レスター・ブラウン氏が立ち上げ、所長を務めるアースポリシー研究所では、「エコ・エコノミーへの進捗を左右するもっとも重要な趨勢を示す指標」として、12の指標を「エコ・エコノミー指標」としています。
http://www.earth-policy.org/Indicators/index.htm
「エコ・エコノミー指標:追跡すべき動向」
【1】人口
【2】経済成長
【3】世界の漁獲高
【4】森林面積
【5】炭素排出量
【6】穀物生産量
【7】水不足
【8】地球の気温
【9】氷の融解
【10】風力発電量
【11】自転車生産
【12】太陽電池の生産
私のサイトに、日本語訳を載せています。
http://www.es-inc.jp/lib/lester/index.html
レスターは、この指標をときどき更新しているのですが、すこし前に「水」に関する指標のアップデートがありましたので、実践和訳チームのメンバーに訳してもらいました。お届けします。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
http://www.earth-policy.org/Indicators/Water/2006.htm
ますます重圧のかかる世界の水資源
エリザベス・マイガット
世界の淡水使用量は、20世紀後半で3倍に増加した。人口が2倍以上に膨れ上がったことに加え、技術進歩によって、農業などに水を利用する人たちが、以前よりも深い層から地下水を汲み上げることが可能になり、またダムの数や規模が拡大したことで河川からの取水が進んだことが原因である。
世界の水需要が増加するにつれて、水資源が過剰に使われ、各地の水生生態系が破綻し始めている。川は干上がり、湖は消失し、地下水位は低下している。世界全体でみると、河川と湖と帯水層から取水される水の10%が生活用水、20%が工業用水として使われているが、残りの70%近くは灌漑に利用されているのである。
水資源への重圧がとりわけ深刻なのは、農業を営んでいたり、人口を多く抱えたりしている乾燥地帯で、こうした地域では、水が利用可能な量を超えて使われている。中東、中央アジア、北アフリカ、南アジア、中国、オーストラリア、米国西部、メキシコは、特に水不足に陥りやすい。
過去半世紀に水の使用量が増えた主な原因は、世界の穀物生産の60%を支える灌漑用水としての利用が大幅に増加したことにある。世界の灌漑面積は、1950年の9,400万ヘクタールから、2003年の2億7,700万ヘクタールへと約3倍に増えている。しかし、灌漑を進めるために必要な水がますます不足していることから、灌漑面積の拡大も先細りしている。40年前に灌漑面積は年間2.1%の割合で拡大していたのに、過去5年間のデータでは増加率わずか0.4%というゆるやかな伸びしか見せていない。
一般的に、政府というものは、新規計画で増加した灌漑面積については進んで情報提供するが、井戸が枯れたり、川の水が干上がったり、灌漑用水が都市の生活用水に転用されたりしたために縮小した灌漑面積については、それほど積極的に報告しないので、こうした数字も実際よりは高めで、灌漑面積はすでに頭打ちになっている可能性がある。
一方で、人口1,000人当たりの灌漑面積は1978年に47ヘクタールでピークに達した後、1992年以降は縮小傾向にある。2003年にはそれが44ヘクタールに満たず、過去40年間で最低の水準となった。灌漑面積が拡大するよりも速いペースで人口が増加しているため、この数字が大幅に回復する見込みはない。
農業や工業、家庭での需要の高まりによって必要とされる水の量は増加の一途をたどり、水生生態系はそれらの需要を支えようと必死の状態だ。水を直接利用する場合であれ、エネルギー資源として利用する場合であれ、河川への依存度が高いコミュニティは枚挙にいとまがない。
しかし、河川の上流で生活する人たちの需要が増大すれば、下流側で利用できる水の量はそれだけ減ってしまう。中には、過剰利用のために河川が完全に消滅してしまうケースもある。
世界には、中央アジアのアムダリア川や米国南西部を流れるコロラド川など、1年のうち少なくともある期間必ず水枯れを起こしてしまう河川がある。かつて、アラル海への最大の流入量を誇っていたアムダリア川の水は、中央アジアでの綿作に必要な灌漑用水に転用されてしまっている。コロラド川は、南西部の農業や都市での激しい水消費のために水量が激減している。カリフォルニア州だけでコロラド川からの取水量の1/4以上、つまり3兆8,000億リットルを取り込んでいるのだ。
中国の黄河は、20世紀末の26年間のうち、断流が起こって海に達することがなかった年が18回もあった。しかし、近年になって管理が進み、貯水容量が増加したために、年間を通じて水が流れるようになった。これ以外の、例えばガンジス川、インダス川、ナイル川などの河川では、海に流れ込む頃には細々とした程度の水量しか残っていない場合もある。
河川が干上がる中で、河川に支えられている湖も厳しい状況に陥っている。河川や渓流からの流入量の激減、過剰な負担をかけられた帯水層からの涵養量の減少、湖からの取水量増大によって、湖岸線の後退や水位の低下が起こっている。例えば、死海の水位はこの40年間で25メートル(82フィート)下がり、カリフォルニア州では、ロサンゼルスが1941年にモノ湖に流れ込む河川からの取水を開始して以来、湖の水位は11メートル低下した。
チャド湖はかつてナイジェリア、ニジェール、カメルーン、チャドにまたがり、2万3,000平方キロもの面積を有する湖であった。だが、現在の面積はわずか900平方キロ、湖全体がチャドの国境線内にすっぽり納まってしまっており、もはや以前の地図は使い物にならない。
中国の河北省では1,052ある湖のうち969の湖が消失した。中央アジアを見てみよう。かつてアラル海のほとりに建設された由緒ある数々の港は、現在の水際線から一番遠いところで150キロも離れてしまっている。1980年代後半には、水位の著しい低下によってアラル海は二つに分かれてしまった。南アラル海は、水量の減少したアムダリア川が細々と流れ込んではいるものの、二度と元の状態に戻ることはないであろう。北アラル海については、近年、再生に向けて努力が行われており、以前は30メートルであった水位が38メートルにまで回復し、42メートルという存続可能レベルに近づいている。
地下水位の低下は世界的な水不足を示す現象だが、消滅した湖や干上がった川底ほどには見てわかるものではない。しかし灌漑地域の拡大や工業用水使用量の増大により、地下水資源はますます枯渇していく傾向にある。また化石帯水層は一部の主要穀物生産国において灌漑用水の供給源となっているが、補充がきかないことからその枯渇が特に懸念されている。
世界の主な食糧生産地域においては、帯水層の過剰利用が進んでいる。中国産の小麦の半分、トウモロコシの1/3を生産している華北平原、インド北部のパンジャブ州やハルヤナ州など生産力の豊かな農業州、米国のグレートプレーンズ南部に広がる主要穀倉地帯などがその例で、これら3カ国だけで世界の穀物量の半分近くを生産している。しかし、それにパキスタンを加えた4カ国で、農業用に汲み上げられているとされる世界中の地下水量の3/4以上を使っているのだ。これらの国々での地下水位の低下によって、世界の食糧生産を増やすことはさらに難しくなるかもしれない。
地下水は現代の農業にとってなくてはならないものである一方、都市環境においても貴重な資源である。メキシコシティー、カルカッタ、上海など、世界でも人口が多い都市は、その地域に存在する地下水に大きく依存している。中国の都市部では水供給源の30%が地下水で、世界的な規模で見れば、農村部と都市部に住む約20億人が、日々使っている水を地下水に頼っているのである。
2050年までに世界人口はさらに26億人増えると予測されているが、そうした増加が見込まれる国々の大部分ではすでに地下水位が下がり、井戸も枯渇し始めている。それらの国では、水不足が今以上に日常化し、しかも深刻化する可能性が高い。「人口成長を抑制しよう」「もっと効率的に水を使おう」といった努力を地球規模で直ちに行わなければ、水不足問題が食糧不足に直結する国が格段に増えていくかもしれない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
アル・ゴア氏の『不都合な真実』には、チャド湖がどんどん縮小していくようすが、4枚の写真で示されていて、思わず「うーん・・・」とうなってしまいます。そして、その対面ページには、「チャド湖が消えゆくことで、近隣諸国や人々にどのような影響が得ているのか」というストーリーと写真。
その前のページには、温暖化に伴って、なぜ洪水が頻発する地域と渇水が頻発する地域が出てくるのかという説明がグラフィックに示されています。レスターが挙げている原因をさらに悪化させる形で温暖化の影響も出ているのです。
詳しくは
『不都合な真実』をどうぞ。(チャド湖の写真は116ページにあります)
アル・ゴア (著), 枝廣 淳子 (翻訳) ランダムハウス講談社
また、レスター・ブラウンの
『プランB2.0―エコ・エコノミーをめざして』には、上記の指標を中心とした地球と世界の現状、原因、影響、取り組みなどが、豊富なデータとともに解説されています。デニス・メドウズ氏も「この本は、本当に便利なんだよなぁ」とあちこちに配ったりしているそうです。(^^;