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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2007年10月24日

西村六善氏(元外務省特命全権大使:地球環境問題担当)のお話(2007.10.23)

温暖化
 

今月上旬、気候変動枠組条約および京都議定書関連交渉に参加するための初代政府代表を務められた外務省の西村六善元特命全権大使(地球環境問題担当)を囲む小さな会にお声掛けいただき、いろいろとお話をうかがったり、アドバイスをいただいてきました。

西村氏は、9月末に開催されたブッシュ大統領が呼びかけた排出国による国際会議に参加されて帰国されたところで、最新の国際状況を教えていただきました。

世界の状況、現在の世界における日本のスタンス、そして、これから日本としてどう考えていくべきか、考えさせられるお話です。西村氏にご快諾をいただき、お伝えします。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここからお話〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

今回、ブッシュ大統領は、地球温暖化が人為的なものであるという科学を認めました。しかし、ブッシュ大統領の提案は、それぞれの国でできることを約束してやっていこうという、拘束力のない枠組みです。

それに対し、発展途上国は、これまでの温室効果ガスの排出はその多くが先進国によるものだという歴史的な責任を取るためにも、法的拘束力のある枠組みが必要だと考えています。EUも、各国がそれぞれできることを約束したところで、大気中の二酸化炭素濃度が安定するとは保証できないため、拘束力のない枠組みには反対しています。

ブッシュ大統領の提案はだれにも支持されませんでした。ブッシュ大統領の任期はあと10カ月ありますが、その次はどちらの党が大統領になったとしても、何らかのキャップや制限をかぶせる方向に行くでしょう。

今回ブッシュ大統領は、人為的であるということを認めたほか、温暖化に関しては国連の枠組みで進めていくと言いました。そう言わざるを得ない状況だったといえるでしょう。5月31日にブッシュ大統領が今回の枠組みを発表した時には、2008年末までには数回会議を行うと言っていましたが、今後どれだけ求心力を維持していけるかが課題でしょう。

現在、共和党、民主党からさまざまな削減義務を持った法案が出ていますし、民主党のエドワーズ議員は、京都議定書に復帰すべきだということを提案しています。最有力なのはリーバーマン・ウォーナー法というもので、これも削減義務を持たせるものです。

アメリカが排出権取引をやるようになれば、欧州と米国が「炭酸ガスの排出にはコストがかかるのであって、そのコストを炭素価格として経済システムの中に加算していく」という哲学で一致したことになります。

これが外部経済の内部化といわれる政策論です。世界は経済活動の中に環境破壊のコストを組み込むことによって、コスト削減努力を促し、環境を改善しようとしているのです。市場を使ってやっていく方が結局政府が規制したり法律を作ったり補助金を出して環境破壊を食い止めようとするより確実で安上がりなのです。

世界の主要国は競争上の考慮からも最低コストで確実に環境保護をしようとしているのです。日本は2050年50%削減を決めましたが、それをどうやって最低コストで実現するのか。日本はどうするのかが問われてきます。

EUが排出権取引を進めているのは、まさにこの発想でやっているのです。政府の役割は小さくし、財政出動は最小限に切り詰め、しかし、市場の機能を生かして環境保全に邁進し、競争力を高めて21世紀を勝ち抜くためです。米国も同じような発想ですから、先進国は仲間割れをしないで、団結して中国やインドを引き込んでいかなくてはなりません。 

歴史的な制度としてできてきた京都議定書の制度は以上のような国内の政策を許容していますし、日本に適した政策を採ることも許しています。これをブッシュ大統領の呼びかけで変更するという方向性はかなり危険な判断だと思います。

必要なのは、長期的な青写真を描くことです。現在13億トン排出している日本が、6億トンの排出でもやっていける国にしなくてはなりません。そうしないと、競争力を維持することはできなくなります。低炭素社会推進法をつくり、低炭素社会国民会議を立ち上げて、民間中心で進めていき、低炭素成長を実現できる国になっていかなくてはなりません。

来年の洞爺湖サミットは、文明史的な転換期となるべきです。つまり、炭素に依存した形で成長してきた経済社会を、低炭素型に変えていく――そのための努力をするという誓約と、その具体的な道筋を描く必要があるのです。

 

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