まずはご報告とご案内です。
先週開催した集中ゼミ「持続可能なビジネスモデルを考える力をつける」は、東京電力、日産、キヤノン、セイコーエプソン、NTTデータ、伊藤忠などのほか、サービス業界や自治体からの参加もあり、二日間「じっくりと考え、議論し、また考える」繰り返しの中で、持続可能なビジネスモデルを考えていきました。
参加者の方々から、「本質的なことは何かが腑に落ちた」「自社の現在のビジョンやビジネスモデルが、持続可能ではないことが明白になり、新しい方向性の原則(譲れない点)が何かがわかった」「社内や社外に伝えていくときのヒントが得られたので、すぐに使ってみる」と、高い評価をいただき、うれしく思っています。
私自身、とても大きな手応えが得られたので、ぜひまた開催したい!と思いました。ゆくゆくはフォローアップセッションもおこなって、ゼミ生がそれぞれの現場でどのように進めているか、どのような問題に直面しているか、どうやって乗り越えられるかをいっしょに考えながら、持続可能なビジネスモデルを実現していくプロセスでのお手伝いも進めていきたいと考えています。
次回の開催は、9月10〜11日です。
また、この集中ゼミでも基盤の一つである(私の考え方やものの見方の基盤の一つでもある)システム思考について学ぶ入門セミナーを5月18日(日)午前に開催します。午後は、自分の課題をじっくり考える人数限定のワークショップですが、こちらもキャンセルが出たため、空きがあります。もしよろしかったら、この機会にシステム思考を身につけませんか?
さて、[No.549, 850] で(2001年と2003年のことです)、Redefining Progress(文字どおり訳すと「進歩を再定義する」)というNGOが開発した、「GENUINEPROGRESS INDICATOR」(GPI:真の進歩指標)という指標を紹介しました。
http://www.rprogress.org/index.htm
GDPばかり追い求めていてよいの?という考え直しから、「真の進歩指標」への関心が世界的に高まっています。そこで、どういう指標なのか、実践和文チームのメンバーに翻訳をしてもらいましたので、ご紹介します。
http://www.rprogress.org/sustainability_indicators/genuine_progress_indicator.htm
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
政策立案者たちが、人々にとって本当に重要なこと、つまり医療、安全、汚染されていない環境、その他の幸福に関する指標を測るならば、経済政策は自然と持続可能性に向けて移行するだろう。
「リディファイニング・プログレス」(「進歩を再定義する」という意味の米国のNGO)は、国内総生産(GDP)に代わる指標として1995年に「真の進歩指標(GPI)」を開発した。GPIによって、国家または州、地方、地域レベルの政策立案者は、そこに暮らす人々が経済的、社会的にどれだけ順調であるかを測ることができる。
経済学者、政策立案者、報道関係者、そして一般の人々は、進歩を測る手軽な指標としてGDPを頼りにしている。しかし、GDPは幸せにつながる経済活動と幸せを損なう経済活動を区別することなく、単に国の支出を合計したものに過ぎない。
GPIは、GDPに代わる最初の指標の一つであり、科学的に十分吟味され、世界中の政府機関および非政府組織によって定期的に利用されている。リディファイニング・プログレスでは、持続可能な開発と計画の手段としてGPIを導入するよう提唱している。
毎年、リディファイニング・プログレスでは、より実態に即した経済的、社会的進歩を示すため、米国版『真の進歩指標』(The Genuine Progress Indicator)を更新している。その最新のレポートでは1950年から2004年までのGPIの推移を示しているが、1970年代から経済成長が停滞していることがわかる。
レポートのダウンロードはこちらから:
『真の進歩指標2006』(The Genuine Progress Indicator 2006)
http://www.rprogress.org/publications/2007/GPI%202006.pdf
●進歩をいかに測るか
GPIの計算は、まずGDPと同じ個人の消費データをベースに行われるが、その後の作業にはいくつかの決定的な違いがある。所得分配などの要素を調整し、家事やボランティア活動の価値といった要素を加え、また犯罪や汚染にかかわる費用などの要素を差し引いているのだ。
GDPとGPIはともに貨幣価値で測られるため、同じ尺度で比較することができる。GPIが測定する項目には、以下のものが含まれている。
・所得分配
経済理論でも常識でも、貧困層は富裕層より所得増加による恩恵を多く受けると考えられている。従って、国家収益から貧困層が受け取る割合がより大きければGPIは上がり、その割合が減れば下がる。
・家事、ボランティア活動、高等教育
社会における重要な仕事の大部分は、家庭と地域という場で行われている。つまり、育児、家の補修、ボランティア活動などである。GDPでは、このような貢献は金銭の授受がないからという理由で無視されている。
GPIはこうした活動について、人を雇って行う場合の経費と同等のものとして計上している。またGPIは、高い教育を受けた人たちがかかわる、市場の数字には表れない活動を考慮に入れている。
・犯罪
犯罪は、訴訟費用、医療費、財物損害といった形で、個人や社会に大きな経済コストを課すものである。GDPはこのような費用を幸福につながるものとして扱っているが、GPIでは反対に、犯罪によって発生するコストは差し引かれている。
・汚染
GDPは汚染を二重の利益として数えることが多い。汚染の発生時に1回、そして除去時にもう1回である。これとは対照的に、GPIでは水質・大気汚染のコストは、人間の健康と環境に及ぼした実質的損害として測定し、差し引かれる。
・長期的な環境破壊
気候変動、オゾン層破壊、放射性廃棄物管理はそれぞれ、化石燃料、フロン、原子力エネルギーの利用に伴う長期的なコストである。これらのコストは普通の経済指標では考慮されていないが、GPIでは特定の種類のエネルギーや、オゾン層を破壊する化学物質の消費に起因するコストとして扱われる。,また、地球温暖化が経済、環境、社会に及ぼす壊滅的な影響を考慮するものとして、炭素排出のコストを計上する。
・余暇時間の変化
国が豊かになると、人々は仕事をするか、家族やほかの活動のために自由な時間を過ごすか、選択の自由が増すはずである。だが、近年、逆のことが起きている。GDPでは自由時間の損失が無視されているが、GPIは大半の米国人がそう考えるように、余暇を価値のあるものだと見なしている。余暇時間が増加すると、GPIも上昇する。米国人の余暇時間が減ると、そのGPIは下がる。
・防御的支出
GDPでは、生活の質の低下の防止やさまざまな不幸の埋め合わせに人々が費やすお金が幸福への加算として数えられている。その例が自動車事故による医療費と修理費、通勤費、家庭が負担する浄水器などの汚染防止装置の支出である。GPIでは大半の米国人の考えと同じように、そのような「防御的」支出を経済上のプラスではなくコストとして見なしている。
・耐久消費財と公共インフラの寿命
GDPでは、家電製品など、米国の消費者の購入する主なものについて、それらが消費者にもたらす価値と消費者がそれらを購入するために支払う金額とが混同されてしまっている。これでは製品が急速に消耗する場合に幸福が損なわれることが隠れてしまっている。GPIでは資本項目に費やすお金がコストとして扱われ、毎年、その資本項目が提供するサービスの価値は手当とされている。これは私有の資本項目だけでなく、高速道路などの公共インフラにも当てはまる。
・外国資産への依存
国が資本金を減少させたり、消費を借入資本でまかなったりすると、資力を超えた生活をしていることになる。GPIでは、資本金への純追加が幸福への寄与になり、外国からの借入は減額となる。借入金が投資に使われるならば、マイナス効果は帳消しになる。しかし、借入金が消費にあてられるならば、GPIは減少するのだ。
(翻訳:飯田、木村)