ときどき、「環境問題の勉強をしたいのですが、どうしたらよいでしょう?」と聞かれることがあります。
「自分はどうだったかなあ?」--通訳の仕事をしながら、環境問題に関心を持つようになり、通訳の機会を通じ、また自分なりに勉強していた頃を思い返すと、勉強を始めて5年ぐらいたったときに、「ああ、自分なりの枠組みができたなあ」と思ったことを思い出します。
それまでは、入ってくる情報が自分にとってはどれも断片的で、右往左往していたのですが、自分のなかにある枠組みができてからは、その枠組みに照らし合わせて情報を位置づけることができるようになったのです。今日入ってきた情報と、昨日学んだこととの関連性がわかるようになりました。そして、枠組みに照らし合わせて「足りない情報」が何かもわかるようになってきました。
こうなればしめたものです。とてもラクになりました。それからずっと、いまでも、毎日の活動の中で出会う情報や考え方で、自分の枠組みを修正したり拡大したり立体化したり(?)しつつあります。基本的な骨組みのところは変わりませんが。
ですから、「環境の勉強をしたい」という相談を受けると、「自分なりの枠組みを作っていくことを意識して、日々の勉強や情報を位置づけるとよいですよ」とお伝えしています。
では、「枠組み」って、どうやってつくるのでしょう?
私は、枠組みを作るためには2つ必要なことがあると考えています。ひとつは、さまざまな情報や知見の「関係(つながり)」を見ようとする姿勢です。
そのために私が意識しているひとつの例を紹介しますね。
環境問題に限らず、何であっても世の中や世界は、ある「原動力」に動かされた結果の「状態」があり、その状態を正すための「対応」がとられる、というシンプルな図式で見ることができます。
たとえば、この数ヶ月、次から次へと仕事の量が増えてしまっている(原動力)ので、残業時間が増え、睡眠や気分転換の時間が減ったため、健康を害し、いつもいらいらしている(状態)。これではつづかないと、上司に相談してみる(対応)、というぐあいです。
この場合の「対応」は、「原動力」に働きかけようというものですが、同じ「状態」でも、コーヒーに手を伸ばす、飲酒量を増やす、などの「対応」もありえます。これは、「原動力」ではなく、「状態」を変えようとするだけの、いわゆる対症療法ですね。
会社でも、消費者の環境意識が高まってきたため(原動力)、エコではない従来の主力製品の売れ行きが落ちてきた(状態)。そこで、エコ商品の開発部隊を立ち上げることにした(対応)、というぐあいですね。
環境問題を考えるときにも、同じように見ることができます。つまり、いま見ている情報は、「原動力」に関するものなのか、「状態」なのか、「対応」なのか、と考えてみるのです。
「ホッキョクグマの数が減っている」「昨年も史上最高気温だった」などの情報は、「状態」ですよね。政府の法規制、企業の取り組みなどは、その多くが「対応」に分類されるでしょう(それは根本療法になりうるのか、単なる対症療法なのか?も考えてみるとよいでしょう)。「原動力」に当たるのは、人口や経済成長、二酸化炭素や有害廃棄物の排出量などの情報でしょうか。
ちなみに、この「原動力」「状態」「対応」という3つの窓で見る方法は、国際的な環境指標の開発でも用いられています。
D指標:Driving force 環境の状態を変化させる環境負荷
S指標:State 環境の状態
R指標:Response 環境の状態を修復するための対応策
この「3つの窓」を意識して、日々の情報を当てはめてみるようにすると、
D→S→R→D(またはS)→…… という「つながり」が見えてくるのではないかと思います。
枠組みを作るために必要な「つながりを見る力」は、もっとシンプルに、何かの出来事や現象があったときに「この現象に影響を与えたのは何だろう?」「この現象が影響を与えるのは何だろう?」と、言ってみれば、その現象の「来し方行く末」に思いを馳せることでも、鍛えることができます。(これを体系的に、ツールを使うなどしておこなうのがシステム思考です)
さて、枠組みを作るために必要なもうひとつのものは、サステナビリティ(持続可能性)に関する原理原則をしっかりと学ぶことです。
本屋さんの環境コーナーに行っても、「状態」や「対応」に関する本はたくさんあるのですが(「原動力」に関するものもいくらかはあります)、そもそものサステナビリティの哲学の基礎を提供してくれるものはそれほどありません。
私が自分の枠組みを作るときに役に立った、根本的な原則や考え方の書かれた本は、と考えてみると、環境の分野では「古典」と言ってもよいかもしれない本ばかりですが、何冊もあります。(残念ながら絶版になっているものもありますが)
そこで、そのような「骨太」の本をちゃんと読んで、自分なりの持続可能性の枠組みや哲学を作るお手伝いをする講座を開催することにしました。
今年の活動としてはじめた、持続可能性のためのマーケティング研究所(IMS:Institute of Marketing for Sustainability)の活動の大きな柱のひとつ
(1)骨太の哲学を築く
持続可能性に関する自分なりの思想・枠組みを身につけ、ぶれない(しかし柔軟性のある)変化の方向性を考えられる力を身につける
の具体的な活動となります。
5月にスタートし、9月までの5ヶ月で5冊の本を読んでいきます。レクチャー方式ではなく、サマリーや私なりのまとめはもちろんお話ししますが、参加者が自分でもできる範囲で読んできたうえで、小グループで対話をしながら、それぞれの本の大事なポイントや自分にとっての意味を腑に落としていくプロセスで進めていきます。
開催日は毎月最終金曜日の18:15〜20:45、場所は東京中野です。5回シリーズですので、一括のお申し込みとなりますが、都合がつかないときなどは、お知り合いに代わりに出席していただくことができます(代理出席の回数制限はありません)。またお仕事帰りなど、遅れての参加も問題ありません。
環境問題についてしっかり勉強したい、移りゆく情報だけではなく、そもそもの原理原則を学んで、しっかりした自分なりの基盤を作りたい、という方、ぜひごいっしょに!
どんな立場や分野の方でもご参加いただけます。これまでの経験や知識は不問です。読み、考え、語り、聞き、さらに考え、という「自分なりの枠組みを作るための好循環ループ」をいっしょに回していきましょう。
企業でも、これまで環境部だったときは自分たちだけでやっていればよかったけど、CSRになってから、環境に関係ない他部門にも「なぜそれが必要か」を説明しなくてはならなくなった、反論されたときにきちんと説明できずもどかしい……という声をときどき聞きます。いっしょに勉強しましょう。
読もうと思っている本は以下のとおりです。
『成長の限界―ローマ・クラブ人類の危機レポート』
ドネラ・H・メドウズ他(著) ダイヤモンド社
『ファクター10 エコ効率革命を実現する』
シュミット・ブレーク(著)シュプリンガ・フェアラーク東京
『自然資本の経済―「成長の限界」を突破する新産業革命』
ポール ホーケン L.ハンター ロビンス, エイモリ・B. ロビンス (著)日本経済新聞社
『スモール イズ ビューティフル―人間中心の経済学』
E・F・シューマッハー(著)講談社学術文庫
『エンデの遺言―「根源からお金を問うこと」』
河邑 厚徳 (著) 日本放送出版協会
以下、講座のご案内です。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここからご案内〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「骨太の枠組みをつくるための 環境必読書を読む講座」
○日時:(全5回)
5月25日(金)/6月29日(金)/7月27日(金)
8月24日(金)/9月28日(金)
いずれも18:15-20:45
○場所: 中野サンプラザ
(JR中央線・総武線/東京メトロ東西線「中野」駅北口徒歩1分)
○ファシリテーター: 枝廣淳子・小田理一郎
○定員:50〜60人ほど
○料金:30,000円(全5回分)
※課題図書は含まれていませんので、各回の課題図書は、各自でご用意下さい。
※5回一括となります。ご都合のつかない回は、代わりの方に出席いただけます。
○お申し込み・お問い合わせ:
電子メールまたはファックスで以下の申込書をお送り下さい。受講費のお支払方法についてご案内します。受講費のお支払をもって正式受付とし、受講票を電子メールでお送りいたします。人数を限っての開催となりますので、参加ご希望の方は、お早めにお申し込みください。
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「骨太の枠組みをつくるための 環境必読書を読む講座」
参加申込書
ご氏名 [ ]
ご所属 [ ]
メールアドレス [ ]
連絡先電話番号 [ ]
※この講座をどこでお知りになったか教えていただけると幸いです。
( ) a. 枝廣淳子のメールニュース(enviro-news)
( ) b. 職場・知人・友人からのご紹介
( ) c. イーズのウェブサイト
( ) d. その他 ( )
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さらに、「読む講座」のほかの新規講座として、サステナビリティとシステム思考を組み合わせた新しいコースを来月札幌で開催します。
温暖化でも何の問題でも、「持続可能な社会」をつくっていくためには、
(1)「持続可能」というほんとうの意味がわかっている
(2) 複雑な状況を理解する力がある
(3) 差異を認めつつ問題解決に向けての対話ができる
必要があると考えています。
今回の新コースでは、この3つのモジュールを組み合わせて、「サステナビリティの基礎」「システム思考」「対話力」を身につけていきます。1日のワークショップとなります。体を使ったり、学習のための作られたゲームをやったり、座学だけではなく、演習をふんだんに採り入れたコースです。楽しいコースですので、ぜひよろしかったらご参加下さい。
以下、札幌講座のご案内です。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここからご案内〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「サステナビリティ総合力アップ講座」
○日時
5月21日(月) 9:15-16:30
○ファシリテーター: 枝廣淳子・小田理一郎
○定員:30〜40人ほど
○料金:25,000円(税込)
○お申し込み・お問い合わせ:
電子メールまたはファックスで以下の申込書をお送り下さい。受講費のお振込についてご案内します。受講費の振込をもって正式受付とし、受講票を電子メールでお送りいたします。人数を限っての開催となりますので、参加ご希望の方は、お早めにお申し込みください。
1週間たちましても受付の連絡が届かない場合は、インターネットの送受信にトラブルがあることも考えられますので、ご一報ください。
申込書送付先: info@es-inc.jp
TEL: 044-922-6130 FAX: 044-930-0013
(有)イーズ 担当 星野
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「サステナビリティ総合力アップ講座」 参加 申込書
ご氏名 [ ]
ご所属 [ ]
メールアドレス [ ]
連絡先電話番号 [ ]
※この講座をどこでお知りになったか教えていただけると幸いです。
( ) a. 枝廣淳子のメールニュース(enviro-news)
( ) b. 職場・知人・友人からのご紹介
( ) c. イーズのウェブサイト
( ) d. その他 ( )
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「読む講座」は、去年から温めてきた企画です。春に咲かせることができてよかった、とほっとしています。今回は、言ってみれば「基礎中の基礎シリーズ」。もし続けられそうだったら、「環境と経済の両立を考えるシリーズ」や「日本や東洋の強みを認識し、活かすシリーズ」など、いろいろと展開していきたいなあ!と思っています。
「サステナビリティ総合力アップ講座」は、3月末にアトランタでの国際会議に出た折に参加したワークショップがとても有益だったので、「日本でもこういう切り口でやりたい!」と開発したものです。
このときのワークショップの最後に、参加者が口々に1日の感想を言う時間がありました。私は「いろいろ学んだけど、何よりのおみやげは『日本でもこういうワークショップをやる!』と決めたことです」と。(参加中に、決めちゃったのです。^^;) みんなも講師も、にこにこ。
終わったあと挨拶に行くと、講師をつとめたサステナビリティとシステム思考のトレーニングの第一人者は、「ほんとにやるなら、今日の内容、使っていいからね。ほかにもいっぱいあるんだよ。よかったら使って」と応援してくれました。ほんとにありがたいことです〜。おかげで楽しく学べる講座になりました!