おととい、福岡県の自治体研修の場で、温暖化の講演をしてきました。県下の多くの市長さん、副市長さん、町長さん、村長さんたちに直接お話しできる機会をうれしく思いました。温暖化にとどまらず、「温暖化・エネルギー・食糧というトリプルリスク」の話をしてきましたが、それらに対する取り組みも地域こそが基本だと思っているからです。
先月、全国の市長さんが集まる会合でパネルディスカションに参加する機会がありました。そこでの自分の発言を紹介します。
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ありがとうございます。枝廣です。いまご紹介いただいたように、総理の温暖化問題に関する懇談会のメンバー、その下に設けられている環境モデル都市に関する分科会の委員もさせていただいていますので、そういった観点からお話をしたいと思います。
まず最初に、なぜすべての市長さんが、自分の市を低炭素型にしていく必要があるのかという話をして、どのように考えて進めていったらいいかという話をしたいと思っています。
低炭素都市をつくっていくというのは多分、どの市長さんもいろいろお考えだと思いますが、これは単に温暖化対策ということではなくて、本当に強い都市をつくるために必要なことだと思っています。つまり、温暖化の時代が来るからやらなければいけないという守りの政策ではなくて、自分たちの都市を強いものにしていくと。攻めの政策としての低炭素都市づくりだと思っています。
これから、いまもそうなっていますが、エネルギーの価格がどんどん上がっていきます。3年前に「3年後に1バレル100ドルになるだろう」と分析したアナリストがおりましたが、その時はさんざ笑われたそうです。いま彼は、「3年後には200ドルになる」ということを言っております。ですから、エネルギー価格がどんどん上がっていく。それでも自分の都市は大丈夫だよと、そういった都市づくりをしていくこと。
それから食糧の問題、いまいろいろと出てきていますが、食糧危機が必ず広がっていきます。そういったときにも、うちの都市は大丈夫だよと。つまり、エネルギー危機、食糧危機にも強い都市づくり。これが実は、低炭素型にしていくという大きな目的でもあります。
それとともに、先ほど植田先生がお話しになったことと重なりますが、地域の雇用を創出していくという意味でも、非常に大きいです。たとえば省エネをするとか、再生可能かエネルギーを入れていくとか、この雇用は海外に持っていくことはできません。その都市、そこの地域でやることになりますから、地域の雇用につながっていく。
さらにこれからは森林や農村地帯を持つ市は非常に強いです。なぜならば、農村も森林もこれからは、エネルギーをつくっていく役割を果たしていくことになります。バイオマスなどですね。それとともに、二酸化炭素の吸収源としての役割が非常に大きくなってくる。これはお金につながりますから、いま、森林がたくさんあって重荷になっている自治体もたくさんありますけれど、これからは金の卵だと、私は思っています。
もうひとつ大切なのは、地域の活性化につながるということです。ひとつの事例をお話ししますと、フランスのパリ市が、非常に熱心に温暖化に取り組んでいます。市長さんが熱心で、パリ市の二酸化炭素を40%減らそうと、いろいろな施策を打っていらっしゃいます。たとえば自転車専用道路をつくる。そして、2,000台を超えるレンタサイクルの仕組みを入れています。クレジットカードをすっと通せば1日1ユーロで使える、そんな仕組みを市内で入れています。
それを使っているパリの市民がどんな話をしているかと言うと、これまで自動車で通勤していた。そうすると、信号待ちで自動車と自動車が並んでいても、お話しすることはできませんよね。でもいま、自転車で通勤するようになると、信号待ちで、隣で止まっている自転車と、「今日はいい天気ですね」みたいな話ができる。「街に会話が戻った」と言っています。
ですから、低炭素型にしていくというのは、単に温暖化防止だけではなくて、本当に強い都市をつくっていくうえで、非常に重要だと思っています。
じゃあ、どうやって考えて進めていったらいいのか?
二酸化炭素というのは、活動量つまりどれぐらいのエネルギーを使うかということと、そのエネルギーでどれぐらいの二酸化炭素が出るか。これを掛け合わせたものが二酸化炭素の排出量になります。
まずエネルギー消費量を減らすということですが、これは2通りのやり方で進めることができます。皆さんの所もやっていらっしゃると思いますが、ひとつは意識啓発です。
意識はいま、非常に進んでいます。私は各地の自治体に呼ばれて温暖化の講演をやることが多いですが、立ち見が出るぐらい、市民の方々の意識が高まっている。意識啓発だけでは進みません。それを行動につなげるための仕組みをつくっていく。つまり、減らしたほうが得だという仕組みを、各自治体でつくっていく。これが政策をつくられる方々の役割だと思います。
もうひとつは、減らしていくために、省エネの家電などに切り替えていくということです。これは、切り替えたらどれぐらい減るのということを、「見える化」するということと、省エネ家電のほうが、たとえば、冷蔵庫いいんだけど、でも買うとしたら11万円かかっちゃう。なかなか入れられない。そういう市民がたくさんいます。ですから、最初の仕組みとして、たとえば融資の仕組みをつくる。
たとえば、古い冷蔵庫から最新の省エネ型冷蔵庫に替えると、5年間で7万5,000円ほど電気代が安くなります。なので、その5年間で安くなる分を、最初に無利子で貸してあげる。市民は、5年間、前と同じように電気代を払い続ければ、それは融資を返すことができて、エネルギー代がぐっと減る。そういった、意識啓発だけではなくて、やりやすい仕組みをつくっているNGOもあります。
それから最後に自然エネルギー、再生可能エネルギーに替えていくということです。ここが、日本の自治体、これからもっともっとやっていっていただきたいところで、実は日本ですでに76の自治体が、民生用の、つまり家庭用の電力は、その地域の再生可能エネルギーだけで回しています。そういった自治体がもう76もあります。
ですから、自分の地域にあるエネルギーは何なのか。それをどうやって活かしたらいいのか。それをぜひ仕組みとして、かけ声とか意識啓発だけではなくて、助成もしくは買い取り制度、グリーン証書、いろいろな仕組みがありますので、ぜひそういったものを採り入れていってほしいと思います。
いずれにしても、これからの低炭素型社会、私たちが生きていく社会というのは、企業も市民も、「自分が出す二酸化炭素に責任を持つ生き方をする」、そういった社会になっていきます。
ですから、市民が責任を取りやすいように、「見える化」する、もしくは変えていくための仕組みを提供する。こういったことを市なり行政が進めていくことで、私は大きく減らせるし、それが強い都市づくりにつながっていくと思っています。
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地域力ということで、もう一言だけ言わせていただくと、いま、地域から国を変えていくという流れが、世界的な流れになっていると思っています。国が決めて、地域がそれを実行するだけ、というのではなくて。
たとえば、世界の各地でいま、「ゼロカーボン都市」をつくるという動きが出てきています。つまり、二酸化炭素を、見なしですけれども、実際ゼロにすると。そういう都市づくりを、たくさんの所が始めている。
それからスペインの例ですが、バルセロナ市が太陽熱の給湯を義務づけました。2000年です。それからほかの自治体70ぐらいがまねをして、2006年にはこれが国の法律になりました。自治体から引っ張って国を動かした例です。
アメリカでも、ブッシュ政権は京都議定書から離脱していますが、「自分たちの市はそれを守るよ」と言っている市長さんが800人以上集まって、やはりネットワークをつくって、ブッシュ政権に圧力をかけています。
いま、環境モデル都市の80以上の事例を審査しているところですが、ほんとうに素晴らしい野心的な目標と仕組みを、本気で考えている自治体からの応募を見ていて、日本にも、国を自治体が引っ張る時代が来たなあと思います。
ですからぜひ、そういった思いを形にするために、どういった考え方、どういった事例がすでにあるのか、自分の所に似ているのはどこか、自分の所が採り入れられるのはどういったものか、ぜひ知ってほしい、学んでほしいです。そうして、地域から国を変える。これを日本でも、市長さんたちの力で進めていただきたいと思います。
(以上)