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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2008年09月23日

ヒートアイランド現象について(2008.09.22)

温暖化
 

2週間ほどまえに、大阪で開催された「環境まちづくりシンポジウム 〜風・水・緑で都市を冷まそう!〜」のパネルディスカションに参加しました。テーマが「ヒートアイランド」でしたので、自分の頭の中を少し整理して臨みました。

メールニュースで、ヒートアイランドをきちんとお伝えしたことがなかったように思うので、ご紹介しますね。

ヒートアイランド現象とは、都市部の気温が周りに比べ、際立って高くなる現象です。どうして「ヒートアイランド」と呼ばれるのか? 都市とその周辺地域に等温線を描くと、都市部が熱いため、島のように浮かび上がるのですね。その形から、熱の島(ヒートアイランド)と呼ばれます。

ちなみに英語でも、heat island ですが、英語の場合は、urban heat island (UHI)ということが多いそうです。

ヒートアイランド現象が起こると、都市部の平均気温が上昇しますから、真夏日や熱帯夜が増え、住民の生活や健康にも影響が出てくるでしょうし、自然環境にも影響が及びます。また、局地的な集中豪雨をもたらすなどの問題を引き起こします。最近、東京など都市部では「ゲリラ豪雨」と呼ばれる予測困難な集中豪雨が増えていますよね。これもおそらく「温暖化×ヒートランド」が影響している事象ではないかと思います。

このようなヒートアイランド現象は、対策をとらない限り、人口が集中している場所で起こりますから、今後、途上国を含む世界各地の大都市で問題になってくることが懸念されます。途上国でも、これから都市化が進む場所では、ヒートアイランド現象が起きにくい都市作りを、すでに開発が進み、ヒートアイランド現象が顕在化しつつある場所では、その緩和に向けての対策を進める必要があります。

東京では、この100年間に約3℃、大阪では2℃ほど気温が上がっています。温暖化による日本の平均気温上昇は約1℃と考えられているため、東京では約2℃、大阪では約1℃がヒートアイランドによる気温上昇であると考えられています。

近年、熱中症などによる緊急搬送人数が増加しています。これもヒートランド現象が大きな要因となっています。東京都内では、1996年には200人ほどだったのが、2007年には1300人ほどの人々が熱中症により救急車で運ばれています。

では、何がヒートアイランド現象を起こしているのでしょうか? 簡単に言えば、都市化が進むことで、都市内部に人工的につくり出される熱が増加している一方、そういった熱を冷やす役割を果たしてきた「水・風・緑」が減ってきていることです。

市街化が進むことにより、地表面被覆が変化します。緑地・水面・農地などの減少に伴って、蒸散効果が減ってしまいます。また、道路の舗装のアスファルトや建築物のコンクリート面などが増えているため、熱の吸収・蓄熱が増え、反射率が低下していることも原因です。

高層ビルが林立するなど、都市形態が変わることで風が弱まっていることや、大規模な緑地や水面といった都市を冷やすスポットが減っているなどもヒートアイランド現象の原因です。加えて、住宅等建物の排熱、工場等事業活動による排熱、自動車からの排熱も増えています。このような人工排熱の増加も大きな原因の1つなのです。

ヒートアイランド現象と温暖化は、悪循環の構造です。

温暖化にしてもヒートアイランドでも、温度が上がれば暑くなりますよね。暑くなれば、エアコンを使う人が増えるでしょう。エアコンを使えば、そこから排熱が外に出ますから、外の気温がまた高くなる。これはヒートアイランド現象の悪循環です。

同時に、エアコンを動かすために電力を使います。すると、発電時に出る二酸化炭素が増えますから、温暖化がいよいよ進んでしまいます。これは、エアコンを使えばすぐに気温が上がるというものではなくて、結果が出るまでに時差がありますが、いずれにしても、このように互いに悪循環を作用させて、どんどん悪化してしまう可能性があります。

今後温暖化によって気温が上がっていく中、ヒートアイランド現象で都市部の高熱化がさらに進み、しかも暑さをしのぐための緑や水辺がないという状況だとしたら、熱中症をはじめ、人々の健康や命にも大きく影響してしまうでしょう。

(もっとも、「悪循環が重なっている」構造だということのよい知らせは、対策も同じだということです。つまり、ヒートアイランド対策として行うことのほとんどが、温暖化防止に役立ちます。また、温暖化対策として行うことの多くは、真夏日や熱帯夜を減らすことにも役に立ちます。

政府では、どのような対策や体制を作っているのでしょうか?

政府レベルでは、2002年にヒートアイランド対策関係府省庁連絡会議が立ち上げられ、2004年にはヒートアイランド対策大綱が策定されました。

この大綱では、ヒートアイランド対策として、(1)人工排熱の低減、(2)地表面被覆の改善、(3)都市形態の改善、(4)ライフスタイルの改善に加えて、(5)観測・監視体制の強化および調査研究の推進を打ち出しています。

大綱では「毎年、対策の進捗状況の点検を実施すること」となっており、毎年開催されるヒートアイランド対策関係府省庁連絡会議で進捗確認が行われています。
http://www.env.go.jp/air/life/heat_island/index.html

現在の取り組みは128施策からなっています。たとえば、人工排熱の削減では、機器の省エネルギー目標や住宅建築物の省エネルギー化率、低公害車の普及などの目標を掲げ、推進しています。新築住宅の省エネルギー化率は、1999年度に5%だったものを、「2008年度に50%に引き上げる」という目標を掲げ、2005年度は30%、2006年度は36%と増えています。

でも、水・風・緑を増やすことによる「熱がこもらない都市作り」「熱を冷やす都市作り」などに関わる施策はまだまだ推進が不十分ではないかなあという印象です。

政府の対策の分類とは違いますが、ヒートアイランド対策としては、都市部での熱の発生を抑える人工排熱対策のほか、できるだけ熱がこもらないようにし、熱を冷やすための(1)風の道、(2)緑化、(3)舗装表面への対策などがあります。

風の道は、山から都市への森林帯をつくることで、都市部に涼しい空気が流れ込むようにしたシュトゥットガルトの事例がよく知られています。写真を見せてもらったことがありますが、山から都市へ緑のベルトがつながっているのです。この森林ベルトを通じて、冷気が都市部に流れ込むのですね。一度つくれば、エネルギーもまったく要らない、すばらしい天然のエアコン・システムです!

東京のど真ん中でも、東京駅付近の再開発によって風の道を確保しようというプロジェクトが進んでいます。都内には、高層商業ビルが障害となって東京湾からの海風が流れ込みにくくなり、エアコンや自動車の排熱などがたまりやすい構造になっている場所があります。

東京駅周辺の再整備が進む中、超高層ツインタワー(両タワー間は約246メートルあり、歩行者用通路でつながるほかは吹き抜けのようになる)の完成後に、現在海からの風に壁のように立ちはだかっている12階建ての建物(大丸の入っている「鉄道会館」)を取り壊すことになっています。風の道をつくることで、東京駅周辺はこれまでより涼しくなると期待されています。

緑化は、ヒートアイランド対策として有力なものです。東京都の調査によると、真夏のコンクリート表面の温度が約55℃だったとき、緑化部分は約30℃と大幅に低いものでした。

国や自治体でも、補助金の支給、固定資産税の軽減、容積率の割増などで、緑化を推進しています。路面電車の軌道敷に芝生を敷き詰める緑化軌道も登場しています。また、屋上緑化や壁面緑化も進められており、一般の住宅でも、アサガオやヘチマ、ゴーヤなどツル性の植物を窓の外に育てる「緑のカーテン」の取り組みが広がっています。

舗装表面への対策としては、保水性舗装や遮熱性舗装が広がりつつあります。東京都では、都内の道路の総延長約4キロを保水性舗装にしています。実験では路面温度を10℃程度下げる効果があることがわかりました。

また、屋根に太陽光線を反射して遮熱する高反射塗料を塗布することも効果があります。屋上緑化や高反射塗料を用いてヒートアイランド対策・温暖化対策を進めるクールルーフ推進協議会も立ち上がっています。
http://www.coolroof.jp/

自治体の中でも総合的なヒートアイランド対策を推進しているのが東京都です。
http://www2.kankyo.metro.tokyo.jp/heat/

東京都では「2015年までに熱帯夜の発生を年に20日程度に減少させる」という目標を掲げています。ヒートアイランド観測網を独自に120箇所整備し、熱環境マップ(地域ごとの気候、人口廃熱の状況、地表面の状況などを図に集約するもの)を作成し、地域の実態に応じたきめ細かな対策を推進しようとしています。

樹幹の大きい街路樹で木陰を創出するほか、保水性舗装の導入、遮熱性舗装の実験、下水再生水の実用化の検討など、涼しい舗装を目指した取り組みも進めています。街を冷やす緑を増やそうと、大規模公園の整備や公園内の再整備のほか、庁舎や東京都環境科学研究所、都立高校などの屋上等の緑化を推進しています。また、都内の公立小中学校、都立学校等の校庭を芝生化し、約300ヘクタールの
緑を生み出すことを目指しています。

東京都では、2001年に全国に先駆けて、新築建造物への屋上緑化を条例で義務づけました。敷地面積が1,000平方メートル以上(公共建造物では250平方メートル以上)の建造物を新築する場合、利用可能な面積の20%以上を緑化するという義務です。

また、建物用途別に実施可能な対策メニューを、ビジュアルにわかりやすく示した「ヒートアイランド対策ガイドライン」をつくり、民間の建築物での対策の推進を図っています。たとえば、オフィス・商業用建物では、屋上緑化、屋上の高反射率化、風通しへの配慮、敷地内の樹木緑化、壁面緑化、敷地内の芝生などによる自然被覆化といった対策メニューが載っています。とてもわかりやすいので、「自分のところで何かできないかな?」とぜひのぞいてみてくださいー。
http://www2.kankyo.metro.tokyo.jp/heat/guideline/heatguideline.htm

他の自治体でやはり積極的な制度作りをしているのは、名古屋市です。条例によって緑化を義務づける取り組みを進めています。敷地面積300平方メートル以上の新築建築物に10〜20%の緑化を義務づける条例を策定し、基本的には守らなければ建築を許可しないという姿勢を打ち出しています。

呼びかけや意識啓発だけではなく、必要な部分ではこのような強制力のあるしくみをつくっていくことも大事です。そうでないと、必要な施策の実施が時間的に遅れてしまい、将来の被害や悪影響を大きくしてしまう危険性があるからです。

「打ち水大作戦」って、ご存じですか? 参加されたこと、ありますか?

日時を決め、残り湯などの二次利用水を使って、みんなでいっせいに打ち水をして、その気化熱を利用して気温を下げようという取り組みです。まえに熊本市におじゃましたとき、「前の日にやったんですよ。みんなで打ち水したら3℃くらい温度が下がりました」とお聞きしたことがあります。スゴイ効果ですね!

日本では、昔から、涼やかな音を出す風鈴を窓辺につったり、「よしず」で西日を防いだりするとともに、自宅の前の道や庭に打ち水をして暑さをしのぐという知恵がありました。この知恵を現代に復活させようという取り組みなのですね。今年はスペインなど、外国でも打ち水大作戦が行われたそうです。
http://www.uchimizu.jp/

ヒートアイランド現象に対する根本的な解決策は、人々の暮らしや事業活動から出る熱を減らしていくとともに、都市づくりそのものを見直して、風・水・緑の豊かな都市にしていくことです。

つまり、技術的な対策も重要ですが、そもそも「どのような街にするのか」という都市計画・街づくりから考えていくことが何よりも大事であり、根本的な解決策につながるのだと思うのです。

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