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さて、温暖化をめぐって、世界のあちこちでいろいろな動きが出てきています。私のサイトで「温断化ニュース」を1日2本ずつ出しつづけていますが、このリストを見るだけでも、うねりが感じられます。
今日の夕方は、(財)日本国際交流センターと外務省が主催する「リック・バウチャー米国下院議員講演会〜地球温暖化対策の米国での議論と対応の新しい展開」に参加します。
バウチャー議員はバージニア州選出の民主党議員で、新設された下院エネルギー・大気環境環境小委員会の委員長。この委員会は、国のエネルギー政策、エネルギー管理、気候変動問題について管轄しています。中間選挙後の新しい民主党主導の下院では、エネルギー依存と環境変動が2大優先立法事項となっており、年内に新しい立法をおこなっている最中とのこと。
バウチャー議員が講演なさったあと、外務省の鶴岡地球規模課題審議官と私がコメントをさせていただく、というお役目です。
ここ1年ほどの米国の変わりぶりは急激で、先月の米国出張でも企業の意識がほんとうに変わってきていることを痛感しましたが(日本が置いてきぼりになるのではないかと心配しています......)、いろいろと最新の動きなどもうかがえることを楽しみにしています。メールニュースなどでご報告できたらと思っています。
温暖化に関するレスター・ブラウンの論考をお届けします。いつものように実践和訳チームが訳してくれました。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
アースポリシー研究所
プランB 2.0
2007年2月1日
気候変動を助長する補助金
http://www.earth-policy.org/Books/Seg/PB2ch04_ss7.htm
レスター・R・ブラウン
世界の納税者たちは、化石燃料の燃焼、帯水層からの過剰揚水、森林の皆伐、魚の乱獲などの環境破壊活動に対して毎年支払われる、推定7,000億ドルもの補助金を支えている。地球評議会は「持続不可能な開発に対する補助金」と題する調査の中で、「信じがたいことに、世界は自らの破壊を促すために年間何千億ドルもの補助金を費やしている」と述べている。
補助金によって石油の国内価格を国際価格の10分の1に抑え、自動車の保有とガソリンの消費を強く奨励しているイランは、極端な補助金政策の典型例である。世界銀行は、イランが年間36億ドルにものぼる補助金を段階的に廃止すれば、同国の炭素排出量は実に49%も削減されるだろうと報告している。また、国家収入を経済発展のための投資に回せるようになるため、経済力も高まるとしている。
これはイランだけの問題ではない。エネルギーにかかわる補助金を廃止すれば、ベネズエラで26%、ロシアで17%、インドで14%、インドネシアで11%、排出量が削減されると、世界銀行は指摘している。
気候に悪影響を及ぼすこのような補助金を撤廃ないし削減している国もある。ベルギー、フランス、および日本の政府は石炭の補助金をすべて段階的に廃止した。ドイツは石炭の補助金を1989年の54億ドルから2002年には28億ドルに減らし、その間に石炭使用量を46%削減した。2010年までには、補助金を完全に廃止する予定である。中国は石炭の補助金を1993年の7億5,000万ドルから1995年には2億4,000万ドルに削減し、近年は高硫黄炭に課税している。
英国緑の党は「航空産業の経済的マイナス面(Aviation's Economic Downside)」という調査において、英国の航空産業に現在助成されている補助金について説明している。
国税の完全免除を含む170億ドルの優遇税制措置に加え、飛行機で汚染された空気を吸い込むことからくる疾患の治療費や、気候変動のコストなど、支払われていない外部コストや間接的なコストは、70億ドル近くにのぼる。英国における補助金は国民一人当たり計391ドルである。
これは本質的に逆進税制でもある。つまり、英国民の大部分は、飛行機に乗るだけの余裕があるとしてもそう頻繁に乗れるわけではないのに、より裕福な国民のための高価な輸送手段に対する補助金を支えているからだ。
先進工業国の中には化石燃料(特に気候への影響が最も大きい石炭)への補助金を減らしている国もあるが、米国は化石燃料と原子力産業への援助を増やしている。
環境団体の連合が協力して実施した「グリーン・シザーズ2002」の報告書では、過去10年間のエネルギー産業に対する補助金は合計で330億ドルになると試算している。内訳は石油・ガス産業が260億ドル、石炭産業が30億ドル、原子力産業が40億ドルである。石油資源の節約が必要な時代であるにもかかわらず、米国の納税者たちは石油を枯渇させるために補助金を出しているのだ。
補助金そのものが悪いわけではない。数多くの技術や産業が政府の補助金によって生まれた。現在の民間航空機は、軍の研究開発費で開発されたジェット機が転用されたものである。インターネットは、政府の研究所と研究機関のコンピュータを公的資金でつなげたことから始まった。そして、連邦税控除とカリフォルニアでの大幅な州税控除の組み合わせが、現在の風力発電産業を生んだのだ。
補助金政策の変更は緊急課題である。環境を破壊する補助金の撤廃により、納税者の負担と破壊行為そのものの両方を減らすことができる。世界は、気候変動が経済的混乱を引き起こす可能性に直面しているのだから、例えば石炭や石油を燃やすことを奨励する補助金を正当化することはもはやできない。こうした補助金を風力、太陽光、バイオマス、地熱など、気候に害のないエネルギー源の開発に振り向けることは、地球の気候安定のカギである。補助金を道路建設から鉄道建設にシフトすれば、多くの場合交通の利便性を高め、炭素排出量も削減できるはずだ。
あらゆるレベルの政府が財政赤字を抱える混迷した世界経済では、課税シフトのみならず、こうした補助金シフトを有効に活用することで、財政の均衡と、環境を支える経済システムの確保を進めることができるだろう。補助金と課税のシフトによって、経済効率の向上と環境破壊の軽減の両方が期待できる。言ってみれば、経済と環境、どちらにとってもプラスになるのだ。
化石燃料の燃焼によって引き起こされる気候変動に社会の関心が高まる中、世界の化石燃料産業には、今なお年間2,100億ドルを超える補助金が税金から支払われている。化石燃料に対する補助金は、今の時代のものではない。それは、石油・石炭産業の発展が、現在のように21世紀の文明に対する脅威ではなく、経済成長のカギとみなされていた時代のものである。かつては適切だった補助金の存在が、今では、特定のロビー団体が補助金の廃止に必死になって抵抗する原因となっている。彼らは、もともと適切ではなかった補助金の廃止にさえ反対しているのだ。
現在、米国政府に最も影響力を持つロビー団体は、おそらく石油会社とガス会社だろう。彼らは、何十億ドルにもなる特別税額控除を守るために、1990年から2004年の間に1億8100万ドルの選挙献金を行なった。
税制担当財務次官補のドナルド・リュービック氏は、1999年の下院歳入委員会の証言で、石油会社とガス会社についてこう述べている。「おそらく、わが国のほかのどの業界よりも、規模の割に多額の優遇税制措置を受けている業界である」。このような旨みのある投資が可能だということは、米国の政治システムの腐敗の程を表しており、とりわけ、資金力を持つ企業が自分たちに都合の良い経済を作り上げる力を持つということを示している。
補助金は世界経済の隅々に行き渡り、これを歪めている。例えば、ドイツの石炭採掘に対する補助金は、当初は雇用保護政策として少なからず正当化されていた。ドイツ政府が石炭産業に支払っていた補助金は、最も多いときには労働者一人当たり毎年9万ドル近くに達していた。純粋に経済的観点から言えば、炭鉱を閉鎖して、坑夫に失業手当てを支払う方が理に適うことであったろう。
補助金の多くは、たいてい納税者の目には見えない。これは化石燃料産業について特に言えることである。米国では、同産業への補助金として、石油採掘に対する減耗控除【訳注:生産などによっていずれ消滅する資産に対して、その減耗を補充するため売上げまたは利益の一定割合を費用として控除できる制度】などが含まれる。
まして驚くべきは、中東からの石油調達を確保するために、当たり前のように米国の軍事費が拠出されていることだ。その額は、ランド研究所のアナリストが今回のイラク戦争前に算出したところによれば、年間300億ドルから600億ドルである。が、しかし、その中東地域からの石油輸入量は、200億ドル相当にすぎない。
米国のNGOリディファイニング・プログレスが2001年に行った調査で、米国では年間2,570億ドル、納税者一人当たりにしてざっと2000ドルの税金が、自動車の利用に対する補助金として使われていることが明らかになった。これは、炭素の排出に補助金を支払っているということだけでなく、自動車を買うだけの余裕のない低所得者層も含め、自動車を持たない納税者が、自動車を持っている人に対して補助金を支払っているということでもある。
こうした化石燃料への補助金に関する明るい材料の一つは、この補助金を税額控除の財源として、風力や太陽光、地熱エネルギーなどの、気候に悪影響を及ぼさない、再生可能なエネルギー源に振り向けることができるという点だ。
化石燃料の使用に補助金を出すことは、作物に壊滅的な打撃を与える熱波、氷の融解、海面の上昇、破壊力を増す暴風雨に対して補助金を出すということである。果たしてこれが、自分たちが額に汗して稼いだお金の使い道として望んでいることなのかどうか、世界中の納税者が問う時期に来ているのかもしれない。
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出典:レスター・R・ブラウン著『プランB 2.0―エコ・エコノミーをめざして』
第4章および第12章
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