エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース
2006年04月12日
「ピーク・オイル」―デニス・メドウズ氏に聞く その1(2006.04.12)
3月12日から19日まで、ポルトガルで行われたシステム思考研修にチェンジ・エージェントの小田とともに参加しました。
このワークショップは、ローマクラブの資金援助の下、グローバルな課題の解決を目指すリーダー育成のために開催されたもので、講師はシステム思考の第一人者であるデニス・メドウズ氏、ジョン・リチャードソン氏が務めました。
(ふたりともバラトン・メンバーです)
世界14ヶ国からの22名の参加者たちとともに、システム思考の基本概念から、システム・ダイナミクスのモデリングまで、1週間朝から晩までみっちりと勉強してきました。(簡単なものであれば、システムのシミュレーション・モデルが作
れるようになりました!)
また、発展途上国の経済開発、紛争問題、ピーク・オイル、気候変動など、最新のグローバル課題の現状とシステム思考的なアプローチの最前線を、第一人者のモデルと体験談を交えて学んできました。
最終日の3月20日には、ポルトガルの産業界の第一線で働くエグゼクティブ向けのワークショップがリスボンで開催され、アシスタントとして参加。経営シミュレーションを軸に、システム思考の基本ツール、システム原型を1日で習得するコースを提供しました。
自分たちのシステムやシステム思考に対する理解が深まり広がったほか、システム思考を活用した多くの事例を集めることができ、優れた教育者たちの指導法やワークショップ・デザインを間近に見ることで、日本でのシステム思考のプログラム開発に有用なヒントをたくさん得ることができました。今後の日本でのワークショップもますますパワーアップしていきます。どうぞお楽しみに!
パワーアップした最初の「ビジネス向けシステム思考トレーニング・コース」を5月11日と、6月13日に開催します。最後にご案内がありますので、ぜひごいっしょにシステム思考を身につけませんか。
さて、チェンジ・エージェントが出しているシステム思考メルマガから、このポルトガル研修で、デニスが詳しく説明してくれた「ピーク・オイル」について、とても大事な問題ですので、ご紹介します。
デニスは、若い研修生たちをじっと見つめて、「これからのキミたちの暮らしや人生、専門家としての職業も、この問題によって大きく影響を受けることになる。
それは間違いない。それなのに、まだその重大な意味あいに気づいていない人が多い」と。そして、以下のプレゼンをしてくれたのでした。
~~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~
■「ピーク・オイル」―デニス・メドウズ氏に聞く(1)
システム思考の第一人者であり、『成長の限界』の著者のデニス・メドウズ氏が今もっとも注視しているグローバル規模の課題は「ピーク・オイル」です。日本ではまだなじみが薄い言葉ですが、アメリカでは経済界の重要なトピックスとして最近注目を集めています。今回、メドウズ氏の知見を得て、ピーク・オイルの概要をシステム思考的な観点から紹介します。
ピーク・オイル(peak oil)とは、「peak of oil production」、つまり 原油の生産量がピーク(最高点)に達することを指します。このピークを過ぎると、その後の原油生産量は減少に向かいます。
一方で、世界的に原油の消費は増加傾向にあり、今後も人口増加と経済発展の結果、需要の大きな増大が予測されています。消費が増加し、生産が減少に向かうと、どういう事態が起こるのでしょうか? 価格の高騰です。現在、原油価格は1バレル60ドル台半ばで推移していますが、近い将来には200ドルにもなるのではないか、と言われているのです。
この「ピーク・オイルはいつ来るか」が、この1年半ほど、アメリカで大きな議論になっています。せいぜい孫の時代だろうと思われていたピーク・オイルが、今まさに到来しつつあるという説が有力となってきたからです。特にこの半年間は、経済の専門家にとどまらず、一般世論やビジネスの議論の中でも大きく取り上げられています。
1948年に地球物理学者のM・キング・ハバートは、世界中の油田を調査し、原油に関する知識と経験をもとに、「アメリカの原油生産のピークは1970年頃に到来する」という予測を示しました。当時のアメリカはまだ、世界最大の原油産出国でしたから、経済界はその予測を笑い飛ばしました。
しかし、実際にはほぼ予測どおりの1971年に、アメリカの原油生産はピークを迎えます。それ以降、アメリカの原油生産量は減少を続け、アラスカの油田を加えることで一時的に下げ止まったものの、すぐにふたたび減少に転じました。(図1)この国内の原油生産のピークを過ぎた後も、国内原油消費量は増え続け、アメリカは世界最大の原油輸入国となっていったのでした。
図1:アメリカの原油生産量(1890-2000年)
http://change-agent.jp/3.11US%20oil%20ED.jpg
(出典:メドウズ、他『Limits to Growth: 30 Years Update』)
米プリンストン大学の地質学者ケネス・デフェーイェスは、師であるハバートの手法を用いて世界のピーク・オイルを計算し、2005年頃に世界の原油生産はピークに達するとの予測を示しています。(図2)ピーク・オイルは、もともと地球にあった原油埋蔵量の半分を使い切ったときに訪れると言われています。半分残っていると言っても、残り半分の資源を発見し、生産するにはとてもコストがかかるため、生産量は減少に向かうのです。
世界のピーク・オイルが到来する時期に関しては、未発見の原油埋蔵量がどれくらいあるかの推定によって、楽観的なものから悲観的なものまでさまざまな予測があります。しかし、どの予測をとっても、予測時期の違いは20-30年の幅に過ぎません。つまり、向こう30年間の間には確実にピーク・オイルが訪れるということです。そして、ピーク・オイルは30年後ではなく、すでに今起こっているという説もあり、その説を裏付ける多くの事実が注目されています。
図2:世界の原油生産量(1850-2050年)
http://change-agent.jp/3.12%20Global%20Oil.jpg
(出典:メドウズ、他『Limits to Growth: 30 Years Update』)
まず、地域別に原油生産量を見ると、アメリカのみならず、中東と旧ソ連以外の地域でも1997年までに原油生産量のピークを過ぎています。中東と旧ソ連は現在原油生産量の4割、既知の原油埋蔵量の約3分の2を占めているのですが、旧ソ連の原油生産のピークはこの10年のうちに来ると考えられています。中東のみがそれ以降も生産量を持続できると見られていますが、それでもその他の地域の生産の落ち込みはとてもカバーしきれません。
また、新しく発見される原油の量はどうでしょうか? 実は、世界の原油の年間発見量は、1964年にすでにピークを迎えています。そして80年代から、消費量が毎年新たに発見される埋蔵量を上回っており、現在では4バレル消費する間にわずか1バレルしか発見されていない状況です。
一般に発見される資源量がピークを迎えておおむね20年から40年後に、その資源生産のピークが来るといわれています。アメリカの原油は、1940年代から50年代にかけて発見のピークを迎え、1971年に生産のピークとなりました。
世界の原油にあてはめれば、仮にオイルショックによる消費の減少が起こらなかったならば、とっくにピーク・オイルが起こっていたことでしょう。世界はそのピークを今まさに迎えつつあると考えられているのです。
もう一つ、重要な事実は、原油の発見コストと生産コストが急増していることです。
すでに、商業的に生産可能な原油の9割が発見されているといわれます。仮に未発見の原油が予想以上に残っていたとしても、その発見と生産にかかるコストが高くなりすぎると、誰も開発しようとはしなくなるでしょう。
かつてアメリカでは、1バレル相当のエネルギーを使って、100バレルの原油を生産することができました。しかし、現在では、アラスカなどアクセスしにくいところで生産するため、同じ1バレル相当のエネルギーを投入しても、15バレルの原油しか生産できないのです。アメリカ以外の地域も、まったく同じ状況にあります。
このような重要な事実があるにもかかわらず、なぜ今までピーク・オイルの到来は看過されてきたのでしょうか。次号では、システム・ダイナミクスのモデルを用いたメドウズ氏の説明を紹介しましょう。
~~~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~
■「システム思考トレーニングコース: 望ましい変化を創り出す力をつける」
システム思考にご興味のある方、社員研修の一環としてお考えの方、システム思考の基本ツールを現場で用いて本質的な問題解決を進めたい方、ぜひご参加下さい。
=>詳細はこちら http://change-agent.jp/news/000022.html
コース概要
●システム思考とは
●経営戦略演習
●時系列変化パターングラフ―できごとではなくパターンを見る
●ループ図―システムの構造を描き出す
●システム原型―ビジネスシーンによく見られる構造
●システムへの介入―効果的な変化を創り出す介入ポイント
募集人員 約25名
料金 39,000円
お申し込み・お問い合わせ
(有)チェンジ・エージェント 担当 関・増田・小田
info@change-agent.jp
TEL: 044-930-0012 FAX: 044-930-0013
■開催日:5月11日、6月13日(内容は同じです)
□2006年5月11日開催
日時 2006年5月11日(木) 13:00 - 17:30
場所 東京都渋谷区「こどもの城」研修室906号室
(JR渋谷駅徒歩8分、メトロ表参道駅徒歩7分)
□2006年6月13日開催
日時 2006年6月13日(火) 13:00 - 17:30
場所 中野サンプラザ(東京都中野区)
http://www.sunplaza.jp/
(JR中央線・総武線/東京メトロ東西線「中野」駅 北口より徒歩1分)
お申し込みは、下記申し込み票を電子メールでお送りください。
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申し込み票
システム思考トレーニングコースに参加します
( )2006年5月11日
( )2006年6月13日
ご氏名 [ ]
ご所属 [ ]
メールアドレス [ ]
連絡先電話番号 [ ]
※このセミナーのことをどこでお知りになったか教えていただけると幸いです。
( ) a. 以前受講した人からのご紹介 ご紹介者名( )
( ) b. 職場・知人・友人からのご紹介
( ) c. システム思考メールマガジン.
( ) d. チェンジ・エージェントのウェブサイト
( ) e. チェンジ・エージェントからのメールによるお誘い
( ) f. Enviro-Newsによるご案内 ( )
( ) g. 他のメールマガジンによるご案内 ( )
( ) h. その他 ( )
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※受付確認後、振り込み口座をお知らせいたします。入金確認を持ちまして正式な受付となります。その後、受講票と詳しいご案内を電子メールでお送りいたします。
昨日発行したシステム思考メルマガにも書いたのですが、先日、経済産業省の勉強会に講師として招聘され、「2030年の我が国の産業像・社会システム像」を検討されている方々とさまざまなお話をし、提言をする機会がありました。
もっとも強く伝えたかったのは、「目の前の問題の解決策に飛びつくのではなく、一歩さがって、要素のつながりとしての全体像を見ること、そして部分最適ではなく、全体が長期的に望ましい方向へ進んでいくための真の解決策を考える必要性」でした。
一社の中で各部門がそれぞれ自分たちの目の前の問題しか見ていなかったら、企業としてうまく舵取りをし、経営をしていくことは難しいでしょう。それと同じように、一国の中で、各業界や各社がそれぞれ自分たちの目の前の解決策を勝手に推し進めていっても、国全体として皆が望む方向へ向かうことにはつながりません。
グループでも企業でも、業界でも、そして国でも、システム思考やそのものの見方がますます必要となってくることを痛感した勉強会でした。
最近、「システム思考の講演を」というご依頼をいただくようになってきて、うれしく思っています。システム思考を紹介し、活かすことで、真に強い組織や社会を作るお手伝いをしたい、という思いをいっそう強くしています。
がんばります~。(^^;