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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2007年07月20日

「第3回朝日環境フォーラム」より飯田哲也さんのお話(2007.07.20)

大切なこと
 

昨年3月3日に開催された朝日新聞社主催の「第3回 朝日環境フォーラム」で、パネルディスカッション「エコな社会の新しい仕組みづくり」のコーディネータを務めました。

パネリストとして、飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所所長、日本総合研究所主任研究員)、佐藤博之氏(グリーン購入ネットワーク事務局長)、田中優氏(未来バンク事業組合理事長、ap bank監事)の3氏をお迎えし、単発の取り組みにとどまらない「しくみ作り」という、私にとっても大事だと思い、大変興味のある話題で、ディスカションをおこないました。

とても興味深いお話をうかがうことができ、当日参加できなかった方々にもぜひお伝えしたいとお願いして、田中優さんのお話を[No.1096, 1097] で、

佐藤博之さんのお話を[No. 1215] でご紹介しました。

今回は、遅くなりましたが、飯田哲也さんのお話と、パネルディスカションでの発言をご紹介します。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

われわれ、環境エネルギー政策研究所は何をしているのか。名前は非常に堅い名前ですが、政府からも企業からも独立した非営利の研究所です。
http://www.isep.or.jp/

われわれの基本的な視点は、「エネルギー・デモクラシー」ということで、これは何のことかと言うと、エネルギーに環境の視点から自己決定できる、あるいは地域が自立的な視点を持って地域や市民が自己決定できるような社会のあり方、基本的には持続可能なエネルギー社会を目指していこうということで、いくつかの活動をしています。

これを今日のテーマにすると、大きく四つのことをわれわれはやっているのかなということで、この図をつくってみました。

一つは政策です。新しい政策、特に自然エネルギーや省エネルギーのあり方をつくるということです。日本ではオールド・サイドの政策がまかり通っているので、これをいろんな形で組み替えていこうといったことをやっています。

それから地域自立のエネルギー事業やコミュニティの新しいあり方を考え、実際につくっていこう。これも今からご説明します。

もうひとつは、新しいエネルギーのビジネスモデルをつくろうと。これはあとでもまた言いますが、日本のエネルギー政策というのは、産業の産業による産業のためのエネルギー政策でずっとやってきたと思っているので、これを、地域と市民に対して本当のエネルギーの価値をもたらせるというか、そういうものをつくっていこうということで、一つ一つ、いろんなプロジェクトをつくっています。

最後に、今日の大きなテーマであるお金の流れです。お金の流れは、今日、いろんな形で出てくると思いますが、われわれが取り組んでいるのは市民出資ということで、自然エネルギーと市民とを直接つなぐ、いわゆる直接金融の評価のあり方を、市民出資という形でしてきました。

まず一つはグリーン電力という仕組みですが、このスライドは、日本自然エネルギーさんが、日本全国でいろんな形で取り組んでおられるグリーン電力です。グリーン電力というのは、ご存じない方もいらっしゃるかもしれません。アサヒビールさんとかソニータワーのビルは100%風力であるとか、池内タオルの「風で織るタオル」とか、いろんなものがあります。
http://www.natural-e.co.jp/

グリーン電力は、たとえば風力発電とか太陽光とか、あるいはバイオマスの発電といったものから、電気そのものの価値からグリーンな価値を切り離して、証書というものにして、これを取り引きしようと。それを買った人は、電気そのものは自分の電力会社から買って、グリーンな価値を証書として買って、そこでドッキングさせることによって、もう一回、風力発電がまたそこで再生されるというようなことです。

10年ぐらい前からアメリカやヨーロッパで展開していっていると思いますが、このあたりの仕組みづくりも実は、われわれ環境エネルギー政策研究所として、いろいろと最初に研究会を設けたり、東京電力とグリーン電力証書システムの検討を一緒にするとかしています。

見えない価値を取り引きするものですから、これを確かなものにするために、グリーン電力認証機構という第三者の認証機関を、電力会社やエネルギーの専門家や地方自治体、いろいろな方と一緒につくっています。横におられる佐藤さんもそのメンバーの一人です。こういったことを、過去5年ぐらい取り組んできて、ようやく社会的な認知度が高くなってきたのかなと思います。

次に、先ほど言った市民風車です。これも市民出資で、これは2001年、ちょうど5年前に北海道の浜頓別町で「はまかぜちゃん」というのが、1,000kW、合計2億円の風車ですけれども、これは日本で初めて市民出資でつくられた風力発電、大型の風力発電です。

そのあと青森、秋田。今、全国で、東北、関東――千葉、茨城もこのたびできて、合計10基、一部はまだ建設中ですが、稼働していまして、風車の横にはこんなふうに出資者の方のお名前が書いてありまして、皆さん、自分で記念写真を撮ったりしています。

これも、この事業に対して直接、一人ひとりの市民が出資をして、その事業の売り上げを配当という形で手にする。われわれが非常に重視しているのはオーナーシップ、単なる所有権もそうですが、所有権以上に、こういう自然エネルギー、あるいはもっと広く言うと地球環境に対して、あるいは地域の環境に対して当事者意識を持つ。自分たち自身の未来に対して当事者意識を持つということの大きなツールとして、この市民出資というものをやっているわけです。

次のスライドは、青森の「わんず」などの写真です。これは、仕組みという意味では、私ども環境エネルギー政策研究所と北海道グリーンファンドとの共同で、市民出資研究会というのをオープンソースで開いて、そこに銀行の方と公認会計士の方、税理士の方、弁護士の方、風力事業者の方、いろんな方が手弁当で参加してくださって、最終的に市民の方が小口で直接出資をして、NPOが――直接的には現実的にNPOがやって、有限会社、株式会社で出していませんが、お金を集めて、それによって事業を行うという仕組みが、匿名組合出資という形でできるという形です。

当初、「はまかぜちゃん」をやって、今、金融業者もいろいろ変わってきていまして、そのあたりも対応しつつ、しかし市民の方が直接事業を選んで出資をするという枠組みをつくり上げてきているとことです。

これをもう少し、風力発電以外のものとして、より地域のエネルギー事業というものに取り組もうとして、長野県飯田市の取り組みです。これはおととしから、環境省の「環境と経済の好循環のまちづくり事業」、通称「平成まほろば事業」という企画を、飯田市の行政の方および地元のNPOの方とわれわれとで企画をつくって、現地に「おひさまシンポエネルギー」、地元の方を中心とする事業会社を立ち上げました。

ここを中心に38個所、合計208kWの太陽光発電。これを分散型ですべて一個所で束ねる電力と、商店街、小規模な商店に対する省エネルギーの投資をして、節約したエネルギー代およびエネルギーの付加価値が高まった部分を料金として徴収して、これによって事業を行う。そういう地域のエネルギー事業を企画しています。

次の写真は「おひさまマット」ということで、38個所の太陽光。ほとんどの幼稚園、保育園でもやって、子どもたちが太陽光を学ぶ機会にもなっているということです。事業としては今後、来年からですが、配当を3%ぐらい出せる形で、今、事業のカウンセリングを受けて進めているところです。

これも、お話としては美しいですが、一つ一つ非常にきめ細かつくり込んで、いろんな形で細かいビジネスモデルが組み込んであります。

こういう仕組みづくりをしていくキーワードとして、五つぐらい考えてみました。一つは、よく「日本型」というのがあって、日本型というのは結構、表面だけ浅く取ってきたケースが多いので、国際的にも歴史的にも通用するような新しい意識が必要ではないかと思います。

二つ目は、そういうところで概念をまず出して、その概念をちゃんと、制度やルールに落とし込んでいかないといけない。これに主体的にかかわって、われわれは人の手でつくったものは人の手で変えられると考えています。

よく企業の方はパッシブで受け身の場合が多いですが、制度づくりの現場というのはかなり、主体的にかかわっていくことによって変えうるので、このあともそういう事例が出てくると思いますが、そういう姿勢で、制度・仕組みというのは、社会全体のもので、われわれが当事者としてかかわる。

三つ目は、見えない価値を見える化する。特に、暗黙的に、「これ、いいんだけどお金にならないな」とかいうようなものは、実は本当はちゃんとそれを価値にして、付加価値を確立することが必要ではないか。

従来は、とにかくモノでも数字に換算したものだけを一生懸命取り引きしようとしたので、今のエコではない、やたらモノにあふれた社会になったと思いますが、そうではない、従来みんながいいと思っていたものをちゃんと目に見えるようにする。

あと、リアル社会でリアル化する。これは随分昔に、オールタナティブという言葉があって、オールタナティブというのは、いい意味では純粋な、もう一つの社会の構想としては一つのいい示唆にはなるんですが、現実社会の中では、多様化した社会の中では単純に無視される可能性がる。むしろリアルな社会を1ミリでも動かすような、そういう矛盾を自分たちの内部で拾った取り組みが必要ではないかと思っています。

最後は、人と組織をオープンソース化する。硬質なサークルではなくて、いろんな人がそれぞれ自分の価値をその中に見いだして参加できるような、そういう場のデザインをしていくことによって、非常に大きな可能性が開いてくると思っています。われわれ内部の組織も、外の方との付き合いをできるだけ開かれたオープンソースを持っていく。そういうことが、健康な社会の仕組みの僕らのキーワードとして定義させていただいたものです。


<以下は、パネルディスカションでの発言>


●枝廣 
今、それぞれ問題意識を持って仕組みをつくってこられた三人のお話を聞きました。どういうふうに、エコな社会なり、持続可能な社会なり、戦争のない社会なりつくっていくか。そのときに、それぞれの方がどういうふうに今、お話くださったような仕組みを考えてつくってきたかというところを、少しお話を伺いたいんですが。

多分、ふだんいろいろなものを見ていて、「何かおかしい」という問題意識とか、「ほんとはこういう社会にしたいのに」「こういう世界にしたいのに」というビジョンがあって、その姿と今と違う。それは何か欠けている、何か足りない。その間を埋めるための仕組みとしてつくられた場合もあると思います。

そのあたり、どなたからでもいいですが、どういうふうに、今、お話しくださったような新しい仕組みをつくろうと思ったのか。で、実際につくっていくときに、何が成功の決め手になってきたのか。たとえば同じように熱い思いで、「ここの仕組みが欠けているから、つくろう」と立ち上がる人はたくさんいるかもしれないけど、うまくいくプロジェクトもあれば、うまくいかないプロジェクトもあると思うんですね。

できれば、何があればうまくいくのかをぜひ学びたいので、そのあたり、どなたからでもどうぞ。お願いします。

●飯田 
まずズレに関して言うと、特にエネルギー政策の話は、特に自然エネルギーとかに関して言うと、アメリカの話もあるので日本だけとは言えませんが、日本はほんとに異質で、たとえば「風力発電は電気の質が悪い」という考えが、かなりまかり通っている。多分、これは恐らく日本だけではないかと思います。

確かにわかりやすい。風力発電のほうは波がいろいろあって、それが素人考えのまま、なぜかずっと社会に流布してしまった。裏にはエネルギー会社の思惑というか、いろいろあって、これを私は、妄想おやじの政策がそのまままかり通っていると言っています。

日本よりもはるかに風力発電が普及しているドイツとかデンマークなどで、こういった議論が起きることはないにもかかわらず、日本だと、やれ蓄電池をつけろとか、そういったことがまかり通るというようなところがあって。

そういう、海外、特にその政策が、いろいろそこの社会にも異論はあるけれども、かなり順調にいっているところと日本と異質感というのがはっきりと見えています。

その異質感、ズレをどういうふうに変えるかという政策までは、比較的見えやすいですが、それを今度、現実のものにしていくときに、距離感、いろんな階層をくぐり抜け、突破していかないと現実のものに変わるところまでたどり着くのは、なかなか大変で、そういったことで、われわれ自身、今日お集まりになったお二人の方もかなり努力をしていると思います。

先ほど、キーワードはいくつかスライドで出しましたが、優さんの「斜め」というのはわかりやすいですが、自分の中で矛盾をある程度引き取りながらも、全体のものを一歩進めるというところが、一つはかなり大きい要素かなと。

もう一つは、自分自身も当事者として、自分が行ったことが社会に入ってまた自分にはね返ってくる。これは再帰性とかリフレキシブルとかいいますが、そういったことを受け止めながら、社会の変化をその中で次々に挑戦していくような、そういったところがバリアかなと思います。海外については、あとでもう一回、スライドでお話しさせていだだきます。


●枝廣 
ありがとうございます。あと、三人のそれぞれの活動で、もう一つ別の観点で共通しているのが、まず最初、どこかで成功事例をつくって、それを展開していますよね。自分たちで展開している場合もあるし、それを「自分たちもやりたい」と言われてサポートしている場合もあると思いますが、そういった展開について、多分、自分たちのところでずっと一個所でやっているだけでは、やはり社会を大きく変えることは難しいかもしれない。一つの例になったりシンボルにはなりますけど。そのあたりは、意識して仕掛けられているのか、それともそういう気運が今、高まっているのか。そのあたりはどうですか。

●飯田 
われわれの場合は、地域・地域にパートナーを見つけて――見つけてというか、ずっと長いお付き合いがあって、その地域・地域の活動を応援しながら、次のステージを一緒につくるのをお手伝いするというようなケースが多いです。

自分たち自身の能力も時間も限られているので、自分たちで成功したことをできるだけほかの地域にもお伝えしながら。ただやはり、経験していないことに一歩先に進むのはすごく勇気がいるんですね。これを、「人生張り付け」と言っているんですが、その地域・地域で市民風車を募集する人は、2億円なり3億円なりの、しかも数百人、数千人の方の出資者を背中に背負って、もう夜逃げできないぞと。ほんとに出資募集をするというこの瞬間は、もう後に引けない。「あなたもここで人生張り付けですよ」という覚悟で、最後に一歩大きく跳んでいただく。

そういう、お互いに信頼できる地域・地域のパートナーというか、むしろそこで自立的にやっていただける方という方あるいは組織が非常に重要で、そうするとまた、そこを中心に広がっていく。

当初、われわれ、2、3人ぐらいで始まって、北海道グリーンファンドも2、3人ぐらいで始まって、今、北海道グリーンファンドもわれわれも、十数人ぐらい人がいるんですが、今度、青森で始まった風車で、青森も今、10人ぐらいでスタートして、今度は飯田市も、7、8人ぐらいでやってという感じで、地域・地域がどんどん、人と経験と知識がどんどん広がって、それが飛び火をしていく。そういう形がこれから広がっていく、人が組織とネットワーク型に、あるいはモード型に広がっていく。そういう仕掛けも同時に組み込んでいくのがいいのかなと思っています。

●枝廣 
今、優さんもおっしゃった、将来、こういう世界にしたい、こういう社会にしたい。さっき、バックキャスティングとかビジョンという言葉も出しましたが、それにかんがみて、いろいろな仕組みをつくってきた。でも、それでまだ満足ではないですよね。

まだまだきっと足りないところがあるし、これからやりたいことがいっぱいあると思いますが、次に進むために、次のステージに行くために何が必要なんだろう、今、どこが課題になっているんだろう。

そういう日本の課題を乗り越えて先に行っている先進的なほかの国の例として、その国は何があったから、今、日本が止まってしまっているところを乗り越えて、先に行くことができているんだろう。そのあたりの今の課題と、それを乗り越えるために何が必要かというあたりのお話を聞かせてください。

●飯田 
ではスライドで。これは風力発電の世界各国の進展で、昨年、風力発電は4割ぐらい伸びたということです。ドイツが1,800万、スペインは1,000万を超えて、アメリカも900万と追いついていますが、日本は中国についに抜かれて98だと。風力発電は、今、完全に産業基盤として成立をして、急成長をしているので、まさにCO2の削減、エネルギーの供給、そして産業の育成、地域の活性と、さまざまなものに対面にした象徴だと思います。
 
これを生み出したものというのが、歴史的にさかのぼると、デンマークで最初に風力共同組合が市民風車をまずつくった。その時に、電力を買ってもらわないと困るということで、電力会社と政府と三者合意、これはボランタリーに三者合意をつくって、電気料金の85%で買う。

なぜ85%かというと、細かくなりますが、電気を自分でつくって電力会社に払わせて、自分で自分のコンセプトで使っているだから、100%の値段でいいじゃないかということになるわけですが、送電線を使っているから、当時は乱暴なので、大体30%ぐらい送電線費用で、でもコミュニティのための風車だから、そのうち半分は電力会社が上に伸びるから15%引いて85%。そういうストーリーです。

これが実はドイツに輸出されて、1990年にドイツに料金の90%で買うというという制度になりました。それでドイツは今の爆発的な普及につながりました。実は同時に、いわゆる市民風車という概念もドイツに流入されて、ドイツの風力の90%は市民所有の風力発電になっているということも、これだけ風力発電が普及しながら社会紛争があまり生じていないことの、もう一つの鍵です。

同時に、電気料金の90%だと、風車は伸びるけれども太陽光は伸びない。それで、1995年、ここに書いていませんが、アーヘンという所が、コストに応じて価格を決めてやったほうがいいんじゃないかということで、電気の13倍の値段で買うというのを始めました。

それが1998年に赤緑政権、いわゆる緑の党と社民党の政権が誕生したあと、2000年に新しい法律になって、今度は電源ごとに価格を決めるという制度に変わって、なおかつおととしこの制度を見直して、1kW弱で80円ぐらいで値上げをしました。今、ドイツで爆発的な太陽光の普及の中心になって、恐らく昨年の末で、ついに累積でも日本を抜かれた野ではないかというぐらいの普及になっています。

こういう、一つ小さな一歩で始めたところが、時間と場所と国境を越えて、どんどん広がっていくという。こういう連鎖を、われわれも学んでいったほうがいいと思って、地域自身の地域のエネルギー需要の取り組みもこれからどんどん広がっていくように、いろんなことを支援をしていきたいと思います。

制度づくりといっても、国だけではなくて、たとえば先ほど、滋賀県庁がグリーン購入を始めたという話がありました。実は今、東京都、横浜市、佐賀県あたりで、地域エネルギー政策づくりというのがいろいろ始まって、3個所とももうすぐ始められます。

日本政府は今、2010年で1.35%。これが2030年には1%に減るというのが、日本政府のとんでもない自然エネルギーの数値ですが、ヨーロッパ全体は大体、2020年で20%ないしは25%に増やそうという、非常に野心的な目標を掲げています。

東京都がまずは先頭を切って、それに負けない水準の数字と、それを実践していくための新しい政策をやっていこうという。そういうことも今、われわれの小さな取り組みから今度は、より影響のある地方自治体に広がっていく。そういう動きが最近始まっています。それからどんどん広がっていくということが、これからまた大きな展開につながっていく、新しい可能性になるんじゃないかというふうに思います。


●枝廣 
飯田さんに先ほどお話しくださったことでお聞きしたいんですが、ドイツはたとえば風車の90%が市民所有だと。デンマークもかなり多いですよね。日本でエネルギーのうち、市民が所有する形でつくっているのはどれぐらいなのかということと――0.00いくつかもわかりませんが。

あと、先ほど言ってくださった、連鎖を広げていくことで変えていく。多分、時間が無限にあるときは、その連鎖がゆっくり起こるのを待っているのも構わないと思いますが、今、時間がどんどん足りなくなっていますよね。何があれば、その連鎖を加速することができるのか、そのあたりはどうお考えでしょう。

●飯田 
まず、まだ日本の場合は、市民風車が10基で、これは風車全体から見ても、110万kWのうちのまだ1万kぐらいなので、風車の中でも100分の1で、エネルギー全体からすると非常に低い。これはもっと、いろんな形でどんどん広がっていく必要がある。

それから風力だけではなくて、バイオマスとか地域のいろんなエネルギーが、地域自立のエネルギーという形で広がっていくということが、時間はかかりますが、遠回りではあるけれども、エネルギーと自分たちの将来あるいは地域社会の自己決定という意味では重要だと思います。

それをどういうふうに加速するかということですが、バックキャスティングと同時に、自己組織的な、あるいは自己進化的なものと、その両方が必要なのかなと、僕自身はイメージとしては持っています。先ほどのビジョンというのはすごく大事だと思っていますが、僕自身もそれほど想像力が豊かなほうでもないので、経験したことのないものをビジョンで持つことって、すごく難しいですね。
 
いちばん極端に言いたいのは、たとえば日本の中の暖房のあり方です。先ほど優さんは電気のことを話していただいたんですが、日本のエネルギー政策の中で、熱政策というのがずっとなかった。熱政策がないので、電力会社とガス会社と石油会社が、自分たちのエネルギー源を売るための機器ばかり、あと、電気会社がそのための製品を売るという形です。

皆さんの家庭を振り返ってみると、とにかくありとあらゆるエネルギー源、基本的には化石燃料と電気を使うエネルギー源を使った暖房器具があふれ返っていて、見苦しいことこの上ない。

ヨーロッパ、特に北欧やドイツの住宅の中は輻射暖房だけ。お湯を使った輻射暖房で、日本で言うと床暖房にいちばん近いですが、空気も汚れないし、非常に穏やかな温かさで、インテリアもまったく乱さない。
 
それは、たかだか暖房器具ですけれども、それをもっと町に広げてみると、モノとかお金とか、エネルギーを大量に消費しながらしている経済のあり方ではなくて、非常にゆったりとしながら付加価値の高い社会をビジョンに描いて、そこにどうたどり着いていくかという、そういう方向を目指さないといけないという気がしています。
 
ただ、そのビジョンがなかなか日本で共有されない。であるがゆえに、一つ一つのモデルでそういったものをつくっていきながら、同時に、より大きな主題、今回の場合、先ほどご紹介したような東京都とか横浜市とか、地方自治体の政策などで、少しは、一歩進んだところで、共鳴というか、そういうものを少し広げていきながら。

それが今度、水平に広がっていけば、ひょっとすれば国の政策もまた変わってくるか、あるいは国際社会に対しても戻ってくるかですね。いかに自己組織化して、進化させていくプロセスのところにエネルギーを注ぎ込むか。同時に、バックキャスティングのところを絶えず提示していく。その両方によって迫っていくしかないのではないかと。
 
ゆくゆく環境は非常に厳しくなってくる、あるいはエネルギーも厳しくなってくる。そのときにエコファシズム的な社会になるのか、どんなに厳しい社会でも非常に人にやさしい、地域、自分たち自身が自己決定できる社会なのか。そのときが、社会の質というのが、大局的な姿だと思います。そのことを同時にやっていけるといいのかなと思っています。

●枝廣 
ありがとうございます。まだまだお話を伺いたいんですが、そろそろ時間ですので、最後にお三人それぞれお伺いしたいこと。今のどう加速するかということも含めてですが、たとえば、さっき飯田さんが「見えない価値を見える化する」という話をされました。見えない価値だけではなくて、たとえば「日本の常識、世界の非常識」のような、先ほどお話しされたことも、日本の中にいると全然それは見えていない部分が多くて、そういうものをどういうふうに伝えていくか。

たとえばグリーン購入ネットワークのデータベースで、うちの近くにあるグリーン商品を買えるお店がわかるとか、たとえば未来バンクというオプションがあるとか、グリーン電力証書が買えるんだとか、そういう仕組みとしてあっても、それがまだ一般の人に知られていないので、知っていたら使うのに、知っていたら自分もやるのにという人が、まだうまく結びついていないなと思います。

なので、見えるようにする、そういう仕組みがあることを知らしめていく。それでうねりというか、使う側からも押してもらう、引っ張ってもらう。そのあたりも含めて、加速するということにもつながりますが、今までのお話で強調したい点、もしくは追加したい点を含めて、最後のコメントになるので、お三人の方それぞれ、どなたからでも。お願いします。

●飯田 
二つのコメントと最後、一つ宣伝したいのですが。一つはまず、コミュニケーションがほんとに大事だと思いますが、地域・地域でいろんなプロジェクトをやっていくと、地域・地域のコミュニケーションのカラーがだいぶ違うなと思います。

東京周辺のNGOとか役所とか企業の方とコミュニケーションしていると、概念とかコンセプトとかビジョンレベルでやりとりできますし、北海道は55年的な、牧歌的なオープン・トゥ・オープンな感じです。関西のほうはもっと、いろいろ裏の裏の裏があるから、いろんな地域・地域のコミュニケーションを、特徴をつかんで、その中できちんと入りながら、ということが大事です。

また地域・地域に入ると、すごくミクロのトリックスがあって、プラス、マイナスとか、市長派・反市長派とか、いろんなものがありますが、その中に、あまり一方に組みせずきちんと見極めて入っていくという、あるいは概念よりはモノのほうがわかりやすいコミュニケーションとか、そういったことを見据えて入っていくことで、われわれはベースが東京なので、東京で一度広がれば、そうならない、そこにあるものがあると思います。そういうのも一つ、広がりを持っていく鍵かなと。
 
二つ目は、楽しむということです。一つは、寒いくらい貧しい省エネは、もう卒業しましょうと。さっき優さんの話にあったように、もうかる照明とか、もうかる以上に、今日、表にもチラシを置きましたが、「備前スタイル」と書いています。

省エネを極める、あるいは自然エネルギーを極めると、実は非常に美しい、ほんとに美しい暮らしができる。そういったことを実感していただきたいと思います。

ともすれば、従来の省エネ運動というのは、もうかることがないのかというふうになっていますが、やはりお金がちゃんと回り、その中にささやかな――活動費は当然として、多少の利益が出ても形がきちんと回っていくような仕組みを考えて、それを皆さんで利益をシェアする。単に地域から奪い取るのではなくて、皆さんと一緒に利益をシェアしていくというような形での仕組みづくりが大事なのかなと。
 
そういった意味で、最後に宣伝ですが、自然エネルギー、熱エネルギーに着目した岡山県備前市の「備前みどりのエネルギーファンド」というのを、今回、風車ではなく、初めて自然エネルギー、熱エネルギーに対するファンドを備前の方々と一緒につくっていきました。
http://bizen-greenenergy.co.jp/

「1000年の歴史を持つ備前から、これから1000年の社会を考えていこう」「木を使う伝統的な文化から、その木を賢く自然エネルギー、熱エネルギーにして使っていこう」というコンセプトで、かなり準備期間、10年の準備期間をかけてまちづくりにこれから活かしていこうと。そういうファンドです。これももし皆さん、お手に取って共感していただけたら、ぜひいろいろとご検討いだけたら。これも自分たちの町にまで活かせるんじゃないかとか、そういうふうに検討していただけたらと思います。

 

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