。それは、イラクから取れる石油収入の4倍です。これも環境コストなんだから、石油の値段に乗せろというふうに思
うわけです。
それ以外に、世界では500億ドル以上の化石燃料に対する補助金が出ている。それらを全部乗せてみると、石油って実は高いんです。自然エネルギーのほうがすでに安くなっている。それを制度的に石油をわざわざ安くして、「石油のほうが安いから、自然エネルギーなんて役に立たない」と言っている社会というのは、なにかおかしいじゃないか。みんなが、そこの非常識な常識を乗り越えてくれたら、次に見えてくる社会は変わってくるんじゃないかというふうに、私には思えるんです。
そのために、みんなでイメージを、次に乗り越えられる社会はこうかなというようなものを持つことができたとしたら、少し社会は変わってくれるんじゃないかなと感じます。
枝廣 ありがとうございます。まだまだお話を伺いたいんですが、そろそろ時間ですので、最後にお三人それぞれお伺いしたいこと。今のどう加速するかということも含めてですが、たとえば、さっき飯田さんが「見えない価値を見える化す
る」という話をされました。見えない価値だけではなくて、たとえば「日本の常識、世界の非常識」のような、先ほどお話しされたことも、日本の中にいると全然それは見えていない部分が多くて、そういうものをどういうふうに伝えていく
か。
たとえばグリーン購入ネットワークのデータベースで、うちの近くにあるグリーン商品を買えるお店がわかるとか、たとえば未来バンクというオプションがあるとか、グリーン電力証書が買えるんだとか、そういう仕組みとしてあっても、それがまだ一般の人に知られていないので、知っていたら使うのに、知っていたら自分もやるのにという人が、まだうまく結びついていないなと思います。
なので、見えるようにする、そういう仕組みがあることを知らしめていく。それでうねりというか、使う側からも押してもらう、引っ張ってもらう。そのあたりも含めて、加速するということにもつながりますが、今までのお話で強調したい点、もしくは追加したい点を含めて、最後のコメントになるので、お三人の方それぞれ、どなたからでも。お願いします。
●田中
どう加速していくか、なかなか難しい話ですけれども、僕自身が感じているのは、「踊らされる」という言葉がありますね、私たちは踊らされてばかりいたんだけれども、「今度は自分で踊ろうよ」と思うんです。
自分で踊っていくという人が今、少なすぎる。自分の側から「こういうことをやっていこう」というふうに思ってくれる人がもっと増えてきて、いろんな運動が起こって、その中から切磋琢磨されて、いいものが残ると。それでいいじゃないかと思います。
その中で、たとえば必要なものを直接つないでいくというのは、とても面白いことです。ざくっと計算すると、1年間10万円を農家に先に渡すと、大体100キロ以上のお米を買うことができるんですね。だったら、先払いでお金を渡して、あとからお米で返してもらうという仕組みにしたらどうなるか。そうすると、生産農家のほうは先に収入が入るわけですね。しかも売り先が先に確保できちゃうわけです。安心して生活ができるようになるじゃないか。そうすると、買う側は
どうかというと、それによって円が暴落しようが何が起ころうが、安心して食っていけるという安心感が自分の側にも出てくる。
そういう直接つなぐような仕組みさえできれば、いろんなことが可能になってくるのに、踊る人が少ないから、そういうのが考えつかれていない。踊る人がもっと増えてきたら、いろんな仕組みがつくれるだろうから、さっき言ったように、
飯田さんがまとめてくれたように、イメージが必要になる。もう一つ、自分たちのところからフォワードキャスティング的にできるものをどうつくっていくか。
その両方のためにはイメージと踊る人、この二つが必要なんじゃないかなと思いました。
枝廣 ありがとうございました。
~~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~
あとおふたりのパネリスト、飯田哲也さん(環境エネルギー政策研究所所長、日本総合研究所主任研究員)、佐藤博之さん(グリーン購入ネットワーク事務局長)のプレゼンテーションと発言もお届けさせていただける予定です。
どうぞご期待下さい!