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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2007年10月09日

「ガンダムエース」より富野由悠季監督との対談 後編(2007.10.08)

大切なこと
 

(前号からつづく)


ブータンのように自分たちに何が大事なのかを考えなきゃ

枝廣 たしかに今まで政府は、農業にしても何にしても、北から南まで全部中央で決めた同じやり方で管理してきましたよね。気候帯が全然違うわけですから、やはりそれではうまくいきません。ただ最近は、財政が苦しくなっているので中央政府は、自分たちがやることを減らして、地方自治体に任せるようになってきています。それはある意味では正しい動きだと思うんですよ。

そのことで自治体に温度差が生まれてきている。本当に自分たちの地域を自分たちの力で守り、作っていこうという自治体は、主体的に町づくり、地域づくりを考えています。そこでカギとなるのがエネルギーと食料の自立です。

岩手県などは今度新しく総務大臣になられた増田前知事の時代からそれに力を入れていて、例えば、県立の小中学校の給食の食材は岩手県産を増やそうと努力し、今では50%を超えていますし、エネルギーに関しても自分たちで作り出そうとしてますよね。風の強い町なら風力発電にするとか、それぞれの地方の特色を生かしてやれることはたくさんあると思うんですよ。

東京だって、これだけ人やモノが集まっているということは、それだけでエネルギーの宝庫だとも言える。東京大油田と呼んで、廃食油を一生懸命集めている人もいます。そういうふうに地域が自立していくのも大事だし、同時に、そろそろ本気で自分たちにとって何が大事なのかをみんなで考えていくことが必要だとも思います。そのときに刺激になっているのがブータンの例なんです。

ブータンって面白い国で、アジアのなかでも貧しい国ですけど、あの国に行った人は、ブータンの人はみんな幸せそうだってよく言います。ブータン国民に「あなたは幸せですか?」と質問したら、94%の人が「はい」と答えたそうです。日本では考えられないことですよね。

富野 先月の対談相手のつやまあきひこさんも同じことを言ってました。なぜブータン人は幸せなんですか?

枝廣 今のブータン国王が20代のとき、70年代のことですが、今後のブータンの国づくりの方向性を探るために、日本を含む欧米先進国を研究したそうなんですね。そこで彼が出した結論は、欧米はGDPを伸ばすという方向性で国づくりをしているが、その結果、環境はボロボロになり、人の心はすさみ、文化は継承されなくなっている。つまりGDPを追求してもいいことは何もない。だったら、そんなことはやめて、その代わりにGNH(国民総幸福量)を大事にしようということでした。

ブータンではGNHの指標があるんですが、その項目は、人々が情緒的にどれだけ満たされているかとか地域社会がどれだけ生き生きとしているかというものです。GDPが増えても国民が幸せになるとはかぎらない。国民は不幸せでもGDPは増えてしまうんですよ。

富野 むしろ、国民の不幸の上にGDPの成長というのはあるのかもしれませんね。

枝廣 そうですね。ただ、ブータンのような考え方が、日本でも世界でも少しずつですが増えてはいるんです。甲府に向山塗料という面白い会社があります。かつては株式上場を目指して、営業利益を上げるために邁進していたんですが、その結果社員は倒れ、社長自身も体を壊してしまった。その後社長は世界を巡る旅に出て、貧困地帯などに行って、ブータンにも出会ったわけです。

戻ってきた彼は、これからは売り上げや利益を目的とするのはやめてGCHを大事にすると言い出しました。グロス・カンパニー・ハピネスですね(笑)。社員全体がどれだけ幸せかを会社の成長の尺度とすると決めて、それに鑑みて会社の売り上げを見ると、大きすぎるという結論に達したんです。

富野 (笑)。

枝廣 売り上げが大きいから、それを維持しようと社員は走り回り、忙しくて疲れて幸せじゃなくなるんだと。だから向山塗料さんの年度の売り上げ目標は毎年毎年マイナス成長なんですよ。ただ、それがすごく難しいそうなんです。

富野 どうしてですか?

枝廣 社員たちが一人ひとりのお客さんに笑顔で丁寧に対応できるようになったおかげで、お客さんが増えちゃうんですって。

富野 あははは。

枝廣 そういうふうに社員と地域の幸せを考え、その適性規模よりも自分たちの会社が大きいのなら小さくする。その勇気ってスゴいでしょ。こういう話を大企業の方にすると、自分たちもできればそうしたいが、大勢の株主がいて、四半期ごとに利益を上げていかなきゃならない仕組みのなかでは、なかなかそれは難しいとおっしゃいます。

ただ、上場している大企業でも、長期的な視野に立てる人に株主になってもらうことで、会社を変えていこうとしているところもあります。すべてがそうなるにはまだまだ時間はかかるでしょうが、そういう流れが全くなかった時代と比べると、かなり広がってきているなとは思います。


必要なものは現れ、いらないものは消える日本人の感覚

富野 ところで、枝廣さんが関わっているバラトングループというのはどういう集まりなんですか?

枝廣 『成長の限界〜』を書いたデニス・メドウズ氏とドネラ・メドウズ氏の二人が中心になって26年前に作ったグループです。二人はシステム思考の第一人者で、システム思考の研究者や実践家、それから環境問題に取り組んでいる人たちのネットワークとしてこの集まりを作ったんです。

活動としては、年に一度、一週間、50人限定で集まり、朝から晩まで徹底的に議論するというのがメインのイベントで、私は6年前から参加しています。

富野 そこで語られるテーマはどういうものなんですか?

枝廣 今年のテーマは温暖化です。バラトングループは温暖化が世界的な問題となるずっと以前、90年代の初めには温暖化の問題を取り上げていますから、かなり先進的なことをやっているんです。

毎回テーマに基づいたゲストスピーカーを世界中から招き、ゲストも交えて一週間語り合います。もともとはシステム思考を使ってどう世の中を変えるかという議論が多かったんですが、今はシステム思考以外の専門家も多いので、論点となるのは、どうやって政府を変えるか、自治体を変えるか、人々を変えるかというものが中心ですね。

富野 結局、個人がどれほど優れていて、善意にあふれていても、組織が一度成立してしまうと、組織そのものが自己増殖をしていかざるをえない宿命を持っている。それが一番の問題だと思うんですよ。バラトングループでは、組織そのものの自己増殖をどうやってやめさせるのかという議論はしていますか?

枝廣 先ほども申し上げましたが、そのための仕組みを作らないと駄目だと思います。

富野 仕組みを作るということは、組織を作るということとは違う?

枝廣 組織を作るときに、あるルールを植え込むということです。私はNGOの共同代表をしていますが、おっしゃるように組織というのは放っておくと存在自体が目的化して自己増殖をしていきます。私はそうはしたくないので、プロジェクトごとのチームを作るときに、いつ終わりにするかを決めるんですね。

例えば、『がんばっている日本を世界はまだ知らない』という本はボランティアのチームで作ったんですが、この場合は本が出版された時点で解散すると決めました。そうしないで編集チームを残しておくと、いらない本まで作っちゃいますから。

富野 角川書店がそうです(笑)。

枝廣 (笑)。ですから、組織は放っておくと増殖するという認識の上で、そうならないような歯止めの仕組みを組み込んでおく。増殖しようとする人を責めても問題は解決しません。

富野 日本の組織というのは、欧米の組織と比べても独特ですよね。

枝廣 そうですね。いろんな利害関係が錯綜しているのは日本も欧米も同じですが、何か問題があったときに、それを問題ととらえ議論を進める欧米に対し、日本の場合は議論を避けて何とか進もうとしますよね。

組織が自己増殖をしないようにするには、最初にその組織の目的をはっきりさせなければいけません。ところが、この組織が何のためにあるのかとか、何をもって評価するのかという、特に評価の部分が日本の場合は欠けているような気がします。

富野 たしかにそうですね。

枝廣 小学校からの教育もあるのでしょうが、日本人はひとを評価するのを避けようとする傾向がある。でも、目標に照らし合わせた適正な評価をしないかぎり、ちゃんと目標に向かっているかどうかはわからないんですよ。

英語にできない日本語というのはたくさんあって、例えば、「阿吽の呼吸」だとか「察する」という言葉は英語にはありません。でも、日本の場合、ほとんどがそれで動きますよね。閉じられた空間ならそれで問題ないんですけど、そうじゃない場合はそれではうまくいかない。

それと海外での会議に出席するとよく感じるんですが、日本の政府も日本の企業も日本の人々も、すごく内向きなんですよね。日本のこと、自分の会社、自分のことしか考えない。あたかもほかの国やほかの人たちなど存在していないかのように振る舞うんです。

欧米の企業は、それが将来のマーケットにつながるという思惑はあるにせよ、自分たちにできる範囲で途上国の支援などを考えています。同じ地球上に自分たちだけではなく貧しい人たちがいるという意識を、彼らは常に持っている。ところが、日本の企業にはそれがほとんどないんです。企業だけじゃなくて政府にもなければ国民にもあまりない。こういう日本人の性質というのは、世界における日本の立場をとても難しくします。

例えば、ある環境問題に取り組むため、世界共通の標準化された仕組みを作るとします。そのためには世界中から関係者が集まって、どういう仕組みにするか話し合い、何年もかけて作っていくわけですが、そこに日本人はほとんど入らないんですよ。招かれても入らない。その代わり、仕組みができたあと一番よく守るのは日本人なんです。作ってくれれば守るけど、作るところには入らない…。

富野 それはなぜでしょうね。

枝廣 わかりません。

富野 そのことについて、うっすらと気になってるのが、これだけ輸入品に頼っている国民が、いただいてくるところのことを知ろうとしない。それは実際に海外からモノを輸入している商社の人間ですらです。

枝廣 たしかに、ひと昔前に商社の人たちと話したときは、海外に赴任していても日本の本社しか見ていないなと感じました。

富野 でも、食料品でも鉄鉱石でもそれを手に入れるには現地のことがわからなきゃ駄目じゃないですか。

枝廣 実際に商社の人たちが鉄鉱石を堀りにいくわけではなく、現地の会社を動かしているだけですよね。これは商社の人だけでなく、日本人みんなの共通の感覚だと思いますが、必要なものって現れてくれるんですよ。

富野 (苦笑)。

枝廣 それがどこからどうやって現れたかは関係ない。お金を払いさえすれば必要なものは現れる。で、いらなくなったものはどこかに消える。そう思っているんですよ。

富野 人ってそんなに粗雑ですか?

枝廣 粗雑というよりも、これまではそれで問題がなかったんですよ。例えば、今、イヌイットやネイティブアメリカンの部落に行くとゴミだらけだそうですよ。なぜかというと、かつては木の皿を使っていたから、その辺に捨てても問題なかった。でも今はプラスチック製だから分解されて消えることがない。それは粗雑だからではなく、これまで問題なかったからそのやり方を続けているだけなんです。日本人の場合もそうなんでしょうけど、それにしても想像力がなさすぎるとは思いますね。

富野 結局は知恵の問題ですよね。だって人口のことだけ考えても、350年前は全世界の人口が5億だったっていう、この数字だけで何もかもわかるじゃないですか。石油の量はこれくらいで、地球の大きさはこれくらいだっていうのがわかりゃいいだけの話じゃないですか。

枝廣 そうですね。そんな簡単なことが東大出の政治家や官僚はわからない。その人たちは今でも経済成長率3%を死守しようとしているわけでしょ。3%って小さく思えるけど24年で倍増する数字ですよ。24年後に日本経済、世界経済が2倍になることなんてありえないって普通は思いますよね。でも、なぜか彼らはそれを考えないんですよね。

富野 面白い数字を紹介すると江戸時代の経済成長率は年0・3%です。それで260年間続いたんです。

枝廣 そうなんです。成長を抑えるべきだということは、まさに江戸時代が実証しているんですよ。でも、目先の利益や利便性だけを考えるのではなく、自分の周りの人たちや将来のことを考える。そういうふうに視野を広げ、時間軸を伸ばすということをほとんどの人ができない。そこがまだ人類の進化が足りないところですよね。

今、私は、時間軸を伸ばすきっかけやトレーニングを提供していて、訓練すれば前よりはそういうことを考えられるようにはなることがわかっています。ただ、それが世の中に広がっていくにはまだまだ時間がかかる。時間との競争ですよね。温暖化にしても待ってはくれないですから。


大きな問題も原因をたどれば小さなことにつながっている

枝廣 今の世の中は、人が技術に使われていますよね。やっぱり、それじゃあいけないんですよ。技術に使われ、朝から晩まで必死に働いて、家では疲れ果てて子供の顔も見ることができないという生活は幸せじゃない。でも、それがいけないと言うだけじゃ変わらない。これじゃあ駄目だと言われても、それにしがみつくしかないと信じている人はたくさんいるので、そうじゃないやり方があるんだよと「乗り換える船」を出してあげることが大切なんです。

私は、これからもできるだけ多くの乗り換える船を紹介していきたい。それは海外の事例かもしれないし、キャンドルナイトのようなイベントかもしれない。もしかしたら、こんなふうに環境問題をやっていても楽しく幸せに暮らせるんだよと自分の生き方を見せることもそうかもしれないですよね(笑)。

私は自分の仕事というのは、どれだけ本を書くかとか翻訳するかではなく、死ぬまでに世界を自分の望む方向に何ミリ動かせたかだと思っているんですよ。そのために役に立つと思ったら、いろんな形に職業を変えながらでもやっていくだろうなと思っています。

富野 生き方として、それはとても正鵠を得ていると思います。何よりそういう眼差しを持って生きている大人がいるということが、若い人たちには救いになるでしょう。枝廣さんのような大人の存在を知ることによって、引きこもりの人が外に出てゴミの一つでも拾うかもしれない。ただ町を歩くだけでも、暗い顔で歩くんじゃなくて、ちょっとでもいい顔で歩く。それだけでも子供たちにとっては大事なんですよね。

枝廣 そうですね。システム思考のなかでとても有名な割れた窓理論というものがあります。割れた窓が多い町には犯罪が多く発生するというもので、逆に町をきれいに保つだけで犯罪は減るんです。実は大きな問題というのは、その原因をたどっていくと、小さな誰にでも解決できることにつながっているんですよね。

町を歩くときににこやかな顔でいるとか、知り合いとすれ違ったときには挨拶をするとか、そういう小さなことがつながって、明るい社会や望ましい世界を作り出すと思うんです。自分にはそのつながりは見えないかもしれないけど、たとえ家でマンガを読んでいるときでも、自分は今この瞬間、世界の裏側の人とも二百年後の人ともつながっているんだと想像する。そう考えて、自分にできる小さなことをやっていけば、それで世界は変わるんです。

富野 そうですね。二百年後の人ともつながっている自分という想像はとても誇らしいことだと僕は思う。やっぱり、二百年後の子供たちが幸せに暮らせる世界にしたいですよね。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

対談の場で初めてお目にかかった富野監督は、開口一番「どんな人がくるのだろうって、怖かったんですよ。この1週間ぐらい気が重くて……」と。あら。(^^;

対談終了後、「怖くなかったでしょう?」と聞いたら、「まだわかりません」っ
て。あらら。(^^;

 

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