国連気候変動枠組条約の第15回締約国会議(COP15)は2009年12月にコペンハーゲンで開かれます。これをにらみ、デンマーク政府は、自国の気候、環境、エネルギー政策をメディア、国際シンポジウム、セミナーを通して海外に発信する情報キャンペーンを開始しています。
前回ご紹介したファクトシートを準備し、日本語にも翻訳されているのは、その一環だと思います。1年半以上まえから、そのような準備や活動をしているのですね。(日本も、サミットや国際会議の議長国にるとき、国際世論をある方向に向けていくためのこのような準備活動をしているのかなあ?)
この活動の一環として、先日、デンマーク気候エネルギー担当コニー・ヘデゴー大臣が来日され、シンポジウムにて基調講演をされたほか、青山学院大学国際政治経済学部、デンマーク大使館、財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)が主催する「コニー・ヘデガー デンマーク気候・エネルギー大臣を迎えての気候変動円卓会議」を開催されました。
目的は、「G8洞爺湖サミットを目前に控え、COP15に向けて大きな争点になるテーマを取り上げて集中的に議論し、COP15の達成目標を探る」ことで、コニー・ヘデガー デンマーク気候・エネルギー大臣のほか、日本政府や研究機関、大学、ビジネス界、労働組合、NGO、メディアなどから20人が円卓を囲みました。
私も、お声掛けをいただき、参加してきました。最初に発言した内容をご紹介します。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ありがとうございます。日本の環境の取り組みを世界に発信しているNGOをやっております。190カ国ほどに、日本のさまざまな進んだ取り組みを発信しています。
デンマークのファクトシートを事前に読ませていただいて、90年から95年までの間に40%経済は成長して、温室効果ガスは実際に減っているとのこと、素晴らしいなと思いました。
先月、スウェーデンの環境省の方のお話を聞いていて、やはり同じように、90年から今までの間、経済は44%大きくなっているけれど、温室効果ガスは8.7%減らしているという話を聞きました。
そのときに、「エネルギーの消費量を減らしたんですか?」と質問したら、「いや、エネルギーの消費量はそれほど減っていません。実は増えているかもしれません。ただし、エネルギー転換を非常に強力に行ったので、つまり化石燃料からバイオマスに替えたので、これだけの削減ができたのです」という話を伺いました。
その点、日本は非常にエネルギー転換が進んでいませんので、学ぶところが多いなと思ったのですが、デンマークでは経済を成長させつつ、実際に温室効果ガスを減らしていらっしゃる。これはエネルギーの消費量を減らしているのか、それとも排出係数を改善している、つまりエネルギー転換によるものなのか、このあたりをお聞きしたいなと思いました。
ちなみに、この「経済の成長をGDPで測る」という考え方自体、おそらく考え直さなくてはならい時代に来ているんだろうと思います。
昨年の秋にヨーロッパで“Beyond GDP”――「GDPを超えて」という国際会議が開かれたということは聞いていますが、こういう話を中国の方にしたとき、「早くそういう考え方を世界に広めてほしい」と言われました。
「中国はいま、“いけいけどんどん”で、どんどん経済開発をしようとしているけれど、ほんとにそれでいいんだろうかと思う中国人が、実はいるんだ」と。ですから、この価値観の転換をどのように世界規模で進めていくことができるのかなと思っています。
日本の問題について少しコメントをしますが、先ほど影山さん(東京電力)から、「日本の家庭のCO2の増大が問題である」という話がありました。日本の総排出量に占める一般家庭の割合は20%ほどです。これは電力配分後プラス自家用車を入れての数字です。
確かにこれは増えています。これを半分にしても全体では10%しか減りませんので、それだけでは問題解決になりませんが、確かに増えています。
この増えている要因は、「世帯数が増えていること」と「1世帯当たりのエネルギー消費量が増えていること」と「排出係数」、つまりエネルギーの炭素原単位が悪化していることという、3つの要因が重なっています。
よく「世帯当たりのエネルギー消費量が増えている」「だから家庭はいけないんだ」「もっと省エネしろ」という論理になりがちですが、どうやってこの排出係数を改善していくかということが大きいのではないかと思っています。
(注:ここでは時間がなかったので数字は出しませんでしたが、たとえば、2000年の家庭部門の電力からのCO2排出量を100とすると、2005年には123に増加しています。その要因を分けてみると、世帯数が103に増え、一世帯当たりのエネルギー消費量は106に増え、そして排出係数は112に悪化しているのです)
そのときのコストを、たとえば固定価格買取制度のように、国民で負担していく。そういった覚悟を国民として進めていく必要があるし、その覚悟はもうできている人も多いのではないかと思います。
もうひとつ、日本はこれまで、削減をするときに「意識啓発」に非常に力を入れてきました。政府もそうです。「国民運動」と言って意識啓発に力を入れてきたのと、もうひとつは「技術」です。革新的技術ができればこれは解決すると、期待が高まっています。
ただ、小島審議官がおっしゃっていたように、そういった啓発した行動を普及する、もしくは開発した技術を普及するためのメカニズムやシステムをつくることは、これまで日本の得意とするところではありませんでした。
おそらく、この普及のために仕組みというのは「見える化」、つまりどれぐらい自分たちが二酸化炭素を出しているか、もしくは替えることでどれぐらい削減できるかを見える化するということ。そして、「炭素に価格をつける」ということ。そして適切なアドバイスができる、もしくは指導ができる「人材を育成する」。この3本の柱ではないかと思っています。
世界全体で、こういった仕組みを広げていくために、ぜひグローバルなトップランナーの制度のようなものができればいいなと思います。たとえば日本は、省エネ家電で言うと、とても進んでいる。もしくは、運輸部門はもうピークアウトしたという話も、先ほどありました。ただ、残念ながら住宅の省エネ化やエネルギーの転換は進んでいません。
世界のほかの国には、こういったところを進めている所もありますので、具体的な税制なのか、規制なのか、トップランナーの制度なのか、そのような、それを可能にした仕組みも入れ込んだ形で、世界のトップランナーもしくはベストプラクティスのようなものを、もう少し見えるような、それこそみんなが学び合えるような形にしていけば、おそらく途上国も、自分たちができることから、つまみ食いかもしれませんが、やっていけると思います。やはり、やってできるという体験をすることが、途上国にとっても大切だと思います。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
この円卓会議は3時間の予定を30分以上も超えて、熱い議論が展開されました。特に、政府、産業界、NGOという立場の違う参加者の間のやりとりは、同じ問題や事象を「どのように見ているのか」の違いが浮かび上がってきて、(もどかしく思うこともありましたが)勉強になりました。
このような円卓会議を開催し、さまざまな立場の人々が本音で話し合うこと自体がとても役に立つプロセスだと実感しました。
今回、さまざまな立場の人々ができるだけ「本音」で話し合えるように、「会議はチャタムハウスルール則って行う」とされました。
チャタムハウスルールとは何でしょうか? 会議の冒頭に、環境省の小島審議官がその背景を説明して下さいました。
チャタムハウスとは、1920年英国ロンドンに設立された王立国際問題研究所(Royal Institute of International Programme)という英国有数の国際問題シンクタンクです。研究者を中心に、さまざまな会議や議論を行っていますが、テーマが国際問題や外交なので、そのまますべてを公開することはできず、かといって、すべて秘密にしていては、国にとって重要な国際問題や外交問題について、国民に知ってもらうことができない、というジレンマがありました。
それを解決するために作られたのが「チャタムハウスルール」という会議のルールだそうです。「会合の参加者は、受け取った情報を自由に使って良いものとするが、発言者や参加者を特定したり、その所属を明らかにしたりしてはいけない」というものです。
なるほど〜!と思いました。チャタムハウスルールで、参加者が本音で話し合える機会をたくさん作っていきたい、と。
この円卓会議のようすは、参加者の承認を得たあと概要をIGESのホームページにアップするとのことです。アップされたら、お知らせしますね。