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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2008年10月24日

武田邦彦先生とのパネル・ディスカション その2(2008.10.24)

温暖化
 

(前号からのつづきです)

枝廣 
私は日本の中だけではなくて、世界のほかの国に出て会議に参加したり、いろんなネットワークに参加して、意見交換をする機会が多いですが、そういうときに思うのは、日本はすごくまじめで、温暖化というと温暖化だけ、みたいな。温暖化一色。

たとえば、このあいだスウェーデンに取材に行ったときに、スウェーデンでいちばん温暖化対策が進んでいる都市という表彰を受けた都市に行きました。トロルハッタンという小さな町でしたが、そこで担当の人に「CO2どれぐらいですか? 何をやってどれぐらい減らしたんですか?」と取材しても、全然答えが返ってこないんですね。

彼らが一生懸命やっていたのは、エネルギーを替えるということです。その結果としてCO2はだいぶ減っているのは間違いないんですが、それは温暖化がどうとか、ホッキョクグマがどうというよりも、自分たちの国の安全保障を考えたときに、ロシアのエネルギーに頼っていては危ない、だから、自分たちの国でエネルギーを自給自足できる仕組みをつくろう、と。

それで輸入の石油や天然ガスから、スウェーデンの場合はバイオマスですが、森林を活かしたエネルギー転換をして、その結果として、GDPは44%増やしつつ、同時にCO2は8.7%減らしています。温暖化対策としてそれだけでやっていたわけではないとことをあちこちで感じます。

そういう意味で言うと、多分、武田先生が感じていらっしゃる反発というか、「温暖化」と言ったら、それが水戸黄門の印籠のように、みんなが「ハハー」と言って言うことを聞かなきゃいけないような扱われ方をしている。それは、そういう出し方をする政府が悪いのか? 政府にそれほどの力があるとは思えないん
ですが、ただ、そういうふうに受け入れてしまう私たちのまじめさというか、それもあるんだろうなと思っています。

武田先生のお話で、私が認識している現状とちょっと違うなと思ったことがあります。「温暖化をやっているのは、日本や一部のヨーロッパの国だけですよ」という、かなり極端なお話だったと思いますが、ここ半年、1年、大きく変わってきたのは、途上国を含め、やっぱり自分たちで、少なくともできるところからやらなきゃいけないという動きは広がっています。

インドネシアでも、発電所から出るCO2は減らすという目標を決めましたし、南アでも化石燃料の発電所、石炭火力の対策を進めていますし、中国もおそらく、量で言えば日本以上にCO2を減らしています。ですから、ほかの国が何もやっていないわけではないということは、皆さんにもお伝えしておきたいと思います。

その上で賛同できるというか、私もそうだと思うのは、「これまで日本のCO2が減っていないのは、政府にやる気がないからだ」とおっしゃったわけですが、私もそうだと思います。本当に減らそうと思ったら、こまめに省エネを呼びかけるよりも、エネルギー転換を図るしかないんです。

確かに民間、私たち家庭部門からのCO2は、残念ながらかなり増えているのですが、なぜ増えているかという要因を分析すると、私たちの家庭が1軒当たりに使うエネルギー消費量が増えたという原因よりも、排出原単位というんですが、1キロワット時の電気をつくるときにどれだけCO2を出しているか、その悪化のほうが大きな原因になっています。半分以上はそちらの原因です。

それは私たちがコントロールできるものではないんですね。電力会社がどういう原料を使って発電するかで決まってしまいます。原発が止まり、石油の値段が上がりということで、いま日本では、石炭火力への移行が――これは先進国でほとんど日本しかないんですが――増えています。石炭火力が増えれば、当然CO2の原単位は悪化します。ですから、私たちがどんなにこまめに省エネしても、エネルギーの消費量が減ったとしても、排出原単位が悪化すればCO2は増える。

私が一緒に活動している人たちにも、政府の国民大運動的なキャンペーンは、啓発としてはいいけれど、実効性はないと思っている人がけっこういます。それをきっかけに、みんなが行動を変えたり、考えを変えたりする。その啓発としての意味はもちろん大きいですが、みんなで省エネ、たとえばみんながレジ袋をやめたとしても、日本のCO2は0.2%しか減らないというデータがあるように、「じゃあ、レジ袋をやめたら温暖化が止まるんだね」ということには全然ならないんですね。そういう政府の国民大運動的な呼びかけは、「まるで竹やりで戦争しようとしているようなものだ」と、私の友人はよく言います。

ですから、啓発としての意味と実効性を伴う削減を、両方やっていかないといけない。政府はこれまで啓発ばかりやってきた。それは、先ほど武田先生がおっしゃった「産業界には負担をかけません」という密約があったというその影響もありますが、ただ、これからはそうも言っていられないので、産業界も負担する形で変わっていかざるを得ない。そのときに大きな鍵を握っているのがエネルギー転換だろうと思っています。

もうひとつだけ、先ほどコーディネーターの方がおっしゃったことにひと言。武田先生は違う意見だと思いますが、温暖化が起こっているということと、その温暖化を起こしているのは人間の出しているものが原因だということに関しては、少なくても世界の温暖化に関する研究者が集まっているIPCC――武田先生はその研究者の選び方も偏っているときっとおっしゃると思いますが――、そのIPCCでは、間違いなくその可能性がかなり高いと、前の報告書よりも今回の最新の報告書では、確信度を強めた言い方で言っています。

なので、2,000人、3,000人の科学者がそう言っており、一方で、そうではないと言う人もいる。そのときにどう判断するかは、きっと一人ひとりの判断になると思います。

もうひとつ最後に、リサイクルは無駄だという意見、もしくは温暖化対策の活動が無駄だという意見があると思いますが、そういうときに考えないといけないのは、「直接影響」と「間接影響」の両方です。たとえば「レジ袋を使わないことで、直接どれぐらいCO2が減るわけ?」というのが直接影響ですね。「リサイクルすることで、どれくらい資源の消費が減るわけ?」というのが……

武田 
増えるんですね。

枝廣 
私は減ると思っていますが、確かに、増える場面もあるでしょう。そうしたときに、「実際に直接増えたの? 減ったの?」というところと、そういう活動をすることで人々の意識が変わったり、価値観が変わったりすることでの間接的な影響がありますよね。

なので、リサイクルそのものを見たら、モノによっては、おそらく直接的には、武田先生がおっしゃるように資源消費量が増えてしまうかもしれません。けれども、その悪化を勘案したとしても、それをやることで、みんなのモノとの関係性を見つめ直すきっかけになり、それが価値観や、生き方や、ほかの場面でも、さ
まざまな変化につながったとしたら、その場面だけ切り出すと確かに増えているかもしれないけど、全体としては減るということも、私はあると思っています。環境教育は、間接影響をいかに大きくするかというのが大事な部分ですが。

特に研究者の方は、「直接影響」を主におっしゃることが多い。自分の分野ですので。武田先生もご専門は材料だとおっしゃっていました。でもそのときに、社会にいる私たちは、直接の影響だけではなく、それをやること、やらないことの間接的な影響についても併せて考えていく必要があると思っています。

最後に、武田先生にお答えいただければお聞きしたいのですが、私は企業でもいろいろ講演などして、「これからこういった温暖化への取り組みを考えていかないといけない」という話をするんですが、そうすると経営者の方が、机の中からゴソゴソと武田先生の本をお出しになって、「いや、でも温暖化は起こってないと言っていますから、何もやらなくていいんですよと」と。よくあちこちで言われます。

おそらく、そうやって「何もやらなくていい」と、そこで思考停止することを求めて書かれているのではないと思うんですね。なので、本当に武田先生が求めていらっしゃるのは何なのか。どういったことを望んで、このような挑発的な、みんなに議論を巻き起こすような言動をされているのか。

たぶん、スタンスというか、立場は違っても、求めているものは重なっているところが多いんじゃないかとは思っているんですが、どうも私が会う経営者の人たちには、武田先生の本によって、残念なことに「もう何もやらなくていい」と思考停止になってしまっている例が多いので、そのあたり、もしお答えいただける
のであれば、コメントいただけるとうれしいです。

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武田 
僕は、とても明るい未来と。楽観的な性質なのかもしれませんが、学者の中でも悲観的でおっちょこちょいという人たちがいて、その人はまじめに温暖化を心配したりしちゃうんですね。割合と心配性で、何か、「これはこのままこうなったらどうしよう」と思う人たちがいるんですね。その人たちは、悪気じゃないんだ
けど、温暖化を心配しているんですね。

これは性格の問題もあるかもしれないけど、僕なんかは割合と明るくて、どうせ子どもたちはもっとやるから大丈夫だと。そういうのもちょっとあって、いろいろ意見が分かれるということがあるので。必ずしも、未来のことなので、われわれが本当に科学的に全部詰めてわかるかと言ったら、実はわからないので、それぞれの人の性格とか、データの見方によっても大きく変わってくるということもあります。

いま、枝廣先生からの質問というか、宿題という感じになったんですが、私が心配しているのは2つあります。1つは、子どもたちの影響です。これは日経新聞が、小学校の校長先生と企業のトップと組んで、子どもたちへの環境教育を始めたわけです。それで、新聞にはこう書いてあったんです。「地球が温暖化して、南極の氷が溶けて、海水面が上がって、ツバルが沈んでいるという映像を子どもたちに説明したら、青ざめていた」と書いてあったんです。

僕は、それをやっていた学校のリストが日経新聞に載っていたから、全部の校長先生と企業の社長に手紙を出したんです。「気持ちはわかる」と。「温暖化を食い止めようという気持ちはわかる。気持ちはわかるけど、4つもウソをついていいのか」と。

南極はいま、温度が下がっているんです。これは非常にわかりくいですけど。IPCCは――枝廣さんは先鋭なほうじゃないからあれだけど、IPCCの報告書は、「南極は気温が変わっていない」と書いてあるんです。「雪も変化していない」と書いてある。IPCCの第4次報告ね。「将来、南極が暖かくなることがあったら、氷は増える」と書いてあるんです。これはIPCCの正式報告書。

それに反して、南極は温暖化して海面が……。海水面なんか上がっていないですから、ツバルなんか。ツバルは沈んでもいないから。ウソを4つも積み重ねて、子どもたちにウソを教える。

環境問題というのは、僕なんかじいさんなんだから、すぐ死んじゃうんだから、関係ないんです。僕らの孫に関係がある。「孫に関係があることを、孫にウソついちゃいけない」と言っているんです。孫には本当のことを言って、僕らより孫のほうが頭がいいと考えなきゃいけないんです。そのためには、孫に誤った印象
を与えてはいけない。

僕の大学の学生なんかも、最近プラスチック・リサイクルをやめていって、東京都もやめましたが、「僕がプラスチック・リサイクルが環境にいいと思ったのは、小学校の先生がリサイクル工場連れていってくれたからだ」と言うんです。こんな素晴らしいものができるんだったら……。あのころ、ウソで背広とか見せてい
たんです。

この前、日本テレビで、放送を見られた人いるでしょうけど、環境大臣が環境省のショーケースの中から出してきたリサイクル品が石油からつくったもので、リサイクル品と関係なかったですよね。そういうウソを塗り固めて、日本の未来をつくっていくというのに、僕はものすごく反対です。温暖化もそうです。これが
1つあります。

もう1つは、僕の個人的趣味だから、この青年会議所にせっかくこういう場所をつくってもらって、恐縮かもしれませんが、日本人の家畜化です。家畜化ってひどいもので、おなかの周りを測って85センチ以上はだめだとか。そしたら大相撲はやめてくれと言いたくなるんです。大相撲だけ特殊だって、僕も特殊だからね。だから、僕のおなかもちゃんと認めてくれというわけです。

何やらシンドローム。英語で言うとき、みんな怪しいんです。焼却のことを最近、サーマル・リサイクルと英語で言うようになった。英語で言ったら全部だめです。それからレジ袋追放でしょ。僕らの生活って、全部縛られちゃうんです。

それでリサイクル、枝廣さんが言われたのは確かにそうなんだけど、動機づけというか。あれに5,000億円も税金をかけているんです。今度、温暖化に3兆2,000億円です。皆さんに一人当たり税金を1年3万円使うんです。それは3万ぐらいまあいいと。お金があるからいいと言うかもしれないですよ。

だけど、1万人の人がもらっているんです。リサイクルを。一人当たり、今までもらった金が5億円ですよ、税金。リサイクルをこのまま続けたら、さらにその人たちは5億円取るんです。しかも資源は全然減ってないんです。

だから、これを僕らはよくわかっていますから。リサイクルしている業者はわかっています。政府もわかっています。だからごまかすんです。それに乗っちゃいけないんです。そこのところが、僕らの魂の切れどこなんです。どっちに切るか。私たちが今の生活を続けて、「何かおいしいものを食べたいな」と言って切ってはいけないと言っているんです。私たちは日本人の誠を信じて、社会がどう言おうと、そういうズルは許さないと。これでバシッといかないといけないと思います。

だから現在は、レジ袋はそうですけど、僕は学生がおとといいいことを言ってきたんです。僕の本なんか読んでいるから、多少影響があって。僕、NHKが嫌いなんです。NHKが嫌いになったのは最近で、環境報道があってからで、その前は結構NHK好きで、必ずNHKのは見ていたんですけど、最近急激に嫌いになっ
た。

彼がこう言ったんです。「レジ袋を追放するって、私には意味がわかりませんでした。私にとっては、すごく大切なもののひとつです」。独身の学生です。「レジ袋がなくなったら困るんです。何で、レジ袋をなくすんだったらNHKをなくさないんですか?」と言うんです。「私にとって、NHKなんかなくなったって、
民放を見ればいいし、視聴料を払わなくて全然困らないです。インターネットもあるんです」と。

この話は本質を突いているんです。なぜかと言うと、何かをやるときに、「私の思想がそうだから、あなたもそうしなさい」というのが嫌いなんです。それが大嫌いなんです。人間は、個人個人生き方があるんです。レジ袋が欲しい人もいるし、分別すると膝が痛い人もいるし、いろいろいるんですね。それにどうやって応じていくかです。

だから、レジ袋をなくすんだったらNHKをなくしたほうがいい。僕も賛成。だからそういうふうな社会ではなくて、レジ袋を使う人は使い、使わない人は使わないでいいんですよね。別に、環境なんか人に強制しなくたって、マイバックがいい人はマイバックを使えばいいんですからね。人に、「あなたはキリスト教じゃ
ないか」とか言ったって、それはその人の信じることだから、いいと。

環境というのを守るのは一人ひとりの心なんだから、私は一人ひとりの心がそのまま認められるような社会のほうに行ってほしいと。太りたい人は太って、それで早く死んだら、しょうがないです。それが本人の考えなんですから。僕らが言うのは、「あなた、85センチ以上のおなかになったら早く死ぬよ」と言ってあげればいいだけ。「あなたどうするの?」と聞いてあげればいいだけです。タバコだったら隣の人が迷惑するけど、おなかの周りがちょっとくらい大きくても迷惑かけないんだから。

だけど、そのほうにどんどん行って。お役所は、仕事がなくなったら困るから、どんどんつくりますから。納税者は、「あなたはそんなことやらなくていいよ」と言わなきゃいけないんじゃないかと思います。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

私の問いには答えていただけなかった印象でしたが、、、以上がパネル・ディスカションの第一部「地球温暖化を考える」でした。

第二部では「自治体の環境行政を考える」のテーマのもと、特に2010年に近くの名古屋で開催される生物多様性条約の締約国会議(COP10)などをめぐってのディスカションを展開しました。続けて次号でお届けします。

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