昨年の11月に、ブリュッセルで「国の進歩や豊かさ、幸福度を測る」という、欧州委員会主催の国際ハイレベル会議が開催されました。会議のタイトルは、ずばり、「GDPを超えて」です。
11月19、20日の両日、欧州議会、OECD(経済協力開発機構)、ローマクラブ、WWF(世界自然保護基金)の協力のもと開催された会議の狙いは、進歩や豊かさ、幸福とは本当はどのようなものかについて理解を深め、その測定方法を決め、さらにこうした要素を意思決定プロセスに取り入れる利点を考えようというものでした。会議の初日は欧州委員会のホセ・マヌエル・バローゾ委員長、2日目は欧州議会ハンス・ゲルト・ペテリング議長がスピーチをしました。
会議の呼びかけ文を、実践和訳チームが訳してくれましたので、ご紹介します。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
●GDP(国内総生産)はもはや、幸福を測るのにふさわしい物差しではない。
今日では、低炭素経済に向けた動きや生物多様性の保全、資源効率の促進、社会的連帯の実現は、「経済成長」と同じくらい重要なことである。これらの要素を包括的に測定し、一国の幸福度を数値化するというのは非常に複雑なことで、GDPをはじめ現在使われている経済指標のほとんどは、こうした課題に十分対応できるとは言えない。
GDP(国内総生産)は、世界大恐慌やそれに続いて起きた第二次世界大戦の痛手の中、政策決定者が経済活動やその実績を測るための手段として生み出された指標だ。しかし、今日の経済や社会は、GDPが考案された20世紀中頃とはかなり様子が異なっている。
確かに、GDPは政策決定者にとって、第二の大恐慌を食い止め、戦後の復興をリードし、過去40年の間かつてないほどの経済成長を維持する一助となってきた。しかしGDPだけで、現代社会のあらゆる側面やニーズを映し出すことができるわけではない。
実際、豊かさや幸福度において大きな損失があったとしても、GDPの伸びはそれを見えなくしてしまう。たとえばある国で、国土の森林をすべて伐採したり、子供たちを学校ではなく働きに行かせたとしたら、それはGDPの増加に寄与することになる。
あるいは、ハリケーンに襲われて何千人もが犠牲になり、広い範囲で大惨事が起きたとしても、その後復興活動が行われるのは間違いないため、GDPにとっては、ハリケーンでさえプラスに働くと言えるのだ。
●GDPを超えて
GDPは、1950年代から現在に至るまで、世界の主要経済における生産高が着実に増加してきたことを示している。しかし、進歩がGDPに追いついてこなかったことや、時期によっては経済福祉が滞った国すらあったことは、他の指標を用いてみれば明らかだ。
過去20年にわたり、GDPを補って進歩と経済の健全性を測る新たな指標がいくつも考案されてきた。これらの指標は、自然や経済、社会の豊かさなど時間をかけて積み上げた財産をはじめ、寿命、読み書きの能力、教育などのレベル、あるいは汚染や資源劣化といったマイナスの影響など、GDPには含まれない要素を考慮するものである。
中には、対象と目標を設定し「真の進歩」を測る尺度として、現在すでに使われているものもある。2001年3月、ウェールズ議会は、世界で初めて政府として新しい指標を採用した。しかしこうした指標は、質にばらつきがあり、使用も限られている。
EU(欧州連合)は、環境における進歩を測定し、より良い政策決定のために、経済と環境を統合的に評価する統合勘定などの副指標を用いる新しい指標を開発中で、2009年までには暫定版が運用開始される予定だ。
2007年6月、イスタンブールで開催された世界フォーラムで、「社会の進歩」を測る国際的な指標が必要だという合意がなされ、OECDが世界プロジェクト(Global Project)を立ち上げたが、EUの取り組みもこのプロジェクトに関連したものである。また「GDPを超えて」会議の開催にも協力したWWFは、環境資源の枯渇を考慮に入れた指標を作成している。
●「GDPを超えて」会議について
「GDPを超えて」会議は、GDP(国内総生産)の考え方の枠を超えて行動する必要性について、政治的な議論を行う出発点だ。ブリュッセルにある欧州議会庁舎で開かれるこの会議には、経済、社会、環境分野から約600名が参加する予定である。
会議の発言者は、欧州委員会委員長ホセ・マヌエル・バローゾ氏、欧州議会議長ハンス・ゲルト・ペテリング氏、WWF総裁チーフ・エメカ・アニョク氏、ローマクラブ会長アショク・コースラ氏、OECD事務次長ピエール・カルロ・パドアン氏など。
会議の模様はすべてインターネットで生中継され、ウェブサイトで見ることができる。(http://www.beyond-gdp.eu)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
上記のウェブサイトでは、会議でのスピーチ等をビデオ・オン・デマンドで見ることができます。また、会議の背景や問題意識をまとめたビデオクリップも、とてもわかりやすいです(すべて英語です)。
こういう国際ハイレベル会合を開催するあたり、さすがEUだなぁ!と思います。温室効果ガス削減の大胆な目標を立てて進めつつ、こうした「考え方」「測り方」もしっかり作り直そう、みんなに新しい時代が来ていることを伝えていこう、という試みだと思うからです。
日本でも、政府がこんな会議をやるようになったらいいですね! 前回報告した総理の懇談会の分科会でも、私は「経済成長は目的ではない。私たちは幸せに生きるために経済を営んでいるのであって、人を幸せにしない経済だったら、成長しないほうがいい」と発言しましたが、ほかの方々にはどのように聞こえたのかなあ?と思います。
そのうち、G8サミットも「Beyond GDP(GDPを超えて)」「 Beyond Money(お金を超えて)」「Toward true happiness(真の幸せをめざして)」などというテーマで開催されるようになるといいですね。きっとそうなっていきますね。
これまで、GDPに代わる指標として注目を集めているGPI(GenuineProgress Indicator)や、ブータンのGNH(Gross National Happiness)という指標、それに影響を受けて、会社の指標としてGCH(Gross CompanyHappiness)を考え、真の社員や地域の幸せのために売上は「マイナス成長でもいい」というユニークな企業経営をしている向山塗料の話などを、講演でお話ししたり、あちこちに書いたりしてきました。
たとえば、日経エコロミーのコラム「枝広がるエダヒロの視点」で、3回連続で書いています。
「幸せ」を測る経済指標「GPI」が意味するもの
http://eco.nikkei.co.jp/column/edahiro_junko/article.aspx?id=MMECc3011025082007
ブータンの「GNH(国民総幸福度)」に学ぶ発展の哲学
http://eco.nikkei.co.jp/column/edahiro_junko/article.aspx?id=MMECc3010011092007
「マイナス成長」目指す日本の中小企業・向山塗料の取り組み
http://eco.nikkei.co.jp/column/edahiro_junko/article.aspx?id=MMECc3009026092007
今ますます、こういったことをしっかり考えていくことが、個人にとっても、企業にとっても、自治体にとっても、もちろん国にとっても大事になってきている、という思いが強くなっています。
そこで、昨年の「骨太の枠組みをつくるための 環境必読書を読む講座」、今年3月の「共創型コミュニケーションの手法を学ぶ講座」につづき、7月〜8月に「本当の幸せと持続可能性を考える」連続講座(全4回)を開催することにしました。
講師は、『幸せって、なんだっけ〜「豊かさ」という幻想を超えて』を出されたばかりの辻信一さん、
まえからぜひお話をうかがいたかった、『経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか』をお書きになったダグラス・ラミスさん、
ブータンのGNHの研究をされている、大阪大学グローバルコラボレーションセンターの副センター長・准教授でいらっしゃる草郷孝好先生、
そして、GCHを掲げてマイナス成長によって社員や地域の幸せを追求しようという企業経営をされてきた向山塗料の向山邦史会長
をお迎えします。すばらしい方々に講師を引き受けていただけて、とってもうれしく、とっても楽しみです。刺激的なお話を聞いて、いっしょにこの大事なテーマを考えていきませんか?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここからご案内〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
■「本当の幸せと持続可能性を考える」連続講座(全4回)
○日時:
7月16日(水)/23日(水)/30日(水)/8月6日(水)
いずれも18:00開場、18:15〜20:45(予定)
○会場:
こどもの城 906研修室
http://www.kodomono-shiro.jp/access/index.shtml
(JR渋谷駅徒歩8分、メトロ表参道駅徒歩7分)
○講師
7月16日(水)明治学院大学国際学部教授 辻信一氏
7月23日(水)ダグラス・ラミス氏
7月30日(水)大阪大学グローバルコラボレーションセンター 副センター長・准教授 草郷孝好氏
8月6日(水)向山塗料株式会社相談役 向山 邦史氏×枝廣淳子(対談)
○ファシリテーター: 枝廣淳子
○定員:約50名
○料金:30,000円(全4回分)
※4回一括のみの受付となります。ご都合のつかない回は代わりの方にご出席いただけます。
○通信会員:
遠隔のため、または時間的に来場できないがぜひ話を聞きたい!という方に、当日の音声ファイルと資料をお送りします(料金は同じです)。
○お申込み
以下の申込書を申込専用e-mailアドレス:sustws2008@es-inc.jp までお送り下さい。。(通信会員ご希望の方は、備考欄に「通信会員希望」とお書きください)
折り返し、受講費のお支払い方法のご案内を自動返信メールにて送信いたします。受講費のお支払をもって正式受付とし、受講票を電子メールでお送りいたします。
○お問合せ
有限会社イーズ 担当 飯田/足田
E-mail:info@es-inc.jp/電話:03-5426-1128
===================================================================
■「本当の幸せと持続可能性を考える」連続講座(全4回)
参加申込書
ご氏名 [ ]
ご所属 [ ]
メールアドレス [ ]
連絡先電話番号 [ ]
備 考 [ ]
※この講座をどこでお知りになったか教えていただけると幸いです。
( ) a. 枝廣淳子のメールニュース(enviro-news)
( ) b. 職場・知人・友人からのご紹介
( ) c. イーズのウェブサイト
( ) d. その他 ( )
===================================================================
※お申込後、数日たちましても受付票が届かない場合は、メール送受信のトラブ
ルの可能性がございますので、その際は info@es-inc.jp もしくは
電話03-5426-1128までお問い合わせください
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ご案内ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2007年の最初のメールニュースに、「持続可能性のためのマーケティング研究所:Institute of Marketing for Sustainability の活動を始めます」と書きました。本質的に大事なことを考えていくこと、効果・効率的な伝え方や、知識や情報を行動につなげていくプロセスを研究し、考え、実践していきたい、という思いからです。具体的な内容として、以下のように書きました。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(1)骨太の哲学:
持続可能性に関する自分なりの思想・枠組みを身につけ、ぶれない(しかし柔軟性のある)変化の方向性を考えられる力
(2)深い変化:
知識レベルではなく、行動・メンタルモデルのレベルでの変化を創り出すアート
①個人レベル
②組織・社会レベル
(3)広げるためのしくみやアート・スキル
効果的・効率的に伝えるためのスキルとともに、これから主流となってくるであろう「共に創り出すためのコミュニケーション」のアート・スキル
①どう伝えるか
②どう共創するか
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
今回の「幸せ講座」は、上記の(1)を進めていくための講座です。
このような、自分が今いちばん大事だと思うことを、学び、考え、共有していく勉強の場を持てることをとても幸せに思います。ぜひいっしょに勉強していきましょう! ご参加をお待ちしています。
※有限会社イーズは、2017年12月25日に移転いたしました。
この記事に関するお問い合わせ