この春にアースポリシー研究所のレスター・ブラウンから届いた「都市農業」の記事を、実践和訳チームの訳でお届けします。
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都市農業
レスター・R・ブラウン
1974年の秋。ある会議に出席するためストックホルムの郊外にいた私は、たまたま高層マンションのすぐそばにある「コミュニティ菜園」の前を通りかかった。ぽかぽかした小春日和の午後のことだ。たくさんの人たちが自宅から歩いてわずかの場所で、畑仕事に精を出していた。
あれから30年以上たつのに、いまだにあの情景が目に浮かんでくるのは、作業をする人たちが充実感にあふれていたせいだろう。熱心に野菜の栽培や時には花づくりに励む人たち。これこそが文化的な社会だ――そう感じたのを覚えている。
2005年6月の国連食糧農業機関(FAO)の報告によると、世界の約7億人の都市住民の食糧は、市街地および準市街地(都市あるいはその隣接地域)の農地から供給されているという。こうした農地の大部分は、空き地や裏庭のような狭い土地で、中には屋上を利用している場合もある。
タンザニアの首都ダルエスサラームとその近辺では、約650ヘクタールの土地が野菜の栽培にあてられている。この土地は、首都に新鮮な農産物を供給するだけでなく、狭い土地で年間を通して集約農業に励む4,000人の農民の生活も支えている。同じアフリカ大陸の反対側に位置するセネガルの首都ダカールでは、FAOのプロジェクトにより住民が屋上庭園で連作を行い、毎年1平方メートル当たり最大で30キロのトマトを生産している。
ベトナムの首都ハノイでは、食卓にのぼる生鮮野菜の8割がハノイ市とその隣接地域で作られている。また、市内で消費される豚肉と家禽肉の半分もこれらの農地で生産されている。さらに淡水魚の半数も、意欲的な業者が都市部で養殖したものだ。卵の4割も市内や周辺地域で生産されている。都市の農家は、人間や家畜の排泄物をうまくリサイクルして植物や魚の養殖池の肥料にしているのだ。
インドの東コルカタ湿地に住む人々は、排水が流れ込む3,500ヘクタールほどの養殖池を管理している。池のバクテリアが都市部からの排水に含まれる有機廃棄物を分解することで、藻が急速に成長し、地域のさまざまな草食魚の餌になってくれるのだ。このシステムにより、コルカタには魚が安定供給されている。しかもここで捕れる魚は、コルカタ市場に入荷するどの魚よりも品質面でも常に優れているのである。
雑誌「Urban Agriculture」では、上海市が実際どのように市の周辺に「養分のリサイクルゾーン」をつくり上げたかを紹介している。市は30万ヘクタールの農地を管理し、そこで市から出るし尿をリサイクルしているのだ。上海の豚肉と家禽肉の半分、野菜の6割、牛乳と卵の9割が、市内とその隣接地域から供給されている。
一方、ベネズエラのカラカスでは、FAOが支援し、政府が資金を提供するプロジェクトによって、貧困地区に1平方メートルのミニ菜園が4,000カ所も作られた。多くは台所の目と鼻の先だ。1つの作物が熟するとすぐに収穫し、その後また別の苗が植えられる。このように連作すれば、1年間に1平方メートルあたりレタス330個またはトマト18キロ、あるいはキャベツ16キロを生産することが可能だ。
ベネズエラの掲げる目標は、都市部に10万カ所のミニ菜園、国全体で1,000ヘクタールのたい肥を使った都市菜園を設けることだ。農村総合開発省の次官であるレオナルド・ギル・モラ氏は、「一般的に、ベネズエラに見られるような貧困地区では『人』が最も重要な財産だ。都市農業を通して、貧困層にもっと自信を持ってもらい、社会参加を促したいと考えている」と語る。
ヨーロッパの各都市では、コミュニティ菜園が長い歴史を持つ。空路パリに入ると、市のはずれに数多くの菜園が広がっているのが見える。この小さな区画が生むものは、品質の優れた野菜だけではない。幸福感や地域のつながりも、ここから生まれている。
キューバでは10年以上前にソビエト連邦の支援を失ったため、その後に都市農業の拡大を目指す国家的な運動が展開された。この結果、現在のハバナでは住民が消費する野菜の半分を市内で生産している。
都市国家シンガポールでは1万人が都市農業に従事し、国内で消費される家禽の5分の4、野菜の4分の1を生産している。2003年に発表された「米国における都市農業および地域社会の食糧安全保障--都心部と都市周辺の農業」と題される報告書によると、ロンドン市民760万人のうちの14%が、自分で食べる食料の一部を育てている。カナダ西海岸最大の都市であるバンクーバーでは、この数字は44%にものぼる。
米国のフィラデルフィアで、コミュニティ菜園を楽しむ人たちに野菜を育てる理由を尋ねた調査がある。約20%が余暇を楽しむためと答え、19%は心の健康状態、17%は身体の健康状態が良くなるからと回答した。さらに、14%は菜園でとれる新鮮で品質の高い作物が魅力だと答え、10%は精神的な理由、7%は主に経済的な理由、すなわち費用と利便性だと答えた。都会の菜園は、住民の連帯感を生む社交場でもある。さらに、週3〜4回園芸を楽しむことは、適度なウォーキングやサイクリングと同じくらい身体に良い。
米国などの国では、都市菜園にはもうひとつの大きな可能性が秘められている。ある調査によると、シカゴには7万カ所、フィラデルフィアには3万1,000カ所の空き地があるという。都市部の空き地は、全米で数十万カ所にも及ぶだろう。前述の報告書は、このような土地に都市農業を取り入ようとしている理由を次のようにまとめている。「危険なたむろ場所になっている雑草やごみだらけの目障りな土地が、豊かで美しく安全な庭になり、人々の肉体と精神を満たすようになる。都市農業には再生効果がある」
将来の石油価格の高騰がほぼ避けられないものとすれば、都市農業の拡大によって経済的な利益が生じることが、さらにはっきりするだろう。これは豊かな社会でも同じだ。さらに、都市農業が拡大すれば新鮮な作物の供給が増えるが、利点はそれだけではない。何百万という人たちが、都市菜園の生む社会的メリットと心理的な安らぎに気付くことになるのだ。
出典:レスター・R・ブラウン著『邦題:プランB2.0――エコ・エコノミーをめざして』(Plan B 2.0: Rescuing a Planet Under Stress and a Civilization in Trouble)第11章「持続可能でウェルビーイングな都市を設計する」
2006年、W・W・ノートン社(ニューヨーク)より刊行
(翻訳:長澤あかね、森由美子)
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レスターも挙げているキューバの都市農業について、わかりやすく実際の様子を伝えてくれるDVDを見せてもらったことがあります。
キューバ都市農業リポート「 Saludサルー!ハバナ」
http://www.isacci.com/ (このサイトから注文できます)
> 200万都市が有機農業で自給・・・
>
> 音楽、ダンス、野球だけではない、キューバの新しい顔。
> それは、都市農業。
> 町のいたるところに畑を作り、野菜や果物を無農薬で栽培。
> 市民の食糧を都市の中でまかなっている。
>
> 一体、どうして?
> なぜできるのか?
>
> 食の安全、地産地消、自給率向上、省エネルギー、
> 農的生活、新しい雇用、スローライフ、コミュニティづくり...
>
> 持続可能な社会へのヒントがここにあります
1991年のソ連崩壊後、食料も石油もその多くを輸入に頼っていたキューバは大きな発想の転換が必要となりました。日本ほどの食糧自給率しかなかった同国が、自給を目指して試行錯誤してたどり着いた道が、都市(ハバナ)における有機農業だったのです。
ミミズを使った肥えた土を使い、化学肥料は一切使用せず、虫のつかないハーブや害虫を引き寄せるヒマワリなどとの混植。土地を耕すにも、石油を使用するトラクターが使えないため、牛を利用した昔ながらの耕作方法。
都市にある農業省所有地を使い、国家を挙げての一大プロジェクトを遂行した結果、今では自給率100%に。輸送コストもかからない、「地域の、地域による、地域のための農業」の姿をみることができます。
日本も、食糧も石油もその多くを輸入に頼っています。キューバにとってのソ連崩壊に等しい「ショック」は、温暖化の悪化かピークオイルか、どのような形が最初に顕在化してくるかわかりませんが、でもきっと日本にもやってくるでしょう(もうやってきている、ともいえます)。
そうなってから準備をするのではなく、国として戦略的に食糧確保(食糧安全保障)の方策として、都市農業も進めるべきではないか......キューバなどの先進国が教えてくれるものはたくさんあります。現地の方々の笑顔が素敵でした!