先月、日立環境財団の「環境NPO助成」受領団体による活動報告会で、基調講演をさせていただきました。タイトルは「エコイノベーションで世界を変えよう!」から、内容をお伝えします。
そのまえに、ちょっとコマーシャル・タイムです。(^^;
とてもよいチャンスだと思いますので、我こそは!というNPOの方々、応募してみてはいかがでしょう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここからご案内〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
平成20年度(第7回)「環境NPO助成事業」募集のご案内
財団法人日立環境財団は、平成20年度(第7回)「環境NPO助成事業」を下記の通り実施致します。
(1) 「環境と経済との調和」及び「環境と科学技術との調和」に資する環境NPO活動に対して助成を行います。
(2) 助成金額は原則として1件あたり150万円を上限とし、数件の助成を行います。
(3) 募集〆切:平成20年1月25日(当日消印有効)
以下の募集要項により、申込みを受け付け致します。
http://www.hitachi-zaidan.org/kankyo/topics/topics30.html
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ご案内ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
では、講演「エコイノベーションで世界を変えよう!」からお伝えします。
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皆さん、こんにちは。ご紹介いただきました枝廣です。今日は、「エコイノベーションで世界を変えよう!」というタイトルで、お話をさせていただくことになっています。
エコイノベーションとか、世界を変えようということで、話を聞こうと集まってくださっている方々が、たくさんいらっしゃっていること、わくわくします。多分、こういう場所ではない所で、「世界を変えよう!」なんていうと、「なに、この人?」という顔をされるかもしれませんが、今日いらしている皆さんはきっと同じように思って来てくださっているのだと思います。50分ほどの時間ですが、私がいつも考えていることをお話ししていきたいと思います。
最初に、皆さんそれぞれ、考えみてください。自分がいま、社会にないものをつくり出したい、もしくは、あるものでも社会に広げたいと思っているものは、どういうものなのか?
日立環境財団から助成を受けていらっしゃる団体や、は助成を申請しようとしていらっしゃる団体の方々も多いと思うので、何かしらきっと、つくり出そう、もしくは広げたいものがあるのだと思います。
もし、そんなに具体的じゃないけど、という方でも、具体的に「これをやりたい、広げたい」と言えなくても、「これを変えたい」「これを何とかしたい」と思っていらっしゃることがきっとあることでしょう。何も変える必要がないと思っているとしたら、きっとこういう会にはいらっしゃらないと思いますので!
ほんとは意見交換したんですけど、今日は時間がないので、お一人お一人のなかで、ちょっとそれを考えてみてください。「これだ」と思うのがあったらぜひ、どこかにちょっとメモをしておいてください。それを念頭に置いて、私の話を聞いていただけたら、と思います。ちょっとだけ待ちますね。
こんな短いあいだじゃ書ききれないというぐらいたくさん、思い浮かべられる方もいらっしゃると思うし、何年来、「これをとにかくつくり出したい」「これを広げたい」と思って活動されている方もいらっしゃるかもしれません。それぞれ、何をお書きになったか、何を思っていらっしゃるか違うと思いますが、この部屋のなかの全員がきっと、何かしらをつくり出したい、何かを変えたいと思って、イノベーションを創り出そう、広げようと思っていらっしゃるのだと思います。
もうすでに活動されている団体の方も、これから何か始めようとされている方も、何も変えなくてよかったら、そのほうが楽ですよね。でも、きっといろんな苦労--組織運営の苦労、みんなにわかってもらう苦労、物事を変えていくときの苦労などいろいろな苦労--をされても、やはりエコイノベーションを何とか創り出し、広げたいと思っていらっしゃるのでしょう。
それはなぜだろう?ということを、ぜひ考えてみてください。それぞれきっと、何らかの原動力というか、問題意識というか、「根本的になぜ私はこれをやっているのだろう?」「なぜ私たちはこれをやっているのだろう?」というのが、きっとあるのだと思うのです。
私の場合はいま、主に温暖化を中心に活動をしています。アル・ゴアさんの翻訳をさせていただいたこともきっかけになっていますし、いま日本がある意味、“温暖化ブーム”であることもあって、温暖化という切り口で活動していますが、私の原動力のひとつは、このようなIPCCの温度上昇の予測です。
これから地球の気温がどう上昇するかには、これほど幅があるのです。そうしたときに、やっぱり100年後の人たちにこんな高い気温の世界を残したくない。できるだけこれを下げたい、少しでもその害を減らしたいと、強く思います。「どうしたらいいのだろう?」「そのために私には何ができるのだろう? 私たちの組織は何ができるのだろう?」--そんなふうに考えています。
温暖化のことで言うと、ご存じの方も多いと思いますが、温暖化が起こっている理由は、簡単に数字で説明することができます。いま私たち人間は、化石燃料を燃やすことで、1年間に72億トンの二酸化炭素を大気中に出しています。そして、地球が自然の力で吸収することができまるのは、森林が9億トン、海洋が22億トンといわれています。地球は合計31億トンは吸収できるのです。でも、私たちが出しているのはその倍以上、72億トンです。ですからどんどんとたまってしまう。それが温暖化を引き起こしています。
ここでもたくさんのエコイノベーションを考えることができます。いうまでもなく、私たちがすべきことは、現在の排出量72億トンを31億トン以下に減らすことです。そのために何ができるか? たくさん考えることができるでしょう。
森林を増やすという活動をされている方もたくさんいらっしゃいます。その目的はいろいろだと思いますが、温暖化や二酸化炭素という観点から言えば、森林の吸収を増やそうという活動でもありますよね。
二酸化炭素の排出量はどうやって考えるか? このような式で表せます。
GDP エネルギー CO2
CO2= 人口×---×-----×-----
人口 GDP エネルギー
これは日本という国でもいいしい、地域で考えてもいいし、企業や組織で考えることもできます。そこにいる人の数と、一人当たりのGDP、つまり、私たち一人ずつの生活を支えるのに、どれぐらいのモノやエネルギーがいるかということですね、それから、ある単位のGDPを生み出すためにどれぐらいのエネルギーが必要か、そして、ある単位のエネルギーを使ったときに、どれぐらいの二酸化炭素が出るか。この4つの項の積が二酸化炭素排出量になります。
いま日本でも、企業でもNPOでも、一生懸命温暖化に取り組んでいるところはたくさんありますよね。そういったところが、この式のどの項に取り組んでいるのかを考えてみることができます。
たとえば、風車を立てよう。ソーラーパネルを設置しよう。ソーラー発電技術を開発しよう。こういった動きがたくさんありますね。もしくは地熱を利用しよう。バイオマスを使おう。これは、いちばん右にある項への取り組みです。同じエネルギーを使ったときに出す二酸化炭素を減らそうということですね。自然エネルギーへの転換などの取り組みがここに含まれます。
それから、多くの企業が取り組んでいるのが、その左にある項で、同じGDPをつくるのに必要なエネルギーを減らそうという取り組みです。たとえば、省エネをする。エネルギー効率を上げる。資源生産性を上げる。つまり、同じ量のエネルギーや資源からつくり出せるものが多くなれば、同じ単位のGDPを生み出すのに必要なエネルギーを減らすことができます。
「経済のサービス化」といわれる取り組みもここに入ります。モノを売るのではなくて、サービスを売りましょう、というものです。そうすれば、GDPは増えても、物質にまつわるエネルギー消費量は増やさずにすみます。
日立環境財団の助成は、「環境と経済」「環境と科学技術」の2本柱でやっていらっしゃいますが、いま説明した2つの項は、科学技術にかかわるところです。日本の企業も日本の政府も、世界各国がそうなのですが、ここに力を入れています。ここは、実はとてもやりやすいところなのです。
なぜやりやすいかと言うと、価値観を変えなくてもいいからです。これまでどおりの価値観で、しかし効率よくなれば、そしてエネルギーが転換できればよいからです。考え方や生き方を変えなくても、二酸化炭素を減らせるだろうという考え方です。
日本は人口が減りはじめていますから、「人口」という項も心配いりません。つまり、4つの項のうち、3つは増えていないか、減っているというのに、それでも二酸化炭素排出量は増えています。4つの項目のうち3つがいい方向に向かっているのに、増えているのはなぜでしょう? それはここ、一人当たりのGDPが伸び続けているからです。ここが恐らく、日立環境財団の助成のもうひとつの柱である「環境と経済」にかかわってくるところでしょう。もしくは、「環境と文化」「環境と価値観」ですね。何が本当の幸せなの?というところです。
私が共同代表を務めているジャパン・フォー・サステナビリティも、助成をいただいて研究をひとつさせていただきましたので、ちょっとその紹介をします。そのときに、枠組みとして、この環境問題をどういうふうに解決したらいいかという枠組みのひとつをご紹介します。
これは、エイモリー・ロビンス、ハンター・ロビンス、ポール・ホーケンという人たちが一緒につくった「自然資本主義」という考え方です。本が出ています。日本語の書名は『自然資本の経済』です。ここでは、4つの柱でやり方で変えていく必要がある、としています。
まず1つは、先ほどと同じポイントですが、「資源生産性を大きく改善しましょう」というものです。同じ量の資源からたくさんのモノをつくれるように、効率よくやっていきましょう、と。もう1つは、バイオミミクリといって、自然のやり方を学びましょう、というものです。JFSではこれを研究のテーマとしましたので、あとでこれについてご紹介します。
3番目は、経済をサービス化していきましょう、ということです。サービス経済をつくっていく。モノではなくてサービス、機能を売る。そういった経済に変えていこう、と。そして最後は、自然資本に再投資をしましょう、ということです。それが二酸化炭素の吸収源であれ、たとえば材木を生み出す自然の力であれ、自然の生産性をもっと高めていこう。私たちはこの4つを進めていかなければならない、というのがこの大きな枠組みです。
この4本の柱のうちの1つ、バイオミミクリを、私たちJFSで取り上げ、助成をしていただきました。「バイオミミクリ」ってすごく言いにくいし、片仮名で「何のこっちゃ?」という感じだと思います……。「バイオ」というのは、バイオ燃料とかいわれているように、生物とか命とかいう意味です。「ミミクリ」というのは英語でmimicry、まねするという意味です。だから、バイオミミクリとは、「生物のまねをしましょう」ということです。日本語だと「生物模倣」など言いますが、難しい感じになってしまうので、私たちは片仮名のまま使っています。
地球上に生命が生まれてから、ずっと自然淘汰されて生き残ってきた生物は、やはりそれなりの素晴らしい知恵を持っているし、生きるすべを持っています。生物は――人間も生物ですが……人間以外の生物は、ほかの生物と上手に調和をして生きていく、そういった知恵を持っています。この自然の知恵に学んで、それを私たちの、たとえば産業活動や経済活動に活かしていこう。これがバイオミミクリという学問です。
日本でも、昔から自然に学ぶという考え方はありましたが、バイオミミクリというひとつの学問になったのはアメリカでのことでした。90年代から研究されています。各地で研究されていて、日本にも研究者はいますが、内外での情報共有などがあまりできていませんでしたし、国内での「知る人ぞ知る」分野でした。
JFSはもともと、情報を伝えることを使命としている団体なので、バイオミミクリに関する情報を集約して、日本の人にもわかりやすく伝え、そして日本で研究している人たちの情報も集めて、世界にも伝えていこうと考え、プロジェクトをおこなうことにしたのです。
バイオミミクリには、どのような研究があるのでしょう? 今日は2つだけですが、ご紹介しましょう。
1つはハスの葉っぱです。ご覧になったことがあるかどうかわかりませんが、ハスの葉っぱって、いつもきれいなんですね。泥もほこりもついていない。バイオミミクリを研究している人は、「ハスの葉っぱは、洗剤も使っていないし、ごしごし洗ったりもしなのに、なぜいつもきれいなのだろう? その秘密は何だろう?」と研究しました。
その結果、葉っぱの表面に小さな突起がたくさんあることがわかりました。それらが粗い表面をつくるので、雨が降ったときに、雨粒がコロコロコロと転がるんですね。そのときに汚れをくっつけて転がって落ちていくのです。つまり、葉っぱ自体が、雨が降るだけで自動的にきれいになるような構造になっている。なので洗う必要がない。
バイオミミクリでは、なぜ生物がそんな素晴らしいのだろう?というのを研究したあと、それを私たちの工業や経済のなかに活かせないかと研究します。
ハスの葉っぱからヒントを得て、実際に開発されたものがあります。ドイツの会社ですが、雨と重力だけを使って汚れを落とす「洗剤のいらない建物の外壁」を開発しました。つまり、ハスの葉っぱの表面と同じような表面にすれば、雨が降ればコロコロと同じように転がって、汚れがつかない。ですから洗剤もいらないし、洗う手間もいらないという外壁ができたのです。
もうひとつの例は、オウムガイという貝です。生きた化石といわれていますが、これだけ長い間生き残れるということは、それだけいろいろな秘密があるのでしょうね。
オウムガイの貝殻のらせんは、とても独特な形です。調べてみると、この形が最も摩擦や抵抗が少ないのだそうです。ですから、動くときの力があまりいらないのでしょうね。オウムガイは、長年かかって、そのような形状の貝殻を発達させてきたのでしょう。
オウムガイは何でこんなに長生きしているんだろう。あの貝殻の形は、どうしてああなんだろう? そうか、摩擦や抵抗がいちばん少ないんだ。そういうことがバイオミミクリの研究でわかって、それを実用化した例があります。
アメリカの会社ですが、この形をまねて扇風機の羽根を開発したそうです。つまり、摩擦や抵抗がいちばん少ない形の扇風機の羽根です。この羽根にしたところ、エネルギーも騒音も大きく下げることができたそうです。
バイオミミクリってとっても面白いです。JFSのウェブサイトに日本語でも載っているので、ぜひ見てください。新幹線はなぜ、あれほどの高速で走ってもあまり騒音が出ないのでしょうか? そのヒミツもある動物にまねたことなのです。(どの動物にまねたかは、サイトを見てのお楽しみ!)
そんな研究やストーリーををたくさん集めて、事例集を作りました。カテゴリー別に整理したものと、日本の研究者にインタビューしたレポートを作りました。最後に助成をいただいた締めくくりとして、バイオミミクリ・フォーラムを行いました。そのときの講義録も読めるようになっています。助成をいただいたおかげで、バイオミミクリについて、世界と日本の研究を集約して、活かしていただけるような形にまとめてお伝えすることができました。ウェブはこちらです。
http://www.japanfs.org/ja/biomimicry/index.html
以上、JFSが助成をいただいたプロジェクトの簡単なご紹介でした。
(中略)
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