先日フランスが「2020年までに、石油・石炭などによる火力発電はゼロにする。再生可能エネルギーを20%に増やす。2020年までに住宅を含むすべての建物に再生可能エネルギー発電装置の設置を義務づける」と発表していました。
今日から始まるG8サミット前に発表することで、主導権を握ろうという意図だろうとのこと。
日本の福田ビジョンの「2050年までに60〜80%削減」という目標も、今回のサミットでの議長国としてのリーダーシップを確保するために、このタイミングで出したものです。
そう思うと、「サミット」という機会は、「ここで出しておかないと国際的なリーダーシップがとれない」と国内の反対派を説得する、大きなきっかけになっているのだろうなあ、サミット自体で何が合意されるか、ということ以外にも、そのような「背中を押す」意義もけっこうあるのだろうなあ、と思います。
そうして、国際的に大きなスポットライトの当たる場面ごとに、いろいろな目標や取り組みが出されて、ぐん!と進んでいくのですが、そのときに大事なのは、「どういう理解や問題意識をベースにしているか」です。ただウケのよさそうな見栄えのよい旗を振るのと、深く問題を理解した上で進むべき道を訴えるのでは、その後の取り組みや進捗が大きく違ってくるからです。
先日、英国のミリバンド外相を囲む対話という集まりで、司会役を務めたのですが、英国では環境大臣でなくても閣僚の間では、この問題認識が当然のことと共有されているのだなあ、と感銘を受けました。
ちなみにこのイベントのダイジェスト版が英国大使館のサイトにアップされています。 http://www.uknow.or.jp/be/embassy_news/E000699.htm
日本語の字幕をつけてユーチューブにアップするとのことですので、またお知らせしますね。
このイベントに先立って英国大使館で開催された、BLOBE(地球環境問題に関心のある日米欧の国会議員が参加する国際的な議員連盟)のレセプションでは、ミリバンド外相のほか、トニー・ブレア元首相も登場され、いつものようにご自分の言葉で温暖化問題について語られました。今回のサミットに向けてブレア氏とクライメート・グループが出した報告書ももらってきました。
これは、7月5日付の日刊温暖化新聞にも出ていたもので
http://daily-ondanka.com/news/2008/20080705_1.html
以下の構成となっています。
気候問題の打開へ向けて〜低炭素未来への道
北海道洞爺湖サミット報告書
2008 年6 月
トニー・ブレア
クライメイト・グループ
目次
序文 トニー・ブレア著
エグゼクティブサマリー
第1 章 相互に依存する世界の気候安全保障の実現
第2 章 グローバルな取組みに向けた枠組みの展開
第3 章 合意の実現に向けた条件づくり-G8 によるリーダーシップ
全文、日本語で読めます。
http://www.theclimategroup.org/assets/resources/BTCDJune08Report.Japanese.pdf
その中から、ブレア氏が書かれた序文を紹介します。(読みやすさのため改行を入れています)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
序文
近年、気候変動についての世論は抜本的な行動に賛同する方向に大きく変わってきています。気候変動と原油価格に関する懸念は、重なり合っている部分があります。両者ともに炭素依存傾向を減少させることを目指しているという部分です。エネルギー安全保障もまた同様に議題に上がるようになりました。
今こそが行動のときであると思うのは数々の理由があります。私達の挑戦は枠組みを設定することです。その枠組みは排出量が(a)十分に(b)知覚できる速度で減っていくものでなければなりません。少なくともこの課題の本質と、取り組みへの必要性から、高レベルのコンセンサスが得られているのは喜ばしいことです。
今日では気候変動は人類に深刻な危機をもたらすという事実が広く知られています。原油価格が1 バレル100 米ドル以上 で資源も不足しているということからエネルギー安全保障が非常に重大な課題であることは誰もが認めています。
現在、経済を炭素依存型から移行すべきであるという点について合意が得られています。ほとんどの人がこのような根本的な移行を行うにはインセンティブを与え、奨励し、義務付けるような、国別そして国際的な枠組みを設定することが必要であると考えています。
では、どのような方法で実行すればいいのでしょうか? 私達が目的地に到達するための十分に根源的な枠組みとはどのようなものでしょうか? そして私達は現在どこにいて、そして実際どの程度の速度で進むべきなのでしょう? 経済成長を本質的に変えることについて十分承知していなければ、予測されている劇的な気候変動を避けることはできないでしょう。そこに到るまでの現実的な枠組み設定をしておかなければ、同意を得ることはできないでしょう。
各国の市民は気候への損害についてすでに警告を受けています。そして同時にそれを避けるため大規模な措置が必要であることについても警告を受けています。政治指導者たちに与えられた使命は国内外に適正な行動を起こし、地球経済を低炭素成長の軌道に乗せることです。しかしそれを人々が当然のこととして願う、成長と消費に伴う物質的・社会的利益を完全に損なわない形で行うことが大切です。何よりも世界のより貧しい地域に住んでいる人たちへの不当な影響は避けなければなりません。
この課題は非常に複雑で、データの多くが不正確であることに加え、政治家、専門家、関係団体が非常に慎重を期する形でやりとりを行っています。「どのような方法で?」という質問に対する答えは戦後のブレトン・ウッズ体制の制定以来、国際コミュニティーが取組んできたあらゆる問題と同様、非常に難解です。
UNFCCC は「世界の政策」の策定を任されています。そしてそのような責任を負うことができるのは彼ら以外にありません。この報告書は課題について綿密な計画を練り、現在入手可能な情報を1 つにまとめ、解決のための糸口を提案することが目的です。適正・公式な国連の手順のサポートとなることも目的のひとつです。
しかしまず、私達は現在抱えている大きな政治的危機に目を向けねばなりません。
科学者、NGO、専門家のコミュニティーには、今すぐに温室効果ガスの排出を削除するための急進的な行動を望んでいる人たちがいます。他方、政治指導者側の立場にいる人たちは、経済成長を損なうことなく問題を解決するという彼らの力では及ばない要求をされていることに対し懸念を抱いています。この両者の間には大きく、危険な隔たりがあります。
次のような方法で検証してみましょう。多くの人の抱いている中核的な要求は2020 年の暫定目標が2009 年末のコペンハーゲンでの国連交渉時の会議で可決されることです。先進国には排出量を25-40%削減するという目標が求められています。これは非常に厳しい数値です。もう少し詳しく分析すると、それがさらに厳しい数値であることがわかります。
目標は1990 年をベースラインとして設定されています。つまりほぼ20 年前の測定値がこの先11 年間の基準として使用されるのです。しかし多くの先進国では1990 年以降排出量は減少ではなく増加の傾向にあります。米国では16%以上、日本では7%以上の増加が見られています。ヨーロッパでは数カ国が、中でもドイツと英国は減少しています。しかしここ3 年間、ヨーロッパ全体では、ほぼ横ばい状態です。つまり、1990 年のベースラインを引くことは目標をより困難なものにしてしまうのです。
つまり米国、ヨーロッパと日本にここ12 年間横ばいまたは増加傾向にあった排出量を、前例がないほどの割合でこれからの12 年のうちに削減するように求めているのです。そしてこのことが2020 年までに排出ピークを迎えるためには必要だというのです。
科学者は「不可欠だ」というでしょう。
政治指導者は「果たして可能だろうか?」と問うでしょう。
環境問題に関する私達の知識が増えるにつれ、多くの計算値が深刻な議論の対象になるほど正確ではないということが解明してきています。例えば、2020 年までの排出量の25-40%削減についてはこれまで取り上げてきたとおりです。
しかし明らかに25%と45%では大きな差があります。ある人は温暖化を2°C より少なく抑えるには500ppmv まで削減しなければならないといいます。450ppmvという人もあればそれよりも少ないという人もいます。世界の排出量がピークに達するのが遅くても2020 年でそれよりも遅くなると気候に不可逆的な被害が及ぼされると主張している人がいます。通常科学コミュニティー以外では、それを2025 年だという人もあれば、2030 年まで問題ないという人もいます。
そしてまた簡単に見逃してしまいがちな、重大で深刻な政治的現実がいくつかあります。
-エネルギー効率は必要な収益の4 分の1 近くを補うことができ、その結果、経費の節約が可能ですが、その重大性にはなかなか目が向けられません。
-中国とインドの新しい発電所の大半は「おそらく石炭火力」発電になるのではなく、事実、石炭による火力発電になります。炭素回収・貯留技術の開発は「選択肢の一つ」ではなく文字通り「必要不可欠」なのです。
-いくつかの国が原子力発電の復興に乗り出さなければ、世界中の政策の有効性を見極めることは難しくなるでしょう。
-現在、大気中のCO2 排出蓄積量の70-80%は先進国の排出によるものです。
-米国が最も厳しい削減目標を達成しても、中国が現在のまま進み、インドもそれに追従した場合、気候はやはり不可逆的な被害を受けることになるでしょう。
-途上国が継続的に成長するには資金と技術が必要です。それなしでは与えられた時間内に排出量のピークを迎えその後減少に転じることは不可能になります。
-森林削減は環境問題全体の15-20%を占めています。
-セメント、鉄鋼、そしてとりわけ電力などの主要セクターは全排出量の3分の1 という大きな割合を占めています。
-航空機、船舶の燃料は5%ですが環境問題に占める割合は増加しつつあります。
-適正に実践すれば軽減費用は調達可能な範囲です。予測額を下回る可能性もあり、将来的に展開する新しい低炭素の経済となることが見込まれています。
他にも厳しい政治的な状況があります。科学は留まることなく進歩しています。ひとつ確実なのは2008 年現在言われていることはコペンハーゲン会議が開催される時には変わっているという事実です。まして2012 年や2015 年では言うまでもありません。
私達の知識は常に成長しています。ここでひとつ、確実な予言をしましょう。技術は私達が予測できない方法に進化していくものです。 しかしはっきりとしたインセンティブを提示すれば、市場は必ずそれに反応し、人類の創造性や発明の技が躍動し始め、今日ではまだ見えていない答えが明日見えてくるかもしれないのです。
他にも、難解で、政治的にデリケートな多数国間の交渉に参加したことがある人には理解していただける大きな政治的危機も抱えています。コペンハーゲン会議において、明白な政治的方向性を事前に設定せずに自由な議論が展開されることは、会議出席者にとっては悪夢となるでしょう。
さらに危険なのはそのような状況では参加国は現実的に達成可能だと判断した最高値を設定しようとせず、自分達が譲歩することを承知したミニマリストの立場で会議に挑もうとすることです。その結果、同意は最低限となり、世界をほとんど前進させることがない複雑に入り組んだ機構が設けられるでしょう。そして世論は失望し、人々には不満が残されるでしょう。
他方、まったく別のより良いグローバルな取り決めのアプローチの仕方があります。不可欠なのは、世界が、特にビジネスの世界が、コペンハーゲンから明快・明白で根本的な方向性を得るということです。進む速度は様々で、時間とともに調整されることもあるでしょう。しかしその方向は単純で、明確であることを全員が理解する必要があります。そのような交渉は次の点に基礎を置くことができるでしょう。
A. エネルギー安全保障と気候変動の原因に関する傾向と科学者、政治家の意見の傾向は明らかです。私達は成長の仕方を炭素への依存度を抜本的に減らす方向に変更していかねばなりません。それが2050 年の50%削減目標の同意を今、達成しなければならない理由です。
B. コペンハーゲンでは排出削減を可能にするために先進国にも途上国にも明確な方向を示すことが欠かせません。それには例えば現在進行中の変化のプロセスについて認識しておくこと、先進国には暫定目標の方針を確立することなどがあげられます。もちろん現在と2050 年では私達の行動や知識には大幅な相違があるだろうということにも留意しておかなければなりません。
C. 北海道洞爺湖G8+5 と主要経済国会合(MEM)では重大な2050 年目標について同意しなければなりません。そして地球規模の交渉に向けた中核的要素を確認する必要があります。
D. そこから必要とされる研究や分析に関しての要求が生じてきます。これが中核的要素についての同意の後ろ盾となる事実上の実質・本質的な支えとなります。
E. 2009 年イタリアで開催されるG8+5 とそのほかの主要な経済国(例えばMEM 等)では、中核的要素と相互に相容れる方法について合意し、国連のコペンハーゲン会議にその内容を盛り込み「世界の政策」を策定します。
F. コペンハーゲン合意は政治的な実現性を最大化したものとなり、合意時、例えば2009 年に達成可能であるべきです。
G. その後、実際に実行されたこと、何が欠けているのかを定期的に見直し、同意が調整できるようなプロセスについて決定する必要があります。これはより主要経済国で構成される小規模なフォーラムで行い、国連のプロセスに加えるべきです。つまり、2009 年やその直後に終結するような課題に対するひとつの結論を出すという形ではなく進化する交渉にするという発想です。
H. コペンハーゲンはそこから初めて任務に取りかかります。この際、世界の排出量の75%を占める国々からの政治的方向性が含まれていること、すべての課題を一気に解決するものではないこと、そしてこの先私達の行動と知識がより明らかになった際、さらに抜本的なステップに進めるよう継続的な政治プロセスが行われるようになるということを考慮しておくことが大切です。
このような方法で物事を進めるのはひとつの基本的な仮説があるからです。それは現在私たちが直面しているこの問題は政治的な意志のひとつではないということです。政治的なジレンマは「事実かどうか」ではなく「方法」にあるのです。
この仮説にはそれなりの背景がありました。 中国やインドのような国々がこれまでのような、「豊かな先進国が作った問題である以上、先進国で解決すべきである」という姿勢ではなくなったことです。中国やインドは気候変動が「自分達の」問題であり「他人事」ではないことがわかりました。
どのようにして取組んでいくのかには公平性を考えなければなりません。しかしどこで排出されたかにかかわらず、気候変動はニューヨークでも上海でも等しく生じています。 そしていうまでもなく、気候変動の打撃に対して最も脆弱なのは世界の一番貧しい国々なのです。
同じように今日では米国も短期的な排出削減を実行する第一の責任は先進国にあるということで広く一致しています。日本では福田首相の指導力のおかげで世論が動きました。ヨーロッパでは行動の必要性について誠実で真剣なコンセンサスが得られています。
挑戦は願いごとのひとつではありません。私達に低炭素社会の未来をもたらす軌道を明らかにするための取組みです。これは公正で実現可能な挑戦であり、また同時に根本的で現実的でもあります。
本報告書ではこのような取組みに着手するための要点とその背景にある考え方について説明しています。
トニー・ブレア
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
日本の政治指導者も、このぐらい広く深い問題認識をベースに、必要なこと・やるべきことを考え、進めてくれたら、、、と思いつつ。
この報告書をブレア氏といっしょに出したクライメート・グループというのは、英国に本拠地を置くNGOです。
http://www.theclimategroup.org/
日本でもいつか、政治指導者がNGOといっしょにこのような報告書を出して、サミットでの議論や世論形成に影響力を発揮しようとする時代がやってくるでしょうか。
次号ではつづけて、この報告書のエグゼクティブ・サマリーからお届けします。とても勉強になりますので。