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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2007年01月29日

ゴアさんといっしょに〜スターンレビュー(2007.01.29)

温暖化
 
英国最大手のスーパーマーケット「テスコ」が、全商品に二酸化炭素(CO2)排出量を示すラベルを付けて販売することを決めたそうです。全社で取り組む温暖化対策の一環で、商品ごとにCO2排出量を表示する試みは世界で初めて、とのこと。 2000年12月に配信した [No. 340] で書いた世界が実現しつつあるみたい。(^^; 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 LCAの結果を、メーカーだけではなく、一般消費者にも使えるようにしてほしいなあ、と思っています。いろいろな環境への影響を重み付けして・・・となるとフクザツになり、ラベルで見分ける方が簡単になりますが、二酸化炭素だったら、そのままの数字でも使えないかしら? たとえば、レストランへ行くと、メニューにはそれぞれ、「値段」と「カロリー」、そして「CO2排出量」が書いてある。お客さんはそれを参考に、お財布と昨日の体重計の目盛りと地球への負荷を考え合わせて、メニューを選ぶ......。どうでしょうか? SFチックにもっと話を大きくすると(^^;)、各国に割り当てられた二酸化炭素排出量を国民数で頭割りし、各国民が「自分の排出枠」を持っている時代が来る。自分のの枠を超えたら、余っている人から買い入れるしかない。 通帳の残高を見ながら買い物をするように、「排出枠の残高」を見ながら、昼食メニューを選んだり移動手段を選ぶ(すべての商品やサービスにはLCAによるCO2ポイントが表示してあり、消費すればそのポイントが"排出枠口座"から引き落とされる仕組み)・・・。 生活水準が高い人は当然多くのポイントを使うので、そうではない人から排出枠を買うことになり、富の再分配につながるし、発展途上国の人口増加問題もいっしょに解決できる(人口が増えればそれだけ一人当たりの排出枠は小さくなるので、人口抑制への力がかかる)一石数鳥案だと思っていますが、どうでしょうね? 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 さて、先週、TBSラジオ「アクセス」で、温暖化をテーマとしたリスナー参加型の番組に生出演してきました。 お題は「ひとりひとりの意識が高まれば温暖化の問題を克服できると思いますか?」これに対し、イエスの方、ノーの方(ノーが6割強で多かったそうです)が何人か、電話でご自分の温暖化に対する意見を述べる、という番組でした。 この番組に出て、とても考えさせられました。私のまわりには意識の高い人が多いのですけど、それほど意識が高いわけではない、いわゆる「一般の方々」が、温暖化問題を考えようとしたとき、どういう思考や発想になりがちなのか、いくつかのパターンがあることに気づきました。 アル・ゴア氏の映画『不都合な真実』を、私は米国で1回、日本で2回観たのですが、3回とも「そう! 私もそうしなくては!」とぐぐっと来たのは、ゴアさんが温暖化のプレゼンテーションの準備をしながら、「人々が温暖化を認めて、行動をとるうえでの障害となっているものを見極め、分析し、砕いていく」とつぶやくシーンです。 私にも、講演後の質疑応答(先日のラジオ番組でのリスナーの方々の意見などもそうでした)などから、人々の「温暖化に対する行動をとるうえでの障害」がいくつかあることがわかっています。ゴアさんが挙げていたものと重なるものが多いので、やはりそうなのかなぁ、と思って観ていたのでした。 よく出てくるものをいくつか挙げると、
○経済との両立をどうすればよいのか
○自分ひとりやってもしかたない(世界中でやらないと意味がない)
○他の国はどうなんだ(中国は、米国は、等々)
○技術が解決してくれるからだいじょうぶ 日本では、温暖化を認めないという意見はほとんどありませんが、ラジオ番組での統計でも「行動していない」人が半数以上でした。 今年は私もゴアさんのように、このような「人々が温暖化に対する行動をとるうえでの障害となっているものを見極め、分析し、砕いていく」作業を、もっと意識的に進めていこうと思っています。 そして、年初に書いたIMS(Institute of Marketing for Sustainability:持続可能性のためのマーケティング研究所)で、意識の高くない層も含めて一般の人々への「温暖化に対する行動」の"売り方"を研究・実践していくつもりです。 先週、横国大での公開講座で講義をしたあと、学生有志諸君との質疑応答がありました。そこでも「経済的合理性と環境への取り組みを、どう両立させることができるのでしょう?」という質問が出ました。 みなさんなら何と答えますか? 私はこのような質問をいただくと、3通りぐらいの観点から答えるよう、心がけています。 これも2000年に、子ども向けの新聞に書いた原稿ですが、 > 「何かがが環境に悪い影響を与えて問題だ」という場合、解決策の考え方にはい
> ろいろとあります。ここでは「自動車」を題材に考えてみましょう。
>
> 大きく分けると
> (1)今の自動車を改善する
> (2)今の自動車の使い方を改善する
> (3)自動車を使わない社会や生活を作る
>
> でしょうか。現在それぞれでの取り組みが進んでいます。 というスタンスです。上記の経済的合理性という質問に対しては、 (1)いまの経済の土俵でも、環境への取り組みは十分合理性があるのです
(2)いまの経済のしくみは、経済自体も持続できるものではないので、そのしくみを変えていく必要があります
(3)そもそも、経済的合理性がいちばん大事なのでしょうか? という3つの側面から答えることになります。 (1)をサポートする報告書や議論などが増えてきていますが、まだ十分に届いていないのだなあと思います。昨年出され、世界中で大きな議論と賛辞の渦を巻き起こした「スターン・レビュー」もそのひとつです。 去年の11月に、[No. 1250] で以下のようにお伝えしたレポートです。 > つい最近、世界銀行の元チーフ・エコノミストで、現在は英国政府の温暖化問題
> の顧問をつとめているニコラス・スターン氏が、経済と温暖化の関係についての
> 包括的なレポートを出され、世界各地で(バラトンのメーリングリストでも)ス
> ターン・レビューをめぐって活発な議論が巻き起こっています。
>
> レポートはこちらにあります(概要は日本語でも読めます)
> どうして日本ではマスコミもほとんど取り上げないのだろう?と思います。ときどきご登場いただいているエコプラスの高野孝子さんも同じ思いから、「スターンレビューで読み解く地球温暖化パネル展」を開催されています。 > 英国のエコノミスト、ニコラス・スターン博士の温暖化報告書をもとにした温暖
> 化のパネル展です。自然科学や化学、経済、政治の側面から指摘されつつあるこ
> とを、総合的に体系化した報告書の骨子を、パネルで示しました。日本ではまだ
> ほかではあまり紹介されていない内容だと思います。静かな場所で、温暖化に関
> する書籍なども閲覧用に用意してありますので、じっくり温暖化を考えることが
> できます。もちろん入場は無料です。2月末まで。東京都港区虎ノ門3丁目の港区
> 立エコプラザで。日、月曜休館。午前9時から午後5時まで。
> http://www.ecoplus.jp/showart.php?lang=ja&genre=11&aid=375 私も行ってみようと思っています。ぜひどうぞ! 残念ながら行けない、という方のために、同じくエコプラスのウェブサイトから、スターン氏の講演要旨をお届けします。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 2006年11月28日、東京・国連大学で開かれた
「The Economics of Climate Change」の講演要旨
http://www.ecoplus.jp/showart.php?lang=ja&genre=8&aid=373&PHPSESSID=52c16d9798282528434df34377461484 グラハム・フライ駐日英国大使 もう、気候変動そのものについての大きな議論はなくなってきた。これからはその気候変動と経済の関係だ。3つの課題が出てくると思う。1つ目は、このままの暮らしを続けるとどういうコストをいずれ払わなければならなくなるかということ。2つ目は、安定化のためのコスト。そして3つ目が最も効果的な手法はなんなのかということになると思う。私が博士の時間を取るわけにはいかないので、これまでにしたいと思う。このスターンレビューという報告書は、全部で600ページにも上る膨大な内容だ。博士がこの発表の後に最初に訪れたのが日本であることを付け加えておきたい。 ニコラス・スターン博士
私は、英国財務大臣のゴードン・ブラウンからグレンイーグルサミットの後に、調査をまとめるように要請を受けた。そのサミットではアフリカ救済が大きな課題となったが同時に気候変動の理解を進めるための、特に経済面から見た温暖化を調べるように要請を受け、この報告書をまとめた。 最初に、気候変動に関する経済というものについて、考え方を整理しておきたい。 気候変動というのは、いろんな形を見せる。
1)それは地球全体で起きる。
2)温暖化ガスは毎年どんどん積み重なっていく。毎年の積み上げというものは直接には目に見えないが着実に長期的に重なっていく。
3)それは、とても不確かで、いろんな出来事が起きるとしても、確実にあることが起きるということではない。
4)最後に、それはとても深刻で大きなことで、しかも後戻りが出来ない。一旦排出された温暖化ガスは何百年にも渡って残る。 それに不公平ということがついて回る。ほとんど、73%の温暖化ガスは豊かな国から排出されているのに、貧しい国から真っ先に深刻な被害を受ける。しかしこの地球の上では被害から逃れることができる国はない。途上国である中国やインドのようにまた大きなガスを出すようになる国もある。 まずどういう影響がでるか。 すでに産業革命から、地球の温度は0.7度あがっている。我々がいろんな対応をとってももう1度以上はあがるだろう。何もしない場合、今世紀後半は、大気中の二酸化酸素濃度に換算した温暖化ガスは800ppmになるだろう。今は430ppm。280ppmが19世紀中旬の状態だった。2.5ppmずつ私たちは毎年毎年増やしている。 2、30年の間ずっとこのままいくと100ppm増える。430ppmから550ppmに増えるわけだ。今世紀末には850ppmになる。その場合は80%の確率で世界の平均気温は5度以上あがる。100年の間に5度という変化は、12,000年前の氷河期との今との差になる。その場合、どこに私たちが住めばいいのか。まず水から影響を受けることになるだろう。干ばつ、嵐、エコシステムも大被害を受ける。2、3度の上昇でも大きな影響を受ける。これが温暖化の問題なのだ。 では450ppmで押さえられた場合はどうだろう。2度は上昇する。EUでは地球温暖化を2度で押さえようとしている。550ppmでも3度あがる。2度でも危険がある。報告書で550ppmが上限と考えている。450ppmには10年のうちに到達してしまう。なのでこれを目標にはできない。現実的には550ppmを上限にするのがいいと思う。それでもだめだという人は少なくないだろう。 温暖化によって水不足が起き、デング熱やマラリアが高緯度に拡大し、環境難民が発生し、紛争化するだろう。 ロンドンでもテムズ川の水位があがるだろう。冬の雨が多くなり、地下鉄は被害を受け、嵐も多発する。日本もでも台風が増え、水害が起き、海面上昇で人々は困ることになる。フロリダもカリフォルニアも、豊かな国の大都会も深刻な問題に直面するだろう。 この温暖化の経済リスクを計算してみよう。このままいくと経済へのコストはどういうことになるか。マーケットやGDPで見ると、最低でも5%でも。幅広く考えれば14%。さらにこの波及効果を考えると20%以上になると思われる。5-20%の影響があるといえる。 後からやるのはコストがかかる。いまのままほったらかしにした場合、あと30年もしてしまうともはや気候を安定化できなくなる状態に陥るだろう。もし550ppmを目標にした場合、2020年に温暖化ガスの排出をマイナスに転じることができれば、達成することができるだろう。2010年にマイナスに転じることができれば450ppmに押さえ込むことができる。その場合でもあと30年ほどに渡って、毎年10億トンのCO2を減らさなくてはならない。 しかし、その経済的なコストは1%にすぎない。いま1%値上げして、それでクリーンなものにすればいい。それによって温暖化を止めることができる。これは成長を止めることではない。成長もしながら環境を守ることができる。グリーンな環境を維持しながら、成長ができるのだ。新製品、新技術をいれればいい。 いま始めることが必要。そのために
1)長期的なゴールを設定すべきだ。
2)柔軟にやることが必要だ。場所や国などによって、今年は2%、今年はゼロ%という削減目標をいろいろに設定することだ。やりやすい業界はどんどんやるという風に。国ごとに違っても良い。
3)予見性があるものにしなければならない。 どうするか
税金でも、排出権取引でも、規制でも、温暖化ガスを経済の仕組みに金額として組み入れなければならない。テクノロジーへの支援が必要。人々に理解してもらうことも不可欠だ。 技術は安くなってきた
太陽光や風力などの新しいエネルギー開発のための投資を倍増しないといけない。毎年100億ドルを増やすべきだ。技術はすでに50%以上も安くなってきている。 世界協調は不可欠だ。日本は3%、UKは2%のガスを出している。地球の上のみんなが関係する。 各国は、
*長期的視野を持つ。
*先進国と貧しい国の間の協力を作り上げる。日中協力も必要。先進国は多くの教訓を得ている。後進国は一部は先進国の多大の排出のおかげで被害を受けると怒っている。中国やインドはどんどん発展している。
*カーボントレードも必要。すでにいろいろやっている。
*カリフォルニア州も大きな目標を設定した。中国も森を作り直している。多くの国がやっている。それをどう相互理解の上で展開するのが大事だ。 国際技術協力が必要
技術共有と開発のRDの共同実施が欠かせない。 森林破壊を防ぐ
重工業が多くのエネルギーを使っている。電気業界が大きく関係している。森林業界がもう一つ大事。ブラジル、パプアニューギニア、インドネシアなど。その国々をどう支えるか。外部からいうのではなく、そこを知る人たちがやるべきで、それを支えるべき。日本もいろいろ知恵がある。 これからどうすればいいのか。
気温は上昇する。うまくいけば2度未満で押さえられる。しかしがんばらないといけない。ロンドンの堤防のかさ上げや下水路の再構築を考えないと行けない状況に我々は直面している。2010年から2012年にかけてのODAをこの枠組みでやらないといけない。新しい技術、作物、基盤が必要。 結論
温暖化ガスを450ppmにしないといけない。550ppmでも大変危険。それを最低限で450から550を目標にしないといけない。 それは現実的に受け入れられる世界でもある。「green and grow(環境を守り、成長する)」は可能。長期的な問題であるがいまやらないといけない。ほっておいて550ppmにすると大変なことにある。いますべきだ。でないととてつもないコストもかかる。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「このまま温暖化が進行すれば、世界経済はGDPで5〜20%の損害を受ける。しかし、GDPの1%を投資すれば、温暖化を止めることができる」ということです。 1%の投資で5〜20%の損害を防げるなんて、なんとハイリターンな投資なのでしょう!(冒頭の英国のスーパーマーケットもそう考えたのでしょう) かつてレスター・ブラウン氏が「エコ・エコノミー」を説き始めたとき、「経済を動かすには経済の言葉を使わなくてはならない」と私に語ったことがありました。自分の関心より、聞き手の関心にターゲットをしぼって、それまでの農業・人口問題を主軸としたスタンス(いまも彼の中では主軸ですが)を、「経済にとってはどういう意味合いか」を語るスタンスに意識的に作戦変更したのだなあ、と思ったのでした。 スターンレビューが世界で広く受け入れられ、議論を起こしたのは、さらに「経済の言葉で環境を語る」ものだからです。何と言っても、元世銀のチーフエコノミストだった方ですもの。世界の反応を見ていても、これまでの「環境分野の人々」を超えて、金融・産業界にも広く議論を巻き起こしているようすを感じます。 昨年秋に、スターン氏が来日された折、光栄にも会食に同席させていただく機会がありました。穏やかなとても素敵な方でした。報告書を出されてから、日本を皮切りに世界中を行脚される予定とお聞きしました。 「英国ではこの報告書はどのように受けとめられていますか? 企業は? 一般の人々は?」とつい、食事もそっちのけで矢継ぎ早に聞いてしまう私に、にっこりしながら、「マスコミも大きく取り上げてくれているし、企業も一般の人々も関心を持って、議論を始めていますよ」と。 「環境と経済」は、温暖化をはじめ、環境問題を進めていくうえで、だれにとっても避けては通れない課題です。自分自身では納得しても、まわりの人に伝えよう、行動を促そうとした瞬間に、この課題に直面する人も多いことでしょう。 スターンレビューはこの課題を正面から取り上げるものです。ぜひこの課題に自分自身にしろ、伝える際にしろ、直面している方は、味方にしてください。 それでもきっと「でも......」が出てくるでしょう。その場では説得しきれないかもしれません。しかし「でも......」のあとに出てくる言葉をヒントにしながら、ゴアさんのように、「人々が温暖化に対する行動をとるうえでの障害となっているものを見極め、分析し、砕いていく」作業を続けましょう!
 

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