エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース
2007年03月15日
ノーマン・マイヤーズ氏「新しい消費者」(2007.03.15)
昨年、英国の著名な環境オピニオンリーダーであるノーマン・マイヤーズ氏から、「いっしょにできることはありませんか?」とメールをいただきました。来日された折に、何人かの方々から、私の名前を聞いた、とのこと。
メールニュースを含め、自分の活動を紹介したところ、「ぜひ使ってください」とこれまでにお書きになったものを数編、送ってくださいました。実践和訳チームのメンバーが訳してくれましたので、ご紹介します。中国やインドといった新興経済諸国で拡大している大量消費主義が及ぼす環境への影響について論じている一編です。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
新しい消費者
ノーマン・マイヤーズ
好調な中国経済の話題を耳にすることが多くなった。当然のことながら、こうした経済拡大はかなりの数の中産階級を生み出してきた。中国では少なくとも4億人が貧困から抜け出し、ある程度の豊かさを味わっている。インドでも、中国よりは少ないものの、2億4,000万人の「新しい消費者」が生まれている。
こうした「新しい消費者」は、インドネシアやブラジル、メキシコ、トルコ、ロシアにも少なからず存在する。実際に、17の開発途上国と3つの経済移行国に住む14億人の購買力を合わせると、その力は米国一国よりも強大になる。
1990年代後半のような金融危機がもう起こらないとすれば、この10年間で「新しい消費者」の数は1.5倍に増え、その購買力は倍増するだろう。私たちの目の前で今、空前の消費ブームが繰り広げられているのだ。
もちろん、「新しい消費者」は、自分たちが新たに手にした豊かさを謳歌することができるはずだ。ただしそれは、彼らの行動が、社会経済に深刻な影響を与えないというだけでなく、環境への影響に拍車をかけなければの話である。
彼らは、十分な収入を好きなように使って、さまざまな家電製品を購入している。冷蔵庫や冷凍庫、洗濯機、エアコン、さらにはテレビやビデオ・DVDプレーヤーなどが目に付くが、これらはどれも日常品で「新たに登場したもの」ばかりである。
また、彼らの食生活は肉に偏ったものへと変わりつつあり、せいぜい週に一度だった肉料理を、少なくとも日に一度は口にするようになっている。そしてさらに見逃せないのは、彼らが大量の車を購入しているということだ。
これら3つの消費行動は、環境に多大な影響をもたらしている。第一に、家電製品にはたいてい化石燃料から作られる電気が使われていて、それはつまり、二酸化炭素やほかの温室効果ガスが地球大気中に蓄積し、ひいてはそれが気候変動を招くということを意味する。
第二に、食用肉は穀物飼育がますます主流になっており、そのことが、限りある灌漑用水や世界の穀物供給の圧迫につながっている。中には、何百万人という栄養不良人口を抱えているにもかかわらず、国民のためではなく、主に家畜の飼料用として大量の穀物を輸入している国もある。
第三に、「新しい消費者」の自動車保有台数は1億3,500万台と全世界の5分の1に相当し、しかもこの割合は急速に伸びている。世界の二酸化炭素排出量のうち、少なくとも7分の1は乗用車から排出されているのだ。
だからこそ国際社会全体は、新しい消費国で車が新たに増えていることにことごとく関心を示している(ちょうど新しい消費国が、先進国には自分たちよりはるかに多くの車があることに関心を持つのと同じように)。
幸いなことに、「新しい消費者」の多くは、その気になれば、トヨタの「プリウス」やホンダの「インサイト」に代表される、二酸化炭素排出量の少ない車を買うことができる。
急速に発展しつつある「車文化」の悪影響は、ほかにも現れている。インドでは、毎年推定500万人が大気汚染のために早死にしているが、そのうち実に7割が自動車によるものだ。
そして4,000万人もの人々がぜんそくに悩まされている。幸いなことに、北京やメキシコシティのように、ニューデリーでも、空気の質を改善するための熱心な取り組みが行なわれている。
結論:私たちは「新しい消費者」に、その消費力旺盛なライフスタイルを持続可能なかたちで楽しむようにと説得することはできるだろうか? そのための第一歩は、消費パターンが将来変化していくのは避けられない事実であると認めることである。たとえその変化が、ますます強大になっていく自然環境の力によるものであるとしてもだ。
第二には、世界中の人々の消費パターンを変化させるよう、取り組まねばならないということだ(富める国々の消費者が、確固たる方策のもとで自らの消費スタイルを変えない限り、おそらくは「新しい消費者」も変わることはないだろう)。
現在見られるような消費パターンは、てこでも動かないと考える向きも多いが、思いのほか柔軟なものかも知れない。例えば、過去20年間で5,500万人ものアメリカ人が喫煙をやめている。これなど、まさに青天のへきれきといえる社会的大変動である。
何よりも大切なのは、持続可能な消費行動を当たり前のこととして確立しなければならない、ということだ。それができれば、資源やエネルギーの使用効率をさらに良くできるだけでなく、どんな人でもこれから先ずっと受け入れられる生活の質を追求し、私たちのライフスタイルを通して実際に示すことができるだろう。
例えば、収入と支出のバランスを考えるときのように、どのようにすれば、仕事と余暇のバランスをもっとうまくとることができるのだろう? 昨日の贅沢品が今日の必需品となり、明日には過去の遺物となっていた、という事態を避けるためにはどうすれば良いのだろう?
どうすれば、ファッションを持続可能なものにし、持続可能性をファッショナブルなものにできるのだろう? 生活様式をすっかり変えるように迫られることが、どれほど困難であるとしても、現在の消費活動によって環境を破壊され不毛の地となってしまった世界に生きる大変さの比ではないだろう。
(以上)
本編は、CSRにかかわる戦略ネットワーク、アーティクル13が配信する「現場の視点」シリーズの特集号より。「アーティクル13」および「現場の視点」シリーズについては以下のサイトをご参照。
http://www.article13.com/csr/aboutus.asp
http://www.article13.com/csr/viewfromthefield.asp
(翻訳:小野寺、山口)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
マイヤーズさんは、日本でもよく講演をなさっていて、講師としても評価の高い方です。日本での窓口になってほしいとのことでしたので、社内外の講演会の講師としての可能性をお考えの方がいらしたら、ご連絡くださいな。10月上旬に来日されるとのこと、そのような機会にあわせて、という方もぜひ。