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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2008年04月07日

SWITCH 2007年11月号より小林武史さんとの対談(2008.04.07)

大切なこと
 

音楽プロデューサーの小林武史さんとの対談が「SWITCH 2007年11月号」に掲載されました。ご快諾を得て、どんなお話をしたか、ご紹介したいと思います。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ダイアローグ:小林武史
ap bankの小林武史が、毎月、ゲストを迎え、地球環境や今の社会問題やそれぞれの活動についての想いを対談する連載。

ゲスト:枝廣淳子(環境ジャーナリスト/翻訳家)

「繋がりを取り戻すために、何を変えるか」

今回のゲストは、アル・ゴア『不都合な真実』の本の翻訳などをはじめ、環境問題に取り組む様々な本を執筆しているジャーナリスト、翻訳家の枝廣淳子さん。社会に対して繋がりを取り戻す方法を真摯に投げかける枝廣さんの言葉は、単に知識や経験が豊富だというだけではなく、彼女が本当に様々な繋がりを実感して生きているからこそ、心に伝わる。今の日本の社会のしくみを変えるための方法もまた、その信念の先にあるのだということを知る。

写真:松本理加 文:川口美保


枝廣 
私はここずっと環境問題を切り口に活動しているのですが、なぜ環境がテーマであるかと言うと、地球が大事だし、時間的に切迫しているからではあるのですが、そもそも私は環境問題も教育問題も社会問題も同根だと思っているんですね。多分その根っこは、「大事なものとの繋がりが切れてしまっている」ということだと思っています。

自分と自分の心との繋がりが切れてしまって鬱になっている人もたくさんいるし、自分と地域との繋がりが切れている場合もある。そして、自分と地球との繋がりが切れてしまった結果が環境問題なんですよね。だから大事なものとの繋がりを取り戻すことができれば、環境問題も社会問題も解決に向かうんじゃないかと素直に信じているんです。

小林 
でもその想いは枝廣さんのどういうところから来ているんですか。すごくしっかりと信じていらっしゃいますよね?

枝廣 
はい。それは揺るぎないですね。それ以外を考えている人がいるとは信じられないくらいです(笑)。多分、私自身が大事に育てられて、繋がりを前提としていいという生き方をさせてもらってきたということがあるんでしょうね。そういう意味で親に感謝しています。

小さい頃に田舎に住んでいて、学校から帰ると、田んぼでみみず掘って、近くの川で魚釣りするという生活を送っていたんです。秘密の山菜の場所があるんですけど、毎年同じ時期になると、必ずふきのとうが出ている。そういう大地との基本的な信頼感が私のベースにはあるんですよね。

小林 
なるほど。

枝廣 
それと私は、確かに今の温暖化の問題は本当に大きい問題ですが、この問題って人類が次のステージに進化するためのチャンスなんだろうなと思っているんですよ。

小林 
それは僕も同感です。

枝廣 
これまで、だいたいの人間は自分の半径五十センチ以内、今から五分、せいぜい四半期のことしか考えていないんですよね。だからこういう様々な問題が起きている。だけど進化した後の人類は、意識がもっと広がった人間になるのではないかと思っていて、今ここで何かをするときに、地球の裏側のことや七世代後のことを、普通に今の考えや判断に取り込めるのではないかと思うんです。

今、日本でも海外でもその兆しを私はあちこちで見ることができていて、ap bank fesもそのひとつだと思うんですよね。でも一方で温暖化は時間との闘いです。進化は時間がかかりますから、進化だけを待つわけにはいかないので、社会のしくみを変えていかなくてはいけないんですが。

小林 
でもそれは僕もそう思っていて、人間の頭には使ってないスペースみたいなのがまだたくさんあると思うんです。だからこそ本当に僕らが今、いろんなことをガラス張りにしていくことで、使える部分をいい方向に向けていければと思っていて、そのときに温暖化の問題は、地球レベルのこととして非常にいい例題が出てきたという気がしますよね。環境問題が出てこないと、アメリカの暴走は相当おかしなことになっていただろうと。

でも一方で、欧米が合理性を求めて富と権力で突っ走ってきたのに、今度は環境問題に対してスクラム組んで「打倒!温暖化」と言っている感じも見受けられて、それだけでなんとかなるんだろうかという想いは、『不都合な真実』を観た上でも思うところではあるんです。だから東洋的な全体観というか、東洋的な知恵を持つことが必要なんじゃないかと。

枝廣 
それは絶対に必要ですよね。結構欧米でも環境で持続可能性の問題に取り組んでいる人たちは東洋に惹きつけられるみたいです。西洋型で合理的にテキパキやって進める場合もあるけれど、それには絶対に限界があるので、全体の中のバランスを取っていくことを求めている人が多いのです。

でもそういうふうに東洋に対して求める西洋の人は増えているのに、残念ながら東洋からそれを持っていって一緒に新しいものを作り出そうという動きがあまりないんですね。私が今、海外で意識的に活動しているのは、「東洋がいい」とか「西洋がいい」とかそういうのを越えて、それぞれの歴史やいいものを持ち寄って、新しいものを作らなくてはいけない時代だと思うからなんです。

小林 
まさしくそれは同感です。

枝廣 
それで、今、私が興味を持って勉強しているのは、ジェネレイティブ・ダイアログという分野なんですよ。日本語に訳すと「共に作る」となるんですが、普通の単なる一方的なコミュニケーションではなくて、お互いに自分の想いとかやりたいこと、大事なことを持ち寄って、一緒に作っていくというのが第一原則なんですよ。

単にお互い言い合って、たくさんのプレゼンテーションで終わるのではなくて、自分以外の人が話しているときは、自分の考えや想いを一回脇に置いておいて、素直にそれを一回受け止めなくてはいけないんです。

でもそれをやっていくと、一見違うように見える様々な発言の中に共通するパターンが浮かび上がってきて、それを掬い上げて、そのパターンはなんだろう、それはどう関係あるんだろうということをまたみんなで探っていくという手法なんですね。

小林 
面白いですね。僕は東京環境会議で、異質だったり異物なものがあることをOKとして、そういうものが繋がっていってコラージュみたいに繋がっていくということをやったのですが、でも必ずどこかで通じるものがあるんですよね。それがそもそものap bankの一番の目的というか、その通じるものが、みんながもっと大切にしていくということだろうなと思うんです。

ap bank fesでももちろんそれは音楽的なアプローチでも全部実践していますけど、それこそ、仏教的な感覚にも近いかもしれないです。「一部である」という感覚ですね。でも、僕らも西洋的な音楽やいろんな中で育ってきているから、それが自然と融合している感じだと思うんです。

枝廣 
そのへんのバランス感覚は小林さんはお持ちですよね。今、私が日本で広げようとしている「システム思考」という考え方があるのですが、それが今おっしゃったことと重なっています。何か問題でも物事でも状況でも、目の前に見えているところだけ表層的に、問題はこれだ、原因はこれだ、だから解決策はこれだって言ってしまいがちですが、でもそうではなくて、その状況っていろんな繋がりでできている。その繋がりを辿って、その全体像を見て、その上で何をしたらいいかを考えようというアプローチなんです。

そのシステム思考で私がもっとも好きな考え方は、多くの場合、問題は人ではなく構造が生み出しているということなんですが、その構造を変えない限り、人を変えても問題がおこるんですよね。よく企業の不祥事があったときに、トップや担当者を入れ替えておしまいにしますけど、構造が変わらなければずっと同じ問題が起きますよね。

それはその人の問題ではなくて、そうせざるをえない社会のシステムがそうなってしまっているからなんです。その顕著な問題が、日本では特にですが、時間軸がどうしても短くなっているということにあると思います。短期的に成果を出すことをよしとするから、長期的に物事を考えろと言っても、無理な話なんですね。

小林 
とにかくずっと同じスピードで加速していることが普通じゃないと思わなくてはいけないですね。ブレーキは必要で、スピードばかりになるとアクセルだけになっちゃうんですよね。まさに今の二十世紀はそうだったと思います。でもこれは矛盾してるなとハンドルを切り直したり、もう一回ギア入れ直したり、止まってみたり、ブレーキ踏んだりすることが大事ですよね。

枝廣 
そういう思い切りと知恵を持つ必要がありますね。私はユングを勉強していた時期があるんですが、ユング心理学の中に「人生の午後」という考え方があるんですよ。

人生の午後は午前中のように右肩上がりでどんどん行くというメンタリティでは生きていけない。人生の午後は人生の午後に相応しい生き方があるし、その生き方をした方が幸せだという考え方です。でも多くの人は人生の午後に差し掛かっても、午前中の朝日が射し込むような右肩上がりの生き方を無理矢理しようとして、円熟した黄昏の美しさがある午後を台無しにしている。

ある意味、人類も午前から午後に変わっていく段階だと思うんですよ。日本が、もう量としての成長はいらないから、質としての成熟を追求しようというふうにならないと、それは環境問題にも影響がありますけれど、国として幸せではなくなると思います。だから、教育とか社会のあり方を変えていって、成長しないで成熟することの方を選べるようなしくみに変えていかなくてはと思っています。


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『なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?』(小田理一郎との共著/東洋経済新報社)は、全体像と要素の繋がりを見つけて、本質的な問題解決を考えるための一冊。また、『地球のためにわたしができること』(大和書房)は可愛いイラストともに環境を考えるきっかけになる。また、枝廣さんのHPもいろいろな気づきと行動に繋がるヒントがたくさん入っているので、ぜひチェックを。
www.es-inc.jp

 

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