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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2008年06月04日

レスター・ブラウン氏「世界の石油生産量はピークを迎えているか?」(2008.06.04)

エネルギー危機
 

原油価格が、まるで数を数えているかのように、上がっていますね。言うまでもなく、モノの値段は、主に需要と供給の関係で変動します。

いまの原油価格の高騰は、中国・インドなど途上国を中心とした需要の急増がその原因としてあげられることが多いですが、それだけ需要が増えるということは、(再生不可能で有限の資源ですから)それだけ供給源そのものが小さくなっているということです。つまり、供給サイドの要因も今後どんどんと大きくなっていくことは間違いありません。

半年ほどまえのレスター・ブラウン氏の論考を実践和訳チームが訳してくれましたのでお届けします。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

世界の石油生産量はピークを迎えているか?
http://www.earthpolicy.org/Updates/2007/Update67.htm
レスター・R・ブラウン

世界の石油生産量はピークを迎えているのだろうか? その可能性は極めて高い。国際エネルギー機関(the International Energy Agency:IEA)のデータによると、石油生産量の伸びはここ数年間で明らかに減速している。日量を見ると、2004年の8,290万バレルから、2005年には8,415万バレルまで増加したが、その後、2006年は8,480万バレルまでしか伸びておらず、2007年に入ると最初の10カ月間で8,462万バレルにまで落ち込んでしまっている。

急速に伸び続ける石油の需要と、その一方で、減速しているか、減少し始めている世界の石油生産量。この2つが組み合わさることで、原油価格は強く押し上げられている。ここ2年間で、1バレル50ドルから100ドル近くにまで上がったほどだ。このまま石油生産量が需要の増加に追いつけない事態が続くとすると、原油価格はどこまで上昇するのだろうか?

石油生産の将来を見積もる方法はたくさんある。一つは原油の発見と石油生産の関係を見るという方法で、米国の有名な地質学者M・キング・ハバートが開発した技術である。ハバートは、石油生産の本質を考え、新たな原油発見のピークと石油生産のピークの時間差は予測可能であることを理論づけた。米国の埋蔵原油発見のピークが1930年頃だったことに注目したハバートは、1956年、「米国の産油量は1970年にピークに達するだろう」と予測した。――この予測は見事に的中している。

世界的に見ると、原油発見のピークは1960年代であり、1984年以降は毎年、石油生産量が新たな発見量を上回っており、その格差は広がるばかりだ。2006年の石油生産量は、90億バレルという原油発見量をはるかに超える310億バレルである。

長い歳月にわたる油田の歴史は、石油の将来についても教えてくれる。世界で、その規模が上位20の油田はどれも、1917年から1979年の間に発見されたものばかりである。
(詳しくはhttp://www.earth-policy.org/Updates/2007/Update67_data.htmを参照)

サウジアラビア国営石油会社の前職員サダード・アル・フセイニ氏は、世界の古い油田の年間産油量が日量400万バレルずつ少なくなっていると報告している。この減少量を、新たな原油発見、あるいはさらに高度な原油採掘技術で相殺するのは、現在ますます難しくなっている。

石油の将来を見積もるもう一つの方法は、産油量が減少している国、いまだに増加している国、もう一歩で減少に転じようとしている国を分けて考えることだ。主要産油国のうち、産油量がピークに達した後で下降に転じたと思われるのは、およそ12カ国。一方、依然として産油量が増加しているように思われるのは9カ国だ。

生産量がピークを過ぎた国には、1970年の日量960万バレルから2006年には510万バレルに減少した米国、同じく1970年にピークに達したベネズエラ、1999年と2000年にピークに達した北海の産油国である英国とノルウェーが含まれる。

これからピークを迎える国の筆頭は、2006年にサウジアラビアを凌駕して今や世界一の産油国となったロシアだ。その他の増産する可能性の高い国は、カナダとカザフスタンの両国である。カナダはオイルサンドを有し、カザフスタンはここ数十年で唯一発見された大規模油田である、カスピ海のカシャガン油田を開発している。アルジェリア、アンゴラ、ブラジル、ナイジェリア、カタール、アラブ首長国連邦も、ピーク前の国に含まれる。

産油量がピークに達していると思われる国は、サウジアラビア、メキシコと中国である。最も疑わしいのはサウジアラビアだ。サウジ当局は大幅な増産が可能だと主張するが、世界最大の巨大油田であり、何十年も国内産油量の半量を供給してきたガワール油田は、すでに56年を経過し、現在は減退期にある。産油データは、2007年はじめから8カ月間のサウジの産油量が日量862万バレルと、2006年の日量915万バレルから6%減少したことを示している。もしサウジアラビアの産油量が再び増加に転じなければ、ピークオイルはすぐそこまで迫っている。

米国への原油供給量がカナダに次いで多いメキシコの産油量は、2004年の日量340万バレルでピークに達したようだ。米国の地質学者であるウォルター・ヤングキストは「メキシコの主要油田であるカンタレル油田が急速に減産しているため、同国は2015年までに原油輸入国となる可能性がある」と指摘する。メキシコより若干多い中国の産油量も、まもなくピークを迎える可能性がある。

多数の著名な地質学者たちが、世界の原油生産はすでにピークに達したか、まもなくピークを迎えると確信している。「今では世界中くまなく地震探査が行われ、調査しつくされている」と無所属の地質学者であるコリン・キャンベルは言う。「この30年間で地質学の知識は飛躍的に進歩したため、発見されていない大規模な油田が残っているとは、ほとんど考えられない」

高名な地質学者であるケネス・ディフェイスは、2005年の著書『仮邦題:石油を越えて』(Beyond Oil)の中で、「2005年後半か2006年に入って数カ月のうちに、ピークに達すると、私は考えている」と述べている。ヤングキストとイラン国営石油会社のA・M・サムサム・バクティアリはどちらも、原油生産は2007年にピークに達すると予想した。

最近各国の産油データを分析したドイツのエネルギー・ウォッチ・グループも、世界の原油生産はピークに達したと結論づけている。彼らは産油量が毎年7%減少し、2020年には日量5,800万バレルに落ち込むと予想している。バクティアリ氏はそれをやや下回る、2020年までに日量5,500万バレルへ減産することを予想している。それとは極めて対照的に、IEAと米国のエネルギー省はどちらも、2020年の世界の産油量を1億400万バレルと予想している。

世界の石油生産のピークは、世界経済史に大きな断層を残す激震となるだろう。産油量がもはや拡大傾向にない以上、どこかの国が多量の原油を獲得すれば、別の国は少量しか入手できないということである。

石油集約型の産業は、痛手を食らうことになる。例えば、安い航空運賃はまもなく過去のものとなるだろう。航空産業は今後10年間にわたって、年あたり5%の成長予測を立てているが、それも水の泡と消えるだろう。食品業界は、現代農業と食品輸送の双方が石油に依存しているため、原油価格の高騰が重くのしかかってくる。自動車産業も、自動車に対する需要が急落すれば、同様に苦境に陥るだろう。3社を超える大手自動車メーカーが、主に電気を利用して走行するプラグイン式ハイブリッドカーを早く市場に持ち込もうと開発を進めているが、開発スピードへのプレッシャーも強くなってくるだろう。

原油価格を今よりも高く設定することは、長い間必要とされてきた。それは気候変動のような、石油を燃焼させることで発生する間接的な損失をもっと正しく反映させ、急速に枯渇しつつある資源のより効率的な利用を奨励するためである。ただ、原油価格の値上げが望ましいとはいえ、深刻な経済的混乱を招くほど唐突に価格を上昇させるべきではない。

石油の減少によって、他国よりずっと大きな痛手を受ける国もある。例えば公共の交通機関の整備を長年怠ってきた米国は、特にそれが深刻だ。というのも米国では88%の就労者が通勤に車を使っているからだ。

供給を拡大するという選択に限界がある以上、この先数年で、原油価格が1バレルあたり100ドルを優に超えるという事態を避けられるか否かは、主に輸送部門における需要を減らすことができるかどうかにかかっている。そして米国のガソリン使用量は、あとに続く20カ国の消費量を合計した量よりもまだ多い。米国が石油使用量削減に果たす役割は大きい。

早急に、石油使用削減のキャンペーンがG8(主要国首脳会議)の緊急会議で開始されることが最善ではないだろうか。というのもG8加盟国は世界の石油消費の中心となっているからだ。各国政府が石油使用量削減を速やかに断行できなければ、原油価格は供給を上回る需要に従い、急上昇する可能性がある。それは世界規模の不況を招き、最悪の事態になれば、1930年代と同様の世界恐慌を引き起こすことになる。


(翻訳  荒木由起子 小林紀子 長谷川浩代)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「根本的な問題の構造はどういうものなのだろう?」「そういう時代が来る可能性があるとしたら、私たち(地域、組織、個人)はどうすればよいのだろう?」ということを考え、備えを進めていくきっかけに、と書いた以下の本も、ぜひごらん下さい。

『エネルギー危機からの脱出 
  最新データと成功事例で探る“幸せ最大、エネルギー最小”社会への戦略』

  
(枝廣淳子著・ソフトバンククリエイティブ)


知っていたら考えられる、考えたら手を打てる、手を打てれば被害を最小限に抑えられるだけではなく、新しい時代にしなやかに強く生きていける--と願って。

 

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