4月22日に開催された首相の「温暖化懇談会」の第3回での私の発言です。資料も「日刊温暖化新聞」のウェブにアップする予定なので、またお知らせしますね。
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ありがとうございます。私の資料は8番になります。
唐突な話から始まるかもしれませんが、世阿弥という人が「離見の見」という話をしております。舞いを舞うわけですが、舞いを舞っているそのときの目の前だけ見えているのは十分ではない。舞いを舞っている自分を座席から見ている、舞いを舞っている自分を遠くから見ている、その自分があってはじめてそれが完ぺきになるのだという話をしています。
いまここに集まっている私たち一人ひとり、それぞれの課題があるし、守らなければいけないものがあると思いますが、少し引いて、いまこの瞬間を宇宙から見たらどうなんだろう、もしくは10年後、50年後、100年後、私たちがもうこの世の中にいない時代になったときに、いまここで私たちは何が残せるだろう。そんなふうにぜひ考えていきたいなと思っています。
それを、今回の洞爺湖サミットにどういうふうにフォーカスしていくかということを考えたときに、いま末吉委員からもお話がありましたが、これは私からの提案でもありますが、ぜひ国民に向けての総理の呼びかけをみんなでつくっていきませんか、ということを、委員の皆さまに提案をしたいと思っています。
これは勝手連的に有志で、こういった形で国民に呼びかけたらどうかということを、私たちでたたき台をつくりませんか?ということです。あと2回ですので、そういった機会ができればと思っています。
どのような形で国民に呼びかけたらいいかということを、私なりにいくつかポイントをまとめたので、今日はそれをお話ししたいと思っています。
まず、聞き手の国民はどんな状態かと言うと、残念ながら政府への信頼は高くありません。これは、いまの政権というよりも、歴代の政権のおかげでありまして、政府が言うことは大体割り引いて聞くというような感じになってしまっています。ですから、そういった人たちにどうアピールするかということを、まず考える。
それから温暖化に関しては、国民の懸念は非常に高いですし、それだけではなくて、解決に参加したいと思っている人が非常に多いです。一部、何を言ってもわからない人は最後まで残りますが、多くの人たちは、やはり自分たちは問題よりも解決策の一端を担いたいと思っています。この懇談会から何が出てくるかと、非常に大きな期待を持ってみんな見ていると思います。
伝えるうえで大切なこと。これは12点挙げていますが、これまでの委員の先生方からのコメントを聞いていると、皆さんの思いやご意見と非常に重なっているので、心強く思っています。
最初はまず、「科学的知見に基づいてしっかり現状認識をする」ということです。ここでは、たとえばIPCCなどの認識が必要になると思います。
それから2番目に、「いま私たちはどういった時代に生きているのか」ということを、やはり国民全体で認識する必要がある。それと共に覚悟をする必要があると思います。
いま私たちがどういう暮らし方をするのか、どういう社会を営むか。これが100年後の人たちが生きる世界の温度を決めてしまうんだと。そういう時代に私たちは生きているということは、呼びかけないといけない。何もしないで、悪影響もないという将来はないということです。
そして3番目に、これが日本が対外的にどうも弱いところだといつも思うのですが、「日本の責任の自覚」をしっかりする必要があります。たとえば、日本は世界の人口の2%ぐらいだけど、排出量では5%弱を出している。その日本として、そして高い技術を持っている日本がどういう貢献をしていくかということを自覚するというのが3点目です。
4点目は、たくさんの先生方からもお話がありますが、「世界の動向」を踏まえて、その中でリーダーシップを取るための日本という位置づけになってきます。
そのために5点目、「日本の長期ビジョン」がやはり必要です。日本が、たとえば2050年にどれだけ減らすのか。国別の総量目標ということで、削減目標をきっちり出す必要があります。これを、世界もそうですし、国民もずっと待ち続けています。
ですから、ここのサミットでやはり出していただかないと、「日本は、『全体で半分にしましょう』と言うだけ言っておいて、自分はどれだけやるかは言わないのか」という、いつもの批判が出てきてしまいます。
そして6点目に必要なのは、これは「みんなでやらないといけない」という認識です。これは、「産業界はCO2をたくさん出している」「民生は最近増えている」、お互いに「あっちが悪い」ということを言い合うのではなくて、産業界ももっと減らす必要があるし、民生はもちろん減らす必要がある。その力を合わせるということだと思います。
ここで、技術の役割も非常に大切だと思います。特に革新的技術が実を結ぶまでは、既存技術をどうやって普及するかということになります。技術だけ前面に出してしまうと、国民にとっては、「我がこと」ではなくなってしまいます。ですから、いまある技術をどう使っていくかというところに焦点を当てる必要もあると思っています。
たとえば「サンシャイン計画」というのは、ほとんどの国民は知りません。ですから、技術だけでいってしまうと、なかなか通じないということです。
7番目が「政府の役割」ですが、政府が京都議定書の責任や削減をすべてしょっているわけではありません。それは日本国が国民の総意としてやっていく必要がある。政府の役割は、それをやりやすいように仕組みをつくることであるということであります。
そして8番目に、やりやすい仕組みの根本的な考え方は、「炭素に価格をつける」ということです。これは、炭素税であったり排出量取引であったりしますが、その制度設計については、いろいろなご意見が皆さんおありだと思いますが、炭素に価格をつけて、「減らせば得をするし、減らさなかったら損をする。それによって、やはりみんなで削減をやっていきましょう」という考え方には、おそらく異議はないのではないかと思っています。
そして9番目。これは黒川委員もお話しくださいましたが、日本は「再生可能エネルギー」がとても弱いですので、これにかなり力を入れていかないと、省エネだけでは減っていきません。そのあと少し、再生可能エネルギーについて、日本がいま世界の中でどういう状況かという資料をつけておきました。世界的に大きく伸びている中、日本が停滞しているのは、これはビジネスチャンスを失っていることでもあります。
19ページ目に、このあいだ甘利大臣からお話があったので、ドイツの太陽光発電のコスト負担について、参考資料を載せておきました。これは、月450円ぐらいまでは増えるけど、そのあとは減っていくということで、国民が公平な負担をするという仕組みを取っております。
先ほどお話にも出た「グリーン電力基金」というのは、月500円払って、電力会社がマッチングして、再生可能エネルギーにお金を回すという仕組みですが、これはやはり寄付ですので、一般の人たちが、自分が使っている電力をグリーンにするというものではなく、なかなかわかりにくいので、広がっていないところもあるのではないかなと思っています。
10点目は、「早くやらないと後々のコストは高くなる」という、そのことを説明する必要があります。
それから11番目。これは日本独自のものですが、難しいことを考えたり言ったりするよりも「もったいない」を形にする。そういった暮らしをつくっていくことが、低炭素のライフスタイルだよという話であります。国民は、いろいろな世論調査を見ていても、もう準備ができていますので、やりやすい仕組みをつくっていくことが、いまいちばん求められていると思っています。
いちばん最後に、「未来世代から見た責任と覚悟」ということで、やはり私たち、いまの時代を生きている自分たちが、あとの時代からどのように考えられるような生き方をしたいかということで考えていきたいと思っています。
最後、23ページ目は、具体的な取り組みを考えるときの判断基準です。いろいろと影響力が出てくることがありますけれど、やはり本当にすべきことができるかどうかということで考えていく必要があるということと、もう1点、時間軸を考える必要があると思っています。
これはここに入っていませんが、たとえば原発の話がありました。黒川委員がおっしゃったように、ウランも枯渇する資源です。2003年にMITが出した報告によると、いまのままの技術であると、すでに発見されたウランは、2030年にはなくなり、これから発見される予定のウランも、2070年にはなくなるといわれています。
そうしたときに、数十年でなくなるものに多大な投資をして進めていくのか。短期的には原子力は必要だと思いますが、やはり長期的には、そういったものが必要ではないソーラーなどを同時に進めていく必要がある。短期と長期の時間軸をしっかり持って、取り組みの選択、是非を進めていくべきだと思います。
最後に、最初の繰り返しになりますが、これは私が伝えるうえで必要だと思ったことをまとめたものですが、ほかの委員の先生方のお考えやご意見をいただいて、ぜひ一緒に、総理のスピーチのゴーストライターと言うと何ですけれど、「こんな形で国民に呼びかけたらどうでしょうというのをつくりませんか?」という提案をして、おしまいにします。
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この「自分たちで草案をつくりませんか?」という呼びかけを、座長の奥田さんが最後のまとめで、「よいと思うので進めたらどうか」ととりあげて下さいました。懇談会後の記者会見でも話していただいたようで、「メンバー自らが草案作成へ」という報道記事になった次第です。
(もっとも、私だけの提案ではなくて、前回洞爺湖で懇談会があったとき、道中のバスの中や食事をしながら、「合宿しようか?」「やりましょ、やりましょ」なんて話が弾んでいたのを、私が勝手に代表して(?)提案しただけですが)
私が「草案づくりをしましょう」という提案をしたとき、脳裏にあったのは、ナチュラル・ステップの創始者カール・ロベール氏の活動でした。
ロベール氏は、
> 1989年4月、スウェーデン国内の全家庭と学校に向けて、それぞれ一冊のイラ
> ストブックと付属のカセットテープが合計430万部、発送されました。それは、
> 私たちの長期にわたる活動のスタートの合図でした。私たちには、その活動を通
> じて我が国スウェーデンとその国民に、現代の最重要課題である環境問題の分野
> で、自分たちが世界の手本――環境モデル国としてのスウェーデン――となれる
> ユニークな可能性をもっていることを知らしめようという目的がありました。
(「ナチュラル・ステップ―スウェーデンにおける人と企業の環境教育」カール
‐ヘンリク ロベール著 新評論 より)
という活動を思いつき、「何を伝えるべきか」についての草稿を書いたあと、
> 私は原稿をあちこちに送ってさまざまな意見を集め、改訂を繰り返しながら物理
> 学、医学、化学、生物学など、多様な専攻分野にわたって科学者の輪を広げてい
> きました。そして、21回の改訂を経て原稿が完成した1988年12月には、50数人に
> およぶ国内最高の科学者たちが、この最初の組織「ナチュラル・ステップ顧問団」
> に名を連ねていたのです。・・・
ロベール氏と出会ってこの本を読んだとき、この「教材の全家庭への送付」活動やナチュラル・ステップが、いまや環境先進国として名だたるスウェーデンを、当時そちらの方向に大きく推したこともすばらしいと思ったのですが、その原稿をいろいろな専門家の意見を聞きながら21回も改訂して創り上げていったという、そのプロセスそのものに私は感動したのでした。
サミットまで時間が限られているので、21回の改訂はむりかもしれないけど(^^;)、せっかくの機会なので、具体的なたたき台をもとに、いろいろな立場やお考えの委員の方々と「どこはお互いに共有できるか?」「どこは意見が異なるのか?」「それは何の違いなのか?」を確かめていく作業をさせていただいて、大きく共有できる部分だけでも浮かび上がらせることができたら、と思っています。
あ、そうそう、それから、この懇談会後に、「低炭素ライフスタイルの実践のひとつにぜひ」と福田首相にマイ箸をプレゼントしました。にこにこしながら受け取ってくれました。そのうち、閣僚もみんなして、マイ箸をくるくると組み立てている姿が見られるといいなあ。