2008年02月25日付の「日刊温暖化新聞」で、カナダのブリティッシュコロンビア州が「炭素税導入へ」というニュースをお届けしました。
http://daily-ondanka.com/news/2008/20080225_1.html
気候変動に対する新たな対策、環境にやさしい生活の促進、経済の活性化を幅広い観点から目指した2008年度予算を発表したもので、2020年までに同州の温室効果ガスを3分の1減らすための予算内容となっています。
炭素税は7月1日に導入予定で、低収入者保護のために税収中立型(炭素税で税収が増える分、ほかの税金を減らし、税収としては同じレベルにすること)で、個人や企業の順応期間を見て税率を徐々に上げていくとのこと。
「世界で最も幅広く包括的」というだけあって、ガソリン、ディーゼル、天然ガス、石炭、プロパン、家庭用暖房燃料など事実上すべての化石燃料が適用対象となっています。
この件についてのブリティッシュコロンビア州・財務省のプレスリリースを、翻訳チームのメンバーが訳してくれましたので、お届けします。
日本でも「炭素税」や「排出量取引」をめぐる議論が盛んになっていますが、「やるかやらないか」ではなく、「どのように目的達成に役立つ制度を設計するか」が大事です。その点で、とても参考になります。
お忙しい方は、最後のテイラー財務大臣のメッセージだけでもぜひ読んで下さい。
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ニュースリリース ブリティッシュコロンビア州 財務省
2008年2月19日
より環境にやさしい未来、より強い経済をめざして
ビクトリア発― 気候変動問題に取り組み、より環境にやさしい選択をし、経済投資を活発にするための広範囲に及ぶ新しい対策を導入すれば、ブリティッシュコロンビア州は今後の課題に対応することができる――同州のキャロル・テイラー財務大臣は、2008年度予算とともにこう発表した。
「この予算は転機です」とテイラー財務大臣は語る。さらに大臣は、「この予算は、健全な環境か強固な経済かのどちらかを選ばなければならないという概念を覆すものです。そしてブリティッシュコロンビア州が活力を持ち続け、成長し続けていくのに役立つでしょう。これは気候変動問題に立ち向かう大きな一歩です。そして、医療や教育といった主要な公的サービスを強化するものでもあります」と続けた。
2020年までにブリティッシュコロンビア州の温室効果ガス排出量を3分の1削減するため、2008年度予算には税収中立での炭素税導入が盛り込まれているほか、「気候変動対策行動配当金」一括供与に4億4,000万ドル(訳注:カナダドル・以下同じ)、広範囲にわたる気候変動対策プログラムと税制優遇に10億ドル以上を投資することが見込まれている。
低収入の州民の生活を保護するために確立された税収中立の炭素税は、議会の承認を待って2008年7月1日に完全導入する予定。個人や企業への適応期間を考慮し、税率はまず低く設定して徐々に引き上げられる。対象は、ガソリン、ディーゼル、天然ガス、石炭、プロパン、家庭用暖房燃料などで、事実上すべての化石燃料に適用され、世界で最も広範囲にわたる包括的な内容となっている。
法律によると、炭素税によって上がった税収がどのように企業と個人に還元されたのかを明らかにし、毎年議会で審議することが義務付けられているため、炭素税による税収が何らかの支出事業に使われることはない。
「原理は単純です」とテイラー大臣は言う。「炭素を排出する燃料に課税してその使用を食い止め、人々や企業に資金を還元するのです。そうすれば人々や企業が化石燃料の使用を抑制します。炭素税をどのように受け入れるかについては、人々も企業も自らの選択ができます。同時に、より商業的な採算が合うように、もっと環境にやさしい選択をすれば、それが州全体での革新を促し、新しい経済の機会を切り開くことになるのです」。
炭素税による税収は、3年間で約18億4,900万ドルに達する見込み。
この3年間の税収分は、低所得者を対象として新たに導入される「気候変動対策行動控除」による企業や個人への還元金3億9,500万ドル、個人の所得税率削減分7億8,400万ドル、小規模企業の所得税率削減分2億5,500万ドル、一般企業の所得税率削減分4億1,500万ドルに充当される。
税収中立の税金削減に加え、人々がより環境にやさしい生活を取り入れる一助として、州民一人につき100ドルの気候変動対策行動配当金が一括供与される。総額4億4,000万ドルの配当金は、新たに炭素税が導入される前の6月に支給される予定。政府は、州民が温室効果ガス排出量の削減に役立つ買い物に資金を使うようになることをねらいとしている。また、そのような買い物をすることによって、州民は炭素税額の支払いも削減できる。
また今回の予算では、エネルギー効率の向上、新しい規制基準の施行、最先端の調査への着手、低炭素につながる投資に対し、10億ドル以上の予算を4年間にわたって見込んでいる。こうした気候変動対策行動の取り組みに挙げられているのは次の6つ。
(1)家庭エネルギーの診断と改善に対する新たな投資
(2)省エネ基準「エネルギー・スター」認定家電購入に対する消費税免除
(3)高燃費の車購入に対する2,000ドルまでの消費税減税
(4)新しいバイオディーゼル製造の奨励
(5)クリーン技術を持つ会社へのベンチャー投資拡大プログラム
(6)州の港とトラック・ストップ(給油だけでなく食事や休憩ができる施設)
における炭素排出量削減に対する投資
「ブリティッシュコロンビア州が、経済上、カナダと米国をしのぐ状態が続くと予測されるうちは、悪化する国境の南(米国)の状況と国際的な先行きの不透明さを見れば、慎重なやり方を維持することがいかに重要であるかがわかります」とテイラー財務大臣は語る。「また、ブリティッシュコロンビア州の経済を、より競争力が高く、より革新的で、より多様性に富んだものにするために、私たちは常に新しい道を開拓しなければならないということにも気づきます」。
さらに、2008年度予算からは、的を絞った減税に4億700万ドル、同州の競争力を向上し、州民の持つ力を強化するために、新たに4億2,800万ドルが投資される。
税制措置には、以下のことが盛り込まれている。
(1)映画制作税控除の改善
(2)主な工業地にかかる州の固定資産税減税
(3)金融機関に対する資本税に代わる最低課税制度の導入
(4)州売上税見直しによる改善
(5)特許の種類と税金還付資格取得の機会を拡大するための国際金融法改正
テイラー財務大臣はこう述べている。「今年は、成長と進歩を遂げてきたブリティッシュコロンビア州の150周年にあたる年です。過去から受け継いできたものを振り返ってみればわかりますが、将来の世代が今の私たちをどんなふうに思い出してくれるかは私たち全員が選べます。私は、将来、私たちのことを、『行動を起こし、環境に敬意を払い、強固な経済を確立し、そして誇れる遺産を築き上げた世代』として思い出してもらいたい、そう思っています」。
(翻訳:荒木 由起子)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
個人の所得税は、2001年に比べて44%も削減されることになるそうです。もう少し詳しく知りたい方はこちらをどうぞ。(英語)
http://www.bcbudget.gov.bc.ca/2008/highlights/
・炭素税によって上がった税収は企業と個人に還元され、何らかの支出事業に使われることはない。
・炭素税を導入する前に、州民一人につき100ドルの気候変動対策行動配当金を一括供与することで、州民が温室効果ガス排出量の削減に役立つ買い物ができ、炭素税額の支払いも削減できる。
このあたりの制度設計のわかりやすさ、受け入れやすさは、ぜひお手本にして考えてみたいですね。同州に住む友人によると、州民の反応はおおむね前向きとのこと。実際の税が導入されたら、何がどう変わるのか、暮らしにどのような影響や変化が出てくるのか、ぜひまたレポートをお伝えしたいと思います。
そして、経済界が「炭素税はいや」「排出量取引もいや」と言っている日本だって、ずっとそのままではいきません。私たちも一人ひとり、「大きな目的のために、何が必要か」「その制度をどのように設計すれば、目的達成の可能性が高まり、同時にわかりやすく受け入れやすくなるか」を考えていきましょう。
テイラー財務大臣のように、「将来の世代が今の私たちをどんなふうに思い出してくれるかは私たち全員が選べます」と、政治家にも行政にも企業にも市民にも、呼びかけていきましょう!