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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2007年10月04日

チューリッヒよりISIS評議員会レポートその2(2007.09.28)

コミュニケーション
水・資源のこと
 

ISISの2日目の会合が終了しました。

朝起きてから(海外でも2時起きです〜。^^;)、せっかく日本の話をする時間がもらえるなら、もう少し資料を準備しようと思い、朝飯前(?)の2時間ほどを使って、20枚ほどのプレゼン資料をまとめました。主に経産省、資源エネルギー庁のホームページから、英語になっているグラフをピックアップしてつくりました。チューリッヒにいながらすぐにそんな作業ができるのは、インターネットのおかげですね!

調べてみると、このように今回のテーマである「エネルギー効率」に関しても、関連する英語資料は政府にもいくつかあるのですが、おそらく、研究者や一般の人が探したいと思っても、なかなかたどりつけないのでしょうね。。。(_ _;

朝飯前資料では、英語で日本のエネルギーの取り組みや実績が読める資料を3つほどURLをつけて紹介したあと、その中から「GDP当たりのエネルギー消費量の各国の比較」(日本がダントツに優れています)や、「業界ごとのエネルギー効率の国際比較のグラフ」(やはり日本が優れています)のほか、「さまざまな業界でこの30年以上、どのような省エネ努力がおこなわれてきたか」「日本政府が、省エネ促進を大きなエネルギー政策の柱のひとつとしていること」「その具体的な方策としてのトップランナー制度の説明の図表および、その実績(エネルギー効率の改善度)のグラフ」、また、「一般の人々への市場シグナルのひとつとしての省エネラベルの仕組み」などを紹介しました。

そして、1973年〜2003年の間のエネルギー消費量をみると、産業界は微増ですが、交通輸送部門と民生部門が大きく増えているというグラフを示し、一般家庭でのエネルギー消費量が増えているのは、国際的に比較したときに、エネルギー価格がかなり高いにもかかわらず(この比較のグラフも載せました)、一世帯当たりの家電製品が増えていることなどが要因であるなどを、「グラフでわかる資料」としました。

事務局が手際よくこの資料を印刷してメンバーに配ってくれたので、「ではジュンコから、日本の取り組みについて説明してもらいましょう」と指名されたときには、具体的な説明だけをすることにしました。

「日本ではトップランナー方式などの政府の方策が家電製品などのエネルギー効率改善に効果を発揮しています。また、経産省や省エネセンターなどでマニュアルや事例集をつくるなどして、事業所での省エネの取り組みを促進しています。

日本の企業は、省エネを競争優位性の源泉として真剣にとらえています。コスト削減と企業イメージ向上の両方の意味で、競争力にとって大事だと認識しています。日本には、省エネにかかわる表彰制度もあり、各社が出しているCSR報告書にも、エネルギー効率改善についてのストーリーや実績を載せることが一般的になっています。

また、日本の工場レベルでは、TQ活動に始まった小集団活動が今なお盛んで、それぞれの職域の中で、従業員が自分たちで課題を設定し、積極的に取り組んでいます。小集団活動の地区大会や全国大会もあちこちで開かれており、自社内のみならず、業界を超えてお互いに発表を聞いてヒントを得ています。日本の企業は、現場レベルでも省エネに関する学び合いが盛んなのです。

先ほど中国に関する発表もありましたが、中国に近接する日本は、酸性雨をはじめ、さまざまなリサイクル資源の逼迫など、中国の影響を大きく感じています。同じアジアに位置することもあり、政府レベル・業界レベル・企業レベルで、省エネ技術の中国への移転も積極的に進められています。

最後に、これは私見ですが、ここでの議論はエネルギー効率がテーマになっていますよね。でも、エネルギー効率だけではなく、どれぐらいあれば十分なのか、どこまで本当に必要なのかという、「足るを知る」面でのエネルギーについても考える必要があるのではないでしょうか。

日本だけではなく、さまざまな国・企業が、「エネルギー消費量」と「経済発展」をデカップリングすることに努力し、成功を収めていますが、日本の中には「経済成長」と「企業価値」をデカップリングするビジネスモデルを模索しているところもあるのです。たとえばある大手企業の幹部は私に、「本当のあるべき企業の姿を考えると、「『もっとたくさん』に対して『ノー』を言う勇気を持たなくてはならない」と語ってくれたことがあります。

どれほど単位あたりの効率を上げても、それがどれぐらい使われるかによって、総量は変わってきます。いくら燃費のよい自動車をつくっても、走行距離が延びている限り、世帯当たりの台数が増えている限り、エネルギー消費量は増えてしまいます。どこかで「もうこれで十分」と言わなくては、エネルギー効率の改善だけでは問題は解決しないでしょう。そういった側面についても、ぜひこの会議で議論しませんか?」

このように発言しましたが、残念ながら「足るを知る」という側面についのコメントは、なかなかピンとこなかったようです。発言が終わるとすかさず「だれが『もう十分』っていうんでしょうね? 政府なのかな?」と声が上がりました。「だれが言うか、、、そこが大きなポイントですよね」と私。

さらに、すぐに何人もが手を挙げ、質問してきました。「話を聞いていると、日本では規制や基準設定などの政策措置が重要であるようですね。よりマーケット(市場)を通じた、たとえば価格政策などの取り組みについてはどうなのでしょう?」「エネルギー効率では、よくリバウンド効果が指摘されますが、どう考えますか?」などなど。

カナダに本拠地を置くグローバルNGOの代表者は、「日本のこのエネルギー効率の高さを見ると、日本の産業界はよく京都議定書を受け入れたと感心しますね。日本は京都議定書を達成することができるのでしょうか。達成のために大量にCDMを購入するということになるのでしょうか」と聞かれたときには、「よくぞ聞いてくれました〜」という感じでした。(^^;

ニュージーランドで環境大臣を務め、気候変動に関する国際会合の議長を何度も務めたという評議員から、「エネルギー効率を高めようという努力は、ただそのためだけにすることはないでしょう? 日本の企業や人々がそれだけ努力をしているのは、日本のエネルギー価格が非常に高いからですか?」という質問がありました。

「ここだっ!」と思った私は(^^;)、こう答えました。

「確かに、日本ではエネルギー価格が高いですから、省エネをすることでエネルギーコストを下げられる幅が大きく、人々や企業が省エネやエネルギー効率改善に取り組む大きな理由のひとつになっています。

しかし、それだけではないと思うのです。おそらくこれは、日本独自の価値観または美意識かもしれません。たとえばいま熱心に省エネ努力をしている人々に『ガス代や電気代が安くなったら、省エネの努力をやめますか?』と尋ねたとしたら、おそらく、『いいえ、それでも続けますよ』と答える人が少なくないのではないかと私は思っています。

つまり、単にお金が浮くから、経済的な見返りがあるから省エネをするというだけでなく、日本にかつてからある「自然との共生」「生かされている」「迷惑をかけない」「もったいない」などの価値観や美学も取り組みの背景にあるのです。

たとえお金の節約につながらなくても、たくさんのものを好きなだけむさぼるのではなく、少ないもので満足し、自分の与えられた範囲で心豊かに暮らすことが幸せであり、美であるという価値観が、日本人の心の中にはあります。ですから、単にお金のためのエネルギー効率改善や省エネ努力ではなく、生き方として、価値観や美学としての部分も、少なからずあるのではないかと思います」と説明をしました。さて、どこまで通じたかな〜?

私の発言と質疑応答のあと、メンバーの間でも日本をめぐるさまざまな議論が展開されました。

たとえば、「70年代、80年代、日本の政府も経団連も各企業も、オイルショックをバネとして、日本は日本企業の競争力を強化するのだということを公に言っており、そのように推進してきた。つまり、これは国の政策としてエネルギー効率の改善を掲げ、実際に大きく進めた事例である。そのような展開やその後について、きっと文献が日本にはあるのだと思うが、自分たちには探せない。そのあたりをぜひもっと詳しく知りたい」。

IEAからのゲストスピーカーは、それに対し、「確かに70年代から80年代にかけての日本の産業界のエネルギー効率改善は目覚ましかったが、90年代以降は停滞しており、業界によっては、日本は世界最高のエネルギー効率を誇ることができなくなっている」とも指摘していました。

このように日本に関するさまざまな議論が出たことを受けて、私はもう一度発言の機会を求めました。

「日本では、自動車産業がアメリカに進出する大きなきっかけとなったマスキー法の時代から、危機をひとつのバネとして、競争力を増強するという歴史があると言ってもよいかもしれません。確かに、石油ショックとその後の高い石油価格を意識的にバネとして活かし、日本の産業界は骨身を削る努力をしてエネルギー効率を高め、それによって日本の競争力も高まったといえるでしょう。

しかし、その後、指摘があったように、停滞しているのも統計を見ると明らかです。ここへ来て、温暖化問題でさらにがんばらなくては!という感じになっていると思いますが……。これまでの展開も含め、このあたりに関する文献は日本語のみのものも含めれば、探せば見つかるような気がします。

それから、ひとつ、言葉の点で言っておきたいことがあります。ここでの議論では「エネルギー効率」という言葉を使っていますが、日本ではあまり「エネルギー効率」という言葉は使いません。企業も人々も口にするのは「省エネ」という言葉です。エネルギー効率そのものが重要なのではなく、どれぐらいのエネルギーを節約することができるかが重要なのですよね?

エネルギーを節約するためには、2つの方法があります。ひとつはエネルギー効率を高めること。少なくとも日本では、エネルギー効率への取り組みは、それ自体を目的にしているのではなく、省エネを進めるための大きな方法として考えられていると思います。そして、もうひとつは使用そのものを減らすことです。こちらもとても大事ではないでしょうか?」

この説明に、メンバーから「ああ、それで『足るを知る』というコメントがあったのですね」という反応が返ってきました。

さて、このような議論を展開したあと、来年に向けての1年間のプロジェクトを決めるための議論に入りました。現在取り上げているエネルギーのほかにも、取り上げるべき課題があるのではないかという意見から、気候変動への適応策、水問題、肥料による窒素増大の問題などが挙げられました。

しかし、しばらくはエネルギーに注力しようということで話がまとまりました。今年1年かけて準備的な研究を進めてきた「化石燃料に対する補助金」プロジェクトは、さらに規模を大きくして続行することが決まりました。

「エネルギー効率」に関するプロジェクトをどのように展開しようかという議論になったとき、議長から思わぬ提案が出されました。

「せっかく日本からのメンバーとしてジュンコが参加してくれているし、これはとてもいい機会だから、日本の『エネルギー効率と競争力に関する事例研究』をしたらどうだろう?」

少しの資料と私の短い説明で、みんなの強い興味を惹いたのか? はたまた知りたいことにまだたどり着けなかったということなのか??? いずれにしても、日本の事例への関心がとても高いことを感じました。

私が「うーん」とうなっているあいだに、他のメンバー全員が賛成したので、このプロジェクトが来年に向けてのプロジェクトのひとつに選ばれちゃいました。

私はそこで、「ぜひほかの国でのさまざまな調査研究も、併せてプロジェクトに入れてほしい」とお願いをしました。

「エネルギー効率を高める技術を開発したり、エネルギー効率の高い製品を製造することと、実際にそういった技術を用いたり、そういった製品を購入することは別物です。

ですから、ただ単に『エネルギー効率』の改善だけを考えるのではなく、法規制やインセンティブ、価格設定、教育など、テクノロジー以外のさまざまな面での影響を与える要因を調べ、何があれば実際に企業や人々の行動、姿勢が変わるのか、そういった技術や製品をどうすればより使うようになるのか、そういった面での研究も入れてもらえればうれしいです。

イノベーションは技術だけではなく、社会的なイノベーション、政治的なイノベーション、財務的なイノベーションも大事であると昨日議論しましたよね。そういう面も入れた方がよいと思うのです」。

去年は、借りてきたネコのようにおとなしくしていたのですが、今年はこれほどプロジェクトの内容についても積極的に発言するようになるとは、自分でも思っていなかったので、ちょっとびっくりです。(@_@);;;;

会合が終了したあと、ランチを昼べながら、運営委員会のメンバーと具体的なプロジェクトについて打ち合わせをしました。「日本についての最新事例研究」という報告書をつくってほしい、とのこと。内容は以下の2点。

(1)日本の国、産業界の「エネルギー効率と国際競争力の関係」について
(2)エネルギー効率の向上に影響を与える政策措置について

文献調査のほか、政府、業界、学会、エネルギー関係のNGOなどに聞き取りをして、数十ページのレポートをまとめるという作業になりそうです。

エネルギー効率に関する研究者、専門家の方がいらしたら、ぜひお知恵を貸してください〜。また、日本のエネルギー効率への取り組みや、国際競争力との関連などに関する文献など、関連しそうな情報や文献をご存じでしたら、ぜひ教えてください!

よい機会をいただいたのだな、と思いつつ、思わぬ宿題をおみやげに(?)、こうして第2回ISIS評議委員会は幕を閉じたのでした。

会合は終わったのですが、今晩開催される特別晩餐会にも招待されています。ランチのときに、同じテーブルにいたスイス連邦工科大学の理事長さんが、隣の評議員に「この晩餐会には特別な伝統があるんで、気をつけなくちゃいけないんですよ。各国からの参加者が一人ずつ自国の国歌を歌うことになっているんです」と話していました。

「おや、そうなのですか」と相手は落ち着いて返事をしていましたが、私のほうが「そういえば日本の国歌、ちゃんと歌えるかな〜?」と心配に。自室に戻ってから、インターネットで君が代の歌詞を確認し、こっそり練習しているところです。

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と書いたのですが、このメールニュースを送る前に、晩餐会〜翌朝出発〜チューリッヒ空港〜成田空港〜自宅と、さきほど元気に帰宅しました。

ところで、「自国の国歌を歌う伝統」ですけど、かつがれちゃいました〜。(^^;練習していったのに、最後までそんな余興はなくて、大学の理事長さんも相槌を打っていた評議員もひょうひょうと知らん顔。(^^;

あちゃ〜。まじめに受け取ったのは私だけだったかも。私も知らん顔しながらも、この辺の楽しさもまた面白いところだなー、と。(^^;

 

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