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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2008年01月02日

バックキャスティングでビジョンを描こう!(2008.01.02)

新しいあり方へ
 

思い立ったらいつでもよいタイミングなのですが、年始は特によいタイミングなので、ビジョンを描こう!という話をしましょう。

だれもがある変化をつくり出したいと思って、活動しています。「温暖化を何とかしたい」とか「幸せに生きたい」と思って、何かをやっているのだと思います。「それが達成できた時に、最終的にどういうところに行きたいのか?」--これを考えるのがビジョンづくりです。ビジョンには、大きく分けると二つの作り方があります。

一つのやり方、日本の政府や企業の多くがやっている方法は、フォアキャスティングというもので、「現状からスタートする」やり方です。「今、この問題があるからこうしよう」「今、こういう制約があるからこれはできない。だからこれにしておこう」等々、現状立脚で進めるやり方がフォアキャスティングです。

それに対して、ビジョン型の国ではバックキャスティングという方法をよく用います。今の状況や今の課題がどうであれ、それを一回脇に置いておいて、「すべて思うとおりになったら、どのような姿にしたいか?」と考えます。

今、何ができる、何ができないではなく、「本当にどうあるべきか」を考えるのが、バックキャスティング型のビジョンづくりなのです。そうして、「理想的なあるべき姿」をつくってから、現時点を振り返り、その間を埋めていきます。

私が通訳をしていたころ、アジア各国の環境担当者が集まる会議がありました。私がちょうど通訳をしていた時、中国の代表者がこんなことを言いました。「中国は、50年後の中国をこういう国にしたいと思っている。ですから、今この施策を打っているのです」と。

彼らには50年後の中国が見えている。少なくとも見ようとしている、そしてそのために今この施策を打っているのだ--通訳しながら、私は感動しました。これがバックキャスティングです。

ちなみに、この会議で日本の担当者から(少なくとも私が通訳をしていた間は)、そういった発言はありませんでした。日本からの発言は、「今われわれはこの問題を抱えている。この問題を乗り越えるために、この施策を打っている」というものがほとんどでした。

その問題を乗り越えて、次の課題を乗り越えて、乗り越えて、私たちをどこに連れて行ってくれるのか?――それはまったくわからない……。おそらくそのようには考えていなかったのでしょう。日本の政策はこういうことが多いです。

温暖化についても、ヨーロッパの国々では「2050年には60%減らす」という話をしています。アメリカですら、「2050年には70%減らす」という法案がまもなく通るだろうと言われています。

今できるとか、できないとか、そのための技術があるとか、ないとかではなく、2050年には70%減らさなければ、温暖化は手の付けられない状況になるのです。ですから、それを「あるべき姿」として、そこから今を振り返って、「では2050年に70%減らすには今何をすればいいのか?」を考える。私はこれこそあるべきビジョンの立て方だと思うのです。

しかし、残念ながら今の日本の政府や経済界はそうは考えていません。炭素税を入れると国際競争力がなくなるとか、排出量取引を導入するとこうなってしまうとか、だから今できるのはこういうことだという、現状に積み上げるかたちでしか目標が出せません。それではどこに行きたいのかわからなくなってしまいませんか? 結局、かかる時間とフラストレーションだけが大きくなってしまうのでしょう。

今は国の話をしましたが、地域でも、組織でも、個人でもまったく同じことがいえます。例えば、「この地域を30年後、どのような町にしたいのか?」「この大学は20年後にどういう役割を社会で担っていたいの?」「私自身は5年後にどういう自分になっていたいのか?」--バックキャスティングは、自分のことを考えるためにも、いろいろな組織や社会、地球全体を考えるためにも、とても役に立ちます。

なぜ私はバックキャスティングのやり方を知っているのでしょう? これもやはり通訳時代のことです。通訳者は普通の人が聞かないような話を聞けたり、行かないような場所に行けたりします。私の友だちは、炭鉱の奥深くでの調査に通訳として同行しました。炭鉱は女人禁制だったのですが、通訳者の99%は女性なので、仕方なく女性通訳者を連れて行ったのですね。「通訳を終わって出ようとしたら、塩を撒かれたわよー」と憤慨していました。そのように普通の人では入れないようなところも行くこともあるスリリングな仕事でもあります。

私が通訳をしていた仕事に、多国籍企業の企業内研修がありました。本社がアメリカやヨーロッパにあって、日本にも支社がありますので、日本でも同じ教育をします。その時に本社のインストラクターがおこなう研修を私が通訳する、という仕事をよくやっていました。(私は教育学部出身なので、その内容自体がとても面白かったです!)

そういう研修で、幹部者研修、つまりこれから経営を担っていこうとする人たち向けのトレーニングの時には、必ずといっていいほど、「ビジョニング」のセッションがありました。ビジョニングとは、ビジョンを創ることです。ビジョンをつくる力をはぐくむ研修なのです。30年後にわが社は、どういう会社になっていたいのか? なっているべきなのか? それを考えられなくては、経営なんてできないだろうということです。

他方、私は大学院の時に、人材研修会社で長期アルバイトをしていたので、この業界についても多少の知識と経験がありますが、日本ではそのような研修はあまりありません。学校時代にビジョンをつくる教育を受けたことはないでしょう?会社に入っても、そのような研修はほとんどありません。日本の経営層もしくは幹部は、決められたことをきちんとこなせるかどうかで判断されることが多いからでしょうか。しかし、企業経営に不可欠の「先を見る」ためには、ビジョンを描く力もとても大事です。

そのようなビジョンをつくるトレーニングの通訳をしているうちに、「ああそうか、こうやって練習するんだ」とわかりました。ごく簡単なやり方をお教えしましょう。5分でも時間があればやってみてくださいね。

まず、将来のある一点を想像します。どこでもいいです。自分や組織に意味のある一点がよいでしょう。「自分が○歳になった時」でも、「このプロジェクトが完了した時」でも何でもよいので、将来のある一点を想像します(その時点がやりにくかったら、後で変更すればいいだけですから、仮に決めて進みましょう)。

そして、その時の自分(または自分たち)を想像します。例えばマスコミが取材に来て、「あなたは今どんな活動をしているのですか?」とマイクを向けられた時に、何と答えたいかを想像します。もしくは、プロジェクトが終わった時をバックキャスティングのポイントにしているのであれば、プロジェクトが終わってみんなで打ち上げをしているところを想像してもよいでしょう。みんなで「よかったね」「これができたね」と言って祝っている、その「これ」が何かを想像するのです。

このように、将来のある時点に、やりたいことができてそこにいる自分を想像して、何ができたのか、どういう自分なのか、などを想像します。正解や間違いはありませんから、まったくの想像力の世界です。自由に夢を描くことができます。

ちなみに、私が29歳で米国で同時通訳者になろうと勉強を始めたときも、後で考えるとこのバックキャスティングをやっていました(その時は「バックキャスティング」という言葉も知らなかったのですが)。当時の私の英語はというと、みじめなほどできませんでした。スーパーのレジ係の「○ドル○セントです」という数字すら聞き分けられないほどの英語力でしたから……。

そんなレベルだったら、ふつうは、「まず英会話を習って、英会話ができるようになったら、少し難しいことも英語で言えるようになって、それからもう少しできるようになったら、いつかは通訳になれるかな」と思ったかもしれません。

しかし、私はなぜか、そのような思考方法を取りませんでした。ただ、「2年後に同時通訳ができるようになって日本に帰ろう」と思ったのです。かなり無謀ですが、単純にそう思いました。

そして、2年後に同時通訳ができるようになっている自分を思い浮かべ、「そのためには何が必要だろう?」と考え、バックキャスティング型のビジョンを少しずつ現実に近づけていって、勉強のプログラムをつくりました。(このあたりについては、ご興味のある方は、『朝2時起きで、なんでもできる!』をご一読ください〜。

そうして実際に同時通訳者になれたわけですから、バックキャスティングが非常に効くということ、自分自身の経験から力を込めてあちこちで話しています。

その時には無謀に思えてもかまいません。できるかできないかは、後で考えることですから。現状積み上げ式ではなく、「すべて思うとおりになったら?」と考えてみる。例えばお金がないとか、時間がないとか、資格がないとか、いろいろと「できない理由」を挙げる人が多いですが、ではお金があって、時間があって、資格があったらどうなりたいのか?を考える。そこから今の自分を振り返って、間を埋めていくことで、先に進んでいくことができます。

バックキャスティングは、人生を考える上でも非常に役に立ちます。組織でビジョンを作る場合には、ビジョンの共有がとても大事ですが、個人的に考えるときのアドバイスを一つだけ。

私が、英語ができないのに同時通訳というバックキャスティングのビジョンを掲げたように、「とてもじゃないけど、今の自分からは遠い」と思う夢やビジョンだったら、他の人には言わないほうがいいかもしれません。他の人は簡単にそのような夢を笑ったり、やめたほうがいいと親切なアドバイスをしたり、足を引っ張ってくれますので! あまりにも現状から遠くて無謀だと思われると思ったら、自分の胸に収めておいて黙っていたほうがいいかもしれない。そうすれば、だれにも笑われません。夢に近づいてからカミングアウトすればよいのです。

ちなみに、私も2年間で同時通訳になろうと思っているなんて、家族にも言いませんでした。とてもじゃないけど、そんな英語レベルではありませんでしたから!

バックキャスティングでビジョンをつくることは、物事を動かす上でも大事なポイントの一つです。これは日本の国がとても必要としていることです。私は安倍前首相がドイツのサミットに持っていった「美しい星」をつくった中央環境審議会の21世紀環境立国戦略特別部会に委員として出席していましたが、日本のバックキャスティング式ビジョンのなさは、そこでも明らかでした。

部会で私や他の委員は繰り返し、「日本はいつまでにどれくらい減らす」ということを言わない限り、「世界全体で半分減らしましょう」と言ってもぜんぜんアピールしませんよと発言しましたが、聞いてもらえませんでした。

しかし、国がバックキャスティングをやらなくても、私たち個人はできますし、組織もできます。私が講演などでバックキャスティングについて話し始めた8〜9年前は、この言葉を知っている人はほぼ皆無でしたが、今では政府でも「バックキャスティング」という言葉は使うようになっていますし、あちこちでバックキャスティングを意識した取り組みも広がりつつあり、心強く思っています。

ということで、年の初めに、「2008年のバックキャスティング」はいかが?

「新年の抱負」はよくありますが、こちらはどちらかというと、「今年こそがんばって英語を勉強する」「今年こそダイエットを続ける」など、「何をするか」がメインであることが多いようです。

それに対して、バックキャスティングは、「今年の12月31日には、英語のレベルがどうなっていてほしいか?」「今年の年末に体重計に乗った時に、どういう数字が出てほしいか」という、「ありたい最終形」を考えます。

簡単でしょう? もうひとつ言っておくと、バックキャスティングのビジョン作りも、新しいスポーツと同じく、最初はぎこちなくやりにくいかもしれませんが、やっているうちに慣れてきて、やりやすくなってきます。自分にあったやり方も見つかるでしょう(私もかつてはいちいち意識していましたが、数年の年季が入ったおかげで(?)、今ではいつでもその場でバックキャスティングができるようになっています)

さあ、2008年の12月31日がやってきました。そのときあなたは、今のあなたとどう違っているのでしょう? 何が増え、何が減り、何が変わっているのでしょう?

さあ、2008年の12月31日がやってきました。そのとき、あなたの組織(地域、日本の社会、世界、地球など)は、今とどう違っているのでしょう? 何が増え、何が減り、何が変わっているのでしょう?

「こうだったらいいな」を考えるのに、新年っていいですよね〜。(^^;
どうぞ思う存分にー。

 

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