レスター・ブラウン氏の「アースポリシー研究所」から、『プランB3.0』の発刊に合わせて届いた書籍の紹介を実践和訳チームが訳してくれましたので、お届けします。化石燃料王国だったテキサス州の動きなど、元気が出ます〜!
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人類文明を救うために
http://www.earth-policy.org/Books/PB3/index.htm
「2007年の夏も終わろうという頃、氷の融解が猛烈な勢いで続々と報告された。北極地方で英国の2倍の面積に相当する海氷が、たった1週間で消えてしまったのには、専門家も『衝撃』を受けた」と、レスター・R・ブラウンは最新の著書
『プランB3.0』PLAN B 3.0: MOBILIZING TO SAVE CIVILIZATION:W.W.ノートン社)に書いている。
「すぐ近くのグリーンランドでも、氷床があまりにも速く融解しているため、重さ数十億トンもの巨大な氷塊が崩落して海に滑り出し、小規模な地震を発生させている」とワシントンDCに本部のある民間の環境研究団体、アースポリシー研究所の所長で創設者でもある著者は述べている。
近頃のこうした動きに、科学者たちも警戒感を募らせている。グリーンランドの氷床融解を止められないと、海面は最終的には7メートル上昇し、世界中の沿岸にある都市やアジアの稲作地帯であるデルタ地帯が水没する。何億という人々が住み慣れた土地を追われ、想像もつかないほど多数の人々が、海面上昇により難民となってしまうだろう。
「氷の融解という一例だけをとって見ても、文明社会が窮地に陥っていることは明らかである。『今までどおりのやり方』は、もはや見込みのある選択ではない。今こそプランBの時代である」と『プランB3.0』で著者は訴える。本書はファービュー、ラナン、サミット、ウォリス遺伝学の各財団、および国連人口基金、フレッド・スタンバックとアリス・スタンバック、アンドリュー・スティーブンソンなどの資金提供を受け出版された。
「『プランB3.0』は、人類の未来が急激に損なわれていく流れを逆転させるためのトータルプランである。その最優先の目標は、気候の安定化、人口の安定化、貧困の撲滅、傷ついた生態系の回復の4つである」「そのうちどれか一つでも達成できないことになれば、おそらく残りの目標も達成できないということだろう」と著者は言う。
急激な人口増加が続き、政府が弱体化している国はかなりの数に上る。世界の人口は毎年7,000万人ずつ増加しているが、それが集中しているのは地下水面の低下や地下水の枯渇、森林面積の縮小、土壌の侵食、草原地帯の砂漠化が見られる国々である。こうした問題が未解決のまま増え続けると緊張が高まり、脆弱な政府は瓦解してゆく。
破たんしかけている国の特徴は、政府が国民に安心のできる生活を提供できないという点にある。中でもよく知られているのが、ソマリアやスーダン、コンゴ民主共和国、ハイチ、パキスタンなどである。このような国は年々増え続けている。本書によれば「国家の衰退は、文明崩壊の兆候である」という。
「衰弱した国家で、政府が棚上げされた未解決の問題に押しつぶされそうなときに、さらに新たな問題が持ち上がっている。例えば、世界の原油生産量がピークを迎えるにつれて、石油価格が高騰するという問題が起きている。さらに米国がこれまでにないほど多くの穀物を自動車用燃料に転用した結果、食糧価格も上昇している。また気候変動の影響が、広い範囲にまで及び始めているのだ」
「先に述べた気候安定化の取り組みは、今後の気温上昇幅を最小限に抑えるため、二酸化炭素排出量を2020年までに80%削減する綿密な計画が中心となる。取り組みの柱は、エネルギー効率の改善、再生可能なエネルギー源の開発、世界の森林面積の拡大という3点だ。これらの目標を達成すれば、世界中の石炭火力発電所を段階的に廃止していくことができる」(本書より)
プランBの二酸化炭素削減目標を設定するにあたり、私たちは「政治家が政治的に実現可能だと考えること」ではなく、「取り返しがつかないほどの気候変動を防ぐために、私たちが必要だと考えること」は何かを問い直した。これは、従来どおりのやり方を続けるプランAではない。文明に突きつけられた脅威を前にして、その重大さに対抗し得る戦時下のような迅速さで、総力をあげて立ち向かうプランBなのだ。
「私たちは今、臨界点(ティッピングポイント)に向かって突き進む自然システムと政治システムのせめぎ合いの中にいる」と本書は続ける。「臨界点を超え、劇的な変化を迎えることになるのはどちらが先だろう。グリーンランドの氷床が取り返しのつかないほど融解してしまう前に、私たちは政治的な意志の力を結集して石炭火力発電所の段階的閉鎖を実現できるだろうか。アマゾン川流域の森林が伐採によって火災に対し脆弱になり消失してしまう前に、森林破壊を食い止めることができるだろうか。アジアの主要河川の水源であるヒマラヤの氷河を救うのに間に合うよう、二酸化炭素排出量を削減することができるだろうか」
ここ数十年、エネルギー使用の効率化を図る努力が続けられてきたが、未開拓の可能性もまだたくさん残っている。例えば、世界中の二酸化炭素を削減できる、簡単で効果の高い方法の一つに、白熱電球を消費電力が1/4ですむ小型電球形蛍光灯に交換するという策がある。照明をより効率のよいものに変えることで、世界の電力使用量を12%削減できるのだ。これで世界の石炭火力発電所2,370カ所のうち、705カ所を閉鎖できる計算になる。
米国では、二酸化炭素排出の4割近くが商業用・住宅用建物からのものである。既存の建物に改修を施すことで、エネルギー使用量を通常20〜50%減らすことができる。その次のステップとして、建物の冷暖房や照明用の電力を、炭素を出さない発電方法によるものに変えてゆき、建物自体を二酸化炭素排出ゼロに転換するのである。
また、食べるものを食物連鎖のピラミッドのより下位のものに変えることでも二酸化炭素削減が可能だ。米国では、平均的な食事がテーブルにのるまでに使われるエネルギーと、個人の移動に使われるエネルギーがほぼ同程度である。植物を基本とする食事なら、動物性の肉中心の食事に比べ必要エネルギー量は約1/4ですむ。食事内容を肉から野菜中心に見直すことで、シボレーのSUV車サバーバンからトヨタのハイブリッド車プリウスに乗り換えるのと同じくらい二酸化炭素を削減できるのだ。
プランBのエネルギー経済では、風力が重要な位置を占める。風力は、豊富で低コスト、そして広範囲に存在する。また、規模の拡大も容易で開発するのも早い。目標は、戦時中のようなスピードで、2020年までに300万メガワットの風力発電容量を生み出すことである。300万メガワットあれば、世界の電力需要の40%を十分満たすことができる。これには、発電容量2メガワットの風力タービンが150万基必要になるわけだが、第二次世界大戦中に自動車工場で爆弾が製造されたように、閉鎖された自動車工場を再開し、組立てラインを利用すれば、それだけのタービンが製造できるかもしれない。
本書によると、私たちは、再生可能なエネルギー源の開発についてすばらしい考え方が現れたのを目の当たりにしている。化石燃料から脱却することの緊急性を認める考え方だが、これが最も顕著に現れているのは米国テキサス州だ。テキサス州政府は、23の石炭火力発電所の発電量に匹敵する23,000メガワットを、風力発電によって確保する取り組みを調整しているのだ。23,000メガワットという容量は、同州の人口の半分である1,100万人以上の家庭用電力需要を満たすのに十分な電力量である。油田は枯渇し石炭層も使い果たされるが、地球の「風」という資源なら、なくなることはない。
太陽光発電の技術も、活気に満ちたチャンスをもたらしている。私たちが果てしなく炭素を排出する状態から抜け出すためのものだ。太陽光発電パネルの売上げは2年ごとに倍増しているし、屋上設置型の太陽熱温水器はヨーロッパと中国で急速に普及している。中国では現在、約4,000万家庭が屋上の太陽熱温水器を利用しているが、中国政府は、それを2020年までに今のほぼ3倍の1億1,000万家庭に増やし、3億8,000万人に太陽熱で沸かした温水を供給する計画を立てている。
カリフォルニア、フロリダ、スペイン、そしてアルジェリアでも、大規模の太陽熱発電所が建設中か、あるいは計画中である。石油輸出大国であるアルジェリアは、6,000メガワットの太陽熱発電容量を開発し、海中ケーブルを通してヨーロッパの送電網に電力を供給する計画を立てている。この計画一つで、スイスほどの大きさの国なら、家庭用の電力需要を十分満たせる電力量をまかなうことができる。
また本書には、暖房と発電を目的とした地熱エネルギーへの投資が急速に拡大していることも書かれている。アイスランドでは現在、家庭の90%近くが暖房と給湯を地熱エネルギーでまかなっており、事実上、室内暖房に石炭を使用することをやめている。フィリピンでは、電力の25%を地熱発電所で生産しており、米国では地熱が豊富な西部の州で61の地熱発電計画が進行中だ。
さらに、ガソリンと電気を併用するハイブリッド車と高度な設計の風力タービンとが合わさって、まったく新しい自動車燃料経済が展開する準備が整っている。典型的なハイブリッド車のバッテリー容量が2倍になり、プラグイン機能が加わって、夜間の充電が可能になれば、安価な風力発電で、通勤や買い物など短距離の走行をほぼ完全にまかなえる。
そうなれば、主に再生可能な電力によって車を走らせることができる。しかも、ガソリンに換算すれば1ガロン1ドル(1リットル約28円)以下に匹敵する低コストだ。現在、大手自動車メーカー数社は、プラグイン・ハイブリッド車か電気自動車で市場に参入しつつある。
「今までどおりのやり方」(プランA)では、将来をむしばむこの環境破壊の流れを止めることはできないだろう。破たんする国がますます増え、ついに文明は崩壊し始める。「私たちにとって最も不足している資源は時間だ。今、私たちは目には見えない自然界の限界を越え、人間には分からないその最終期限を歪めようとしている」と著者は言う。「この期限は自然が定めたものであり、自然が期限までの時間を管理している。しかし人間にはその刻々と動く針の動きが分からない」
世界のエネルギー経済を再構築するカギは、市場に環境の現実を語らせることにある。つまり、異常気象や大気汚染のような化石燃料を燃やしたことによる影響を、間接コストとして市場価格に反映するのだ。
そのため、炭素税を世界各国に導入して税の中にこの間接コストを組み込み、その見返りに所得税を減税する。炭素税は2008年を初年度として毎年トン当たり20ドルずつ税額を引き上げ、2020年に240ドルで据え置いてはどうだろう。この炭素税は、逐次所得税減税分と相殺される形で導入されるなら、化石燃料の使用に歯止めをかけ、再生可能なエネルギー開発への投資の促進にも繋がるだろう。
「文明を救う活動は、スポーツを観戦するのとは訳が違う」と著者は言う。「私たちは今、人間と地球の自然システムとの関係が壊れゆくなかで、一人ひとりが行動を起こし、政治を動かさなければならないところにきている。大切なのは毎日行動を起こすことだ。皆の行動が、文明が生き残れるかどうかに大きく関わっている」
「ライフスタイルを変えることはできる。しかし、エネルギーの場合は経済を再構築しない限り、しかもそれを早急に行なわない限り私たちはほぼ間違いなく滅びるだろう。必要なのは、国会議員や国のリーダーに訴え、彼らに環境税の見直しやプランBに示された改革事項に取り組んでもらうこと。またそれ以上に大切なのが、私たち一人ひとりが地域レベルで重要な問題に取り組むことだ。石炭火力発電所の閉鎖や、より効率の良い電球の使用をめぐる問題、さらに地域でリサイクルを包括的に実施する問題等、私たちはこれらの問題を取り上げ、それに取り組むことができる」
また私たちは、全員が環境問題について学ぶ必要がある。そのため、アースポリシー研究所ではウェブサイト(http://www.earthpolicy.org/)からプランB3.0を無料で閲覧できるようにしている。
「今が決断のときだ」と著者は言う。「環境問題に遭遇した古代文明を見ても分かるように、私たちは道を選択しなければならない。従来どおりの生き方を繰り返す結果、経済が滅び文明が崩壊してゆくさまをじっと見守り続けるのか、それともプランBを実行し、総力を上げて文明の救済に立ち上がったその当事者になるのか。現世代の人たちにはそのいずれの選択も可能である。その決断は、将来のすべての人に対して地上での生活に影響を及ぼしてゆくだろう」
問い合わせ先:
全般:
レスター・R・ブラウン
電話:(202) 496-9290内線11
研究関連の問い合わせ:
ジャネット・ラーセン
電話:(202) 496-9290内線14
メディア関連の問い合わせ:
リア・ジャニス・カウフマン
電話:(202) 496-9290内線12
「プランB3.0:文明救済のための動員」は、現在下記のサイトから無料でダウンロードし閲覧することができます。
(http://www.earthpolicy.org/Books/PB3/index.htm.)
(翻訳:山口、山本、荒木、酒井)
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「ライフスタイルを変えることはできる。しかし、エネルギーの場合は経済を再構築しない限り、しかもそれを早急に行なわない限り私たちはほぼ間違いなく滅びるだろう。必要なのは、国会議員や国のリーダーに訴え、彼らに環境税の見直しやプランBに示された改革事項に取り組んでもらうこと。またそれ以上に大切なのが、私たち一人ひとりが地域レベルで重要な問題に取り組むことだ」というレスターの言葉を肝に銘じ、励みにしていきましょう。
『プランB 3.0 人類文明を救うために』の日本語版も出ています。
先月レスターが来日していたときに、朝ごはんを食べながらおしゃべりをしました。「調子はどう?」「最近はどんなことに力を入れているの?」「システム思考の研修会社はうまく回っている?」など、いろいろと私の近況を気にしてくれます。私の負けじと?「次の本はいつの予定?」「最近、気になっていることは?」などとレスターの近況や情報を聞きます。
そんな話の中で聞いた「とても気になる話」(まだレスターも記事などには書いていないようです)を次号でお伝えします。