昨日のつづきです。
特集/社会が変える「環境金融」より
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日本のNPOバンク最新事情
コミュニティ・ユース・バンクmomo代表理事
木村 真樹
■市民による非営利金融システム
「私の出資したお金が未来の子どもたちのために正しく運用されることを希望します」「一つでも多くの市民事業がこの地域で生まれ、地域の活力になることを大いに期待しています」「オルタナティブな生活、仕事、取り組みを応援するような融資にぜひ使ってください」
これらは、私が代表理事を務めるNPOバンク「コミュニティ・ユース・バンクmomo」のウェブサイトに掲載されている「出資者の声」の一部だ。
NPOバンクとは、環境や福祉、まちづくりといった市民事業を行うNPOや個人に融資することを目的に設立された市民による非営利金融システムのこと。融資方針に賛同する市民やNPOが組合員となり、1口数万円単位の出資金を原資に、NPOやコミュニティビジネスなどに対して1〜5%程度の低利で融資を行っている。
日本におけるNPOバンクの始まりは、1994年に設立された「未来バンク事業組合」だ。未来バンク事業組合は、・環境破壊や人権侵害を引き起こす公共事業の資金源に、郵便貯金が財政投融資という形で使われている・金融機関は国民の預貯金の多くを国債で運用し、日本政府はそのお金を原資に戦争などの資金源となっているアメリカ国債の約40%を購入している――といった問題意識から、「環境破壊をやめさせたい」「戦争に加担したくない」といった市民の想いの受け皿となることを目的に設立された。
また、金融機能の東京一極集中や金融機関の担保主義により、地域に必要とされる事業や、その担い手となるNPOなどの市民活動にはお金が回らないといった問題を解決するために、未来バンク事業組合の誕生以降、NPOバンクの取り組みは全国各地に広がっている。1998年には神奈川県に「女性・市民信用組合設立準備会」、2002年には「北海道NPOバンク」、2003年には長野県に「NPO夢バンク」、「東京コミュニティパワーバンク」、櫻井和寿、小林武史、坂本龍一のミュージシャン3人が拠出した「ap bank」、2005年には愛知県に「コミュニティ・ユース・バンクmomo」「新潟コミュニティ・バンク」、2006年には「いわてNPOバンク」と設立が相次いでいる。
■出資者と融資先が顔の見える関係に
NPOバンクの特徴の一つは、融資を決定するまでの審査の仕方にある。まず、既存の金融機関に比べると申込書類が簡潔で、比較的容易に記入できるようになっている。また、「過去」の実績である財務面だけではなく、事業のミッションや社会性といったその地域の「未来」についても審査の対象としている。そして、審査を行うメンバーには財務や会計、金融の専門家だけではなく、市民活動の実践者、主婦といったさまざまな立場の人が参画し、多様な視点から審査を行っている。
さらには、書類審査だけではなく、面接審査を行って判断するNPOバンクがほとんどである。そのため、書類だけでは見えてこない事業の現状を把握できるとともに、代表者や事業責任者の信頼性や誠実性を確かめることができる。その結果、財政状態が未熟で既存の金融機関では融資できないようなリスクの高いNPO等にも融資することが可能となっている。
また、融資先との関わり方でユニークなのは、融資先の情報(事業内容、借入額、返済状況)などをウェブサイトや会報などを通して公開している点である。貸し倒れに対するリスク回避のためだけでなく、出資者にとっては「自分のお金がどのような事業に使われているのか」「社会の中でどのような役割を果たしているのか」を実感できるというメリットがあり、出資者と融資先との「顔の見える」関係づくりを心がけている。
NPOバンクは銀行法で定められた金融機関ではないために、集められたお金は「預金」でなく、「出資金」として扱われる。出資者にとっては「元本や配当の保証がない」「出資金を自由に引き出せない」といったデメリットもある。しかし、1994年からこれまでに累計12億円以上がNPOバンクから融資されているが、貸し倒れはほとんど発生していない。
NPOバンクの出資総額は大きいところでも1億円前後と、その規模は決して大きくはない。しかし、その小ささゆえに、労働金庫や信用金庫といった既存の地域金融機関がこれまで担えなかった細かいニーズに対応することができるのだ。
■さまざまな法律への対応が今後の課題に
今後の課題は、NPOバンクならではの特性による法律への対応である。
そもそも出資を募ることは営利行為に該当するため、NPOバンクは非営利の活動にもかかわらずNPO法人などの法人格を取得することができない。そのため、多くのNPOバンクはやむを得ず民法上の任意組合という形をとっている。そして、その出資持ち分を形式的に取り扱うと、金融庁で制定作業が進められている「金融商品取引法」で、対象となることが懸念された。
対象となるとNPOバンクへの出資は有価証券と同じ扱いとなるため、金融庁への報告義務が生じ、公認会計士による会計監査が必要となる。それにより、NPOバンクにはさらなる経済的コストがかかることになるが、低利での融資を優先するNPOバンクは、専従スタッフを置かないところがほとんどであり、消耗品費や事務所家賃を確保することすら容易ではない。
そこで、このままではNPOバンクの存在自体が危うくなるため、NPOバンクの当事者たちに加え、弁護士、公認会計士などの専門家も含めて、金融商品取引法に関する対応策を協議する「全国NPOバンク連絡会」が2005年1月に発足した。
当初、金融庁は「出資金に損失が生じる可能性がある以上、基本的には取り締まる予定である」という見解だった。しかし、・「配当の禁止」「譲渡の制限」「出資額を超える払い戻しの禁止」という三つの要件を満たすNPOバンクについては、本質的には投資にあたらないこと・アメリカで「慈善団体保護法」という法律が1995年に制定された際に同様の問題があったこと――といった事例を提示し、イベントなどを通して金融庁と対話を続けてきた結果、NPOバンクは金融商品取引法から適用除外となる見込みとなった。
現在も金融庁で検討されている「貸金業規制法」の改正によって、さらなる経済的な負担も懸念されている。金融商品取引法への対応で培われた「当事者間」「当事者と専門家間」「専門家間」という三つのネットワークを活かし、対立型ではなく「対話型」「協調型」の対応が今後も求められている。
(おわり)