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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2008年04月27日

『エネルギー危機からの脱出』(2008.04.27)

エネルギー危機
 

昨年11月にデニス・メドウズ氏らを迎えて、エネルギーに関するフォーラムなどを開催したことをきっかけに、12月のレスター・ブラウン氏への3日間にわたるインタビューをおこない、1月のピースボート乗船中に第一稿を書き、その後の作業を経て、完成した本がこの週末に出版されました。
『エネルギー危機からの脱出』です。

『エネルギー危機からの脱出 最新データと成功事例で探る“幸せ最大、エネルギー最小”社会への戦略』(ソフトバンククリエイティブ)

かつてから、海外では、ピークオイルを含め、エネルギーの需給がどうなりそうか、そのとき価格はどうなって、社会や経済にどういう影響を与えるのか、そのマイナスの影響を最小限に抑えるには、いまから何を考え、どうしたらよいのか、という議論が盛んに展開されていますが、日本では、「また灯油の値段が上がった、困りましたね」「また、○○の値段もあがった」という程度で、あまり「大きな本質的な問題」としては、とらえられていないような気がしていました。(企業向けの講演で触れても、マスコミの方に話しても、あまりピンとこないようなのです)

そこで、デニスの「みんながいま大騒ぎしている温暖化よりも先に、エネルギーの問題がやってくる。残念ながら、その規模と危険性に気づいている人はあまりいないようだけど」というメッセージをしっかり日本に伝えたいと、昨年11月にフォーラムやワークショップを開催し、できるだけマスコミの取材を受け、経済人の会でも話してもらうなどしたのでした。

デニスは、「単に○○の値段があがる」という表面レベルではなく、「どうしてそうなっているのか」という構造を、システム思考にもとづき、わかりやすく説明してくれました。それは、本質的な解決を考えるための枠組みとなるものです。

目の前の出来事(○○の値上がりなど)に一喜一憂するのではなく、本質的な構造として問題をとらえ、解決策を考えていかなくては、迫り来るエネルギー危機の時代を乗り切れないばかりか、温暖化をとどめるための取り組みにも悪影響が出てしまいます。デニスたちの知見や情報、考えるための枠組みを、もっと多くの人々に伝えたい!と思いました。

同時に、世界にはすでに脱化石燃料への動きをはじめている地域や企業がたくさんあります。部分的であったとしてもそういった成功事例をたくさん紹介し、「できる」ということ、「やっているところがすでにある」ことを伝えたいと思いました。そこで、12月にワシントンDCのレスターを訪れ、時間を取ってもらったのです。

そして、彼らの貴重なインプットと日本の状況や自分自身の考えや経験をもとに、自分なりに「日本の国や自治体、企業、私たち一人ひとりがすべきこと」を考えて書きました。言ってみれば、デニスとレスターと私の3人の共同制作本です。

章立てと、あとがきを紹介します。豊富なグラフでデータも充実している一方で、イラストも入れてもらって、読みやすく作ってもらいました。温暖化とエネルギー危機の構造、脱温暖化と脱化石燃料への取り組みは、ある意味パラレルでもあります。エネルギー問題に関心のある方も、いまはまだピンと来ない方も、ぜひご一読いただけたらうれしいです。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

『エネルギー危機からの脱出 最新データと成功事例で探る“幸せ最大、エネルギー最小”社会への戦略』(ソフトバンククリエイティブ)

はじめに 未曾有の石油ショックがやってくる!

第1章 エネルギーの現状と見通し

第2章 エネルギー問題の構造

第3章 問題解決への道すじを描くために

第4章 世界の成功事例

第5章 国や自治体がすべきこと

第6章 企業がすべきこと

第7章 私たち一人ひとりがすべきこと

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 あとがき


本書を書き進めているあいだにも、原油や天然ガス、灯油などのエネルギー価格がどんどん上がり、引きずられるように、ガソリンや、食料品その他の価格もどんどんと高騰しています。

本書の仕上げに入ったころ、私は福田総理の直轄する地球温暖化に関する有識者懇談会のメンバーに選ばれました。温暖化とエネルギー問題は表裏一体だという思いをますます強くしています。

米国には、温暖化対策とエネルギー戦略を重ね合わせて進めている自治体があります。日本では、温暖化問題やガソリンなどの価格高騰については報道されても、エネルギーの状況が構造的に大きく変わりつつあること、今後、国として、また地域、組織、個人として、どのように対策を打つべきかという大局的・長期的なエネルギー戦略を考える取り組みはまだほとんどありません。

先日インドネシアで、こんな話を聞きました。「山のなかに小さな村があります。しばらく前に、インドネシアが大きな経済危機に襲われ、すべての価格が上がって大変な状況に陥ったとき、この村の人に、経済危機は大変だという話をしたら、「経済危機って何のことですか?」というのんびりした答えが返ってきました。状況を説明すると、「ああ、そうなんですか。私たちの村では、食べ物もエネルギーも、みんな自分たちでつくっているから、全然知りませんでした」と答えたとのこと。

経済発展から取り残された遅れた村のように思えるかもしれませんが、これから私たちが出すすべき、いちばん安全で確かな、ひとつの社会のあり方を示しているのかもしれません。

エネルギー危機は、ひたひたと足元まで押し寄せています。ガソリン価格や○○も値上げしたという目の前のことだけではなく、大きな構造をとらえ、未来をしっかり考えることで、私たちはこのエネルギーの危機をチャンスに変えることができます。

モノよりも心を重視する。小さな循環を大事にする。もったいないという気持ちを形にする。そして、本当の幸せを考えていく――本書が本当の解決を考えていくうえでのひとつの足がかりになるとしたら、これ以上うれしいことはありません。

本書のために、デニス・メドウズ、レスター・ブラウン、デイビッド・ヒューズの各氏に多大な協力をいただきました。本書の出版を決め、厳しいスケジュールのなか、作業を進めてくれたソフトバンク・クリエイティブの錦織氏、イラストレーターの後藤範行氏、「枝廣さんの伝えたいというエネルギーは枯渇しませ
んね」と笑いながらさまざまなリサーチや確認作業を手伝ってくれた小田理一郎、飯田夏代、星野敬子ほか、執筆を支えてくれたすべてのスタッフに感謝の気持ちでいっぱいです。

ピンチはチャンスなり――問題構造に目をつぶって、ピンチがやってきてから跳び上がるのではなく、少しずつでも考え、ひとつずつでも取り組みを進めていきましょう。 

                                枝廣淳子

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「世界の成功事例」の章には、40もの見出しがあります。省エネから再生可能エネルギー、交通、都市づくり、農業まで、主に、レスターへのインタビューで教えてもらった各国(もちろん日本も!)のすばらしい事例を紹介しています。

新しい解決策をゼロから創り出さなくても、もうほとんどの解決策は存在しており、世界のどこかで実行されているのですね!

何年も前のこと、レスターの講演の通訳をしていた頃、そう実感した私は、レスターに「本に書いたり、講演で話している中から、各地で実現されている成功事例をいっぱい集めて、パッチワークみたいにつなげた本を作ったら? もうやっている、できるんだ、こうやればいいんだ、ということがわかれば、世界の取り組みはもっと進むと思うよ」と言ったことがあります。

レスターはにっこり笑うと、「うん、いい考えだね。やってみたら?」と。

それからの念願だった本が、特に切迫性を増している「エネルギー問題」を舞台に現実になったこと、とてもうれしく思っています。

自分にとっては、単に「訳す」だけではなく、単に「引用する」だけではなく、デニスやレスターたちのすばらしい知見や枠組みを組み合わせることで、1+1+1が4にも5にもなれば、という新しい試みでもあります。少しでも役に立ちますように!

 

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